「起床と倦怠期」
大学生の先輩彼女と後輩彼氏がイチャイチャしたりするなんてことのない日常モノです。
ストーリーはあってないようなものです。
初投稿なので大目に見てください。何卒。何卒っ!!
7月。
例年通り猛暑が続き、とてもじゃないが冷房なしでは過ごせなくなったこの季節。
主にバイトや仕送り、奨学金などで学生生活を送り、学校の寮などに入っていない大学生にとっては、光熱費というのはやはり馬鹿にならないものだろう。
「ありゃ……冷房消し忘れたのか……」
比較的大学の近場にあるマンションの一室でつぶやかれた声。
時刻は朝の8時30分を回り、窓は閉め切っているが部屋の外からはセミの鳴く音が聞こえ、カーテンのわずかな隙間からは光が入りこんでいる。
ひんやりとした快適な空気を肌で感じながら、ベッドの上で上半身だけを起こし、手で目をこすりながら少年は独り言を続ける。
「まぁ仕方ないか……さすがに冷房なしじゃそろそろきつくなってきたし、快適な睡眠には変えられないか……」
少年はベッドから降りて洗面所に向かい、ちょっとはねてる髪を気にしつつ顔を洗って歯を磨く。
歯磨きが終わるとキッチンに向かい冷蔵庫の扉を開ける。
「ん~今日の朝は……」
冷蔵庫から卵やちょっとした野菜類を取り出しながらちょっと考える。
「まぁ無難に目玉焼きとトーストとかでいいか……」
少年はなれた手つきで朝ごはんを作っていく。
野菜と目玉焼き、インスタントのコーンスープとトースト。それぞれが盛り付けられた皿やカップを2人分、向かい合わせにテーブルに並べたところで寝室へ向かう。
自分が寝ていたベッドの、自分が使っていた側の反対側、壁際に眠っている少女を揺らしながら声をかけた。
「先輩起きてください。先輩」
すると眠っている少女が半分寝言のようにつぶやく。
「んにゃあ~あとごふんだけぇ」
テンプレのようなセリフとともに寝返りを打とうとする「先輩」を、揺らすスピードを速める。
「ほら起きてください。朝ごはんが冷めますよ」
「そー君~おはようのちゅーしたまえ~眠り姫を起こしたまえ~」
眠気のせいか若干間延びした言葉を聞きながら揺らす手を止める。
「……先輩。起きてるなら早く顔洗って歯を磨いてきてください。もう9時近いんですよ」
「むぅ~いいじゃないか~休みの日ぐらい」
「駄目です。今日買い物に行くって言いだしたのは先輩なんですからね。先輩寝かせてたら平気でお昼越えるんで今すぐ起きてください」
「だって~」
文句を言いながらも上半身だけベッドから起こし、そういえばそうだったと口に手をあてて欠伸をする、先輩こと桜井春香。
それを口元に微笑を浮かべながら見ている「そー君」と呼ばれた少年――——藤井蒼太。
彼らは同じ大学へと通う先輩後輩であり、そして恋人同士だ。
一度二人で微笑み合いながらちょっとだけ気持ちを切り替え、一拍おいて朝の挨拶をかわす。
「おはようございます、先輩」
「うん、おはようそー君」
———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————
「昨夜はお楽しみでしたね。」
朝ごはんが終わり、二人並んでリビングに座りのんびりし始めたところで、「にっこり」という擬音が付きそうなくらい口角を上げ、そんなことを言い出す春香。
「むしろ一番楽しく乱れていたのは先輩だった気がしますけど」
テレビで王様の朝ごはん兼、お昼ご飯とかいう番組を見ながら蒼太は答える。
「というか先輩。ちょっと恥ずかしいからって茶化しにかからないでください。恥ずかしいなら触れなきゃいいでしょう?先輩の照れた顔が見れるのはいいですが、わざわざ自分から地雷踏みにいかなくてもいいと思いますが」
「いやいやキミキミ。別に照れてなどいないよ。そして恥ずかしくもないさ。勘違いもいいところだよ。ただちょっとキミの顔を直視できないだけで別に地雷でもなんでもないよ、うん」
蒼太は春香が本格的に顔を背けながらまくしたて始めたので、心の中で「今まで何回一緒に寝たと思ってるんだ……」と思いながらも話題を変える。
「はぁ……。それで先輩。今日の買い物はどこに何時に行くんですか?」
「う~ん……駅前んトコに……キミは何時がいいんだい?」
「俺は別に何時でもいいですよ」
「じゃあお昼食べながら、ってことで11時半くらいにしようか」
「了解です」
今日の予定を手短に決めると、蒼太は一安心した。
(今日は意外に早く決まったな……先輩計画性ないからちょっとした予定でも決めるのに時間かかるのに……)
と、思考していると、おもむろに春香が蒼太の胡坐をかいた足の上に座ってきた。
「……先輩なんで乗ってくるんですか。重いです」
