第8話:待ちぼうけ……
「あれ? もう帰って来られたんですか?」
カーミラが普通に紅茶飲んでた。
マスタールームで。
こっちは決死の最終決戦に挑んでたのに。
お茶請けは、美味しそうなクッキー。
そして、ヘルもポリポリとお菓子を食べてる。
優雅だね、君たち。
「いや、こっちに神の軍勢が来ているらしいからな」
「そうなんですか?」
「アウーン!」
取りあえずファングが突っ込んできたので、受け止めてワシャワシャする。
可愛い。
戦いで疲れた心が癒される。
「言う程、戦ってませんからね?」
「頑張ったよ?」
まあ、主にキンさんがだけど。
「知らない女の匂い」
キンさんの勇姿を思い出してたら、ヘルがスンスンと俺の匂いを嗅いでくる。
「そりゃ、敵は何万といるわけだから女もいるよ」
「すぐそばに? 移り香」
キンさんの事かな?
あれは、骸骨だから男とか女とかって以前の問題だし。
――――――
「来ないね」
「ですね」
戻ってから数時間。
全く敵が来る気配が無い。
近くまで来てたら、クロノの感知に引っかかるはずなのに。
そして1日が経った。
とうとう来なかった。
もしかして、神の移動って時間が掛かるのかな?
「主に転移を使うはずなので、そんなに時間が掛かる事も……まあ、天使を引き連れてとなると転移門をくぐるでしょうから、ここからはかなり遠いところに出ると思いますが」
「そうなの?」
「転移門は転移と違って、決まった場所にしか出られませんから」
不便なような、便利なような。
「それでも最寄りの場所なら、空を飛べば半日と掛からないはずですけど」
不思議だ。
もしかして、騙されたのか?
「あれっ? クラタ様、神を滅ぼしに行ったんじゃ無かったんですか?」
首を傾げていると、部屋の前を通りかかったベルゼブブに声を掛けられる。
「そのつもりだったけど、逆に神が俺のダンジョンを攻めにくるって情報を得たから、慌てて戻ってきた」
「あー……」
なにその表情。
ベルゼブブが、ちょっと複雑な表情で頷いている。
そして、申し訳なさそうに伝えてきた。
「クラタ様の留守中に神を名乗る者がダンジョンの傍に近づいているのを、偵察中の蠅が見つけまして」
「見つけまして?」
「マスターなら、神の国を滅ぼしに行きましたよ! と伝えたところ、慌てた様子で戻って行かれてしまわれて」
「ふーん……」
なに、この韓流ドラマみたいな見事なすれ違いっぷり。
「早く言え!」
「すいません」
八つ当たりだけど。
「神の国に転移は?」
「無理ですよ。それ系の対策は万全ですからね」
当たり前か。
「ハイド、シルバ!」
みんながピンチだ!
ピンチかな?
いや、神のメインの戦力が戻ってるんだ。
ちょっと、荷が重いだろう。
俺が行くまで、持ちこたえてくれよ!
誰も死ぬんじゃないぞ?
「いや、従魔なのだから呼び戻せばいいだけでは?」
「それもそうだね。じゃあ、一旦戻してのんびりと行こうか」
キンさんとゴブリンズを呼び戻す。
「はっ、ここは? クラタ様! 戻してもらって有難うございます」
キンさんが周囲をキョロキョロと見渡しあと、俺を見て頭を下げてくる。
礼を言って来るあたり、ピンチだったのだろう。
「あぶねー!」
「なんだよ、あのアテネって人! あの人が来た途端に天使の士気爆上がりだったんだけど」
「四郎、ゆっくりね! ゆっくり抜いて!」
「はいはい、ゆっくりですね……ふんっ!」
「いってーーー! ゆっくりって言ったじゃん!」
「……俺のゴーレム」
そしてゴブリンズがワイワイ騒いでいる。
三郎はお尻に矢が刺さったらしい。
それを四郎に抜いて貰ってた。
まあ、矢じりだからね。
引っ掛かってたんだろう……四郎が力いっぱい引き抜いてた。
床、汚すなよ?
それと、レッドのメンタルがボロボロだ。
そんなにゴーレムがやられたのがショックか?
