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SHADOW FORCE#19

 遂にあの厄介な自由電子レーザー砲台を奪取する時が来た。敵陣地に対し、コロンビア軍及びそれに協力するシャドウ・フォースによる『胸』と二本の『角』が襲い掛かる…。

登場人物


アメリカ陸軍


―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。




ブラジル陸軍


―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。



二〇三〇年二月二七日、午前十一時五〇分:コロンビア、ボゴタ市街南端


 敵は更に後退した。態勢を立て直す前に手酷い損害を受けたのだ。通信によると他の部隊も各々戦線を押し上げ、敵を無様に退却させる事に成功していた。

 分隊はいつも通りに仕事したが、しかし内心では己らが現在進行形で歴史を作っているという実感に燃えていた。人間は大人になると世の中を正義と悪の二元に分割する事を避けようとする――表面上は。

 しかしそれでも、大勢の民間人をむしろ重要標的として大量に殺戮する正体不明のテロリストを殲滅しているという感覚は言いようのない戦意高揚を(もたら)した。人間とは基本的に悪逆を憎む生物なのだ。

 この場の戦闘可能な全部隊がローマの軍団兵のように重々しく前進し、彼らは己の巣を攻撃された蜂や蟻のように怒りを纏っていた。

 破壊された市街の様子は皮肉にも彼らに更なる活力を与え、必ずやこの災厄を引き起こした連中をボゴタから追い払うと、内なる決意を燃やした。

『ペンギン・バンクからエックス−レイ1へ、そちらの状況を報告しろ』

 マウスはモーガンスターンの声がどこか恋しく思えた。己らは異郷の地で正体不明の敵との激戦に負われており、それを思えば祖国との繋がりを帯びた大佐の声をそのように思うのも無理は無かった。

「こちらエックス−レイ1、敵の抵抗を失敗させ、後退させました。こちらの損害は予想より軽微、分隊自体は無傷です。敵はこの付近の最後の拠点でありレーザー砲を擁する山の公園方面へと退却している模様、いよいよ決戦です」

『順調だな。これだけは忘れるな、レーザー対空砲を抑えれば敵の対空能力は大きく低下する。無人機や有人機の航空戦力で一気に敵を圧倒する事ができるようになる。必ずこれを成功させろ』

「了解、エックス−レイ、アウト!」

 通信が切れると、マウスはこれまでの戦いについて考えた。思えばあの突然の飛行機爆散、そこから始まる一連のボゴタ市街戦は、モーガンスターンが言うように山の対空砲を奪取するための戦いであった――少なくとも己らにとっては。

 その過程で異国の市民が大勢死んでいるのを目にし、そして名も知らぬ異国の戦士達が大義のために死んでいった。

 それにしても今回のような敵は始めてだ。国家の重要な施設や要員を狙うでもなく、かと言って民間人を大量に殺戮するテロとしてはやり方が奇妙だ――普通は爆弾や何かの兵器で一気に殺しそうなものだ。

 もちろん世の中例外はあるにしても、それでも敵は確実な殺戮を行なっているように思えた。これは現代的な非対称戦争におけるテロというよりも、古来より戦史の中で仄暗い存在感を放つ『軍事力を用いた虐殺』に似ているように思われた。

 敵の意図は不明であったが、しかしどことなくブラックハットが絡んでいるのではないかという予感がした。正体不明の武器商人の組織が大量虐殺を行なって何を得るのか? それは上の連中に考えてもらおう。

「分隊、そろそろあの山の斜面の敵部隊と対決だ。集中して行くぞ」

 マウスの声は必要に応じて重苦しくなり、しかし小走りしている彼の声には疲れが感じられなかった。

「遂にお預け喰らってたあのクソを堪能できるってわけだ」とアーチャーが言った。

 ロッキーは鼻で笑ってから一言付け加えた。「塵は塵に、クソはクソに」

「ロッキー、お前のユーモアはまた今度聞いてやる」とマウスは真剣そうに振る舞った。彼らは車両部隊の背後を走って進軍していた。

 バトル・アーマーは筋力の補助にはなるが、最終的には鍛えた体力が物を言う。万全のコンディションは戦いが続く限り消耗されるので、心身をどこまで鍛えているかが結局は古来から鍵を握った。

