第5話:神々の国?
俺はいま、全身を縛られている。
別に敵に掴まったわけじゃない。
色々とあってこうなった。
「貧弱な」
セーブストーン形態のクロノになじられる。
しょうがない。
遡ること1時間前。
シルバに跨って、皆に別れを告げる。
「じゃあ、行ってくる」
「はいっ! 勝利の報告をお待ちしております」
「今日は、宴会の準備しとかないとね」
カーミラが殊勝なことを言ってくれる。
やる気が出る。
それとヘラ?
日帰りで滅ぼせるほど、神々ってのは弱いのか?
「はっはっは、クラタ会長の部下達は気が早いのう。とはいえ、その絶対の信頼感は、羨ましいぞ! わしのとこなんぞ……」
「テューポーン様、あとの事はお任せください! この私、ファーブニルが竜達を取り仕切って見せましょうぞ」
「何を言っているのじゃ? テューポーン様の跡を継ぐのはこの私じゃ!」
「だまれティアマト、多頭竜を束ねるヒュドラクイーンの妾にこそこのダンジョンを収める資格がある」
「待て待て、まだ死ぬと決まった訳じゃ……」
「神に喧嘩を売って、帰って来られると?」
「遺書は残されましたか?」
「あと、遺産の目録も」
自分のダンジョンでの部下との会話を思い出したのか、テューポーンが遠い目をしている。
きっと、今生の別れを済ませてきたのだろう。
大丈夫だ、むざむざ敵にお前を殺させる気はない。
いざとなったら、俺が誤射って事にして殺ってやるから。
お前の経験値は無駄にはせん。
「えっ?」
「あっ、言葉に出てた?」
テューポーンの表情が、先ほどより一層の悲壮を帯びてた。
まあ、冗談はさておき。
「悪質な冗談ですぞ!」
テューポーンに怒られた。
「では、行って参る! はいどシルバ!」
そして、走りだすシルバ。
空を。
一気に加速して、上空高くまで駆け上がる。
一人で。
「マスター?」
「旦那様?」
「……あー、戻って来いシルバ」
すぐに振り落とされた。
誰が垂直に駆け上がるなんて想像する?
普通に映画とかで見たペガサスみたいに、斜めに空を駆け上がっていくと思うだろ?
あっ、お帰りシルバ。
ちょっと、忘れ物があったから取るために降りただけだから。
落とされた訳じゃないから。
気にするな。
まあ良い、今度はしっかりとしがみついて。
俺の腕力なら、決して振り落とされる事は無いだろう。
「はいど、シルバ!」
そして駆け上がるシルバ。
「マスター?」
「旦那様?」
「うん、無理。恐怖無効あっても怖い」
上空100mくらいに一瞬で到達したが、すぐに手を離す。
そして衝撃に備えて魔人化形態に……
翼があった。
翼をはためかせて、シルバを追いかける。
無理……早すぎあいつ。
魔神化形態になって浮力も加えたけど、気が付いたら見えなくなってた。
すぐに蜻蛉帰り。
テューポーンはとっくに先に行ってるけど、あいつ一人で敵地に着いてたりして。
そんなに近くない?
あっそう。
シルバを召喚でそばに戻す。
もう、声が届かない程遠くに行ってたからね。
ん?
クロノさん何を?
魔神化したことで、顕現したクロノが俺の腰にベルトを結び付ける。
それから、股にも。
おい、変なとこ触んなよ?
思いっきりベルトを締め付けられた。
痛くは無いが……キュッと縮み上がる思い。
何がとは言わない。
さらにタスキ掛けで、身体も。
その先にはシルバの手綱が。
「ゴー!」
そしてシルバの尻を叩くクロノさん。
「ヒヒーン!」
気合十分、一気に空に向かって駆け上がるシルバ。
ひいいいいいいいい!
Gが! Gが!
というか、風が!
浮遊感が!
股間がキュッとなる。
逆バンジー?
そんなもんじゃない。
だって、あそびも伸縮性も無い紐で括られて、一気に上空高くに飛ばされるんだ。
想像してみてくれ。
想像すら出来ない状況だろう?
そして冒頭。
精神力も高い。
恐怖無効もある。
気絶すら出来ない。
ひたすら耐えるのみ。
恐怖耐性ってのは、こういうアナログな恐怖には弱いのかも。
いや、俺の覚悟が足りなかっただけ。
違う。
垂直に空を走るこいつが悪い。
そんな事を思っていたら、周囲の気温が大分下がっているのが分かる。
どんだけ上空にあるんだ?
神々の浮島ってのは。
――――――
わあ、地球は青かったらしいけど、この世界も青いんだね。
すでに、元居た場所が球体に見えるくらいの上空。
知ってる?
ここって宇宙って言うんだよ?
地球はどこかな?
なんてことを思っていたら、シルバの速度が少し落ちる。
ちなみに、テューポーンはとっくに置き去りにしてきた。
遅すぎ。
いや、シルバが早すぎるのか。
そして、そのシルバの速度が落ちた事でようやく上に目をやる。
うん……落ちてた。
何を言ってるか分からないと思うが。
ようは、上に向かってたけど、新しい星に近づいたから今度は下りてく感じ?
まあ、落下速度よりシルバの方が早いんだけどね。
「あれが、神々の座す国、ヴァルハランドです」
「酷い、ネーミングセンスを見た」
安直すぎるネーミングに、戦意が大幅ダウン。
決戦の地のネーミングだけで、俺のやる気を削るとは。
やるな、神。
「というか、国じゃなくて星じゃね? 浮島じゃなくて、星じゃね?」
「まあ、地面は丸いなんていったら、頭おかしい奴扱いされるレベルの文明度ですから。神々もそこは、この世界の人間に合わせたんでしょう」
そうなのだろうか。
ちなみに、大きさと人口規模は?
「大きさは先ほどマスターが居た世界、エランドの半分くらいですね」
「あの世界そんな名前だったんだ」
初めて知った事実。
別に、大して意味は無かったけど。
「人口は、神族が320人、天使族が12億人くらいですね」
「多くね?」
「一つの星ですから」
星って言ったよ!
認めちゃったよ。
「ブルル!」
「マスター、お出迎えです」
どうやら、天使の軍勢がお出迎えに来てくれたらしい。
精々20人くらいか?
まあ、単独の侵入者相手なら、多いくらいか。
万が一の取り逃がしを考えてだろうね。
神々の星ですね。
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