表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕等は異世界で餅をつく  作者: 岡本もぎる
4/12

不気味な武器店

久しぶりの更新です!お待ちの方、(いれば)申し訳ございません!これからは毎週木曜と、第1、3月曜更新を目標に頑張りますよ!


「「なんじゃこりゃー!」」


僕とシンの叫び声に、役所内の人々の目が皆こちらに向いた。


「いやいやいや、《餅つき士》ってなんですか!聞いたこともないですよ!」


シンに合わせて大人しく話を聞いていようと思っていたが、僕は思い切りツッコんでしまった。


「私も初めてですので…わかりかねます…」


「じゃあ、どうしろって言うんだよ!自分たちでどんなスキルか手探りで探していかなきゃなんねーのか?」


「そうなりますね。混合系スキルに分類されておりますので、普段の生活にも、戦闘にもメリットがあるのは確かでございます。効果がわかり次第こちらまで報告に来ていただければ、と思います。」


「それはそれでおもしろそう」「ですね!」「うちの鍛冶屋の隣空いてるので、そこで餅屋を開くのはどう」「ですか?」「お店をしながら、生活でのメリットを探るのなんてどう」「でしょう?」


「おう、悪くないんじゃねーか?」


「お店を出されるなら、右手方向のあちらの窓口で手続きをしていただくことになります。」


これは流石に放っておけない。


「ちょっとストップ!なんで僕たち餅屋やることになってるの!せっかく異世界きたんだからもっと、冒険だとか旅だとかロマンを堪能しようよ!仮にもうちょっと普通の店を出すなら僕も考えるけれども。餅屋はしたくないよ!」


僕のツッコミ能力と、ルビとゴビの勝手な話ばかりが成長していく。せっかくやって来たロマン溢れる異世界で、何の因果でわざわざ餅屋をやらねばならないんだ!僕を納得させる理由の一つくらいあげてみろって話だ。


「でも、冒険者はお金がかかり」「ます。」「駆け出しの頃は別口の収入がないとご飯も食べられ」「ません。」


ありました。真っ当な理由がありました。


「まあ、そりゃ正論かもなあ」


シンも乗り気になりかけている。確かに正論なのだが、これは阻止せねばならない!


「よし、アキ。餅屋やろうぜ!」


シンのスイッチがオンされた。スイッチが入ったシンはもう僕では止められない。幼馴染ならではの長年の経験の賜物だ。


「ちなみに、異世界から来た食べ物のお店は圧倒的人気」「です。」「お役所にいる手前、あまり大きい声では言えませんが、新しい王様になってから、異世界から来た人達の収入には減税がかかってい」「ます。」「これほど美味しい商売はありま!」「せーーーーん!!!!」


「声がデカイよ!」


僕は真顔でツッコんだ。多分。僕の顔はニヤけてなんていない。儲け話を聞いて、ほくそ笑んだりしていない。…はずだ。えっ?笑い声が漏れてる?いや、漏れてないよ…ふふっ。


「おほん。確かに、冒険するには資金が足りないのは正論だね。別に僕も餅屋をやりたくないとは言ってない。」


「言ってた!ちょっと上を読み返してみろよ!」


「読み返すってなんの話だ!」


とツッコんだときにはもうシンとルビとゴビはそこにはいない。もしやと思って右手の方に目をやると、すでに出店手続きの窓口で手続きをはじめている。おい!そもそも開店資金はどうするんだよ!とツッコむ相手を追って僕も隣の窓口へと向かった。


「おい!そもそも開店資金はどうするんだよ!」


僕は満を持して温めていたセリフを口にする。


「ルビとゴビが出してくれるってよ。」


「とりあえず僕たちが出しますので、少しずつ返してくだ」「さい。」


解決してました。すみませんでした。なんだか負けたような気分になり、賛成派にならざるを得ないと感じてしまう。


「おい、アキ、店名どうするよ?」


まるで僕に追い打ちをかけてくるかのような建設的な提案!しかも否定し辛い話題の振り方!


「うーん、どうしようか。」


と口に出してしまった。これは賛成派に回ったことを隠喩的に示しているとと考えられてしまうかもしれない。うわあ、どうしよう。でもなんか口に出してすっきりしたから、僕も深層心理では餅屋をしたいと思ってたってことか?いやいや、じゃあこれまでのツッコミはなんだったんだ?あれは嘘だったのか?いやー、でもー。


