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SHADOW FORCE#7

 敵はまんまと罠に掛かった。そしてコロンビア軍の援軍到着。戦火に曝された南米の大都市で、アメリカ軍特殊部隊の人知れぬ反撃が開始された。

登場人物

アメリカ陸軍

―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。

―ロコ…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―ロッキー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―アーチャー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。


ブラジル陸軍

―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。



二〇三〇年二月二七日、午前十時三二分(現地時間)︰コロンビア、ボゴタ市街南端


 設置されていた地雷は通りの両端それぞれにつき一個ではなく、実際にはもう一つが仕掛けられていた。

 敵機の内一機は地雷がありそうな箇所を掃射して一つ破壊、心理的には確かに隠された罠を排除して安心しそうなものであった――そしてつい油断するその隙を予想した、その進路上のもう一つの地雷。

 もろに喰らった事でシールド残量が一気に無くなり、そして凄まじい衝撃によって一時的にキルシステムが停止した。

 敵は上手い事アーチャーの目論見通りに罠を踏み抜き、その隙を狙って分隊は攻撃を仕掛けた。マウスとロッキーとで先程敵から拝借していたロケットランチャーを発射した。

 彼らはブロックの真ん中辺りにある建物の二階におり、カフェテラスの完全に割れたガラス張りからランチャーを発射、それらは敵BVの頭部と胴に脚部に命中して、機械の巨人は爆炎と共にバランスを崩して倒れ臥した。

 ハードキルが実際に一時的な仮死状態になるかどうかは半分ぐらい賭けであったが、今回は運が味方したらしく、敵のCV‐4A4は砲弾迎撃に失敗して直撃を二発受けて沈黙した。

 機体が重度のダメージや衝撃に曝された際にハードキル・システムが高確率で一時停止してしまうという弱点は世界的にも知られた事であったため、彼らはそれを戦術に組み込んだ。

 今回は敵が無差別妨害による有視界戦闘を挑んで来たお陰で助かったが、本来であれば対ゲリラ戦で教訓を得た設計のCV‐4A4はあの程度のトラップに引っ掛かるはずがない。

 敵は自らが発生させた無差別妨害によって役に立たなくなったモニターを停止させていたため、今回はトラップ発見のアラームが鳴らず上手く行った。

 しかしもしモニターを起動したままでもアラームは妨害されたモニターの凄まじい雑音で邪魔されてよく聴こえないはずであった。そのためこちらに関して言えばマウスは賭けではなく確定であると確信していた。

 なんであれ彼らはもう一機の敵機の存在によりすぐにでも建物の奥に逃げ込む必要があり、実際に彼らが発射後急いで用済みのランチャーを捨てながら建物の奥に逃げ込むと、その背後でまだ健在であったテーブルと死亡した客に向けて自動モードに設定されていた対人機銃が牙を向いた。

 分隊の身代わりとなったそれらは打ち砕かれ、血とコーヒーとが飛び散った。敵が次の行動に出る前にこちらから行動せねばならなかった。何か次のカードを切るなら先攻の方がいい。

 罠を好むアーチャーは地雷だけでは満足せず、実際にはスモークも仕掛けるよう指示していた。ブロックとブロックに挟まれたこの通りの区切りへの二つの入り口、それぞれの入り口の地雷から少し離れた場所にそれぞれスモークを設置、どちらから来ても対応できるようにしておいた。

 そしてまだ敵が健在な方の通りのスモークを遠隔起爆し、そこから発生した煙がただでさえ瓦礫や埃、火災の煙などで見えにくい通りを更に不明瞭なものへと変え始めた。

 分隊は自動攻撃できる対人攻撃システムの射線から外れており、ビルの屋上でクロークを纏って偵察していたビディオジョーゴからの報告によると敵は右手に四五ミリ砲、左手には自由電子レーザー砲を搭載していた。こちらは先程撃破したものと比べて、比較的長距離戦を意識した装備であるらしかった。

 なんであれ手動照準で壁抜きなどを行なうのであれば、視界を塞がれた以上は接近しなければよく見えないはずだ。彼らが知る限りCV‐4A4の火器管制はモニターが使用できない状況では使えない。

