双子の鍛治師
隔週更新宣言をさっそく破りますよー。
新キャラ登場ですよー。
「ったく、なんで枕なんだよ…はあ…」
僕とシンはとりあえず道なりに歩き始めていた。臼と杵と枕を持って、二人の以外の人の影も見当たらない道を進んでいく。道と言っても、草が左右に軽く傾いて、色の薄い土が顔を出しているくらいだ。
「なんでって、枕が枕元にあったからに決まってるだろうが…っっっ!」
「なにウケてんだよ、お前はっ!」
こんなことでいきなり笑い出したり、コイツの感性は相変わらずよくわからない。
僕ら二人の間にはいつもの通学路と同じ空気が流れていた。そして、そのいつも通りすぎる空気感ががむしろ、僕の感覚的な部分に訴えかけてくる。あー、いつも通りじゃないんだなー。異世界、来ちゃったんだなー。と。
だが、来てしまったからには仕方が無い。現状、頼れるのは、隣の幼馴染と臼と杵と枕だけだ。シンとの何気ない会話に、こんなにも安心を覚えている自分自身に少し腹が立つ。
「おい、枕!お前も、なんかちょっとムカつくな!この野郎!」
僕は枕を叩く。親の敵のように、それはもうバシバシと。
「そんなことしたらダメ」「ですよ!」
後ろから聞き覚えのない幼い声がする。どうやらシンの一発芸というわけでもなさそうだ。
少し警戒しながらゆっくり振り返ると、そこには二人の子供がいた。双子だろうか、僕には見分けがつかないほどにそっくりだ。
「いきなり声をお掛けして申し訳ありま」「せん!」「僕たち、双子で鍛治師をしており」「ます!」「僕がルビで、こっちがゴビと申し」「ます!」
「お二人のお話が耳に入ってしまい」「まして…」「お二方はどうやら、この世界の方ではなさそう」「ですね!」「詳しくお話を聞かせてもらってよろしいで」「しょうか?」
「えっ、あっと、構いませんよっ!」
ルビとゴビと名乗る双子に、息ぴったりにまくし立てられ、僕が戸惑ったことは言うまでもない。子供相手に敬語になったり、語尾に妙に力がこもったりしたことからも明らかである。
「どうも。俺は薄倉信弥といいます。こっちは、望月明音です。」
シンはというと非常に落ち着いている。下手したらいつものシンより落ち着いているくらいだ。
「えっと、ごめんなさい、もう一回いい」「ですか?」
「薄倉信弥です。う、す、く、ら、し、ん、や。です。」
「あっ、望月明音、も、ち、づ、き、あ、き、ね。と申します。」
まだがっつり敬語が出てしまう。バリバリ謙譲してしまう。いや、まあ、悪いことではないと思うんだけどね。でも、もう少しフランクに行きたいものだ。
「申し訳ないのですが…長すぎ」「です!!!」「覚えられま」「せん!」「そもそも言えま」「せん!」「名前は5文字までしか認められま」「せーーーーん!!!」
彼らはエキサイトしても語尾分け話法を守り続ける。素直に感心する。僕らの名前そんなに長くないのになあと思いながらも、異世界だから仕方ないと無理矢理腑に落とす。
「あー、じゃあ僕のことはアキって呼んでもらって構わないよ。」
おっ、いい感じに話せた!ついに子供に敬語マンから脱出できた!
