第9話:神々との戦争の幕開け
「えっ?」
ブラムスが俺の用意した椅子に座ろうとして、立ち止まる。
おお、別嬪さんがすでに座って居る。
新しい会員の方でしょうか?
「貴方が、クラタね。確かに、ダンジョーン様の気配を色濃く感じるわ」
「はいそうですが、貴方はどなたですか?それと、どこのダンジョンのマスターですか」
取りあえず、名前を聞いておかないと。
それと、所属しているダンジョンと。
「えっと、椅子……」
「あー、すまんなブラムス。また今度用意するから」
「そんな」
俺の言葉に、ブラムスがガックリと肩を落とす。
とはいえ、あまりに可哀想なので先ほど下げておいたミカンの箱を、もう一度机のそばに置いておく。
まあ、そこに腰かけておいてくれ。
「あー、お気遣いなく。すぐにお暇させていただきますので」
「クラタ様! あの方から神の気配を感じます!」
「なっ、なんだと!」
イコールが立ち上がって、俺に耳打ちをする。
そして、何故かいきり立つテューポーン。
盗み聞きか?
そこで叫んだら、全く意味が無いぞ?
「あらー……そこの方には分かるのね。あなたからも、神の匂いがしますわね……悪戯好きの彼がやりそうなことだわ」
「主を知っているのか?」
「そんな事より、私はユーノー。女性の結婚生活を守護する神よ」
「おお、それは是非お近づきに。出来れば、一人私との結婚を「駄目よー。貴方と結ばれても悪い未来しか来ないのだから、そんな可哀想な事は守護神として出来ないわ」
ガッカリだよ。
というか、結婚生活を守護する神に見放されてる俺に希望はもう無い。
そうだ、死のう。
「無駄な努力ですよ。死んでも変わるものではありませんし」
「クロノ五月蠅い!」
「彼女も傍にいるみたいね、私のことは彼女にでも詳しく聞いたらいいわ」
なんだろう、クロノが若干含んだ笑みを浮かべているように見える。
どうやら、彼女にとってはこのユーノーさんも大した事無いのかな?
「取りあえず、用向きを聞こうか?」
「はーい、神々は貴方を滅ぼす事を決めました」
「なんで?」
いきなりだな。
突然現れたかと思うと、いきなり宣戦布告ですか。
そうですか。
というか、使者的な神様という事でやっぱり大した事無いんだろうな。
「なんで? ダンジョンなんかこの世界に必要無いからですよ! やっと、ダンジョーンが居なくなった今が世界からダンジョンを消す最高のタイミングなのに、貴方の存在……邪魔なのよねー」
ゾクッ。
首筋に冷たいものを感じ、思わず条件反射で手を伸ばす。
「うふっ、そんなに乱暴に掴まないでくださいね。それに、私に触れたことがばれたら旦那に殺されるわよ?」
おっと、人妻さんでしたか。
っていうか、敵の本拠地に妻を送り込むとか碌な亭主じゃ無いな。
「くそがっ! 会長から離れんか! 【地獄の火炎】」
ちょっ、馬鹿テューポーン!
その角度で撃ったら、俺にも当たるだろうが!
斜め前に座ったテューポーンが、口から黒炎をユーノーさんに向かって吹き付ける。
もちろん、そのユーノーさんの前にいる俺にも直撃するわけで。
炎熱耐性のお陰どころか、吸収して肌もツヤツヤになるとはいえ気分はよろしくない。
「あら、お熱いですわね。お二方はそういうご関係で?」
ユーノーはいつの間にか手に持った王笏で、炎を完全に防いでいた。
王杓から放射状に広がる光の壁が、ユーノーに向かって行く炎を完全に霧散させている。
できれば、絵的にも俺に降りかかってる炎も弾いて欲しかったんですけど。
「いい加減、鬱陶しいわ!」
ユーノーから王笏を奪い、テューポーンの口に思いっきり放り込む。
王笏の力のせいか、テューポーン自身の顔に炎が思いっきり吹きかかっていて面白い映像になってる。
ざまーみろ!
