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大嫌い、からの逆転  作者: 安芸
本編
18/33

検証結果と一つの結論

 続く三日間を、『レイノルズ検証』に費やした。

 打倒、『災厄』! を目標に掲げたライジーアは、スウィンの言葉をもう一度よく吟味するところから始めた。

 振り返れば、スウィンは度々、レイノルズに関する情報提供をしてくれていたのだ、と遅ればせながら気づく。それがあまりにも自然でさりげないものだから、ライジーアは右から左へと聞き流して、深く追究はしてこなかった。


 ……わたしって、底が浅い。


 わかりやすく滅入ったライジーアだが、立ち直りは早い。今からでも遅くないのだから、行動あるのみ! そう自らを鼓舞して、計画を練る。

 とにかく、今の『おかしくなったレイノルズ』を知らなければ、話が進まない。

 そこで徹底観察しつつ、スウィンから指摘のあった、レイノルズのライジーアに関する言動を自分の眼で見聞きして、注意深く様子を窺うことにした。



『検証その一 側仕えも近寄らせない?』


 昼休憩時。

 既に恒例となっているレイノルズの給仕で昼食を食べ終える。ライジーアはレイノルズに、最後のお茶とデザートを「一緒に食べよう」と話を持ちかけて、「たまにはわたしにやらせて」と強引にレイノルズを二階に残し、一階の厨房までお菓子と茶器一式を取りにいく。

 厨房とその周囲では、何人もの料理人と助手が忙しそうに働いている。


 ライジーアは用向きを伝え、準備が整うまでの間、そこら辺に待機していた男性の側仕えと他愛のない雑談をした。彼は話術が巧みで、自分の面白かったこと、面白いと思ったことを、手振り身振りを交えて披露してくれ、話に引き込まれたライジーアはコロコロ笑った。

 そこへ突然、ビュッ、となにかが彼とライジーアの目の前を通過し、壁にあたって砕けた。


「……え?」


 一瞬なにが起きたのかわからずに、彼と顔を見合わせる。二人で足元に視線を落とし、彼が砕けた破片を拾って掌にのせ、ライジーアに見せてくる。


「……飴?」


 なんで飴が飛んでくるのか、と疑問を口に出す前に、いつ現れたのか、レイノルズが冷ややかな眼つきで傍に立っていた。


「今、飴投げたのって、レイノルズ?」

「さあ、知らん。私は君が遅いから様子を見にきただけで、害虫(むし)の駆除は範疇ではないが……」


 そこで言葉を切り、彼をチラリと一瞥する。無言の威嚇に彼はすっかり委縮してしまった。

 結局、お茶の用意はいつも通りレイノルズが行い、ライジーアはレイノルズより、「むやみに愛嬌を振り撒くのは、はしたないと思うが?」と謎の注意を受ける羽目になった。


 検証結果――話す相手は選んだ方がいいみたい。



『検証その二 食事の毒味と湯浴みの見張り?』


 毒味の件は、夕食をとる前に普通に訊いてみた。


「わたしの食事の毒味は全部、レイノルズがしてるって本当?」

「……したくてしているわけじゃない。ただ、君になにかあれば責任問題になる」

「それってつまり、わたしのことが心配だから?」

「違う。君の心配などしてない。問題が起きてからじゃ遅いから、事前に防いでいるまでだ」

「……これ、変な味がする」

「っ!? 吐くな!!」


 レイノルズがひどく動揺して叫ぶ。

 ライジーアが、そこは「吐け!!」じゃないのかな、と冷静に脳内突っ込みした瞬間、「胃洗浄!」という叫び声と共にむりやり大量の水を飲まされる。

 後で「変な味じゃなくて、嫌いな味の間違いだった」と告白すると、レイノルズに散々怒られた。

 自業自得かもしれないけど、いきなり水差しの注ぎ口を口に突っ込むのはどうかと思うよ。

 どっと疲れた夕食後、レイノルズがお湯を張った大きな(たらい)を運び、床に置く。


「重いのに、どうもありがとう」

「……湯が冷めないうちに使え」


 こんな調子で、レイノルズに対して感謝の言葉は届かない。お礼を素直に受け入れてくれないのも、なにか理由があるのかな、とライジーアは勘繰る。

 レイノルズが部屋を出てきっかり五秒後。

 ライジーアは扉を開けて外を確認する。本当にいた。レイノルズは壁に凭れ、軽く腕を組み、不審者は一人も通さない、と言わんばかりの強面で扉番を務めていた。


「そこでなにしてるの?」

「……暇を潰している」

「誰も覗かないと思うよ?」

「……だから、私は暇を潰しているだけだと言ってるだろ」


 耳まで赤くして、レイノルズはそう言い張る。

 ライジーアは部屋に引っ込み、お湯が冷めないうちに湯浴みをしたものの、扉一枚隔てたそこにレイノルズがいると思うと、非常に落ち着かなかった。


 検証結果――レイノルズの言うことを真に受けてはだめ。追記。彼はとても心配性。


                      

『検証その三 他の男と二人きりにならないように注意?』


 翌日。ライジーアは早速行動に移した。

 朝は顔を合わせた全員に笑顔で挨拶。会議の合間の小休憩中や昼休憩は、できるだけ頑張って男性だけに話しかけるようにしたところ、どこからともなくレイノルズかスウィンが邪魔しにやってきた。

 スウィンは明らかに迷惑そうな顔で、「火に油を注ぐような真似、やめてくれる?」とのたまう。

 レイノルズは口より態度で示し、殺気を秘めた歪んだ笑顔を浮かべて、ライジーアに付き纏った。


「なんで他の男の人と話しちゃだめなの?」

「だめとは言ってない」

「じゃあ、いいの?」

「いいとも言ってない」


 憮然とした声でそう言うと、レイノルズは疲れたように、ポツリと漏らす。


「……君が他の男の傍にいようと、私は全然平気だ」


 思わず、「どこが?」と突っ込みたくなるくらい、レイノルズは膨れっ面で拗ねている。

 ライジーアは噴き出しそうになるのを堪えた。ここで「可愛い」なんて言ってしまったら、ますます機嫌を損ねるだろう。


 検証結果――嫉妬深くて、独占欲が強くて、少々意地っ張り。刺激しない方がいいかも。



 他にも、レイノルズを眼で追っていると気づいたことがある。

 レイノルズと、やたらと眼が合う。訴えるような、求めるような、諦めているような、傷ついているような、とても愛情深いような、仄暗い二つの眼にじっと見つめられると、わかることがある。


 ……なにか言いたいことがあって、でも言えないんだろうな。


 ライジーアはレイノルズの心が見たい、と思った。

 でもそれは叶わなかったので、自分の心に問いかけてみる。

 合わせて、レイノルズに関して得た情報、自分の眼で見たこと、聞いた言葉、訝しげな態度、それらをひっくるめて考える。


 すると、なんとなく、レイノルズを苦しめる『災厄』の正体が見えた気がした。

 また、自分が採るべき行動も。

 ゆっくりと、スウィンの言葉を思い出す。


『レイと話して。レイを助けてほしい。ライジーアならできるはずなんだ。私の見込み違いでなければきっと、いや必ず、成功するよ。それも難しく考える必要はなくて、解決方法はごく単純。古典的、と言ってもいいくらいだ』


 ライジーアは小さな物入れから、以前レイノルズに「返却不要」と突き返された彼の上着を取り出し、胸にギュッと抱きしめた。


 ……わたしができる単純で古典的な解決方法なんて、一つしか思い浮かばないよ。


 明日は塔滞在一三日目。

 決戦は夜だ。


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