「じゃあ俺のことはシンって呼んでもらおうかな」
「わかり」「ました!」「アキさん!シンさん!」「それで、アキさん、シンさん、どこか行き先は決まって」「ますか?」
「いや、今はとりあえず歩いてただけだから、特に行き先はきまって…ないよな?」
僕は念のためシンに尋ねる。
「当たり前じゃねーか。いや、それよりさ、君たち。俺らのことなんでこの世界の人間じゃないってわかったの?怪しいと思わねーの?」
シンの目には疑いが色濃く浮き出ていた。正直、僕も同じことを思っていた。だが、頼るもののない僕たちに、礼儀正しく、優しい言葉を掛けてくれた彼らに対してそんな質問をすることは、僕にはできなかった。こういうときは妙に頼りになるんだよなー、コイツ。
「いや、結構いますからね、別世界から迷い込んだ人たち。」「っ!…んっ!」
ルビに倒置されたゴビはかなりあたふたしている。意味もなく地面を両脚でバタバタ踏みつける姿が可愛らしい。
「特に行き先がないなら、僕たちと一緒に行きま」「せんか!」「この世界のこと色々ご案内し」「ますよ!」
ゴビは役目をもらって、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねて絶好調である。僕とシンは目を合わせる。幼なじみの間柄だ。お互いの考えくらいなんとなくわかる。僕たち二人は同時に口を開いた。
「よろしくお願いします!」
「お断りいたします!」
「っ!なーんでだよ!シン、お前他になんか当てがあるのかよ!」
僕は思い切り食いつく。悔しさと恥ずかしさを紛らわすためではない。
「んなものねーよ、でも折角なら、俺たちだけの力で未来を切り開くんだっ!みたいな奴に憧れるだろ!男のロマンだろ!それがわからんお前は男ではない!」
「それ、ゲームの中でも、主人公にすごい力とか武器とかがある場合だけだ!シン、お前、臼と杵と枕で何をどう切り開くっていうんだよ?」
「うっ、それもそうだな。俺の考えが甘かったな。前言を撤回しよう。」
シンは昔から、自分が間違っているとわかればすぐに前言を撤回する習性がある。コイツが下手に食い下がらないので、僕たちはほとんど喧嘩をしたことがないのだった。
「というわけで、ご一緒させてもらいます。いいですか?」
シンが言う。切り替えがはやい。
「もちろん」「です!」「おふこーす」「です!」「それでは、出発しま」「しょう!」
こうして、僕とシンは、双子の鍛治師、ルビとゴビの鍛冶屋がある街へ向かって進みだした。
僕たちが、ゴブリンどもと戦っていたのはちょうど昼頃だったようで、出発後結構歩いた今は、そろそろ日が傾き始めている。
「おい、ルビ、ゴビ、あとどれくらいかかるんだ?」
「まだ結構あり」「ます。」「今日中に着くのは厳しいかもしれない」「です…」
「そんなに遠いなら君たちはなんで歩いて出かけようと思ったんだ?車なりなんなりあるだろ?ぶーんって。」
「あっ、それは僕も思ってた。車っていっても馬車の方だと思うけど。」
「馬車はお値段が高すぎなの」「です!」「武器の素材集めのついでに集めた金目のアイテム分がほぼ全てなくなり」「ます!」「よって徒歩」「です!」
「今日中につかないなら野宿か?飯はどうするんだ?あっ、それと、この世界に米はあるのか?」
「そう」「ですね、」「野宿にしま」「しょうか!」「夕食は、保存食が少しあるので、一緒にいただき」「ましょう!」「それと、そのあたりの野草をサラダにし」「ましょう。」「お米はあり」「ます」「が、今はあり」「ません!」「街に戻れば、タワランのドロップ品として、そんなに高くない値段で買え」「ますよ!」
シンの怒濤の質問ラッシュに、ルビとゴビの二人は全て丁寧に答え切った。それより、米あるんだ。
「暗くならないうちにテント建ててご飯も用意しちゃいま」「しょうか!」
「僕は賛成だよ。」
反対する理由も見つからない。シンも無言で頷いている。
ルビがバックパックからテントを取り出し、四人でテントを建てた。その後、川のそばまで四人で野草を採りに行った。この草、口ついてるけど本当にうまいのか?ゴビの手には野草ではなく、デカい魚が収まっていた。竿はなかったはずなんだが…。ゴビ、恐ろしい子だ。
テントに戻ると、四人で夕食の用意をはじめた。ルビが、かき集めて来た焚き木に、マッチのようなもので火を付け、ゴビが例の謎魚を焼く。僕とシンは自然と、サラダの担当になった。といっても、唇の主張が激しい草を皿に盛るだけである。
そして、ちょうど日が落ち切ったあたりで夕食がはじまった。非常に質素なメニューではあるが、よくわからない魚も、得体の知れない唇草も美味であった。シンは野草がよっぽど気に入ったらしく、僕の分も横から食べている。
食後、焚き火を囲んで、四人の間にまったりとした空気が漂う。お腹がいっぱいであることが、まったり度に拍車を掛けていることはもちろんだ。
僕は、自分の心にぽっ、と灯っている優しい何かの正体を考えていた。満足感?充実感?それとも、経験値だろうか。なんだか照れ臭くなって、大きく仰向けに倒れこむと、満天の星空が僕を迎え入れた。悪くないかもしれない、と思いながら、僕はできるだけ大きく息を吸い込んで、苦しくない程度に、だがしっかりと息を吐き出したのだった。
次回更新は書き終わり次第です。アキ達の冒険も更新ペースくらいゆったりすすみますよー。