第16話:万事解決?消えたヒヨコの謎
「えっと……クラタさん?」
「フハハハ! クラタは死んだ! 我は魔人、クラータだ! 皆殺しだヒャッハー!」
不安そうにこっちを見上げてくるカオルちゃんに、ちょっと嗜虐心がそそられる。
魔人になった影響かな?
翼をバサッと広げて、牙を剥いて笑ってみせる。
「良かった、クラタさんだった」
一瞬でバレた。
なんでバレたし。
「こんな馬鹿な事を言い出すのは、マスターくらいですよ?」
「お前、よく俺の事分かってるよな? 惚れんなよ」
「はいはい、カッコいいカッコいい」
くそ、石ころが。
声が可愛くても、中身は変わんねーわな。
声が可愛い?
ひらめいた!
「永久に時空の狭間に閉じ込めましょうか? 一応制限解除のお陰で、そのていどなら出来ますよ?」
「まだなんも言ってねーし!」
こないだ、一生懸命磨いてあげてたら色っぽいメッセージが流れてたから、この状態で磨いたらどうなるのか興味あっただけだし。
「ゲスですね」
「知ってた」
いつか、磨きあげちゃる!
「その姿は?」
「あー、実はさ……俺変身タイプだったんだわ」
「言いたくないということか?」
俺の言葉に、質問をしたカオルちゃんの代わりにミカエルが答えてくれる。
うん、心中察してもらってどうも。
というか、あんたには言えんわな。
主と読んでいたカイロスに盾に使われて、俺に殺されただなんて。
「いずれ、時期がきたら教えてやるわ」
「時期もなにも、私は勇者だ。貴様を殺すために存在するのだぞ?」
「えっ? ミカエル様、まだこのダンジョンマスターに挑むつもりなのですか?」
「当然!」
ローレルの言葉に、さも当たり前だといった様子で答えるミカエル。
そして、その返事にげんなりした表情を浮かべるローレル。
安心しろ。
お前と一緒に来てた、ナン一族も終盤はそんな表情だったぞ?
勇者ってのは無駄に使命感が強いのな。
「というわけで、武器を返してくれないか?」
ミカエルさん厚かましいね。
俺を殺すつもりのやつに、なんで武器を渡さないといけないと思うかな?
「えー、普通敵に武器渡す人なんていないですよ?」
カオルちゃんもそう言ってるし。
まあ、返しても良いんだけどさ。
「はい、これ」
「なんだこの剣は! 私の剣を返せ」
「だから、それ!」
クロノから渡して貰った剣の刃が、すっかり黒くなっていた。
装飾も輝かしい白基調のものだったのに、今じゃ赤黒い。
魔剣ですね……
「あー……俺が使ってたら、魔剣化しちゃった」
「なっ! 戻せ! 私の剣を元に戻せ!」
「無理……というか、剣の主も俺になってるし……」
「なっ! じゃあ、どうやってお前を倒したら良いんだ!」
「なんか、ごめん」
取りあえず入り口でワーワー五月蠅いので、マスタールームの隣の謁見の間的な部屋まで連れていく。
お出迎えは、ヘルとカーミラと、いつの間にか先回りして戻ったファング。
そして、カーミラの後ろにはヘンリー王子。
「なっ!吸血姫と地獄少女だと! なんで、マスタークラスと神話級が!」
「俺の女だから」
「まあ、旦那様ったら!」
「妾はただの部下じゃ」
2人の姿を見て、ミカエルが狼狽える。
ヘルが嬉しそうに抱き着いてくるので、肩を抱き寄せる。
照れんなカーミラ。
頬が赤い……事も無かったわ。
というか、目的のヘンリー王子は無視か。
「余もいるよ?」
ヘンリー王子、この状況で頑張った。
自分の事を余と呼ぶことでかろうじて、威厳を保てたと思うよ。
内容は、凄く寂しいものだけど。
「というか、ヨシキさんはどこ?」
そして、辺りをキョロキョロするヘンリー。
目の前に居るぞ?
