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SHADOW FORCE#4

 正体不明の敵がボゴタを攻撃しており、対空レーザー砲を確保する前に分隊は接近中の敵部隊を撃破せねばならなかった。

登場人物

アメリカ陸軍

―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。

―ロコ…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―ロッキー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―アーチャー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。


ブラジル陸軍

―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。

―ドゥーロ…同上、通信とサポート担当。



二〇三〇年二月二七日、午前十時二三分(現地時間)︰コロンビア、ボゴタ市街南端


「状況を確認するぞ、エックス‐レイ! 負傷した者は?」

 雨が降る予兆じみた風が吹き始め、標高の高いこの大都市はいよいよ名状しがたい混沌に包まれ始めた。分隊の全員が無事だと返した事でマウスはひとまず安心したが、状況は予断を許さない。

「よし、だが敵の数はまだまだ多いものと推測される! 既にHUDでその位置を追跡できるだけでも五台以上の車両、戦両機が二台、更には航空戦力も保有しているものと思われる。まずはコロンビアの軍ないしは警察との連携を取らないと俺達だけじゃ皆殺しにされるだけだ!」

 彼らは奪取した対空車両を表通りから離れさせた。DA‐01、自走式の対空車両、二五ミリ四連装機関砲と一つ前の世代の対空ミサイル・システム、角張った蜚蠊(ごきぶり)色の車体は昔の近未来SF映画のようであった。

 シールドは完全な状態、弾数はまだまだある、キル・システムも未使用――それらの情報は車体のコンピューターから入手できた。

 近くの歩道には敵の間に合わせの陣地もあり、そこで中国が安価で売り払った型落ちの対戦車ロケットランチャーを入手できた。一斉に撃てばBV相手でも致命傷を与えられる――防御システムが沈黙していれば。

 現在ロコとアーチャーが車両に乗り込み、彼ら全員はバイザーのHUDに会話中の分隊員のコールサインが縦並びに表示されており、各々の名前の隣には簡易的なボリューム表示が波打っていた。

 内蔵通信機器を通じた会話で車両に関する情報を共有し、どんよりとした重苦しい空模様の下で汗を滲ませた。次世代のバトル・アーマーは噂によると発汗や体温、鼓動を探知してそれらを洗浄したり乾かしたり冷ましたりしてくれるらしいが、今は暑かった。

 ともあれ彼らは即座に行動せねばならなかった。GPSが現在地を座標や住所で表示してくれたため、おおよそはどう行動すべきかがわかった。まず山にある強力な据え置き式の自由電子レーザー砲を搭載した、対空砲システムを確保しなければならない。

 壮麗なビル街が立ち並び市街の見通しは悪く、所々で火災が起き、目が焼けるような焔が燃え盛っているのが見えた。

『ところでよ、マウス。どこかに顔が無事な敵の死体は無いか?』とロコが言った。

「そりゃあるだろうが、どうした?」と言いながらもマウスは彼が何を言おうとしているのかが途中でわかった。

『連中を顔認識に通せば正体がわかるかも知れねぇだろ?』

「今俺も気付いたよ。よし、さっき車外に放り出した死体を俺が確認する」

 マウスとロッキーとビディオジョーゴは車外におり、ロコとアーチャーが車内であった。マウスは死んだ敵兵の死体を視界に入れ、視界と連動したヘルメットのカメラが顔を撮影した。

「ドゥーロ、今から敵兵の顔を送る、そいつがどっかに記録されてないか照会を頼む!」

『了解だ、エックス‐レイ1。幸運を祈る、オーバー』

 鉛に覆われたかのような曇天が広がり、市街の電飾とホログラム広告が乱舞し、その幾らかは破壊によって毀損されてちかちかと狂った表示を続けていた。聞いた事もないブランドの化粧品広告が途切れ途切れのループを繰り返し、その真下を見ると市民の死体が何体か転がっていた。

