第16話:俺がクラタだ!
取りあえず、色々と面倒くさくなったので21階層にお迎えに行く。
「ハッハッハッハ!」
「あっ、ジョージどこに行くんだい?」
「キャンキャン!」
「待って私の天使ちゃん!」
「ワウーン!」
「なんだ、もう行ってしまうのか?」
「クウーン」
「美味しいお肉あるのよ!」
「ワンワンワン!」
「ああ、待ってーーー!」
21階層に転移した瞬間に取り囲まれる。
敵じゃ無くて子犬もどき達に。
そして、一斉に飛び掛かられて顔をペロペロされたり、あちこちを甘噛みされたり。
その周りを犬を追いかけてきた天使達が取り囲む。
奇しくも敵に囲まれた形。
ちょっ!
誰だ耳噛んでるの!
口ブハッ、涎が涎が!
おいっ! ちょっ座ってるの誰だよ! 起き上がれないだろ!
「アウーン!」
「「「「ワンッ!」」」
そして、一際大きな遠吠え。
全員が一斉に俺から飛び退き整列する。
「ハッハッハッハッハ!」
ファングか。
助けに来てくれたのか?
うん、助かった。
ファングの頭を優しく撫でる。
他の子犬たちが羨ましそうに見つめてくるが、お前らさっきまで天使と戯れてたじゃないか。
あー、後でな。
たまには、俺も遊びに来ようか。
それにしても敵じゃ無くて、味方に襲われるという窮地に助っ人に来てくれるとは。
ファングは優秀だな。
「誰だ! お前は!」
「私の天使ちゃん達を独り占めするとか!」
「あー、ここのマスターのクラタだ。こいつらが勝手に懐いてるだけだから」
周囲の天使とアテネから嫉妬の籠った視線をぶつけられて思わずたじろぐ。
だが、俺はここのダンジョンマスターだからな。
取りあえず何も無かったふりをして、尊大に振る舞う。
「はっ! もしかしてダンジョンマスターになったらこの子達が私のものに!」
アテネが変な事を口走っている。
本当に大丈夫なのかな……この人達。
「おいっ! アテネ! こいつがクラタだ! 早くなんとかして!」
ヘパイトスが焦った様子でアテネをけしかけてくる。
「だまれクズ! お前より、この子犬達の方がよっぽど大事なんだからな?」
「酷いぞ! それが兄に対する「妹を襲うようなクズを兄だと思った事は無い!」
「お前を取り上げたのは俺だぞ!」
「なら、なおさらクズ度が増しただけだ! 喋るな、臭い!」
「妹が反抗期……」
ショックを受けて蹲っているけど、ほぼほぼお前が悪いと思うぞ?
というか、全面的にお前が悪いからな?
ハッハッハッハ……取りあえず、殴り飛ばしとく。
「ブッハ!」
なんだ?
神様は不意打ちで殴られるとブッハと言いながら飛んでいくのがブームなのか?
「いきなりクズ……兄を殴り飛ばすとは、やるな?」
「そういうお嬢さんもね?」
ヘパイトスを殴り飛ばした瞬間に横から槍が飛んできたので、左手の人差し指と中指ではさ……失敗。
半身で掴もうとしてたから、そのまま俺の前を通り過ぎて壁に突き刺さってた。
俺は、何故かアテネに対して半身でVサインをしてるだけという不思議な状況。
「馬鹿にしてるのか?」
怒られた。
いや、思ったより槍が早すぎて掴めなかっただけだから。
「真面目にやらないからですよ」
クロノにまで怒られた。
そうだ、時間戻して?
丁度槍が目の前を通り過ぎるタイミングで!
「嫌です」
断られた。
まあ良いや。
「で、マスターがこんなところに何の用だ?」
「いや、あんたら入って来たのは良いけど、俺のとこまで辿り着けそうに無いからさ……挨拶に来てやっただけだよ」
アテネが盾をこちらに向けて、槍を構える。
中々にオーラがあって本当に強そうだ。
それに周りにいる天使達も、先の軍勢とは一線を画しているような感じだな。
「中位の力天使です」
聞いても良く分からなかった。
「ふんっ、こんなところまで来たというよりは、実はこのダンジョン階層が浅いんじゃないのか?」
「いや、一応150階層までは作ってあるぞ?」
アテネの言葉に正直に答えてあげる。
盾の目が光ってて怖いんだけど?