「フフフ……速さは韋駄天を凌いでいるわね。でも……まだまだ、青いわね」
「えっ?」
いつの間にか体の中から何かが抜け落ちる感触が……
「これが何か分かるかしら?」
「えっと、俺の魂か?」
「せいかーい! 本当はね……これからヤーヌスの神殿の門を解き放とうかと思っていたところだけど、その必要は無かったみたいね」
うん、そうだね。
それをそのまま握りつぶされたら、俺は死ぬわけで。
というか、それ俺の魂?
潰されたらやばくね?
「クロノ!」
「あー、あれは疑似魂玉ですから……本物はセーブポイントにありますから、死に直す程度ですが。おっしゃりたいことは分かりますよ?」
「えっ?」
――――――
あっぶねー!
あいつ、滅茶苦茶強いじゃん!
「取りあえず、魂戻せる?」
「ここに戻れば簡単です」
「じゃあ、戻して! すぐに戻るから!」
クロノに頼んで、魂と俺を一旦時止まりのダンジョンに回収してもらっただけ。
これで、即死は免れた。
死んでも良かったんだけど、会議をやり直すの面倒くさいからね。
いや……そこはあれか、皆の奮闘ぶり見事であった!
と褒めて、全員の良かったところを報告前にこちらから伝えて労った方が、偉大な感じが。
しまったー!
その作戦の方が良いもののように思えてくる。
「相変わらず、自身の生き死にを軽く見積もりすぎですよ」
「お前の教育が良かったんだよ。いったん戻ろう!」
――――――
ダンジョン転移鉄を使って、またブラムスのダンジョンに戻る。
戻る前に鉄が砕け散ったのが見えた。
あの、まだ32回くらいしか使って無いけど?
0.08%って嘘だろ!
「どこ?」
「ここだよ!」
おお、丁度いい位置に転移出来た。
周囲を不審そうに見回しているユーノーのすぐ後ろだ。
「どうやって逃げたのか知らないけど、同じことよ! 貴方如きにわざわざ神の軍勢を使うまでも無いですね」
「なるほど、その王笏の力で魂を吸い取っていたわけだ」
「分かったところで、防げるものじゃないですけどね」
またも俺の魂を抜き取ったユーノーを見る。
というか、油断してなかったから分かったけど、どうやらテューポーンの口から手元に王笏を呼び寄せてその笏の能力で魂を抜き取っていたらしい。
「会長の魂を返せ!」
「あっ、そんな乱暴に扱うと!」
リカルドがいつの間にかユーノーのすぐそばに移動して、一足飛びで球状の光を奪い取る。
そして、力の入ったリカルドの拳の中で弾け飛ぶ光の粒子。
「あっ」
「おいっ!」
死んだ……
リカルドに殺された。
でもまあ、あいつは従魔じゃないからレベル上がったところで、死に直しで元に戻るから良いけどさ。
あの筋肉馬鹿が!
――――――
「みんな本当に上出来ですよ」
「なんで、そこまで詳しく」
「まだ、この情報は外に出してないのに」
先手を取って、全員のダンジョンの出来を褒めた。
あと、撃退お疲れさんと。
ちなみに、テューポーンには有無を言わさず拳骨を落として、改善命令を出しといた。
みんなが、畏怖と畏敬の眼差しを向けてくる。
「ふっ、俺が会長だからという理由以外に何か必要か?」
「愚問でしたか」
「まあ、クラタ会長なら、さもありなん」
「流石ですわ! 私達の諜報部隊の虫よりも優秀な部下をお持ちだなんて」
めっちゃ気分良い。
「もはや、会長以上に会長に相応しい片などいるはずもなし」
「その魂尽きるまで、ずっと会長で居てもらわないと」
「そうじゃのう、すぐに死なれぬよう我らも全力で鍛えてお守りできるようにならんとな」
「テューポーンはまずはダンジョンの改築からでしょ? 取りあえず、いつか会長との子供を……」
「俺、最初から会長ならやってくれると信じてました」
あれっ?
もしかして、もう会長から逃げられない感じ?
えっと、3年任期くらいで持ち回りにしようと思ってたんですけど?
あっ、ちょっ……待って。
そんな安心して笑ってないで。
そろそろ神との戦争を告げる使者が来るはずだから。
ちょっとー!
なんで、帰ろうとしてるの?
ゴブリンで脱線しましたが、ようやく本筋が進み始めました。
評価、感想、ブクマ頂けると嬉しいです。
これからも、宜しくお願いしますm(__)m




