閑話:セーブさんの憂鬱3
物凄く意味の無い閑話です。
~うちの弟がおバカ可愛い件~
バカが帰ってきた。
間違えた、マスターが帰ってきた。
手にフェンリルの籠手を持って。
おお、フェンリルを倒したらしい。
中々の力技だったけど、ちょっとだけ見直す。
ようやく、マスターとしての第一歩ですね。
と思ったら、しょっちゅうフェンリル狩りをするようになった。
レベルアップの楽しみを覚えたらしい。
お陰でそこら辺中、フェンリルの籠手だらけだ。
『収納しましょうか?』
「よっしゃ、ガンガン行こうか!」
こっちを見ろ!
と思ったら、今度はフェンリルを連れて帰ってきた。
あの、その子ここを守る真の最後の砦なんですけど?
言ってみたら、裏ボス的な。
可愛いから連れてきた?
そうですか……
――――――
フェンリルのファングのお陰で、どうにかマスターに存在を気付いてもらう事が出来た。
とはいえ、折角可愛いペットが出来たのにやる事は変わらず。
ひたすら、死に戻るだけ。
いや、分かるけどね。
物凄く嬉しそうに、増えた耐性を見ながらニヤニヤしてるマスターを見ると色々と不安になる。
私がしっかりしないと。
いま、アスモデウス相手に、ひたすら耐性とステ上げに没頭中。
段々と死ぬまでの時間が伸びてくる。
なかなか、良い傾向ですね。
ちなみに、アスモデウスを単体で撃破できるようになったら、このダンジョンで最強ですよ?
というか、この世界でも上位100人に入る事が出来ますから。
一番最初は、物凄く良い笑顔で【アイスコフィン】を受けてましたね?
正直、育て方を間違えたと思いましたよ?
いや、育ててませんが。
一番大事な時期に無視されてましたからね?
その事について、貴方も凹んでいたでしょう?
なんで、姉さんを頼りにしないのですか?
でも、そんなこんなでアスモデウスをトライアル出来るくらい強くなったのだ、ご褒美に人間に合わせてあげる事にしましょう。
凄い勢いで、逆攻略するマスターに侵入者が居る事を教えてあげます。
時間停止を解除した瞬間に転移の罠を踏むような間抜けですが。
どうやら、ゲーム設定はまだ続けるようですね。
プレイヤーと自己紹介してキョトンとされてて、不憫ですね。
現実を認めたくないのは分かりますが。
「なあ、上級ポーションある?」
『……まあ240本ほどならありますけど』
不意に声を掛けられたので思わずビックリして、固まってしまいました。
どうやら、冒険者の為に貴重な上級ポーションを使うようですね。
お優しい事で。
相手が、女性だからですか?
まあ、大量にあるので良いですけど。
「なあ、蘇生の薬とかって無いの?」
『……死んだ人は生き返りませんよ?』
何やらモヤッとした顔をしてますね?
考えてることは分かりますよ?
ただ、違いますから。
貴方の場合は、生き返ったわけじゃなくやり直してるだけですからね?
その過程で、身体を魔改造してるだけですから。
ちなみに、蘇生の薬……この世界限定であったりします。
魔力によって身体の再構築を行う薬なので、魔力の無い地球だと全く役に立ちませんけど。
魂が召される49日以内なら、復活できますよ?
「なあ、俺を殺せる方法ってあるか?」
『はあ?もしかして死ぬつもりですか?』
「ああ……やり直して、今度はタイミングよく転移で来ればこいつの兄さんも助けられるかなって」
本当に優しい方です。
こんなので、立派なダンジョンマスターになれるのか心配です。
やはり、私がしっかりしないと。
『一応毒の上位に位置する猛毒の薬である、バードヘルム草がドロップでありますが……80本ほど』
「それ早く言えよ!それ飲んだら、猛毒耐性も付くじゃん!」
『目的が変わってますよ?』
目先の利益にすぐに囚われる。
馬鹿ですね。
でも、無邪気に喜ぶ顔も可愛く見えなくもないですね。
勘違いしないでください。
幼い弟の喜ぶ顔にほっこりしただけです。
死ねる手段があったことに喜ぶのは、大概に頭おかしいですが。
知ってます。
「とっととそれ寄越せ」
『……嫌です』
まあ、お姉さまに向かってなんて口の悪い。
そんな子にはあげませんよ?
「良いから寄越せ!まあ仮にどうしても嫌だつっても上書きセーブしてないから、なんとかして死ぬけどね」
『知ってます』
どうやっても、この子のお兄さんを助けたいらしい。
本当に良い子ですね。
自分の命を犠牲にしてまで、人助けをしたいだなんて。
でも、貴方の命割と軽いですからね?
お姉さんは、もっとその命大切にしてほしいです。
でも、弟の願いを叶えない訳にはいかないですしね。
どうぞ……
できれば、弟の苦しむ姿なんて……こいつ、あっさり飲み干しやがった!
くそガキが!
なんていうか、もう少しこう躊躇というものがあっても良いのではないでしょうか?
育て方を完全に間違えましたね。
「あっ、ファング久しぶり!」
「ワフッ!」
マスターが部屋に戻ってきたことで、ファングが物凄く喜んでます。
これは、すぐに弟をたぶらかす腐れ人間共の侵入を伝えるのが憚られますね。
そろそろ宜しいでしょうか?
えっ?もう少し?
マスターに話しかけようとすると、ファングに止められます。
まあ、ファングは馬鹿な弟よりよっぽど可愛いですしね。
無邪気に尻尾をフリフリしてるのを見てると、ついつい侵入者の時間をずっと止めて居たくなる。
というか、マスターとファングがじゃれ合ってる姿を見てるだけで癒される。
ずっとこのままでも。
あっ、もう満足?
意外とあっさりですね。
え?大体4時間くらい経ってる?
ファングとマスターが遊んでるのを見てたら、いつの間にかそんなに経ってたらしい。
取りあえず、侵入者の時間停止を解除する。
『ターゲットが転移しました。アシッドスライムに近づいております』
「行くか」
何も疑わずに、マスターが立ち上がる。
マスターにお尻を振る雌犬共には気にくわないけど、たまには町で楽しんで貰うのも良いかも。
そう思って、笑顔で送り出す。
まあ、右手にしっかりと意識を転送するんですけどね。
そして、案の定振られるお尻にガッツリ乗っかるマスターにガッカリ。
でも、そういう単純なところが可愛いと思えたり。
あっ、弟としてですよ?
――――――
スランプでしょうか?いいえ、見切り発車ですwww




