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SHADOW FORCE#17

 コンゴ人の男は奇妙な事を言い、ビディオジョーゴはそれが心に残った。それはそれとしてエックス−レイは合流・進軍を開始し、彼らはコロンビア軍と共に自由電子レーザー砲までの道中を掃討し始めた。

登場人物

アメリカ陸軍

―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。

―ロコ…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―ロッキー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―アーチャー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。


ブラジル陸軍

―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。


謎の組織

―コンゴ人…セネガル式レスリングと原型カポエイラの使い手。



二〇三〇年二月二七日、午前十一時三五分:コロンビア、ボゴタ市街南端、クラブ内


 ビディオジョーゴは相手の動きを見守った。コンゴ人は左右にゆらゆらと小さく、次第に大きく体が揺れ、そして大きく揺れたかと思ったところで軽くジャンプして蹴って来た。

 しかしこれは距離感を掴むための牽制、横向いて着地の隙に下段からのタックルを見舞ったが、相手はブラジル人の頭と肩を軽く蹴りながら素早く側転して距離を離した。

「ワオ、面白いな。もう一発頼むぜ」とビディオジョーゴは両手で手招きした。

 そしてどちらからともなく距離を詰め、相手は外回りするような外周からのパンチを腕とトンファーで受け、膝をめり込ませた。少し手応えがあり、相手は後退したが、しかし鋭い前蹴りが飛んで来た。

 防ぎ切れずアーマーに衝撃が走り、鈍い痛みが走った。しかし相手も顔を(しか)めており、それを見ると楽しくなってきた。なるほど、面白いじゃないか。

 相手は勢いに乗じて滑るようなステップで次々とジャブを繰り出し、それをビディオジョーゴは防ぎ続けた。背中が机に当たり、相手は肘で追撃して来た。

体勢が低くなったので彼は背を床に衝きながら脚で数発蹴りを繰り出した。

 二発目の後の本命はやはり予想していても防ぎにくいのか、相手の頭を捉えた。相手は後退し、その隙にビディオジョーゴは踊るようにして立ち上がって、両者は互いにダンスじみたステップを踏んだ。

 模範的なジンガを数度繰り返してからビディオジョーゴは上半身より己の脚を高く上げる横方向の回転蹴りを一度、そして回避した相手に本命をもう一撃。相手はしかしそれを読み、腕でガードした。

相手は右脚を上向けたままで下段払いを放ち、そのまま回転して左脚で中段を払ったので、ビディオジョーゴの繰り出した回転蹴りとは交互に空振った。

 彼らはそのようにして演舞のように見えながらも明らかに本気で殺すための技を繰り出し、ビディオジョーゴはトンファーを、そしてコンゴ人は両足のアーマーから刃物を出現させていた。

