第11話:お義父さん
「はあ……にしても、神と戦争か」
「流石にマスター相手に人間じゃ力不足ですからね」
自分のダンジョンに戻って一服。
寝室のベッドに足を投げ出す。
落ち着くわー。
「お風呂に入る前に、ベッドに乗らないでください」
クロノがうるさい。
本当に小言の多い秘書である。
っと、ここで我が家の構造を詳しく。
まずマスタールーム。
最初に俺が居た部屋だ。
南側に出口があってダンジョンに繋がっている。
で北側に新たにスペースを作った。
謁見の間的な部屋。
置いてあるのは、コーナーソファとテーブル。
ニトリクオリティなコーナーソファ。
そして、俺用のカッシーナのシェーズロングリクライニングチェア。
普通にオカムラのプレジデントチェアにしようか悩んだが、おイタリア産の方がオシャレな気がした。
壁は白。
床も白。
天井も白。
椅子だけ黒。
なんか、精神的に参りそうな部屋である。
その奥が居住区。
頑張って、キッチンと風呂はこだわった。
浴槽は檜で、シャワールーム完備。
ボタン一つで、普通のガラスからすりガラスになるやつね。
キッチンも一応、オール電化。
クロノはかなり渋っていたが、折角の1人暮らしなんだし良いじゃん。
で寝室は、ベッドとウォークインクローゼット、小さなテーブルと椅子、あとインテリアっぽいチェストがある。
中には小物が少々。
他には一応、グラスを入れるようのシンプルな食器棚もある。
ただ、中央にセーブポイントがあるのが凄く邪魔。
寂しがり屋なんだから。
「いつも、寝るまで話しかけてくるのはマスターの方でしょう」
「うん……喋りながら寝るのが良いんじゃん」
「私は寝ませんけどね……喋ってる途中で寝ちゃうから独り言みたいになっちゃうし……」
なんか、ボソッと可愛い事言ってたけど、うりうり。
『怒』
久しぶりに文字でメッセ―ジが来た。
ご丁寧にセーブポイントとセーブストーンの両方に。
ごめんなさい。
そんな事はどうでも良い。
それよりもお前だお前!
誰だ、お前は。
ベッドの横の椅子に後ろ向きに座って、背もたれ越しにこっちをニヤニヤと見ているイケメン。
記憶をどんなに漁っても出てこない。
短髪の金髪で目は緑色。
綺麗な顔立ち。
服装は黒いシャツに濃紺の細身のスラックス、そして着崩した白のジャケット。
椅子に座って居るので分からないが、スタイルも良さそうだ。
「やっと気づいたか! 会いたかったぞ義息よ!」
「誰?」
本当にこの一言に尽きる。
胡散臭そうに見つめると、急に立ち上がってクルリと一回転したかと思うと姿が掻き消える。
そして、横から頭を撫でられる。
「うわっ!」
いつの間にか、長い髪のパッキン姉ちゃんが俺に添い寝してた。
良い匂い。
「離れろ!」
セーブストーンからなんか波動っぽいのを感じると、空間が歪んで女性がセーブポイントに引き寄せられてった。
「久しぶりなのに、クロノは酷いなー」
「何しに来たロキ!」
クロノが若干怒ってる。
ああ、ロキさんか……ロキ?
パッキン姉ちゃんが一瞬でさっきのイケメンへと早変わりする。
ベルフェゴールと同類か。
「初めまして婿殿! 私が、ヘルとヨルムンガルドの父で、君がファングと呼ぶフェンリルの分身の祖父みたいなものかな? あっ、ついでに言うとシルバって名付けたスレイプニルのお母さんだよ……まあ、フェンリルもスレイプニルも種族じゃなくて名前なんだけどね」
「お義父さ、お義母さん? いや、シルバとどうこうなる事ないどころか、あいつ男で馬だからお義母さんは無いか……お義父さん?」
俺の言葉に、ロキが嬉しそうに微笑む。
「うんうん、順応が早くて良いね! そうだよ、君がヘルを射止めたんだってね……物好きも居たもんだ」
「物好き?」
「だって、あいつ半分腐ってんじゃん? だから、抱き上げたときびっくりして冥界に投げ捨てちゃった。テヘッ」
なんて、親だ。
可愛いはずの娘を冥界に投げ捨てるなんて。
冥界って地獄なのかな?