ああ、魔人化形態だったわ。
「フハハ! クラタは死んだ!「それは、もう良いです。こちらが、クラタさんらしいですよ」
カオルちゃん酷い。
ヘンリー王子が目を丸くしてる。
可愛いじゃないか。
「お前! ヨシキさんを殺したのか?」
「あー、ごめん。俺だから」
素直に信じちゃう素直な心に照らされて、自分が薄汚れた大人になった気がして返ってダメージを受けた。
あ、純真な心を目の当たりにして、カオルちゃんもちょっと複雑そう。
取りあえず、元に戻る。
これも簡単。
戻りたいと思えばいいだけ。
「ビックリした……あれもヨシキさんだったんだ。カッコいい!」
「王子様! 駄目ですよ、魔族なんかに憧れては」
ローレルが慌てて、ヘンリーを嗜める。
そしてローレルを見て、首を傾げるヘンリー。
「お主は誰だ?」
「えっ? あー、ローレルです。 元勇者の……国王陛下に謁見した時にお会いしたかと」
「ああ、ローレルか! ごめんごめん」
完全に忘れられていたらしい。
なんだ、ローレルも残念組か。
このローレルが勇者でブラムスが魔王なら、面白い事になってたかも。
あっ、どっちも格下相手には偉そうだったっけ?
残念組なんか、どうでも良いか。
「ヘンリー王子! 戻りますよ!」
「なんで、ミカエルはこの状況で普通に返してもらえると思うの? お前、俺に傷すら負わせられないのに」
「えー、もうちょっと居たい」
そして、なんで帰りたがらないの?
とうか、ヘンリーも帰ると言ったら帰してもらえるとでも思っているのだろうか?
まあ、ミカエルが他のダンジョンを襲わない事を確約すれば返すけど。
「取りあえず、ミカエルがここしか狙わないっていうなら、返しても良いけど」
「僕の意見は? もう少し、ここで遊んでたいんだけど」
完全に子供の居ない叔父さんちに遊びに来た。親戚の子状態だ。
自分の家よりも優しくて、あれこれと甘やかしてる叔父さんに完全に懐いちゃったパターンだね。
まあ、親と違って責任も無いし。
無責任に、喜ぶことをしてあげられるからそうなるのは分かるが。
両親聞いたら悲しむぞ?
魔族のところに、もうちょっと居たいとか。
「私は、その約束を守ると誓う! だから、帰りましょう!」
「そうですよ! 陛下も心配されてますから」
ミカエルとローレルが説得にかかる。
ここは、助け船を出してやろうか。
「まあ、いつでも遊びに来ていいから、一度帰った方が良いんじゃないか?その方が両親も安心だし」
「連れ去った本人が何を!」
「ミカエル様! クラタさんが説得を手伝ってくれてるんですから、邪魔しないでください」
「あっ、すまん」
ミカエルがローレルに怒られる。
なんだ、ちゃんと補佐してるじゃないか。
「そっか……じゃあ、帰ろっかな」
「えっ? 牧場エリアのコカトリスの卵が孵ったの? ヒヨコで尻尾が小蛇? 見たい見たい!」
「そうじゃろ? ヘルと一緒に丁度いまからお祝いがてら、会いに行こうと思うての」
「私も行きたい!」
「良いぞ! 一緒に行こう!」
「僕も! 僕も!」
「「王子?」」
カーミラ?
――――――
ヘンリーは結局小一時間ほどヒヨコとじゃれたあとで、ミカエルとローレルに連れられて帰って行った。
ちゃんと、他のダンジョンに手は出さないと契約書にサインもさせたし。
取りあえず一安心。
「えっ? ヒヨコが一羽足りない?」
「別に、親のコカトリスの方は沢山生まれるしすぐに増えるからいいとは言ってるけど……」
ヘンリー?
数年後フィフス王国周辺に、コカトリスを操る王子の噂が流れたとか流れてないとか……
これにて、第5章も完結です。
ここまでで、評価頂けると嬉しいですm(__)m
感想、ブクマ付けて頂けると喜びます♪
次は第6章。
5時投稿予定です。
レビュー頂きました♪
誠に有難うございます、レビューの通知を見るとココロオドリますねw
ただ、酷評のレビューもあると聞いたのでドキドキしたりもしてたりw
これからも、宜しくお願いしますm(__)m