 二〇秒間濃密な闘争が続き、ビディオジョーゴのバク転からの膝振り下ろしが空振って地面に当たったところで彼は立ち上がり、そして言った。

「今の覚えてるだろ?」と彼は楽しそうに言った。「俺は正直さっきジャッジをホルスターに戻さず、ガンマンみたいに撃つ選択肢もあった。だがそうしなかっただろ?」

 コンゴ人は笑った。ビディオジョーゴが英語でそう言ったので、彼も英語で答えた。

「それを言えば俺だって掃射した時当てなかったぜ?」

「なるほど、俺達気が合うよな、こんなクソったれな大量虐殺の現場じゃなけりゃ」

 すると立派な体躯の黒人は表情を暗くした。

「俺もこれには賛成じゃなかったが、まあどっから説明したもんか」

「説明? 俺達一応敵なんだけどな」

 暗いクラブ内でホログラムが死体を照らし、血が散乱したグラスを汚していた。

「別に信じなくてもいいが、俺はあるオッサンの指示で潜入しててな」

 コンゴ人はアフリカのフランス語的な訛りのある英語でそう言った。そして彼は脚の刃を引っ込めた。

「おいおいおい、マジみたいに言うなよ。まあマジって言うんだろうが」

 ビディオジョーゴは八割信用していなかった。いつでも殺せる準備をしていたが、しかし話は聞いてやろうかと考えた。殺せる態勢のままで。

「自分でもアホだとは思う。だが、とにかく俺の他にも何人か俺達の組織からブラックハットによる今回のテロに派遣が――」

「あー、畜生。やっぱブラックハットか」とビディオジョーゴは言った。言葉自体は軽かったが、しかし声は憎しみを帯びていた。

「そりゃすまんな。とにかく、俺は俺の潜入した組織自体についても情報がほとんど不明でな。今回コロンビアに来てるメンバーの情報は少しあるからこいつで」

 彼はマイクロSDカードを投げた。暗い室内だが、ビディオジョーゴは暗視用の輪郭表示機能を使っていたので、彼の改造された瞳はそれを見逃さなかった。

「そうか。じゃあブラックハットの方はどうだ?」

「それも悪いが、ブラジル人とアメリカ人が知ってる程度しか知らないんでな」

「まあまあそう(かしこ)まるなって、兄ちゃん(ヴェイ)」とビディオジョーゴは口だけで笑みを浮かべた。「まだ時間はあるか?」

「いや、無いな。怪しまれる前に俺も撤退する」

 そう言うと彼はスモークを転がして、それから煙幕に紛れてその場を離れた。


 ロコは先程の事を思い出していた。ビディオジョーゴが通信を入れたすぐ後、彼は大音量でレゲトンを流し始めた。あまりにも大音量であったため、先程まで戦っていた大男も隙が生じ、その瞬間に彼は後転しつつショットガンを構え、それを発射した。

 しかし相手は見掛けによらないスピードで斜線を逃れ、それからスモークでそこらを煙で満たした。

「逃げられちまったが、まあそれよりさっさと制圧に参加しねぇとな」

 それから彼はロッキーに通信を入れた。

「よう、元気か?」

『まあまあだな。さっき殴り合った相手には逃げられたが』

「俺も全く同じ展開だぜ。とにかく外に出て、さっさと他のメンバーと落ち合わねぇとな」

『了解。マウス、今どこだ?』

『こちらエックス−レイ1、今反対側に出た』と作ったような声で分隊長は言った。

『アーチャーとビディオジョーゴは?』

『アーチャーは一緒だ。ビディオジョーゴは…今合流した』

 何やらガラスが割れる音がして、着地の音もした。ブラジル人は派手なのが好きらしい。

 メンバー全員が合流して、彼らは派手な戦闘が繰り広げられる周囲を窺った。すぐ近くに味方が透過表示され、戦車が行間射撃をしていた。

「話があるけど今それどころじゃないな。まあ後で話すよ」とビディオジョーゴは言った。

「長いのか?」

 残弾や装備の状態をチェックしながらマウスは言った。

「長いな。まあ少なくとも、敵を道連れにして死んだ親友の死に様の詳細とかじゃないがね」

「俺の婆ちゃんの話より長そうだな」とアーチャーが茶化した。

「よし、とりあえずこのまま進軍して制圧するぞ。俺達は可能なら敵の対戦車兵等を狙うとしよう」

 彼らは比較的安全な今の位置から移動した。現在地は既に味方の勢力化に置き換わった直後のタイミングであり、生き残った敵は後退した。

 マウスは停車した軽車両に気が付き、その周囲でコロンビア軍の兵士達が話しているのが見えた。辺りは荒廃し、ビルには穴が空き、破壊された車両や瓦礫が道に転がり、そして火花や砂塵が漂っていた。

「どんな状況だ?」

 分隊を連れて小走りして来たマウスに車両上の兵士が答えた。尉官であるらしい。

「噂のアメリカ人とブラジル人か。俺達は見ての通り敵を山の方角へと押し返しつつあり、ここら一帯まで勢力圏を伸ばした。だが誰かが敵が態勢を立て直す前に奴らを更に追い詰めてくれれば…生憎退却する敵を追い掛けるのは危険が伴うが」

 赤い肌をした車上の尉官は時折仲間の質問に答えたりしながらアメリカ人の応対した。

「そういう時は俺達の出番だ、そうだな?」

 マウスが振り返りながら言うと、エックス−レイの隊員達は『フーアー』と返した。ビディオジョーゴは『真似した方がいいのか?』と言った。

「それは助かる。既に先行した部隊がいるから、彼らと共に敵にプレッシャーを掛け続けて欲しい」

 マウスは了承し、そかられふと道端に状態のよさそうな敵のドローンが転がっている事に気が付いた。先程屋内で撃墜したのと同じモデルであった。

「ちょっと待ってろ。こいつは使えるかも知れん」

 マウスはドローンのパネルを開いた。内部には古い時代の携帯電話に付いていたそれと同じぐらい小さくて使いにくい物理キーボードがあったが、彼は目当てのボタンを押した――よし、生きてるな。