「……キミさぁ。さすがにこんなかわいくてか弱い女の子に対して、重いはひどくないかい?」
「可愛いのは関係ないと思いますが」
「キミ最近、バイトやらなんやらで構ってくれなかったろう。わたしはそのツケを払うことを要求するのだよ」
「ツケた記憶のないツケを要求されても……あと邪魔ですテレビ見えないです」
「反応が辛辣!!まさかこれが倦怠期……?」
「付き合って一年もたたないうちに倦怠期とは……先輩は気が早いですね。俺たちの関係もその程度だったというわけですか。先輩今までありがとうございました。俺、一生先輩のこと忘れないですから」
「倦怠期かもと思ったらいきなり別れ話!?」
「あ、慰謝料のほうは俺の口座にお願いします」
「わたし慰謝料払うことになってる……!?結婚もしてない上に倦怠期の原因は彼氏のおざなりな対応と、テレビとの浮気なのに……!!」
「先輩……惜しい人をなくしました……」
「唐突に死んでる!?まさか途中経過をすっ飛ばした……?ボケの脈略はどこに行ったんだい!?」
頭を搔くジェスチャーを加えながら蒼太は答える。
「ちょっとボケちゃって脈略のない話をしてしまいましたね」
「頭がボケるのと話のボケを掛けてきた……!?でも正直そこまで上手くない!」
……そこまで言い合ったところで急に部屋に静寂が訪れ、テレビの音とセミの声だけが聞こえる。
春香は蒼太の足の間に座っていただけだったが、伸ばした足に力を込めてちょっと腰を浮かしながら背中を蒼太に密着させて全力で体重をかけ始める。
そして口に笑みを浮かべて再び口を開いた。
「ふふふっ。やっぱりキミとはこんなくだらない会話を交わすだけで楽しいよ。……キミへの思いは一生冷めない気がするなぁ」
「あはは。奇遇ですね。俺もそんな気がしますよ」
蒼太はさっきまでの態度はどこへやら。寄りかかる春香に腕を回して抱きしめる。
そしてちょっと声のトーンを落として真面目な顔で言葉を続ける。
「というか先輩。俺先輩のこと、一生手離す気なんてありませんからね」
「…………そー君……」
「だからまぁ、倦怠期とか……来てもいないものを心配なんてしないでください。」
「……気づいてたのかい?」
「まぁ、テレビが見えなくて邪魔、と言っただけなのに、そのあと倦怠期に繋げたのは、先輩にしてかなり無理やりだったので」
「そうか……。いや別にキミとの関係に飽きたとかそういうんじゃなくてな。ただ、キミといると幸せすぎて……あいにくわたしには誰かと付き合った経験などないから……こんなに幸せが続いて果たして大丈夫なのか、そしてこれからも続くのだろうか、と、少し不安になったんだ」
「それは……どうなんでしょうね。……というか、俺もそんなこと聞かれて答えられるほどの経験なんてしてませんからね。先輩と同じ気持ちですよ」
ただ……。と蒼太は言葉を続ける。
「俺は別にいいんじゃないかって開き直ってますよ。幸せが続いたっていいんじゃないかって。」
「それに。なんか俺と先輩は……うまく言えないんですが、歯の大きさも長さも太さも不揃いな、歪な歯車同士って感じがするんですよ」
「歪な歯車同士……?」
「はい。お互い、変な形をしてて、他の歯車とは噛み合わないんです。だけど、俺と先輩だけは驚くほどぴったりと噛み合うんです。形もぐちゃぐちゃで、およそ噛み合う歯車なんてなさそうなのに、俺と先輩だけは、まるでお互いが噛み合うことを前提に作られたように、ぴったりと噛み合うんです。……俺は常にそんなことを感じながら先輩と一緒にいます」
「……キミ、毎日そんなこと感じてたのかい……?というか、今までちょくちょく感じてたけど、キミってなんというかロマンチストというか、中二が混じっているというか……」
「……それに関しては黒歴史なのであまり触れないでいただくとうれしいです。はい」
「でも、その歯車の話をされて、「確かに」ってちょっと思えるのは、キミの言う通り、噛み合ってるから、なのかな……」
「まぁつまりですよ。不幸が続く人生もあれば、幸せが続く人生があったっていいんじゃないですか?やっと噛み合う歯車が見つかったんですから。歯車の回転効率だって他の歯車の比じゃないってことですよ」
「……キミはわたしより年下の癖に、たまにわたしより大人びているよね」
「そんなことはないです。先輩のほうがよっぽど大人ですよ」
そこまで言うと、蒼太は抱きしめている腕の力を抜いて上半身だけ十数センチ春香から離れる。
春香は少し名残惜しそうな表情しながら、蒼太の胡坐を組む足の上で器用に体を半分回転させ、蒼太の顔を見る。
「と、いうかですね先輩。そんな深く考えて付き合ってる大学生なんて、多分俺たちだけだと思いますよ?」
