paint
ちょうど肩につくくらいに切りそろえられた、黒い綺麗な髪。透き通るように白い肌に赤い唇。マンガみたいに小さい顔に、折れそうなくらい細い腕。彼女は、教室でいつも1人。たまに女の子に話しかけてみているが、どうも馴染めないのか、またすぐに自分の席に戻って本を読んだり、絵を描いたり、だりだり。
初めて目に止めたのは、体育大会。彼女はリレーのアンカーだった。その時は別のクラスで彼女とは別のチームだった。体格や顔つき、髪型などからは、とても足が速そうだとは思えない。思えなかった。アンカーにバトンが回って来た時、彼女のチームが前で僕らのチームが後ろ、その後に二チームあった。僕らのチームと彼女のチームは3歩くらい。接戦ともいえるけど、アンカーはクラスの早い人がなるもので、彼女のチームのアンカーだった男の子は生憎、体調を崩して体育大会に出られなかったらしい。アンカーは大体男の子なのに、彼女のクラスでは、元々のこの代わりに彼女が、選出されたらしい。僕は可哀想だと思った。しかし第一コーナーを曲がっても彼女と、僕らのチームのアンカーの差は縮まらない。直線に入り、少しだけ差が縮まり、誰もがこのまま僕らのチームが勝つだろうと予測した。しかし、あとすこしのところで彼女を抜かすことが出来ない。生徒、先生、両親全員が息を呑む。むしろ、時間がゆっくり進んでるのではないかと感じられる。第二コーナーに差し掛かりその差はもうほとんどなくなった。最後の直線、彼女は苦しそうな顔をしている。ゴールテープはもう目の前。僕らのチームの男の子だって、楽ではなさそう。二人はもう横並び。僕は彼女が勝つように念じた。静寂に終止符を打つようにパンっとピストルが上空に打たれた。ゴールテープを最初に切ったのは、僕らのチームの男の子だった。彼女は膝をに手を置いて、呼吸を荒くさせている。僕らのチームの男の子は地面に寝っ転がって、肺を大きく上下させている。そのあとから、残りの二人もゴールした。さっきまで呼吸を荒くさせていた彼女のもとには、チームの子達が駆け寄って、凄かった、などと声をかけている。僕らのチームの方では、男の子を胴上げしたり、女にまけんなよ、とちゃかしているものもいる。これが、僕が彼女を知ったきっかけだった。
高校3年生にあがり、クラスが変わり、僕は晴れて彼女と同じクラスになれた。でも、僕の想像した彼女はクラスで友達も多く社交的で休み時間はみんなでワイワイしているものだと思っていた。なぜならクラスでアンカーに選バレていたからだ。それがどうしてか、喋らないとまでは言わないものの、クラスで特定の仲のいい人というような人は居ないように見える。僕は彼女のことが好き、というよりも興味深いという方が適切だろうと僕は思う。まだ話したこともないのだから。
彼女はテニス部に入っている。部活ではそれなりに元気にやっているらしかった。
彼女は休み時間、よく絵を描いている。それは風景の絵だったり、女の子の絵だったり、動物の絵だったりした。僕は除きみている訳では無い。ただ、彼女の席の近くを通ると見えるのだ。それに、彼女も隠してはいない。むしろ見せているような、そんなわけはないんだけど、そのくらいのものだった。彼女の絵は、上手な方だった。僕なんかに比べると、到底及ばないくらいに。
クラスが変わって何回目かの席替え。僕は毎回、ついぞ彼女の隣になってしまわないかと願った。そして、ついに、隣になることが出来た。
席が隣になったすぐあとの授業。僕は彼女と目が合った。これまでも幾度か彼女と目を合わすことがあったが、彼女は目が悪いらしい、すっとそのままどこか違う方へ向いてしまう。しかし今回は違うこんなにも至近距離で目が合ってしまった。彼女は何も言わず、目が合うとすぐににっこりとした。特に意味があるわけではなかったのだろうが、僕には何故かとても意味があるように感じられた。
彼女は黒板からノートに目を移す時、左の髪を耳にかける仕草をする。彼女は左利きだからノートは少し左寄りに置いてある。彼女は一通りノートを書き写すと小さなスケッチブックを取り出して、絵を書き始める。といった具合だ。
彼女の席の隣になって、一週間くらいが過ぎた。それまで僕は幾度となく彼女とめがあった。それはそうだ、僕が彼女を仕切りに見るものだから、彼女はそれが気になってしょうがないのだろう。彼女は最初、にっこり笑っていたものの、数回目で、『どうしたの?』と、首を傾げ、目を少し丸くさせた。彼女の目は大きいとは言えないが、少し目尻が上がって猫のような目をしていた。そんな目で見つめられては僕は、『なにもない。』と、黙ってゆっくりと首を振ることしかできなかった。性懲りも無く僕はまた彼女を見ていた。すると彼女が、左側の僕の席の方へ振り向き、口を開いた。
「なんでみてるの。」
と、彼女は小声で言った。その顔は不信や疑いの顔ではなく、少しにやけていたように思った。