第20話:憤怒のブラムス
ヴェルディのdies irae(怒りの日)をかけてご覧ください(笑)
「よくもっ……よくも、貴様ら!」
ブラムスの身体が軽く発光している。
額から角が生え、背中に翼も現れている。
「なんだというのだ、本当に!」
アレスが剣を構えて、戻って来る。
周囲の天使達も、ブラムスから距離を取っている。
「俺は確かに弱い……いや、昔は最強だと思っていた事もあった」
なんか、急に語りだしたんですけど?
頭おかしくなったか?
「だが、クラタ様に出会って自分がどう頑張っても、たどり着けない場所……強さの頂というものを知った」
照れるけど、何回も死ねば誰でも辿り着けると思うよ?
「だから、俺はクラタ様の傍で……その頂から見える景色を一緒に眺める手助けができればと思い……尽くし。そしてクラタ様を知れば知る程惹かれていった」
えっ?
いや、俺ノーマルなんだけど?
「何をゴチャゴチャと!」
アレスの拳がブラムスの顔面に叩き込まれる。
剣使わないのかよ!
そして、吹っ飛ばされていくブラムス。
折角生えた角も粉々だ。
うーん、強くなった気がしただけかな?
いつもの、ブラムスで安心。
「俺の事はなんて言われても良い……弱いのは事実だ……」
「雑魚が! 身の程を知っているなら、そこで大人しくしてろ! 変な恰好しやがって……見掛け倒しじゃねーか!」
「見掛け倒しか……」
殴り飛ばされた先で、倒れたまま顔を伏せるブラムス。
「この恰好をクラタ様は良く似合っていると褒めてくださった……」
「そりゃ、主従揃って頭がおかしいんじゃねーか?」
ピキッ。
別に、本心で良いとか思ってねーから!
そう言わざるおえない、空気だったんだよ!
ちょっ、取り消せお前!
「あー、クロノ! いまから、あいつぶっ殺してくるわ」
「まあ、待ちましょう。天使殺しの進化もしたみたいですし」
天使殺しの進化?
ああ、それでか……
ワイト達を見る。
翼をもいだだけの黒騎士と違って、この3人が強くなったようにみえたのはそのせいか。
現に、さっきまでのブラムスより確実に強そうだったし。
「この恰好を馬鹿にするというのは、クラタ様を馬鹿にするということだ! それだけは絶対に、許せん!」
おお、もう立たなくて良いって。
「見掛け倒し……そうだな。クラタ様が称えた格好に似合わないから、馬鹿にされるんだ……俺のせいで、クラタ様まで……」
いや、称えて無いから!
勝手に、自分の中で評価をあげるな!
ほらっ、横でアテネが気まずそうに何か言いたそうに、こっちをチラチラ見てるじゃないか!
グリ、グラ! なんで、目を反らす?
お前らの主だろ?
「この恰好を馬鹿にした貴様らは絶対に許さん! だが、それ以上に情けない俺が許せん! だから死んでも、お前らを皆殺しにして、この姿に似合う漢になる!」
いや、それはオススメしないかな?
その姿に似合う部下とか、要らないし。
「マスター……少しは、ブラムスの心情を考えてあげましょうよ」
「じゃあ、お前が俺の立場なら喜べるのか?」
「……」
「黙るな!」
地面が爆ぜるような音が聞こえたので、再度ブラムスの方に目をやる。
周囲の天使を殴り飛ばしながら、一直線にアレスに向かって突き進むブラムス。
あれっ?
「なっ! おまえ!」
その拳が、アレスの顔面を捉える。
だが、そこは戦いの神。
一瞬早く剣を構えて、ブラムスの拳を切り裂く。
「グハッ!」
おお、ブッホって言わなかった。
というか、斬られながら殴りつけるとか。
痛くないのかな?