 ロッキーは不満そうだったが、しかしマウスの言葉は分隊を団結させる力を持っていた。彼は分隊長としてこれまで通りの事をするつもりであった。


 当然であるが予め作戦は決まっていた。市街の建物を盾にして山付近の斜面になっている開けたエリアまで進軍して来た軍勢は、その勢力を幾つかに分けていた。数では防衛側の方が多かったが、混乱醒めぬまま追撃を受け、万全ではなかった。

 まず正面に特に強力な部隊を配置した。MBTの比率が多く、何両かのMBVも参加していた。それらの部隊がまるで蟻の大群のごとく通りから広場へと現れると、敵方は壮絶な攻撃を開始した。

 地面が砕け、建物も蹂躙され、攻撃が集中したとある戦車のシールドが落ち、その戦車は何発か反撃したが、しかし更なる攻撃に曝されて炎上し、動かなくなった。

 しかしそれを避けて他の車両が現れ、その後方から歩兵隊が銃身に吊り下げたグレネードランチャーを一斉に発射した。

 高度な照準システムに支えられたそれらは敵方の機銃陣地や設置型グレネードランチャーの陣地へと飛来し、それらを吹き飛ばした。敵BVが歩兵隊へと撃ち返し、何人かのコロンビア兵が一斉に犠牲となった。

 だがこの『分厚い胸』が時間を稼ぎ、そして抽象的に言えば更なる殺戮から市街を守ってくれる事となった。

 そのため斜面の角度や市街を利用して左右に回り込んでいた別のコロンビアの部隊が猛スピードで迫り、陣地全体が一気にぼこぼこにされ始めた。

 これら二本の『角』の内の左側にいたエックス−レイは斜面を徒歩で駆け上がり、歩兵隊のせめてもの盾として先行しているIFVとAPCが攻撃を受け過ぎないよう注意を払っていた。

 今にも発射しようとしていた対戦車兵の頭を現行型SCARの簡易狙撃ヴァリアントで撃ち抜き、死にゆく兵士は映画のようにその砲弾を頭上へと発射しながら死んだ。

 機銃陣地が必死に反撃をして来て、避難が遅れた兵士が三人やられ、分隊は次々と行進射撃しているAPCの影に隠れつつ、マウスは作戦の脆弱な部分について考えた。

 敵は少しでも車両部隊を長持ちさせようと、自由電子レーザー砲台のある小山の斜面の凹凸等を利用し、その影に車体のほとんどを隠せるように配置して防御力を高めている。

 今のところ敵戦車や敵戦両機は側面の新手に構う余裕が無く、(もっぱ)ら正面のコロンビア部隊の猛進撃を阻止しようと必死で撃ち返している。

 しかしもしも分隊のいる左側の『角』にそれら高火力が向けば、IFVはまだしもAPC程度のシールドと装甲では簡単にスクラップにされてしまう。

 盾が無くなれば次は自分達が直接狙われる。その前に敵をほとんど壊滅に追い込まねばなるまい。

「ビディオジョーゴ、道を切り開いてくれ!」

 マウスがそう言うと背後からBVがホバー装甲で躍り出て来た。このBVは先程通りでヘリと戦ったのと同一であり、メイズ7を名乗った。

 辞典が箱型ゲーム機じみたそれの頭部にビディオジョーゴが背後からしがみ付いており、彼は己の隣で凄まじい銃声を立てる対人システムに乗じて敵陣地の歩兵を狙て射撃をお見舞いした。

