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僕等は異世界で餅をつく  作者: 岡本もぎる
12/12

銭湯の看板娘

かなり更新開けてしまって申し訳ないです。木曜日ですらないですね。ごめんなさい。



「シン、ごめん。」


僕はぴくりとも動かないシンのそばに屈み込み、服にそっと手をかけた。青ざめた血色の無い赤銅の肌が露わになる。そして、僕は裸のシンを肩に担ぎ…


湯船の中に投げ入れた。


そして待つこと3分。湯船から人影が立ち上がった。


「ふぅー、意識戻ってよかったわー。自分でも死んだかと思ったー。」


「お前、インスタントかよ!」


○ ○ ○


オグラゴーレムとの死闘の後、アルフェロアに駆け戻ってきた僕たちは、もちもちパンダの近所の銭湯を訪れていた。僕が動かないシンを担いで2人分の料金を払ったときの受付のお姉さんの表情は、もうむしろ痛快ですらあった。


「シンさんの意識戻りましたー?」


壁を挟んで隣からなっちゃんの声が響く。僕となっちゃんの疲労もピークに達しているため、もちろん僕たちの湯治も目的だ。


「おーう、薄倉信弥、完全復活、HP全回復だ!」


「私、シンさんの本名初めて知ったんですけど。」


「僕たちはもうすぐ上がるけど、なっちゃんはどうする?」


と言って僕も湯船から立ちあがる。その時の飛沫の音に即座に反応したなっちゃんが、魔法の詠唱を開始する。


柑橘障壁(オレンジシールド)!」


男湯と女湯を分ける壁と、天井の間の隙間を、みかんの切り口型の魔法陣がきっぱりと遮断する。


「大丈夫、覗かないから!」


僕の悲痛な叫びはみかんの断面に反射し、男湯にだけ響き渡った。


○ ○ ○


僕とシンは、更衣室を出て、受付の前にあるちょっとした休憩スペースで一息ついていた。なっちゃんが出てきてから3人で牛乳を飲もうと待っているのだが、女の子というものはどうしても身支度に時間がかかるらしい。もう、喉乾いたー。早く牛乳飲みたーい。


「ほんと、アキさん、覗き未遂なんて、これまでに培ってきた信頼が全部台無しなんですけど。」


なっちゃんが「女」と書かれた暖簾(のれん)をはらりと押し分け、姿を現した。


「いやいや、こっちの台詞だよ!勝手に信用なくされても困るよ!」


と言い返した僕の目の前に現れたのは…


「誰?」


いつものなっちゃんではなかった。風呂上がりなので、メイクなしのスッピンで、肩のあたりまですっと流れ落ちるのは美しい黒髪。ハリのある血色の良い潤った肌は風呂上がり補正を抜きにしても魅力的だ。麗しき清楚系美少女、まさに大和撫子がそこにいた。


「なっちゃんだよな?」


シンも僕同様戸惑いを隠しきれず、困惑を止めきれずに垂れ流す。


「ええ、なっちゃんですけど?」


「なっちゃん、なんで髪色?えっ?」


「ああ、これですか。温度に反応して髪色変わるんですよ、私。」


「ちょっと高いリカちゃん人形かよ!」


○ ○ ○


「やっぱり、なっちゃん黒髪の方が似合うんじゃない?」


こう口にしているのは僕だが、シンも俯き気味に頷く。ちらちらと紅潮した顔が伺える。


「お姉さん、牛乳を3本もらいたいんですけど。」


「なっちゃん人の話聞いてる?」


「変態の話は聞きません。」


「お前が勝手に覗き魔に仕立て上げてるだけじゃないか!」


僕は断固抗議する。このまま変態扱いされるのは理不尽も甚だしい。


「ファッションももっとおとなしい感じにしても悪くないと思うぞー。」


僕となっちゃんが揉める中、シンがシンらしくないことをぽつりと呟く。こいつ、ファッションなんか気にしてたんだ。彼なりの照れ隠しか、極度の棒読みだ。


「嬉しいことには嬉しいんですけど、私のアイデンティティなくなっちゃいません?清楚系美少女キャラなんて腐る程いると思うんですけど。」


「自分で言っちゃうのかよ!」


僕の声がなっちゃんを貫いた。シンの顔の赤みは完全に引いていた。一瞬生じかけたパーティの仲間にあるまじき感情は、なっちゃんの妙に冷めた一言で理性を取り戻したようだった。