なになに?
固有スキルだから、期待したのに?
男のロマン?
知るか。
なら、普段から使ってちゃんと鍛えとけよ。
一応、ただの魔物なんだから。
「こいつらがクソ邪魔で、広範囲究極殲滅魔法や、超重力魔法が使えず苦労しました。一応、クラタ様の持ち物ですから、巻き添えにして傷つける訳にもいきませんし」
「あー、次同じような状況になったら、サクッとやっちゃって良いから。ポイントも1ポイントで買えるから、替えはいくらでも利くし」
「「「「「えっ?」」」」」
ゴブリンズが、ショックを受けた表情でこっちを見てくる。
いや、言ってお前らダンジョン内の底辺だからね?
俺が、特別に育てただけで。
しかも、超簡単。
俺に毒を盛るだけだし。
「分かりました」
「「「「「はっ?」」」」」
そして、キンさんの即答に悲しそうな表情を浮かべる5人。
「キンさんは替えが利かないからね。キンさん死んじゃったら、俺も死んじゃう」
「そこまで、私の事を……」
泣いちゃった。
いや、死に戻りリセットで復活的な?
あの展開をやり直す手間と天秤にかけても、キンさんの方が重いし。
なんか勘違いしてそうだけど。
ピンク色のしゃれこうべとか、趣味悪すぎだぞ?
まあ良いや。
――――――
マスタールームで、カーミラに紅茶を淹れて貰う。
うん、美味しい。
でも、何か忘れてるような。
「何か忘れてる気がする」
「忘れるという事は、重要じゃないという事です」
「そうだね」
重要な事だった気がするが、カーミラが言うように重要じゃないから忘れるんだろう。
まあ、いっか。
――――――
一方ヴァルハランド。
「ようやく追いつきましたぞ!」
テューポーンが上空から、戦場と思われる場所に急降下する。
眼下では地面が大きくえぐれ、神の住む場所と思われる宮殿は倒壊し、あちらこちらに天使の圧死した死体や、神の死体が転がっている。
だが、戦場にしては静かだ。
いや、慌ただしく動いている者たちは沢山いるが。
どちらかというと、生存者を運んで治療をしたり、瓦礫を撤去したり。
戦後の復興作業的な。
「あれは、テューポーン!」
「くそっ、クラタめ! 撤退したと見せかけてあんな隠し玉を」
「待て! 奴は一人だ!」
「そうか、あいつを捨て駒にして体勢を立て直すつもりだな!」
「だったら、短期でけりをつけて、奴の思惑を外すぞ!」
「「「おうっ!」」」
そして、急に戦場の全ての天使達に敵意を向けられて、たじろぐテューポーン。
「あれ? クラタ会長? 他の皆は?」
周囲を見渡すが、そこに味方は誰も居ない。
「いけー!」
「何が、テューポーンだ! 俺たちの力を見せてやれ!」
「ぶっころーす!」
そして、一斉に放たれる槍や、魔法。
「ひいっ!」
慌てて逃げ出すテューポーン。
背後に、槍や魔法が迫りくる。
「クラタかいちょおおおおおお!」
――――――
なんだ、この胸騒ぎ。
ピキーンといった音が聞こえてきそうな感覚が脳を貫く。
思い出した!
「カーミラ、おまっ! あの時食ってたクッキー、俺がポイント使って取り寄せた、地球産のコペンハーゲンのクッキーだろ!」
「ギクッ!」
ギクッ! って口で言うとか、もはやそれは自白だぞ!
あれ、15ポイントもしたのに……
「大変おいしゅうございました」
「まあ、喜んでもらえて良かったけどさ……次からは、欲しかったら言って? 買ってあげるから」
あー、思い出せて良かった。
どうりで、カーミラが思い出すのを阻止しようとした訳だ。
うん、スッキリ。
ひと眠りして、明日もう一度神の国に行こう。
うん……なんか、うん……
評価、感想、ブクマ頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願いしますm(__)m
全力で流行りに乗っかった短編を、ひっそりと毛色の違う感じで書いてみたり。
下にリンク貼ってます。
恥ずかしいので、絶対に読まないでください(笑)