 幸いマウスとロッキーがいるカフェの二階は一般的な二階よりも高く戦両機の背よりも高いため、敵がカフェ正面かその付近へ来ても奥にいれば対人攻撃システムの砲火に直接曝される事はないものの、しかし大型火器をめった撃ちにすれば貫通した砲弾やレーザーが彼らに被害を及ぼす可能性はあった。

 カフェの奥のスタッフ専用エリアに逃げてもそうは長くは保たないかも知れなかった――だが敵がそうやってカフェ正面へと行こうとしてくれれば、運良くまだ起爆していないそちら側の地雷に引っ掛かる可能性もある。

 いずれにしても膠着状態か――マウスは指示を出した。

「ロコ、アーチャー! 車両を外に出して備えろ!」

『了解!』とロコが答えた。

 突如どかんという音と共に対空車両が通りに現れた。敵機からすれば煙幕の向こう、通りに面したビルの一つに隠れていたが、壁を突き破ってそれは通りへ進出した。マウスはぎょっとした。

「ロコ、今のでシールドが減ったんじゃないのか!?」

『急いでたんだよ!』

 言い終わらぬ間に敵の対人攻撃システムからグレネードと銃弾が発射され、それらは車両のシールドで弾かれたが、当然車内では騒然となった。

 恐らく敵は対人攻撃システムの設定を人間以外にも反応するよう設定していたらしかった。しかし弾の軌道から分隊は敵位置を特定、手動照準で本来空に撃つべき機関砲を水平射した。

 どうやら連装機関砲から放たれた弾が何発も命中したらしく、音からすると敵は一時的に後退したと思われた。

 だがさすがにそろそろBVの相手はきつい。敵は態勢を立て直し、未発見の罠を警戒するかも知れず、なんであれそろそろ味方の援軍に来て欲しかった。

 マウスはアーマーの非常用アナログ時計を見た――既に予定到着時刻から五分を過ぎていた。

「この国の宅配サービスは時間にルーズだな」とマウスはカフェの奥で腰を下ろしたまま皮肉った。すると隣のロッキーがそれを窘めた。

「言ってる場合か――待て、今のを聴いたか?」

 耳を澄ますとヘリのローター音が聴こえた。まるで地獄の鳥であるように思えたが、時間的には既にアーチャー達の乗るDA‐01がブロックの角を曲がって敵のCV‐4A4の射線から外れたと連絡して来た。

「よーし。ロコ、いつもの調子でな」

『了解、いっちょかっ飛ばしてやるよ!』

「アーチャー…今日は暴れろ」

『命令なら仕方ないな』

 機関砲の凄まじい咆哮が響いた。どうやらヘリとの戦闘が始まったらしかった。対空車両もヘリも、そのいずれもがモニターの妨害故に、手動照準に頼っている。先手を取れれば二機相手でも勝てる可能性はあった。

「俺らはどうする?」とロッキーが尋ねた。

「まあそうだな、待つしか無い――」

 その瞬間彼らの近くでも凄まじい轟音が鳴り響き、臓腑ごと振動に蹂躙された。

「クソったれ、痺れを切らせてその場から当てずっぽうで撃ってきてるぞ!」

 ロッキーは怒鳴るような声で叫んだ。

 敵の戦両機は罠を恐れ、後退後はブロック入り口付近から動かず、そのままでは角度的にブロック真ん中付近のマウス達を狙えるでもなかったが、しかし隣のビルの壁を完全に破壊すれば砲撃かその破片が害を及ぼす可能性はあった。