なんでか、アテネが首を捻っているが。
「そうなのか? いや、敵に正直に情報を漏らすアホが居る訳無いか」
「あー、敵ならな……でも20階層で5分の1まで戦力を減らして、21階層から進めないような連中が敵になるとは思わんが」
また間が空く。
そして、首を傾げるアテネ。
っていうか、さっきから目の光が増えてて眩しいから。
大体、叔父さんの愛人でしょそれ?
なんか、表情も悲しそうだし。
「お前……なんで石にならないの?」
「なるか! というか、なんで石になるとかって思ったの?」
「いや、盾の効果的な?」
アテネが首を傾げたので、俺も思わず首を傾げる。
ああ、メデューサさんだからね。
眼が合うと石になるわけだ。
耐性あるから、意味ないけどね。
「イテテ……おいっ、天使共! 何をしている! 早くあいつってーー!」
ようやく頬をさすりながら起き上がったヘパイトスを、今度はアテネが裏拳で吹っ飛ばす。
「阿呆め……こんな化け物に天使をぶつけても邪魔にしかならんだろ!」
「化け物とは酷いな!」
最近、俺の事を化け物呼ばわりする人が多くね?
まあ良いや、取りあえず天使達は掛かって来ないのかな?
「まるで私達が足手纏いみたいな言い方ですね」
「そう言ったつもりだが?」
天使の一人がアテネに対して、進言している。
俺にもそう聞こえてけど?
あの天使、頭悪いのかな?
「見くびらないでもらいたい!我々だって」
「戦略を極めた私の決定に不満が? ここでの最上策は貴方達は周りで強化魔法と回復魔法だけ使ってたらいい。私一人が戦った方がマシという結論だけど?」
アテネに睨まれた天使が、身体を震わせたかと思うとスッと後ろに下がる。
「出過ぎた真似をして申し訳ありません」
物凄く委縮してるけど、周りから邪魔が入るのも面倒くさいので取りあえず天使達はファングに任せとこう。
「ファング、頼むわ」
「クーン? アウーン!」
「「「キャーーーー!」」」
次の瞬間、辺りから聞こえてくる悲鳴。
若干喜色を帯びているのは、気のせいだろうか。
アテネが周りをチラチラと見ている。
心なしか、集中力が途切れた気もする。
ファング何をした?
気になったので、俺も周りに目を向ける。
「きゃー! 天使ちゃん達が帰ってきた」
「なんだ、やっぱりまだ俺と遊んで欲しかったのか!」
「うんうん……あっちに面白いものがあるの?」
「フッ」
「ああ、私もう墜ちても良いかも……ここで暮らしたい」
子犬たちが一斉に天使達に襲い掛かって?いた。
手におもちゃを持ってる子犬達もいる。
裾を引っ張ってこっちから引き離そうとするのも。
そういう事か。
手っ取り早くて良いな。
「ズルいぞ……」
目の前から怨嗟の籠った声が聞こえる。
そっちに目を向けると、アテネが槍を握り直してこっちを見ている。
「お前さえ……お前さえ居なければ、私も今頃あいつらと一緒に……」
その目に明らかな怒りの火が灯っているのが分かる。
そして、一瞬で放たれる突き。
凄いな、一回に見せかけて6回も突いて来てた。
良かった100%形態になってて。
どうにか、全て払い落とす事に成功する。
「邪魔をするなあああああ!」
防がれた事を驚くよりも、防がれたこ事にブチ切れるレベルであっちに加わりたいらしい。
本当にこいつら、大丈夫なのか?
まあ、攻撃の鋭さも速さも増してきているけど。
「私をここまで怒らせたのは、兄さん以来だよ……」
ええ、強姦未遂と同レベルで怒られる事?
あっ!
そうだった……この世界の女性は割と残念な人達しか居ないんだった……
「その魂……コキュートスにまで落としてやる!」
「物騒だよ!」
そうやって考えると、アテネちゃんも意外とほっこり。
うん、是非こちら側に来ていただこう。
こうして俺とアテネの決戦の火蓋は切られた。
あー……
次こそクラタが……
そろそろ真面目に……
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