「地獄みたいなドロドロした場所とは違うよ。ユグドラシルの地下にある死者の国だから」
あんま変わらないような。
天国って事かな?
それも飛躍し過ぎか?
おおう?
ドアが破れる!
凄い勢いで誰かがドアを蹴破ってきた。
「クソ親父が、何しに来やがった!」
「おお! 我が愛しの娘よ! 会いたかったぞ!」
開いた扉から、ヘルが飛び込んで来たかと思うと一気にロキに飛び掛かる。
だが、ロキはさっと身を躱してヘルの後ろに回るとそのまま抱き着いて頬ずりを始める。
腐って無い方に。
「うわっ!」
「ふんっ! 私をあのくっそ寒い氷の国に投げ捨てといて白々しい」
ヘルも負けて無かった。
一瞬でロキ側の頬を腐らせて、べっとりとなんらかの液体をぬぐい付けてた。
というか、親子喧嘩ならよそでやれ。
「もうっ、つれないな」
頬をハンカチで拭きながら、ロキがヘルに笑いかける。
取りあえず、ドアを閉めてくれよ。
寝室の扉開けっぱなしとか恥ずかしいんだけど。
二人がにらみ合ってるので仕方なく、俺が立ち上がってドアをゆっくりと閉める。
蝶番歪んでないよね?
「あいたっ!」
せっかく閉めたドアがいきなり吹き飛んで俺のおでこに直撃する。
いや、痛くは無いけど……痛い気がしなくもない。
てか……馬?
「ヒヒーン!(くそババア!)」
「おおっ! 息子も来てくれたのか?」
シルバが炎を纏ってロキに体当たりするが、これまたあっさり躱されて首を掴まれてめっちゃ撫でられてる。
というか、窓も無いのに付けてるカーテンに火が燃え移ってるから。
消して消して!
あっ、巻き戻しみたいに火が消えてカーテンが元に戻って行く。
有難うクロノ。
「ブルルル!(帰れや! 土に帰れや! ヘルヘイムでヘルに氷漬けにされろや!)」
シルバが噛み付こうと頭を必死に動かしているが、首にしがみついてるロキがブランブランなってるだけで当たる気配が全くない。
「アウーン!」
「あっ!」
と思ったら、シルバの背後に隠れてたファングが一気に襲い掛かってロキを押し倒すと、胸に大きな前足を乗せて頭に齧り付く。
「よくやった!」
そして、ヘルがロキの股間にサッカーボールキックを思いっきり叩き付ける。
「あううう!」
なんで……
「ブルル!」
そしてシルバに滅茶苦茶踏まれまくる。
痛くないんだけどさ……なんか股間が縮みあがる思いというか。
「そのくらいにしないと婿殿死んじゃわない? あっ、物理攻撃効かないんだっけ?」
「えっ?」
「ヒヒン?」
「ワン?」
取りあえずファングの顎を両手で外す。
「俺だ! 俺!」
3人とも声がした方を向いているが、はあ……
俺もそっちに目をやると、さっきまで俺が居たはずの扉の横にロキが立ってた。
いつの間に。
「忍法変わり身の術なり!」
「あー、ヘル……シルバ……すまんな。 お前の親殺すわ」
取りあえず、好き勝手されて俺も怒った。
おっさん、表出ろや!
どう見ても、俺より若く見えるけど。
実際は、クソジジイだからな?
痛い目に合わせちゃる!
ロキには二人の奥さんと、一人の旦那さんが居ます。
しかも旦那さんは馬www北欧神話って……
感想、評価、ブクマ頂けると嬉しいですm(__)m