○ ○ ○


「別の服買いに行くにしても、そもそも、この街の服屋さんわからないんですけど。シンさんも知らないですよね。」


そう尋ねるなっちゃんに対し、


「当たり前だろ!」


シンは親指を突き立てる。シンよ、そこはドヤ顔をかますところではない。


「じゃあ、ルビとゴビに聞いてみ…」


「うるせぇ変態!」


「もうよくない?」


なっちゃんが暴走しないあたりでそろそろストップをかけたいと思い、僕はなっちゃんを説得にかかりはじめたところで、


「ごめんなさーい、牛乳遅くなっちゃいましたー。」


風呂屋のお姉さんが、牛乳瓶を乗せたお盆を片手に暖簾を分けて登場した。


「「「ありがとうございまーす!」」」


正直、待ちくたびれていたところだ。喉が渇いて仕方がない。おそらく他の2人も同じだろう。


「待ってましたっ!」


と、僕が風呂屋のお姉さんから牛乳瓶3本を乗せたお盆を受け取りに行く。そして、僕がお盆に手を添えるか添えないかのその瞬間、お姉さんが凄まじい速度で両手を遠ざけ、牛乳瓶を僕のリーチ外へと追いやった。


「申し訳ありませんが、変態に渡す牛乳はございません。」


「あんたもかよ!なんの謂れもない勘違いだよ!」


僕は彼女の手から牛乳瓶を奪い取って、これ見よがしに飲み干してやった。もちろん左手を腰につけて。


○ ○ ○


「私の勘違いでしたかー。つまりあなたは変態でいらっしゃらないということですか?」


「『変態でいらっしゃらない』ってなんて敬語だよ!僕は変態じゃありません。いたって普通の17歳です。」


僕は、彼女の独特のマイペースに足を取られながらも話を進める。


「失礼いたしました。私はここの銭湯の看板娘をしております、有馬亜麻(ありまあま)と申します。」


「ん?その名前もしかして?」


シンにしては素早い反応だ。もちろん、僕もなっちゃんも弾丸に近い速度で反応する。そして、3人同時に質問を発射した。


「「「もしかして、日本の方ですか?」」」


「はい、そうですよー。」


有馬さんは、シンとなっちゃんの手にも牛乳瓶を渡しながら、おっとりゆったり微笑んだ。


「おおーー!こっちに来てから日本の女性と会うのは初めてなんですけど!」


なっちゃんが、右手に握った牛乳瓶をぶんぶん振って、喜びの限りと言わんばかりに有馬さんの大きな胸へ飛び込んだ。有馬さんはなっちゃんを優しい抱擁で受け入れ、頭を撫でくりまわして愛でている。

その有馬さんの姿はさながらなっちゃんの母親だ。母性が滲み出て、溢れてしまっている。


「ねえねえ有馬さん、これから亜麻ちゃんって呼んでいいですか?」


なっちゃんも幼児退行状態で有馬さんの母性の術中にはまっている。


「ええ、構いませんよ。私はこちらに来てからずっとこの街にいるので、服屋さんも多少は知ってるんです。今度一緒にお買い物どうですか?」


「やったー、亜麻ちゃん大好きー!」


いつもと違う黒髪で、いつもと違う甘えモードのなっちゃんを僕たちは見守ることしかできなかった。


実験的に、4コマ漫画風ショートストーリーといったスタイルで書いてみました。感想称賛批判のコメントをくだされば幸いです。評判がよければ、次話もこのスタイルで行きたいと思っています。


作者、都合により1週間ほど連絡がつきませんので、コメント等への対応が遅くなりますが、ご了承願います。

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