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僕等は異世界で餅をつく  作者: 岡本もぎる
6/12

初餅つき!

えー、前話で宣言した新キャラですが、登場は次回に延期になりました。申し訳ないです。

ルビとゴビに晩御飯を奢ってもらった後、もちもちパンダに戻って昨晩と同じ寝袋で眠った僕たちは、翌朝、シュガーロードの朝市へと向かっていた。朝ごはんと、餅の材料のコメを調達するためである。言うまでもなく、ルビとゴビに借金をして、だ。しかし、比較的気は楽だ。というのも、今日から僕たちには返済能力が生まれる予定だからだ。勿論、餅が売れれば、の話である。


「アキ、俺、朝ごはんパンケーキが食べたい」


あくびをしてシンが言う。


「贅沢言うなよ。人から借りた金で朝からパンケーキはないだろ。そもそもこの世界にパンケーキあるのかわかんねーだろ?せっかくなんだし、朝市一通り見てから決めようぜ。」


そんなことを言っているうちに、露店の溢れる活気が僕たちのなんてことのない会話をかき消した。シュガーロードの中心部に着いたようだ。

シュガーロードは、道の両側を昨日の昼頃より倍ほどの簡易テントに覆い尽くされていた。テントの屋根の色は原色調をメインとしていて、賑やかさに華を添える。人も昼より多く見受けられ、少し走ろうものなら、すぐに人と衝突してしまうだろう。

だが、そんなことは関係ないかのように、客同士、お店の人々も、お互いに笑顔で挨拶をかわしている。みんなハッピーに朝市を楽しもう、といったスローガンでもあるかのようだ。

そしてこの市場の隅々から街全体の人の良さが滲み出ている。人情垂れ流し状態だ。僕は、活気と、雑多な優しさが入り混じるこの場所の雰囲気がとても気に入った。明日も来ようっと。


「アキ、俺やっぱり朝ごはん、あの焼き芋にする。」


おい、パンケーキはどこにいったんだ。


「じゃあ僕もそれにするよ。」


そこまで朝ごはんにこだわりがない僕は、焼き芋屋のおっちゃんに、焼き芋二つ合わせて150ラームを支払う。ちなみに昨日と今朝観察した限り、1ラームは約1円に相当するようだ。


芋を片手に朝市通りを進むこと数分、昨日も見かけた米屋の前に辿り着いた。

店の親父がシンの姿を見るなり顔をしかめる。いきなり店先に張り付いて奇声を上げてきた客の顔は、嫌でも記憶に残っているのだろう。

そんなことはお構いなく、僕とシンは店主に声をかける。


「すいません、お米を一升貰えますか?」


「ヒエぇっ!今日は勘弁してくれよ!」


「あのー、お米を一升頂きたいんですが」


「うわああ、ごめんなさい、ごめんなさい!国王様の名に誓ってごめんなさい!」


店主は怯えてしまっていて、会話にならない。シンが声を発しでもすれば、飛んで逃げて行ってしまいそうだ、というところで、


「米を一升くれ!」


やってしまった。流石だ。空気の読めなさに定評がある彼は、よく言えばフレンドリーに、悪く言えば図々しく店主に話しかけた。


「うわあああああああああ!一ショウって何リアロか分からないから売り様がないじゃないかあああああ!怖いよおおおおおおお!」


ああ、そういうことか。この世界ではコメの量の単位が違うのか。1リアロ、2リアロなのか。


「すいません、昨日この街に引越して来たばかりでして。お米の単位も違うようで、まだ把握しきれていなくて。えーっと、一リアロでお茶碗何杯分くらいになります?」


「ひえーーーーーーっ、って、お兄ちゃん!チャーハンお茶碗に入れて食べるのか!チャーハンはもっと平たいお皿に盛るんだぜ!はーっ、はっはっはっ!っっ!笑わせるじゃねーか!」