 死体を視認した事でこの攻撃に民間人が巻き込まれている事を改めて認識した。

 彼らはいつも、己らと全く縁の無い異国の市民達が敵に殺されようと任務遂行上はどうでもいいと最初は考えており、実際にそれを目にすると言いようの無い不快感や義憤に駆られるものであった。

 車載のレーダーと味方機との連動機能によって市街のどの辺りに敵がいるのか把握できそうな気がしたアーチャーは、ディスプレイを見たが、その瞬間それらの敵のシステムから締め出され、敵に察知された事を悟った。

『マウス、敵にこっちがバレたみたいだ。さっき連中の位置をリンクで確認しようかと思った瞬間にリンクを切られた!』

「クソったれ。わかった、移動しながら敵を警戒してくれ。俺達も色々やってみる」

 アーチャー達は対空車両を東西の通りにある壁が崩れた建物内へと隠した――航空機の北からの接近は音でわかった。主に金属で形成されたそれなりに巨大な物体が飛行する場合、現在の科学技術ではどうしても轟音が鳴る事は防げない。

 一方でステルス性に配慮した素材や形状でレーダー波を吸収ないしは明後日の方向へと逃す努力が絶え間無く続けられたが、前方のビルの切れ間から見えたのはステルス性はそこまででもないヘリとBVであった。

 車両のレーダーが既にそれらを捉えており、ロコはそのデータを分隊員全員のATDに転送して共有、ドゥーロの情報もそれで更新した。

『よーし、敵を補足したぞ』

 アーチャーは獰猛さすら感じる声で言った。

「セオリー通りなら敵はビルを盾に接近しながら、対空を警戒してヘリを一旦待機させ、その間に降下した戦両機でまず接近して来るはずだ」とマウスが考察した。

 ヘリは二機、戦両機も二機おり、かなり不利であった。先程は敵の不意を突いて撃破できたものの、本来なら対空車両で戦両機と戦うのはかなり無謀であった。

 そもそも対空機関砲は地上目標を狙うものではないし、地上に向けて水平の射線で使ったところで捕捉や旋回は遅い。

 そのBVが空中にいるならばヘリより機動力の劣るそれを撃破するのは簡単だが、敵も馬鹿ではないからこちらと同様の最善を尽くすであろう――すなわち互いが最善を尽くそうとして長引くか、戦力差によって勝敗がそのまま無慈悲に決まる。

 しかも敵の武装がレール兵器であればかなり厄介であろう。

 こちらの機銃は敵が遮蔽物の裏にいればそれなりの時間それなりの弾数を撃ち続けないとその裏側を攻撃できないにせよ、レール兵器の貫通力であればビルの裏側からいきなり攻撃してくる可能性がある。

 そうして戦況が混沌として、対空車両が対空どころではなくなってきたところでヘリのお出まし、そのまま全員あの世行き。

 とは言え敵の位置は全機とも捕捉できているからやりようは――。

『エックス‐レイ1、良いニュースと悪いニュースがある』

 ドゥーロは新情報を二つ持っているらしかった。

「何がわかったんだ?」

『耳障りがまともな方の情報は、お前が送ってくれた奴の身元がわかったって事だ。そいつは既に解散した准軍事組織(パラミリターレス)に所属してた。暴力事件を起こしてその時警察にデータを取られたみたいだな』

「それを上に報告してくれ、耳障りが最悪な方のニュースは?」と彼は調子を合わせて尋ねた。

『ああ。連中、付近一体のレーダーを妨害するつもりだ。無差別妨害の方だな』

 無差別妨害とは妨害の対抗策の対抗策の、といういたちごっこが続く中で生まれた技術の一つであり、その名の通り敵味方問わず全レーダーを無差別に妨害する。

 今日の対レーダー妨害技術は周波数ホッピング、すなわち短時間で高速の周波数切り替えを実施し続ける事で己の使うレーダー波が敵に模倣されて妨害される危険性に対して強くなっている。

