第7話:真のチーターはセーブポイント
部屋の後ろでは、3人のメイドが瞬きすることなく微動だにせずに立っている。
これは、好き放題出来るのでは?
『マスターは現在時間の流れに置いて行かれているため、他の存在に干渉することができませんが?』
セーブポイントが何か言っているが、気にせずに取りあえず目の前のメイベルの顔に触れてみる。
思ったより自分は小心者だった。
「固い……」
触った頬は指を沈める事も、弾くことも無い。
とてつもなく硬い鉱物に触れたような感覚だ。
「なんで、周りの時間止まってるの?」
『侵入者が現れた為、セーブストーンの効果により外部の時間が停止しております。ダンジョン内の時間は進んでおります』
仕組みが分からないけど、俺のダンジョンは時が止まっている状態だ。
なのに外部から敵がやってくる。
その辺の詳しい話は……気にしたら負けか?
いや、一度セーブポイントに聞いてみる必要はある。
いや、無い。
『今度詳しく説明しますよ。簡単に言えばダンジョン内部とダンジョン外部の素材と能力の効果ですね。あとは私の力です』
それなんてチート。
確かに俺はチートに近いステータスを得る事ができたが、これは努力の結果。
こいつは与えられた機能。
結局セーブポイントが、この世界で一番チートだと思う。
という事は、結局マスターの俺がその恩恵を預かっているから、俺がチート?
回りくどいけど、ある程度は楽しめそうだし良いけどね。
『取りあえず、帰還願います。このままだとダンジョンに被害が出る可能性がありますので』
「別に良いんじゃないか? どうせ、お前は壊せないんだろ?」
『まあ、マスターが居なくても問題無いですけど、新たな耐性を得られる可能性がありますが? マスターの強化という面では役に立つかと』
「うん、戻る……でも、終わったあとここが騒ぎにならないか?」
『人間など放っておいて大丈夫です』
こいつは人間をなんだと思ってるんだ。
俺だって半分人間だ!
『ただの餌で、シロアリのような害虫と認識しておりますが?』
さいですか。
まあ、終わった後で考えるとする。
――――――
「アウーン!」
「おわっ!」
セーブルームに転移させられた瞬間に、ファングが飛び掛かって来る。
尻尾全開でフリフリしてて可愛い。
「よーしよしよしよし!」
「ワンワン!」
ワシャワシャワシャ。
ああ、癒される。
ファングにとっては、お久しぶりなのかさっきぶりなのかが凄く気になる。
『このダンジョンの流れる時間はマスターと一緒です。全てはマスターの一部ですので』
ふーん……
良く分からない説明を有難う。
じゃあ、久しぶりだな!
目いっぱいファングとじゃれ合っていると、セーブポイント本体も心なしか嬉しそうにいつもより明るく光っている。
取りあえず触れとく。
『HP/MP/状態異常が全回復しました。セーブしますか?』
うん、この感覚はやっぱり気持ちいい。
全身の疲れが取れて、質の良い睡眠をとった後のようだ。
『マスター、現在カーミラ達はアシッドスライムを撃破し、さらに先に進む予定のようです。敵戦力は先の戦闘でワーウルフ2体は生命活動を停止したようです』
「ハッハッハッハッハ!」
うんうん、24階層も越えられないような部下を連れて来て何がしたいんだろう。
それとファングうるさい。
興奮しすぎだ。
腹を出して寝転がってるから、腹をワシャワシャしながら話を続ける。
『何階層で迎え撃ちますか?』
何を言っているのだろうかこの人は。
このダンジョンのマスターは俺。
俺が負けたら、基本終わりだと思うけど。
『マスターは死んでも生き返りますから』
「死んだ人は、生き返らないのじゃ無かったのか?」
『マスターは人でなしですから、大丈夫です。ちなみに、セーブしますか?』
いや、おま……
何をどう思って、人でなしと?
「アウーン!」
おおう? 敏感なところだったか……お終いだ。
普通に寝転がれファング、背中を撫でてやるから。
それにしてもセーブか……うん、凄く悩むな。
もしここでセーブせずに死んだら、また火の誓いに会う処からやり直しか。
それはかなり面倒くさい。
というか、次は助けないかもしれない。
でも、知り合いになった人間を見捨てるのも憚られるから、結局助けそうだ。
せめて、セーブデータが複数用意出来たら良いのに。
『……』
その……の表記が凄く気になるが?
『出来ませんよ? ……今は』
凄く小さい文字で今はって出た。
という事はいずれ出来るようになるって事か?
あれか製品版ならって事か?
それともまさかの、課金アイテムか?
取りあえず、今のところ重大なミスは犯してないはずだ。
火の誓いを助けた事で、身分証も手に入った訳だし。
まだ、セーブしても問題無いと思う
「おらっ!」
『セーブしました』
目の前に実物が居るから、散々生意気な事を言ってきたお礼に思いっきりはいをぶん殴ってみた。
恐ろしく硬い。
デコピンでコボルトの頭を破壊する俺の力で、フヨフヨ浮いてる石がぶれずに同じように浮いているのもおかしい。
『フッ……で、どこで待ち受けますか?』
鼻で笑ったよこの子。
どうしたら良いかな?
確かやったら広い広場を、馬が走り回ってた部屋があったよな?
「燃える馬が走り回ってた部屋とかは?あれ何階層?」
『50階層です。スレイプニルの居たボス部屋ですね。火と風、物理特化の彼にとってマスターは天敵したね』
というか、基本的に何回か戦えばここにいる魔物達は、殆ど敵じゃないからな。
あそこは50階層だったのか。
もしスレイプニルを手なずけたら、燃える鬣のお陰で走りながら回復出来て便利だなと思ってたけど、やる気満々だったから鬣全部毟って足折って放り投げたんだっけ?
全部で足が8本もある巨馬だったけど。
死に戻ってからは転移であそこの階層は飛ばして、一気に24階層まで行ったから多分生き返ってるだろうけど。
「でも、あそこの部屋に行ったらスレイプニル? が居るんじゃない?」
『そこは力で従えてください。マスターだという事を力で示せば良いんですよ』
流石俺の部下。
間接的にこいつの部下であるはずの、ダンジョンの魔物に対しても容赦ない。
いや、俺にも遠慮ないけど。
取りあえず、吸血鬼狩りの前に馬狩りですね。
はい、分かりました。
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次回投稿は明日7時を予定しております。