 少し離れたところで聴こえる別の轟音はロコ達が交戦している証拠であった。彼らの無事も祈る他無い。

「わかってるが今は待つしかない、下手に動くと木端微塵だぞ!」

 だがそろそろ援軍が来てくれるはずだ。そう信じていたため、マウスは比較的冷静でいる事ができた。

 耳を(つんざ)く轟音、無音で照射された無色透明のレーザーがカフェの窓辺を赤黒く燃やす様、ぱらぱらと落ちる天井の素材。

 だがそれでも耐える事はできた。逃げ遅れた民間人の死体を見ると、今では『少なくとも己は生きている』という確信と強い決意に繋がった。

『ああ、クソ!』と突如通信の向こうでロコが叫んだ。マウスは表情を鋭くした。

「大丈夫か!?」

『まあ俺とアーチャーはな。けどベティは死んだ。まあ俺がさっきこの車両に付けた名前だが。でも聴こえるか、ヘリどもはくるくる回転して――』

 信じられないような爆発の轟音、それとは別のどこか近くで起きた更なる爆発。

『あのヘリどもは死んだぜ、マウス』

 希望は繋がれた。マウスはドゥーロを呼び出した。

「よし…ドゥーロ、今援軍はどこで道草食ってる!?」

『ちょっと待てよ…』少し間が空いてから彼は答えた。『もう近いはずだ』

「どれぐらい近いんだ?」

『これぐらいだ』


 敵BVはブロック入り口から少しだけ入った所で足を止めて闇雲に砲撃していた。それのパイロットは何か奇妙な轟音がした事に気が付いた。だが全てが手遅れであった。

『よっしゃ、子猫ちゃん…お前を食ってやる』

 南米アクセントのスペイン語で誰かが呟き、その瞬間BV左手側の壁が崩れて中から金属の塊が出現、突撃した。

 いきなりの事で対人攻撃システムだけが即座に反応する中、それのパイロットは機体を左側へと向き直させたが少し遅かったらしく、噴煙の向こうから現れた主力戦車向けて振り向いたところへとそのまま体当たりを喰らい、バランスを崩しかけながら後退った。

 ホバー状態になって少しだけ浮かびながら態勢を立て直そうとしているところへ、それを目撃したビディオジョーゴ――もうヘリを警戒しなくてもよくなった――からマウスらに連絡が入った。

『味方戦車が戦両機に体当たりしてフラつかせた! ワオ!』

 それを聞いてマウスは即決した。

「ロッキー!」

「ああ、任せろ! そこの味方戦車、そのまま動かないでくれ!」

 カフェの奥で隠れていたロッキーは通信を援軍に繋いだまま叫んだ。

 激突音が聴こえた時点である程度こうした状況を予想したらしく、既に立って少しだけ窓側へと近付いており、そのまま彼は窓辺へと駆け寄った――背中に担いでいたEMPランチャーを展開しながら。

 吹き飛んだガラス張りから敵を視認、もうほとんど薄れた煙幕の向こうで味方戦車が巻き添えにならないのを確認してから、構えたランチャーからEMP弾頭を発射した。

 発射された弾頭が高速で敵機に飛来したが、それは機体まであと六フィート以内の空中で、再起動したハードキルが発射した迎撃弾によって無力化されてしまった――そしてロッキーはその距離で迎撃したところで強力な電磁波の範囲内である事を知っており、実際に敵戦両機は駆動音が止まってしまった。

 対EMP防御を施した現行機であろうとまともに喰らえば、機体全身の電子機器を完全破壊されてしまう事は防げても、再起動まで何もできない事は確定していた――対空砲確保のため、貴様の機体は我々が頂いた、あるいはその前線基地すらもこれから落としてやろうか?


 グスターヴォ・ロハス・ピニージャ大統領は人生の岐路に立たされていた。

 一九五〇年代前半の第一次暴力の時代(ラ・ヴィオレンシア)はその数年後のこの時点では終結していたものの、このままではまたどこかの時点でそれに戻るかも知れなかった。

 あるいはそうでなくとも二大政党だの地方での対立だのが再開するかも知れない、あるいは新種の対立もか?

 そうなってはせっかくこの国が立ち直ろうとしているというのに、結局は己が辞職ないしは罷免され、自由党と保守党の大統領候補が毒か猛毒にしかならない政策を掲げて無意味な時代に立ち戻ってしまう。

 曲がりなりに和平・正義・自由のスローガンを掲げるなれば、ここで挫折したと歴史に残るのも彼には納得がいかないらしかった。

 党と距離を置いて第三勢力を作る事が必ずしも延命にはならないのではないかと考え始め、彼は酒を飲んだり飲まなかったりしながら悩んだ。

 己には今一つキャリアが足りぬような気がして、そしてそれは第二次大戦終結後に起こると予測されていた新たな闘争などが、あの忌々しい異星人の遺跡発見によって有耶無耶となり、各国共に感心が小競り合いや戦争よりもそちらに向いてしまった事が遠因であろうと思われた。