 ホログラムのヴァーチャル・キーボードが投影され、マウスはそれを使ってパラメーターを書き換えた。システムを診断、問題無し、敵味方の識別を変更、完了。

「いかにも『私は腰抜けです』って感じのカラーリングだよな、そのドローン」とロコは先程叩き潰した時の事を思い出しながら言った。

「まあテロリストどもの(エクス)所持品でも弾除け程度にはなるだろ」

 マウスはドローンを宙に浮かしながら言った。

(エクス)カノみたいに言うなよ」とアーチャー。

 それには答えずに、マウスは首をくいっと動かして移動を促した。これから再び地獄飛び込み隊(ヘル・ジャンパー)になるのだ。

 先程出たクラブの方角からは未だにレゲトンが聴こえた。今はディランド&レニーの『カリエンテ』が流れていた。

 ポルトガル語を母語とするビディオジョーゴからすると同じラテン圏でもレゲトンは少し異なる文化という心境であったが、しかし根底に流れるラテンの魂には共通する熱さを見出していた。


 車線が複数ある大きな通りに出た。折れた信号機のホログラムが点滅し、転倒したバスの向こうから敵がブーストで飛び上がってきた。敵はバスの上に転がるビルから飛来した瓦礫でカバーして撃ってきた。

 反応が遅れたコロンビア兵が悲鳴と共にすっ転び、彼の生死を確かめる暇も無く分隊は各々車等の影に隠れた。

 遅れてやって来たドローンが敵に自動で攻撃を開始し、マウスはバスの上の敵が隙を見せるのを待った――喰い付いた、今だ。

 敵がドローンに射撃を見舞おうと頭を出したので即座に撃った。高精度のライフルから発射された弾丸は敵の首を貫き、悍ましい声と共にその敵兵は沈黙した。

 マウスはビディオジョーゴに別行動を指示し、了承したブラジル人はグラップルでビルの崩れた壁から中へと入り、そこから援護した。

 爆発物の名手であるロコはグレネードを投げ、バスの上をバウンドしてその向こう側にいた敵へ迫ったそれが爆発、悲鳴が聞こえた。

 形成有利と見たコロンビア兵達が進軍し、銃を乱射して敵を威圧しながら次の掩蔽を目指した。敵は後退し、後方と合流するものと思われた。ビディオジョーゴはライフル下部のランチャーを撃った。

 HUDと連動したそれはコンピューターの計算で割り出されARによって点滅表示される地点へと着弾、逃げようとしていた敵兵の鼻先で炸裂して後方へと薙ぎ倒した。

 ロッキーとアーチャーは転倒したバスの上に登ってそこから追撃し、その間に味方部隊はバスを迂回して更に進んだ。

 マウスは合流を支持し、各々が強化された身体能力で駆け付けつつ纏まった。犬のように追従するドローンがぶうんと嫌な音を立てて唸った。

 と、そこで前方の味方が叫んだ。「敵のヘリだ!」

「畜生、またチョッパーかよ」とアーチャーが言った。

 喧しいローター音が響き、低空でホバリングし始めたそれの機銃が先行するコロンビア部隊に襲い掛かった。散開が遅れた兵士達が犠牲となり、一気に嫌な展開になった。

「よし、さっき拾ったドローンを囮にする、その間に全員で仕留めるぞ!」

 マウスはATDでドローンを直接操作へと切り換えた。ドローンは最大速度で突撃し、それは銃撃と共にグレネードを連射した。ヘリは当然ながら前面のキルシステムでそれを自動撃撃した――それでいい。

 まずは迎撃弾を使い切らせてからシールドに対しても、銃撃だけでなくより威力のあるグレネード弾やロケット弾、あるいは携行ミサイル兵器でダメージを与える必要がある。

 故に現在のヘリはその他の兵器と共に、歩兵からすれば飛行する要塞なのである。幸い後方に味方BVを確認した。

 BVとヘリの戦いは状況によってどちらが勝つかが決まる。ならば今回はこちらが勝たせてもらおう、敗北は敵に押し付ければいいのだ。

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