アイディア発見
木曜日です。いせもちの日です。
僕とシンとなっちゃんの3人は今日も仲良く店先に立っていた。
本来この役目をしてもらうために、わざわざ制服を用意してまでなっちゃんをアルバイトとして雇ったのだが、最近は僕とシンも暇を持て余してディスプレイ前にいることが多い。
そう。餅が売れないのである。
初日の賑わいは何処へやら。2日目、3日目、と客足はだんだん遠のいていき、開店から1週間がたった最近は、米屋の親父が朝食用とおやつ用に毎朝2つ買っていくだけだ。
なので、米屋の親父を見送ると、その日の仕事は終わったようなもので、僕たちはただ店先に立ってお客さんを待つ以外にすることもないのだ。
「暇だね。」
「ああ、そうだな。」
「ええ、そうですね。ここに立ってるのもいい加減飽きてきたんですけど。」
なっちゃんはそう言ってディスプレイに並ぶ餅を一つ頬張る。僕たちもそれを止めはしない。というのも、売れ残った餅は、どうせ僕たち3人の腹の中に収められるからだ。そして、今並んでいる餅は、もう売れ残ることが確定しているに等しい。
「なんで売れないんだろうねー」
「なんでだろうなー」
「なぜでしょう。味が悪いわけではないと思うんですけど。中身は悪くないはずなのに人が来ないこの小説と同じですね。」
「この小説ってなんの話?ファンタジー世界で世界観メタネタは御法度だろ!」
僕の言葉を完全に無視して、なっちゃんはもう一つ餅を食べる。僕とシンも一つずつ口に入れる。
「んー、これじゃねーか?」
口をもちゃもちゃさせて、いきなりシンが言った。
「飲み込んでから喋れ。」
「…んぐっ、これだよ。餅が売れない理由。味が単調でつまらないから飽きられたんじゃねーか?」
確かにそうかもしれない。現在、もちもちパンダで扱っているのは、プレーンの餅1種類のみ。それだけでは飽きが来るのも早いというものだ。
「多分その通りだと思うんですけど。現に私も飽きてますし、新商品の開発が必要かも知れないですね。」
なっちゃんがまともなことを言う。何故これにもっと早く気がつかなかったのだろう。
「おはぎ作ろうぜ。おはぎ。」
「この世界にあんこあるのかな?」
「あー、どうでしょうか。私がこっちに来てからは見たことないんですけど。」
日本から来た3人での会話では、ルビとゴビに通じるかを留意する必要がないので、非常にスムーズに進む。
「おはぎってなん」「ですか?」
「うわっ、いつからいたの!」
ルビとゴビに気を使わなくて楽だなあと思っていた僕を驚かしに来たかのように2人が突如姿を現した。
「今ちょうどきたところ」「です。」「お昼ご飯のお誘いに来たん」「ですよ。」「みなさん、どうせすることなくて暇」「でしょう?」
一見純粋そうに見える彼らだが、最近は、少々毒の効いた冗談も言ってくるようになった。
ここ1週間でルビとゴビは僕たちだけでなく、なっちゃんともこれくらいの冗談を言い合えるくらいに打ち解けた。なっちゃんに至っては勝手にルビとゴビの保護者を自称し始め、うりうりと撫でくりまわして2人を可愛がっている。
「前晩ご飯食べに行ったあのお店でいい」「ですよね?」
悔しくも、かなり暇を持て余していた僕たちがわざわざ断る理由もない。
「じゃあ、みなさん、行き」「ますよ。」
「2人とも!ちゃんと手を繋がないと迷子になっちゃうんですけど!」
ルビとゴビと手を繋いで満足気な自称保護者を追って、僕たちも、もちもちパンダを出たのだった。
「いらっしゃい!5名様だね!お昼は日替わりランチしかやってねーんだ!日替わり5つでいいかい?」
店主が厨房から声をかけてくる。
「お願い」「します。」
「お好きな席へどうぞー。」
優しそうな店員のおばちゃんに促され、僕たちはテーブル席に陣取って日替わりランチを待つ。
この店では前にもルビとゴビにご飯を奢ってもらったことがある。そのときは夕方頃に来たため、酒場のような雰囲気だったのだが、お昼はいわゆる定食屋でやっていってるようだ。日本にいた頃で言う、やよい軒のローカルバージョンのような感じである。もちろんタッチパネルは無いが、ご飯はおかわり自由だ。
「アキさん、シンさん、ここのお店で新商品のヒントを探すのはどうでしょう?この繁盛具合なら、こっちの世界の人の口に合う味つけもわかると思うんですけど。」
「もちろんそのつもりだよ。」
この店は、夜はもちろん、昼も結構な人が入っている。もちもちパンダにもこれくらい沢山の人が来てくれればなあ。
「この世界に醤油はないのか?」
シンが、テーブルごとに置いてある調味料を見て言う。
「ショウユ」「ですか?」「聞いたことない」「ですね。」
僕も一つ一つ調味料を確認してみると、置かれているのは塩、胡椒、七味だか一味だか、それと、爪楊枝だ。日本なら、ここに醤油とウスターソースくらいは並んでいるものだが。
「醤油ないなら餅に塩でも振ればいいんじゃねーか?」
シンが半ば投げやりに提案してくる。
「まあ、まずくなることはないだろうね。」
「普通に美味しかったんですけど。」
なっちゃんが過去形で言う。あれ?過去形?
「前、店番してる時に、塩振って食べてみたんですけど、塩がお餅自体の甘みをさらに引き出してくれて、シンプルに美味しかったです。あ、でも、見た目が変わらなさすぎるので、商品としては微妙だと思うんですけど。」
こいつ既にやってたのか。いや、まあ、別に悪いことではないのだが、先を越されたようでなんだかちょっぴり悔しい。
「見た目が変わらんのは確かにダメだな。お客さんから見て分かりにくいし、僕たちも管理しにくいし。」
「塩餅を星型に丸めればいいんじゃねーか?」
シンがテーブルに伏せながらぶっきらぼうに言う。よっぽどお腹が空いているらしい。
「お前さっきから適当なことばっかり言ってんじゃねーよ!いくら腹減ってても、もうちょっとマシなこと言え!それと、星型に成形することを『丸める』って表現するのはどうなんだ!」
と、僕がツッコんだその時、
「はい、日替わり5つだよー。」
おばちゃんが上半身を駆使して、5つのお盆を器用に運んできた。
今日の日替わりランチは、何かしらの魚のフライだ。それに、サラダとスープ、漬物、白米が添えられている。
そして、その白米を見た瞬間、
「「「これだーー!!!」」」
僕、シン、なっちゃんの3人が大声をあげた。周りの視線が一斉にこちらを向くが、興奮のせいか、あまり気にならない。
これなら見た目に違いが分かりにくいという塩の弱点を克服できる!
そう、白米の上にかかっていたのは、ごま塩だった。
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短編投稿しました。野球のお話ですが、野球知らない方でも全然読んでいただけます。是非お願いします。
次回投稿日は5/16(月)です。
レビュー、ポイント等お待ちしています。