 移動中かつ不安定な片腕射撃はなかなか厳しいが、しかしタグ機能とサイトを上手く使って敵を既に二人殺した。

 BVは腕に装備しているレール砲で正面を攻撃中の敵戦車を側面から狙った。超加速して発射された弾体が掩蔽用に盛った土を吹き飛ばし、貫通して背後の戦車のシールドを削った。

 その敵戦車は予想外の攻撃に気を逸らされ、悪手に陥った――己を攻撃した攻撃者を探しつつそちらへ砲塔を向け始めた。つい冷静さを失い、先程まで交戦していた敵とはまた別の敵に注意や敵意を向ける…。

 マウスはその様子を見て正直一瞬ひやっとした。彼だけではなくその他の左側の『角』がそう思ったはずであった――だが上手い事行きそうだ。

 これは一般的な一人称のシューター系ビデオゲームでもよく散見される問題である。すなわち、己の知覚する範囲に複数の敵がいて、そのどれを優先して攻撃すべきなのか?

 そして現代の戦争はある意味でビデオゲームじみていた。歩兵レベルでならまだしも、様々な航空機や車両同士の戦いは非常に面倒臭いのだ。

 何故なら異星人の科学技術のダウングレード版によって飛躍的に進歩した兵器同士の現代戦は、その防御力をも飛躍的に高めてしまったのである――一発で即『人生のゲームオーバー』となる可能性が大きく削減された。

 つまり、現代の戦車や戦両機その他は、キルシステムとシールドとそれ自身の装甲とによって守られ、あまりに堅牢であり、その堅牢な兵器同士で戦うものであるから、かつては一瞬で決着できた局面も長引くようになったのである。

 被弾に対しての守りが堅牢になった反面、下手に『戦闘不能』や『戦死』への猶予があるせいで、兵士は今まで以上に『今この瞬間どの敵を攻撃すべきか』という疑問について本気で考えねばならなくなった。

 そして敵が誤って自分自身で側面の攻撃者を対処しようとした事で、今まで消極的な援護に徹していた後方のオゾーリオ戦車が攻撃態勢に入った。

『今からぶっ放す、射線に注意!』

 それと同時に全コロンビア兵のヘルメットや搭乗兵器のHUDに射線が表示され、退避によって一時的に開けた坂の下から爆炎や土埃を掻き消す一撃が放たれた。

 戦車は様々な兵器が登場した今でもやはりその装甲及び火力においては最高峰の陸上兵器であると言える。それは単純にそれが搭載可能な装甲の厚さ、及び搭載可能な口径の面で他の兵器を凌駕しているという事である。

 つまり現代の戦車はBVに搭載可能なそれよりも更に大口径のレール砲も搭載可能であり、故にインフラが許す限りにおいて通常砲よりも更に重い砲塔はあらゆる地上兵器に対して最悪の死神なのであった。

 その一撃は信じられないような速度によって一瞬で山に陣取る敵戦車――同型だが色は例によって蜚蠊(ごきぶり)色の正面に突き刺さった。

 それはシールド消失時の肩代わり機能によって即死は免れたが、しかし消失したシールドの向こうの剥き出しになった装甲目掛けて他の戦車が放った通常砲が激闘し、角度の関係でやや下方から迫ったそれは吹き飛んだ盛り土から丸見えになった車両下面に斜めから突き刺さって爆発と共に沈黙させた。

『やったぜ、目標沈黙!』と叫ぶ声は先程マウス達が共闘したフローレス23であった。

 この戦術は本来のそれよりも大雑把であろうが、一応はズールー人の覇王であるシャカ・ズールーが考案したとされる牛の角戦術を参考にした。

 更に言えばこの戦術の源流はそこから北、ジンバブエの高原にて、シャカの帝国の数百年も前に勃興・征服活動をしていたロズウィ帝国のチャンガミレ・ドンボによるものであると考えられ、彼は進出して久しいポルトガル軍と対等に渡り合い、やがてその軍事力を高原から撤退に追い込んだようである。

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