「アキさんも餅屋さん賛成してくれるの」「ですね!」「僕たち嬉しい」「です!」


純粋な双子の笑みが僕のスーパー自己嫌悪バブルを崩壊させた。


「うん。餅屋さんしようと思う。もう、決心がついたよ。餅もちゃんとつくよ。それで、ルビとゴビはどんな店名がいいと思う?」


「そう」「ですねー。」「やっぱり、親しみやすくて、覚えてもらいやすい名前が一番だと思い」「ます。」


「親しみやすいっていったらパンダだろ!餅処パンダなんてどうだ?」


「餅処ってなんだよ!聞いたことないよ!僕はもっと餅をつくときの力強い感じを出したいかな。」


「じゃあ、パワフルパンダ」


「パンダは譲れないのか!そもそもこの世界にパンダはいるの?ルビ、ゴビ、どう?パンダいるの?いないの?」


「い」「ます。」


「いるのかよ!パンダいるのかよ!」


かなり熱が入ってしまった。一旦手のひらで顔を仰いで平静を取り戻す。


「でも、パワフルパンダはちょっとダサすぎない?餅要素ゼロだし。」


「では、間をとって、もちもちパンダでどう」「でしょう?」


「間を取るならきちっとニで割ろうね。」


僕は先ほどの反省を生かして落ち着いた知的ツッコミを心がける。


「じゃあ、もちもちパンダに決定ってことで。」


シンの手が登録用紙を掴む。


「ちょっとまっ…」


とここまで言ったところで、ゲームオーバーである。あの自称天然ボケは、登録用紙を窓口の役員さんに渡し終えてしまった。


「うわああああああ、まじかあああああ!もちもちパンダって!何の店かわからねーよ!某チョコクッキー菓子かよ!」


「よし、アキ、行くぞ。開店準備するぞ!」


彼がなぜここまでノリノリなのかは僕の理解の範疇を超えている。ルビとゴビもいつも通りのニッコニコの笑顔を浮かべている。僕は力が抜けて、シンの筋肉質の腕に引きずられながら来た道を引き返して行った。




シュガーロードの市場街のあたりから自力歩行が可能になる程度の元気を取り戻した僕は、ルビとゴビの鍛冶屋と、その隣のもちもちパンダになる予定の空き家の前に、自分の二本の足で辿り着いた。


「こちらが僕たちの武器店」「でーす。」「とりあえず入ってくだ」「さい!」


綺麗とは言えないが、清潔感のある外装だ。周りにも色々な店が多い中で、大きな字の看板が存在感を放っている。


「武器でも見ておいてくだ」「さい、」「お茶入れ」「ますね。」


と言って開けられた扉をくぐった途端、ツッコミ役にあろうことか、僕は言葉を失った。


まず目を引くのが壁に掛けられているリアルなシカの顔の盾。隣へ隣へと視線を移して行くと、クマの腕形のボウガン、カエルの顔のついた弓、柄から刀身に至るまで禍々しい色のキノコが生えまくっている大剣、何匹ものヘビを絡めた杖、中心から淡い色の光を放っているリンゴ型の…なんだろう?武器なのかこれは?…と、趣味が悪いったらありゃしない。ルビとゴビのかわいらしい外見からは想像し難い作品の数々だ。店の四隅の、怪しい雰囲気を加速させる間接照明、狭い店内の中央で無駄なスペースをとっている塗装が所々剥がれたベンチ、なぜかある小さな畑、壁を這うツタ…と内装全般もルビとゴビのイメージや、店の爽やかな外装からはかけ離れている。あれ?入る店間違えたかな?僕は自分の記憶を疑い始める。


「そのベンチに座ってもらっても結構」「です。」「今お湯が沸きましたからもう少し待っていてくだ」「さい。」


うん。の一言も返すことなく、店を間違っていなかったことに、不必要なはずの安堵を覚える。シンのやつも口を開けたまま何も言わないでストンとベンチに腰を下ろしたので、僕もそれに従う。


「そのベンチはインパクトに耐えられないお客さんに一休みしてもらうためのもの」「です。」「まあ、これでも飲んで落ち着いてくだ」「さい。」


僕とシンは差し出された湯呑みを手にとった。ずずず。うん、普通に美味しい緑茶だ。だが、こんな訳のわからない武器屋の隣で餅屋を開くとなると、落ち着くものも落ち着かない。ルビとゴビにはよくしてもらっているし、もちもちパンダの開店資金という数字上の明らかな借りもあるので、今更拒否もできない。というより、ルビとゴビのこの無邪気な笑顔を振り払うことなど、僕にはできない。


せっかく覚悟を決めた僕の異世界餅つきライフは、早速出鼻を挫かれた。僕はため息をついて、茶柱の立った緑茶をもう一口啜ったのだった。



前書きを読んだ方の中でお分かりの方はお分かりでしょうか。更新予定日は某online漫画サイトの更新日に合わせてみました。筆者はそのヘビーリーダーでございます。


次回更新は4/21(木)を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