米屋の親父は、今度は笑いすぎて会話が成り立たない。


「いやー、てっきり怖い人かと思ったけど、ジョークのおかげで見直したよ!お兄ちゃん達、越してきたばかりなんだって?」


「ええ。昨日の昼頃に着いたんで、朝市は初めてなんですよ。それで、一リアロってどれくらいの量なんですかね?」


「昨日の昼着いたのかい!じゃあまだ観光もろくに済ましてないだろう!東の広場の時計台は街のシンボルだからね、この街に来たからには見に行っとかなきゃだよ!」


「東の広場ですね。身の回りが落ち着き次第行ってみます。それで、一リアロはどれくらいの…」


「そうか!やっぱり片付けとかも大変だろう!だからウチのお米のチャーハン食って元気出していきな!」


この店主、怯えすぎだとか、笑いすぎだとか関係なくシンプルに話が通じないタイプの人間らしい。


「だからあの、1リアロでどれくらいの量の白米が炊けるんですか?」


「白米?ジョークがキツいなあ、お兄ちゃん、あんたらみたいな食べ盛りはしっかりチャーハン食べないと!」


人の話を聞かないぼんくら店主は何故かチャーハンにこだわる。

僕はあくまで話を本筋からずらす気は無いので、話を聞かない店主の話を聞かないことにした。


「じゃあ、もうそこはいいです。1リアロでどれくらいのチャーハンが作れますか?」


「あんた達くらいの年の兄ちゃんなら一人で5リアロくらいはペロリといかねーと男じゃねーぜ?はっはっはっはっはっ!ーーーっっ!!」


面倒くさい。非常に面倒くさい。だが、餅屋をやっていくとなると、当分はここにコメを買いに来なきゃならない。この酔っ払いテンションの親父ともそこそこ長い付き合いになるだろうから、目をつけられると言うのも困る。シンもそれを十分理解した上でだと思うのだが、今にも店主を殴ってしまいそうな右腕を左手でグッと押さえ込んでいる。


「じゃあ1リアロでちょうど半チャーハンくらいですかね?」


それなら5リアロで2.5人前だ。店主が大袈裟に言っていることを考慮しても、妥当な計算だ。


「んな、男気が足りねーよ兄ちゃん!1リアロで一人前だよ!」


じゃあさっさとそれを言え!これまでのダラッダラした会話は何だ!それと、いくら食べ盛りの僕らでも5人前のチャーハンをペロッと完食するのはなかなかの苦行だ!


「じゃあ10リアロください。」


僕はさっきのツッコミを胸の中に止め、話の展開を進めることを重視する。


「はっはっは!あんたら2人の昼飯分にしかならねーな!はっはっは!10リアロで540ラームだよ!」


米の相場を知らない僕には、高いのか安いのかよくわからない。タイ米の相場なんてもっと知らないので、もっとよくわからない。


僕は代金を支払い、右腕が暴発寸前のシンを連れてもちもちパンダへと帰った。折角なので、餅がつきあがったら、あの店主にも食わせてやろう。


ルビとゴビの店の魔導炊飯器を借りて10リアロのコメを炊いている間に、僕とシンは餅つきの準備を進める。

まず、ルビとゴビが新調してくれた新しい臼と杵を水につける。本来なら前日から水につけて、水分を染み込ませなければならないらしいが、スキル≪餅つき士≫のおかげでそのあたりは融通が利くだろう、と舐め腐っていたところ、実際かなり融通が利く。

臼と杵が柔らかい光を帯びながら水を吸っていく。水を吸う様は、はっきりとは目に見えないが、脳の神経そのものにしっかりと伝わってくる。スキル一つでここまで感覚が変わるというのも不思議なものだ。


「お米、炊け」「ましたー。」


「よっしゃ!アキ!つこうぜ!餅つこうぜ!」


さっきまでの店主へのムカムカが、彼の中でやる気へと化学反応を起こしたらしい。やる気が満々も満々だ。

とは言いつつも、僕も初の餅つきに期待を隠しきれない。


「よっし!やるぞ!」


気合を入れて、水につけていた杵を手に取ると、自分でもよくわからない情熱がたぎってくる。これもスキルの力だろうか。

いや違う、嬉しいのだ、杵を持てることが。シンより目立つポジションに来たことが!

これまでいつも僕より目立ってきたシンを、自覚はないながら、深層心理では羨んでいたのだろう。杵を持つ手に自然と力がこもる。


「アキ!こねろーー!」


「よし!シン、しっかり支えていてくれよ!」


僕はガッツリ格好をつけたセリフを決め、臼の中に放り込まれた細長いタイ米を杵の先ですり潰す。

タイ米は、本来粘り気の元となるグルテンという成分が少ない品種だ。しかし、僕たち≪餅つき士≫にそんなことは関係ない。瞬く間にタイ米の粒を、一つの大きな塊に変える。もちろん、瞬く間、とは言っても普通の餅つきに比べての話なので、1〜2分程度はかかる。それでも、≪餅つき士≫の恩恵を受けた臼と杵は、普通では考えられない程のスピードでタイ米をすりつぶし終えた。

ここからは、つく作業に入る。僕が杵を振り上げ、シンが水を入れ、僕が杵を振り下ろし、シンが水を入れ、を繰り返し、繰り返す。

僕もシンも一言たりとも発することなく、ひたすら繰り返す。


「もう、いいんじゃねーか?」


シンの声を合図にこの作業も、あっと言う間に完了し、僕はほっと一息ついた。

目の前の臼の中に完成したのは、真珠と見紛う程の輝きをたたえた真っ白な餅だった。継ぎ目のない表面は、風船とでも形容できよう。


「これが、お餅というもの」「ですか!」「非常に美しい」「です!」「とても食べ物には思え」「ません!」


ルビとゴビに褒めちぎられながら、≪餅つき士≫の効果の凄まじさを語り合う僕とシンは、もちもちパンダの外から4人をじっと見つめる視線に気づくことはなかった。

今回出てきた単位を整理しておきますね。


お金の単位:1ラーム=1円


お米の単位:1リアロ=1合=お茶碗1杯


となっております。

レビュー、ポイント評価等、つけていただければ、作者が喜びます。よろしくお願いします。次の投稿は5/2(月)の予定です。

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