 真似されても次の瞬間には別の周波数となっており、そしてその数も膨大であるからパターンやランダム性からの予測も難しくなる。

 そのため無差別妨害はそうした対抗策の対抗策の対抗策の対抗策を練るようないたちごっこを諦め、範囲内のHUDやモニター類の全てを砂嵐や乱れた映像で撹乱するための兵器である。

 無論の事敵だけでなく味方もこの妨害下に置かれるため、当然ながら全て視認に頼らなければならなくなる。特に辛いのが地上車両で、車外の様子をカメラに頼る重車両は必然的に移動が鈍足化する。

 それまで使えていた様々な視覚的サポートが使用不能になるというのは実際にはかなり精神的な負担となり、そのため無差別妨害を行なう場合は事前に充分な訓練を積んでおく事が推奨されている。

 人型車両であるBVの場合は、コクピットのある胴前面の装甲を開き、防弾ガラス兼モニターを露出させる事で直接外部が視認できる。

 しかし視界が大きく制限される事に変わりはなく、この時代はあらゆる軍用車両や軍用機が全方位の視界を得られるというのに、今更前時代的な目視のみに戻る事は危険性が高かった。

 一応地の利があって無線で連絡を取り合えば敵より有利に立てるものの、アメリカ軍とロシア軍ではその有効性を疑問視されて採用されておらず、その対抗訓練のみ実施された。

 強いて言えば中国軍ではこの技術の研究が行われ続けているが、本来はゲリラ組織やテロ組織が使用する事が多い。

 HUDやレーダー画面にノイズが走り始め、分隊に緊張が走った。

「よし聞いたな、そろそろ妨害が来るから備えろ! ここからは暫く目視で行く!」

 マウスが言い終えた瞬間にちょうど妨害が完成し、砂嵐とはまた違う深緑基調のノイズによってあらゆるHUDのサブ画面が乱れ、深海のようにどんよりとしたそれ以外は映さなくなった。HUDはただの乱れた映像を表示するサングラスになり、視界端の様々な表示や映像が乱され、ATDも同様に沈黙した。

 緊張を押し潰そうとしてロッキーがマウスの隣で叫んだ。幸い通信だけは妨害されておらず、彼の声は分隊全員にも鮮明に聴こえた。

「マウス、これからどうする!? 敵には地の利がある可能性があるし俺達はデジタルの地図も使えない!」

 マウスは少し考え込んだ。周囲をさっと見遣り、今何が可能なのか探った。やがてもう一度ロッキーが叫ぼうとした時、今度はマウスが叫んだ。

「よし、ビディオジョーゴ! お前はグラップルとアーマーの磁石であのビルを登れ! 上から監視するんだ!」

 彼らは中ぐらいのビルが立ち並ぶ区画におり、高いものでも二〇〇フィートにも満たなかった。彼らが身を隠す東西の通りの真ん中に段々畑状のビルがあり、そこを登るのは他のビルよりも容易であった。

『上に登るとヘリに視認されるぞ!』とビディオジョーゴは言った。

「敵もこっちと同条件、敵が視認のみに頼るなら、お前のアーマーのクロークを使えば見えないはずだ」

『ったく、わかったよ。その代わり帰ったらアメリカの一番美味い酒でも奢ってくれよ』

「ああ、そのためにも生きて帰れよ」

 会話が終わるとビディオジョーゴは右腕のグラップルをビルに突き刺し、すうっと引き寄せられて登って行った。現代のクロークはまだ静止していなければ効果が薄く、動けば周囲を模倣した模様がずれてしまう。

 とは言え注視されていない状態ならビルのテラスや屋上で少し動いたところで視認は難しいかも知れないが。

「ロッキー」と名を呼びながらマウスは隣を見た。「俺と来い、あのカフェの二階を使う」

 そろそろドゥーロが軍か警察と連絡を取っているはずだ。援軍が来るまで耐える必要がある。

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