第19話:侵入者
『その先を右に曲がって下さい。そこでアシッドスライムと交戦中です』
「なんで先に俺のマスター登録を完了させなかったんだろうねダンジョーンさんは」
『さあ? マスターを改造するのが楽しくてしょうがなかったみたいですよ』
楽しみは後にとっとけよ。
まあ良いや。
取りあえず急がないと、体が溶かされてグログロの初対面とか勘弁だからな。
「うわっ!」
「くそっ、なんでこんな強力な魔物が」
「おい、ジェシカ! 下がれ!」
「熱い! ああ、腕が! 腕が溶けてる」
やめて!
腕が溶けてるとか言わないで!
というか、4人組かよ!
最初は1人が良かったんだけど。
野郎1人と女性3人か。
ハーレムパーティか!
クソが!
俺なんて、狼と牛男くらいしか知らないってのに!
「あっちからも足音が!」
「挟まれたか!」
「畜生!」
ああ、これ完全に俺も魔物だと思われてるっぽいな。
まあ、良いや取りあえずこの階層の敵にてこずるようじゃそんなに強くも無いだろう。
「下がれ!」
声から、角を曲がったすぐそこに件のパーティが居ることが分かったので、角を曲がった瞬間に叫ぶと4人を飛び越えて視界に入ったアシッドスライムに蹴りを叩き込む。
先頭に居たアシッドスライムが爆散するが、すぐに後ろのスライム達が酸液を飛ばしてくる。
いや、マジお前らさぁ……
本当なら、というか俺お前らの上司なんだぞ?
全員が漏らさず、酸飛ばしてくるとかどうなの?
社長相手に、唾を吐きかける行為……
辞令前に就任しちゃった感じだけど。
とりあえず、大量の酸液にげんなりしつつ正面に構える。
残念、その攻撃はすでに無効対策済みだ。
向かってくる酸液を拳で弾き飛ばしながら、目に付いたスライムを片っ端から蹴り飛ばしていく。
大よそ30体程居たアシッドスライムを殲滅し、後ろを振り返る。
「Oh……」
見ると顔が半分溶けた男が目の前で絶命していた。
その後ろで骨の見える腕を垂れ下げた軽装の女性と、それを庇うように立つ戦士風の男性。
さらにその横で剣を構える剣士風の女性と、杖を持ったローブを来た女性がガタガタ震えていた。
腕に傷を負った女性は、痛みからか気絶しているようだった。
「その……大丈夫か?」
「あっ……貴方は?」
唯一の戦士風の男性が、他の3人を庇うように前に出ると話しかけてくる。
歳は20代前半くらいか?
鉄で出来た装備を身に着けている。
手に持っている武器は斧か。
盾は酸液で溶かされたのか、表面がドロドロになっている。
「ああ、クラタと言う。まあ……テストプレイヤーかな?」
「テストプレイヤー?」
「えっと、冒険者みたいなもんだ」
どうやら、NPCみたいだな。
ガチのロールプレイを楽しむような奴が居るとは思えないし。
かなり焦っている様子から、死に直面して恐怖しているようだ。
プレイヤーなら、復活があるからここまで怯えることは無いだろうし。
「俺は「それより、そっちの女性はヤバいんじゃないか?」」
戦士風の男が自己紹介をしようとしたのを、手で留める。
そんなゆっくりしている暇があるように見えないんだけどね。
その女性、顔真っ青だし痙攣もしてるし死ぬんじゃね?
「あっ、ああ……この傷じゃどのみち」
「ジェウォン! めったなことは言わないで!」
「あの……かなりお強いみたいですが、もしかしてポーションとかお持ちじゃないですか? あれば譲ってもらいたいのですが。お金はお支払いします」
「おいっ! こんなところに居るような人だぞ? そんな貴重なものを売ってもらう訳には「ちょっと、待って」」
というか、このジェウォンとかいう奴は、そこの女性に恨みでもあるのか?
助けたいとか思わないのかな?
まあ、まずは上級ポーションか……
上級ポーション?
回復薬で治るのかな?
流石ゲーム。
でも、あるかどうかは分からないな。
途中のドロップは片っ端から、セーブポイントに送って来たし。
「なあ、上級ポーションある?」
『……まあ240本ほどならありますけど』
かなり嫌そうに答えが返ってきた。
普通にあったし。
それも、そんなにいるのかってレベルだし。
まあ、良いや。
「1本送ってくれ」
『……はい』
いちいち……を表示するのは止めて欲しい。
腕のクリスタルが光を放つと、俺の手に瓶に入った液体が現れる。
これが上級ポーションか。
他のポーションを見た事ないから分からん。
いや、たぶん見てるだろうけどそれが何かを確認せずにセーブポイントに突っ込んで来たからね。
「ああ、あったあった。これで良いのか?」
「こ……これって、確かに上級ポーションですけど特上じゃないですか? 不純物が無いですし、色も均一で透明度もかなり高い」
「流石に、そんな高価なものを買い取れるだけの手持ちは……」
「別に余りもんだし……ただで良いよ?」
「ブフッ!」
「ええっ? 特上ポーションが余りもんて……」
なんか70階層あたりで、ポンポン白金色のスライムが落としてた気がするけど。
良い物だったんだな。
俺の言葉に3人が噴き出しているが、取りあえず無視して使うか。
「なあ、これって飲ませるの? 掛けるの?」
『どちらでも効果はありますが、このレベルのポーションは飲めば全身の傷が完治しますので、基本は飲んで使います』
「ありがと」
取りあえず見た目が気持ち悪いことになってる女性の腕に、瓶の蓋を取って液体をぶっかける。
おお……肉が盛り上がって傷が治っていってる。
筋肉の筋とかも見えて気持ち悪い。
見るんじゃなかった。
「掛けた……」
「マジで? なんで?」
「ああ……それ1本で1年は宿に泊まれるレベルなのに……」
そんなに高級なのか。
じゃあ、俺は239年も宿に泊まり続けられるのか。
この世界の価値観が分からんけどゲームプレイヤーの所持金って、たぶんゲームに登場するNPCの一般人からしたら天文学的な金額だろうから普通か。
最初の村だったら一泊10Gとか、10ルピとかで泊まれるからね。
高級なところで100~とかだしね。
でもって、ラスボス前とかになったら所持金が1000万とか、下手した1兆とかってゲームもあるし。
仮に1000万でも、10万日泊まれるってことだし。
それだと約270年泊まれると考えたら、大した値段じゃないか。
「あのさっきから、誰と話してるんですか?」
「もしかして、通信宝玉?」
「ああ、そんなようなもんかな? ついでにそいつに、そのポーション送ってもらっただけ。あっ、物自体は俺のだから気にしないで」
「はっ? 転送魔法? その方は賢者様か何かですか?」
ああ、良いねこの持ち上げっぷり。
ようやくイベントに向かって進んでいく感じがする。
いかにも、序盤で会う困ってるNPCっぽい感じで、ようやくまともなゲームになるのかと思うと少しウキウキしてきた。
そして非常に気になるのだが、俺の部屋に近づくにつれて部下が良い物を相手に落とすのは仕様上どうかと思うぞ?
特級ポーション、バカスカ落とすとか。
部屋の前で全回復して挑まれて、戦闘中にもガンガンそれ使って回復されるとか。
ある意味、接待ダンジョンだなおいっ!
ようやく新たな人が登場しました。
次は明日の朝8時の投稿予定です。




