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季節廻れば年もとる

作者: HTMS K&M

 塔が一本、ぽつんと建っていました。

 塔の周りは雪が積もっていました。


「お願いします!」


 塔の前でお願いする女の子。


「ダメなものはダメ!」


 塔の中の女王はダメだと言いました。


「お願いします!」


 それでもお願いする女の子。


「あなたじゃダメ!」


 しかしダメだと言う女王。

 そんな問答が繰り返されてました。


 なぜこんなことになったのでしょうか?

 この国はそれぞれの四季を司る女王四人がそれぞれの季節になったら塔の中に籠り、季節を変えます。

 しかし今年は春の女王がどこかに行ってしまい、冬の女王が出て来ません。

 このままでは冬が続き、春が来ない。

 これに責任を感じたのは春の女王の娘、春の王女でした。

 春の王女は塔に行き、冬の女王に自分と代わることをお願いしに行きました。

 けれども春の王女は季節を変えれるほど力が強くありませんでした。

 その事を知っている冬の女王は、春の王女には任せられないと考えたのです。


「母様に代わり、春にします! だから私と代わってください!」


 春の王女は冬の女王にお願いします。


「そんなに言うんだったら春の証を見せて。そしたら代わっていいわよ」


 実は塔の中に入るには季節の証がないと入ることができないのです。

 しかし、残念なことに春の王女は証を持っていませんでした。

 そして、その事を冬の女王は知っていたのです。

 なぜなら、季節を変える力があれば嫌でも季節の証が手に入るからです。


「本当ですか!」


 それを知らない春の王女は喜びました。

 ここで春の証を見せれば、冬の女王と代われるからです。


「本当よ。そもそもあなたが春の証を持ってれば今頃とっくに代わってるわよ」


「そうだったのですか!」


 春の王女は驚きました。


「当たり前よ。私たち王族にとっては常識じゃない。まさか、そんなことも知らなかったの?」


 冬の女王は呆れたように言いました。


「…はい」


「じゃあ春の証が何かは知ってる?」


「いえ、知りません」


 もちろん春の王女は春の証が何なのかわかりませんでした。


「あなたのお母さん、春の女王から何も聞いてないの?」


「母様からは何も聞いてません」


 春の王女は、春の証について春の女王から何も教えられてなかったのです。


「はぁ……どうして春の女王(あ の こ)春の王女(自 分 の 娘)に何も教えないのかしら」


 冬の女王は呟きました。


「あの! 春の証とは何ですか!」


 春の王女は聞きました。


「春の証は季節を春に変える力。春を操る力。その力の源」


「春の力…春を操る力……」


 春の王女はまた聞きました。


「どうすれば春の証は手に入りますか?」


「あなたに春の力があれば、証は手に入れられるわ」


 これを聞いた春の王女は、冬の女王に春の力を見せようと思いました。


「冬の女王! 私に春の力があれば、春の証を手に入れられるのですね!」


「そうよ」


 冬の女王は頷きました。


「それなら見ていてください。私が春の証を手に入れるところを!」


 春の王女は宣言しました。

 春の証を手に入れることを。


「………分かったわ」


 冬の女王はそう言うと春の王女を見守ることにしました。


「それじゃあまずは………」


 春の王女は考えました。

 どうすれば自分の春の力を認めてもらえるか。


「よし! まずはコレを溶かす!」


 そこでまず手始めに、塔の周りの雪を溶かすことにしました。


「雪を溶かし春の暖かい陽気になれ!」


 春の王女は力を使いました。

 すると、塔の周りの雪が溶け始め、春の暖かい陽気に包まれました。


「よし! 次は…」


 雪を溶かした春の王女はまた考えます。


「次は…桜の花を咲かす!」


 もちろん塔の周りに都合よく桜の木はありません。

 なので春の王女は桜の木を生やします。


「春の木よ! 桜の木よ! 生えてこい!」


 春の王女は力を使いました。

 今度はニョキニョキニョキッと、塔の周りに桜の木が生えてきました。

 春の王女は続けて言います。


「芽よ芽吹き! つぼみよ開け! 花よ咲け!」


 生えてきた桜の木に、すさまじい速さで桜の花が咲いていきます。


「よし!」


 上手うまくいったので春の王女は思わず手を握り締め小さくガッツポーズをしました。


「次は…」


 春の王女はまた考えます。


「春を告げる色とりどりのキレイな花よ! えて! 咲き誇れ!」


 春の王女は力を使いました。

 今度はボコボコボコッと、塔の周りに色とりどりのキレイな花が生えて、みるみるうちに咲いていきました。


(よし! 上手うまくいってる!)