剣が腕を切り裂いていたが、その先からすでに再生してた。
腕の中を剣が走るような感じで、無視して殴りつけたのか。
「立てよ……ここに、来た事を後悔させてやるから」
右腕の中に刺さったままの剣を、そのまま左手で引き抜くと投げ捨てる。
カーンッ、カランカランという音が、静かなダンジョン内にこだまする。
「その角……折れて無かったか?」
「そんな事はどうでも良い……」
「ウッ! ゲホッ! ゲホッ!」
座ったままのアレスの腹を思いっきり蹴り上げるブラムス。
そうか、さっきの違和感は角か。
折れたはずの角が一瞬で治ったのか。
凄いな死者の王。
「お前ら、何をボサッとしている! そいつを殺せ!」
「はっ!」
「はいっ!」
「行くぞっ!」
周囲で成り行きを見守っていた天使達が、一斉にブラムスに剣や槍を突きさす。
身体中に武器がささりハリネズミのようになったブラムスがニヤリと笑う。
「なんだ? ビビってるのか? お前が来いよ」
「ヒイッ!」
しかし、全く気にする様子もなくゆっくりと歩き始めるブラムス。
身体の再生とともに、突き刺さっていた武器が地面に次々と落ちていく。
「来るな! 【戦火招来】!」
「えっ?」
「ちょっと、アレス様?」
「うわぁぁぁ!」
「ひいいいい!」
室内を猛烈な炎が包み込む。
巻き込まれた天使達が、全身に火を纏ながら踊り狂う。
その中で、表情一つ変えることなくなおもアレスに近づくブラムス。
いや、身体が燃えて炭化しているが、その矢先から回復している。
「ば……化け物!」
「なんだ……今知ったのか? お前らは……お前らの子は遥か古から我の事を、そう呼んでいたのだがな?」
真っ赤に燃えた状態でアレスの顔を掴むと、そのまま持ち上げる。
「やめろ! 放せ!」
「フフフ……フハハハ……ハッハッハッハ! 笑えよ! この恰好が、おかしいんだろ?」
「ヒッ!」
顔を焦がしながらも、ニヤニヤと笑いながら顔を近づけるブラムス。
なんだろう、ブラムスがめっちゃ強そう。
「あっ、あれっ?」
「【憤怒の化身】です。怒る程にステータスが増えます」
一瞬ブラムスの背後にサタンの姿が見えた気がしたけど。
クロノが教えてくれた。
なんだ、ブラムスだけの力じゃ無かった。
安心。
「興醒めだ」
「か……神がアンデッドに負けるなど……絶対に……」
「【魂魄吸収】!」
おお!
おおおお!
凄いじゃ無いかブラムス。
ブラムスの手の周りを死霊が飛び交い始めると同時に、口の中にその死霊が突っ込んでいく。
そして、引きずり出される魂。
「や……やめろ! やめてくれ!」
「ハハハ」
ブラムスの手を両手で掴んでジタバタと暴れるアレス。
だが、それでもブラムスの手が離れる様子は無い。
腕を斬ろうが、手首の腱を斬ろうが、すぐに回復していく。
「や……やめ……て……」
チュルンという音が聞こえてきそうなほど、綺麗に魂が抜けたあとダランと手足が力なく軽く揺れて止まる。
「戦時の大将同士での殺し合いで、命乞いなど聞くわけ無いだろう……戦神のくせにそんな事も知らないのか?」
そのまま地面にアレスを座らせると、顔を近づける。
「なんだ、聞こえて無いのか……」
ブラムスが指を鳴らすと、アレスの身体が青白い炎を纏い灰となって飛ばされていく。
「ひいっ!」
「撤退だ!」
「アレス様が、殺された!」
「逃げろ!」
天使達が慌てて部屋を飛び出そうとする。
と同時に、部屋の出口の扉が閉まる。
「アベル、カイン……いつまで呆けている? 殲滅せよ!」
「はっ!」
「はいっ!」
――――――
誰だあれ?
「ブラムスですよ?」
「嘘だろ?」
俺の知ってるブラムスと違う!
「ア……アレスが敗れた? 貴様らの中であの男が最弱じゃ無かったのか?」
「いや、まあ……一番弱いブラムスなら知ってるけど、あれは知らない。たぶん、他人の空似」
あんなのブラムスじゃない!
あんな奴知らない!
「あれ、誰?」
「ブラムス様じゃない?」
「いや、ブラムス様は格下相手ならともかく、神相手にあんなに上手に立ち回れるはず無い……」
「うむ……オーラが違う気がする」
部下達も困惑してた。
てことは、やっぱりたぶん別人だろう。
もし、くそっ……ブラムスのくせにと思った方は評価をお願いしますw
次は明日の6時投稿予定です。
新作始めました?
今作終わるまでは、週1投稿出来れば良い方といったペースで投稿します。
左手で吸収したものを右手で出す、カブトムシなお話です。
あとがきの下に、リンクを貼ってますので暇な方はどうぞご覧ください。
ネタ少な目という私の持ち味を殺した作品になる予定ですw