もうすでに、お互いに先ほどまでの雰囲気はなく、声のトーンも元に戻っていた。
「それはそうかもだけど……やはり初めてのことというのは多少なりとも怖くなるものだろう?」
「でも先輩。先輩の初めてのときすごく乗り気だったじゃないですか」
「あ、あれは勢いというか半分ヤケだったというか……っていうかその話はダメだって言ったよね!?」
「多分この話ミズキさんにしたら、嘲笑と怒りの拳が返ってくるのでしょうね」
ミズキ、というのは上野瑞樹と言って、春香の高校時代の唯一の友達で、二人と同じ大学に通っている。
「え、わたしの初めてのときの話……?」
「違います幸せすぎてってヤツです。その話はされると俺も恥ずかしさのあまり死にたくなるのでやめてください」
「そーいえば瑞樹、彼氏と別れたって言ってたね……。確かに「はっはー私のまえでノロケとはいい度胸だねキミたち」とかいいながら本気のグーが飛んでくるのが容易に想像できるよ、うん」
二人揃って少しゾッとする。瑞樹のグーは結構なオテマエなのだ。
「というワケで、未来のことを心配しても仕方がない、開き直りましょう。っていうか多分俺たちなら大丈夫ってことでこの話は終了しましょう。話してたらいい時間ですし、そろそろ出かける準備しないと、お昼に間に合わなくなります」
言いながら、足の上から春香を降ろして立ち上がる蒼太。
一拍遅れて春香も立ち上がる。
「でも意外だなぁ。キミに黒い歴史があったなんて……」
立ち上がり際にぼそっと、しかしまるで先ほどの「ダメな話」を持ち出されたときの仕返しと言わんばかりに、きちんと彼に聞こえるようにつぶやく春香の声。
「ごふっ。」
なにやら精神的ダメージを受けてむせる蒼太。
そしていい笑顔で仕返しの仕返しを心に決めて記憶を呼び起こす。
「……そういえば先輩。先ほど俺が「重い」と言ったとき、可愛いくてか弱い女の子に対して何てことを……的なこと言ってましたけど……。先輩は確かに可愛いです。しかし、人間には体重というものが必ず存在し、しかもそれは増えたり減ったりするわけです」
何を言いたいのかは大体察したが最後まで聞かなければ負けを認めたことになるのでは……?という思いから、むしろ堂々と、いかにも気づいていない様子を装って春香は先を促す。
「そ、それがなんだと言うのだね……?」
しかし声は動揺を隠しきれなかったようで……。
そんな春香の反応から、なにかを悟った蒼太は黒い良い笑顔でとどめを刺しにかかる。
「で、ですよ先輩。……先輩体重増えましたよね?いや、人間、成長すれば体重も増えますよ?しかし先輩、身長は特に伸びてませんし、その歳で身長が伸びるとも思えません。」
あっははー何を言いだすんだねキミ。と、半笑いしながら口の横に漫画でよくある怒りのマークを浮かべ始めた春香。
今度はそんな様子に気づかないフリをして言葉を続ける蒼太。
「加えて、先輩のソレはいつまでたっても一向にBの壁を越える兆しが見えないですし……?一体「どこ」の部分の体重が増えたんですかね……?俺はそれがとても気になるわけですよ」
だが怒りマーク付きの笑顔が一変。額にアオスジが浮かぶ勢いで春香が……はじけた。
「てめぇ言いやがったな!?こっちが、もしかしたら違うこと言うかも?って期待して黙って聞いてりゃ、レディーに対して言っちゃいけないことを言い出しやがりましたな!?しかも胸と体重ダブルパンチで鼻で笑いやがったな!?今日という今日はぜってー許さねぇ!年下のクセに普段から上から目線でちょっといい加減お灸をすえてやらないといけないようだねぇ!!あぁもう完全に頭に来ちゃいまたよ!!覚悟しやがれ!!」
言いながら蒼太を掴みにかかる。
しかし……。
「先輩少し静かにしてください。ここマンションなんですから、周りの部屋の人たちに迷惑ですよ……?」
蒼太の、まるで意に介した様子もないのを見て、そしてまるで勝ち誇ったような表情を見て、春香はさらに額のアオスジを深めるのだった。
……その後、お昼を取るためと買い物のために駅前に向かったときには、お昼の時間はとっくに過ぎていたらしい。
あれ……?思った以上に甘くなんなかった。もっと最初からイチャイチャする予定だったのにorz。
そして会話と地の分との間に違和感しか感じない……。ナンダコレは。
と、言うわけでこんな拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
こんな感じのラブコメを読みたくなったので、自分で書いてみることにしました。初投稿でくっそ緊張していますが、よろしくお願いします。
※誤字脱字や文の構成、言葉の間違いなど、なにかあれば全力でツッコんでください。お願いしますorz