 春の王女は手応えを感じていました。


(なら、次は)


 春の王女は力を込めます。


「これ!」


 そう叫び


「春に誘われてその姿をあらわし! あらたな命をはぐくみ生きろ!」


 春の王女は力を使いました。

 今度はズズズズズズッと、塔の周りに虫達が這い出てきました。

 イモ虫はサナギになり、更にキレイな色の蝶になりました。


 冬から春に目まぐるしく変わっていく様子を、塔の中から冬の女王は見ていました。


「次は……次は~~…」


 春の王女が次どうするか悩んでいると


 シレシレシレッと、木々が花々が枯れていきます。


「!?………そんな!……………」


 キレイな色の蝶は白一色に染まり、美しい冬の蝶に変わりました。


「どうして……」


 塔の周りは春から冬に戻ってしまいました。


「私の力じゃ駄目なの……」


 春の王女は俯きます。



(私もやったな~。アレ)


 冬の女王は春の王女を見て昔を思い出していました。


(アレはやっちゃうよね)



(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)


 春の王女は悩みます。


(どうすればどうすればどうすれば)


 春の王女は考えます。



(あぁ~~教えたいぃ~)


 冬の女王は春の王女にどうすればいいか教えたくなりました。

 しかし、他人ひとから教わってしまうと季節の証を手に入れられないのです。

 そこで冬の女王は


「不自然なのよ」


 春の王女に聞こえるようにヒントを呟きました。


「!」


 春の王女は驚き、冬の女王がいる塔を見ました。


 春の王女は考えます。

 冬の女王が言った言葉の意味を。


 そして気付いたのです。


(今度こそ!)


 春の王女は春の力を使いました。


 徐々に


 徐々に


 春に変わっていきます。


 ゆっくりと時間をかけて冬から春に。


 数十時間が過ぎて、塔の周りは春になってました。


「今度は…冬にならない……」


 そう春の王女が呟くと首元が光ったのです。

 光が収まり驚いている春の王女に冬の女王は言います。


「それが春の証よ」


 春の王女は証を見ようとしましたが見えませんでしたが、自分は春の証を手に入れたのだと感じました。


春の証(そ れ)さえあればいつでも塔に入れるわ。とりあえず中に入ってちょうだい」


 冬の女王は春の王女に塔の中に入るよう呼び掛けます。


「はい!」


 春の王女は塔の中に入っていきました。



 塔の中はキレイに整理整頓されていました。


「それじゃあ早速だけど…」


 冬の女王は部屋の隅にある玉を指し示して


「これに力を注いでちょうだい。やり方は分かるわね?」


「は、はい!」


 春の王女は緊張しながらも玉に力を注ぎます。


「そう、その調子。この部屋にいる限り、夏が来るまで玉に力を入れ続けるのよ」


「はい!」


「眠くなったらそこのベッドで寝るのよ。必ずよ! それで寝れば玉に力が勝手に注がれるから」


「はい! 分かりました」


「それじゃ私は出てくけど、そんなに気負わなくても大丈夫よ。リラックスリラックス」


「はい! スーハースーハー」


「それじゃ頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


 こうして春の王女は季節の証を手に入れることができ、季節を変えることを任してもらえるようになりました。


 ◇◇◇◇◇


 数日後

 すっかり季節が春に成り変わった頃に春の女王が国に帰ってきました。


「いったいどこに行ってたのよ!」


 冬の女王が詰め寄ります。


常春とこはるの国に行ってたのよ」


「行くのはいいけど、どうしてもっと早く帰ってこなかったの? 春の女王(あ な た)が帰ってこないから、冬が続いて、食料が尽きかけて、私のせいで国の人達が死ぬとこだったのよ!」


 冬の女王は泣き出してしまいました。


「ごめんなさい」


 春の女王は謝りました。


「私もすぐに戻りたかったんだけど、色々あって…」


「色々って、なによ」


 冬の女王が聞きます。


「誘拐されたり遭難したり色々と冒険を…」


「あんたそれで無事だったの!」


 冬の女王は驚きました。


「この通り無事に帰ってこれました」


「なにもされてない?」


「なにもされてないよ」


「本当に?」


「本当よ」


「…はぁ~。なにもなく無事ならいいけど、心配させないでよ」


「心配させてごめんなさい」


「もぅ、謝らなくてもいいわよ。それより国民に謝らなくちゃ」


「えぇ、そうね」


「私も一緒に謝るわよ」


「そんな、私が悪いんだから私一人で謝るわ」


「そんな事言わないの。私も悪いんだから私も謝るわ」


「貴女は何も悪くは」


 春の女王がそこまで言ったのを冬の女王が遮って


「いいから! 一緒に謝りに行くわよ。私がそうしたいの」



 冬の女王は春の女王と一緒に国民に謝りに行きました。

 その時、夏の女王と秋の女王も一緒に四人で謝りに行き、許してもらえました。



「それにしても、私のが季節の証を手に入れるとは…それだけ年を取ったのね……あの子も私も」


 春の女王は小さく呟きました。

 春の王女が女王になる日も遠くないかもしれません。



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― 新着の感想 ―
[一言] 春の女王の身に一体何が……!?(笑)
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