 コロンビアが悍しい内戦状態に陥っている間にも列強各国は我先にと異星人の人工知能とやらと交渉を始め、それが提示する絶対的な条件――ふざけた条件だ――を飲めばその技術を提供してもらえる事を確認していた。

馬鹿馬鹿しいお花畑の住人どもの、偽りの平和ではあろう。

 だが一九〇〇年生まれのこの元将軍は太平洋上に浮上した島に眠っていたその忌々しい遺跡にこそ、コロンビアの明日が詰まっているように思い始めた。

 聞くところによるとアメリカなどが提供を受けたそれらの技術はケイレンとかいう異星人の超技術をそのままもらったわけではなく、『まだ地球人には早い』とかでダウングレードしたものを提供してもらっているらしい。

 人類を見下すかのような随分横柄かつ傲慢な考えで、しかもその異星人種族はあの人工知能アーティフィカル・インテリジェンスすなわちAIによれば、それらが投影するホログラム映像の姿と同じく、硬い殻に覆われた蛸型の種族であるらしい。

 人類に進化を与える神の使者がまさか蛸であろうとは。

 しかしなんであれ、既に世界中で開発中の、戦前では思いもしなかったような新たな発明の数々は自身も兵器開発などに携わるピニージャからも見ても、興味を持たぬようにするのは不可能であった。

 軍事的にも、そしてそこから溢れたものが生み出す民間的にも、それらは素晴らしい明日を約束している可能性が高かった。

 更に言えばコロンビアは豊富な資源を保有し、農業的にも豊かなポテンシャルを秘めている。それらを思えば、元将軍は己の任期中にこの国をできるだけ豊かにしてやろうという漆黒の光明に満ちた野望を胸の内で滾らせた。

 例えばあと数年内には世界のどこかの研究機関が石油に変わる新たなエネルギー源の『確保』が実現しそうであり、しかしながらだからと言って石油の価値が一気に下がるわけではない。

 石油はエネルギー源として以外にも多用な利用価値を秘めており、しかもその利用法はこれから訪れるであろう技術の黄金時代の中でも重要である事は間違いなかった――そしてコロンビアには豊富な石油資源がある。

 ピニージャはある夜、そのような展望を夢想しながらベッドの中で壮絶な笑みを浮かべた。



同時期:熱圏、ユナイテッド・キャッスル国際宇宙ステーション


 このステーションは世界各国が使用する最大の宇宙ステーションであり、宇宙開発の黎明期から放棄される事無く運用され、そして手探りの運用期間を経て増築を繰り返した。

 初期の棒状であったエリアを取り囲むかのような、円形のエリアが棒の中央部の外周に形成され、棒の両端からも増築が進み、奇妙な形状となった今では全長が要塞艦の二倍という巨体を誇った。

 月面にも人類の開発の手は伸び、そしてそちらにも基地があったため、ステーションは地上と月とを結ぶ中継点としても機能していた。

 ステーション内のダイナーで一人のアメリカ人が席に着いた。相席だったようで先に座っていた男と英語で二、三言葉を交わした。

「俺はこれから月面基地行きだってさ。あんたは?」

 インド系アメリカ人の男はなんとなく食べたくなったエキゾチックな東南アジアの麺料理を盆の上で配置換えしながら尋ねた。

 ここは『ゼロG・ダイナー』と名乗っていたが、ダイナーというよりはフードコートのように規模が大きかった。相手の中国人の男がジュースをストローで飲みながら答えた。

「俺はトラクター・ビーム試験施設に転勤なんだ」

 トラクター・ビーム試験施設はSFのような非実体の牽引力を実験している、中国が保有する宇宙施設である。実用化されれば宇宙空間でのより先進的なドッキングなどに応用できると予想されている。

「そりゃお互い大変だ――」

『緊急ニュースです、コロンビアの首都ボゴタが正体不明の勢力によって攻撃を受けているとの事です。詳細な現地の状況は不明であり――』

 二人はホログラム投影の映像を眺めながら絶句した。他のその場の大勢も同様であった。

 ホログラムのテレビ放送から流された緊急事態のニュースは数百マイル上空のこの施設全体を震撼させたらしかった。

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