決戦!オグラゴーレム
今日、2話投稿するとか宣言しましたが、嘘つきました。ごめんなさい。
ここはトカッチ平原のど真ん中。心地よい風が草原を駆け巡り、モンスターとの戦闘より昼寝向きの天候だ。
だが、今はそんな余裕はない。
僕は杵をグッと握りしめ、力いっぱいに振り回す。狙うはうじゃうじゃと集ってくるタテジマダイコンの頭部だ。ダイコンの頭と尻を見極めるのは至難の技だが、こいつらタテジマダイコンには茎に近い方に顔があるので、そちらが頭である。
「アキ、後ろ!おらっ!」
僕の背後から襲い掛かってきたタテジマダイコンをシンが臼でぶん殴り、一瞬怯んだところを僕が回し蹴りで仕留めた。
「二人ともチームワークも良くなってきましたね。今の戦闘、私一回も手助けしてないんですけど。」
一応経験者のなっちゃんは、自称最高顧問として、僕たちから一歩引いた位置で戦闘を見守っていた。序盤はなっちゃんに頼りきりだった僕たちも、何度か戦闘を重ねるうちに、コツをつかんできていた。
「この調子だと、もうちょっと先に進んでも良さそうですね。」
なっちゃんが言う。僕たちが感じていた手応えはあながち間違ってもいなかったらしい。
「よし、じゃあ行くか!」
シンはそう高らかに宣言して、ルビとゴビに作ってもらった金属製の臼を肩に担ぎ、先陣を切って歩き出した。
○ ○ ○
シンが自信満々に先頭を歩いて行くと、いつも本当にいいことがない。
気がつくと、辺りの様子がどうもおかしい。
先ほどの心地よい風は何処へやら。今僕たちの肌を撫でているのは、そこはかとなく邪気を含んで漂う、紫がかった霧である。
足元も草原から、砂礫の多い荒野に変わり、あたりの枯れ木が不気味な影を映し出す。
ダイコン共どころか、その他のモンスター、僕たち以外の冒険者パーティもぱたりと姿を消した。
「ここ、どこだ?」
シンがさも当然かのように呟いた。
「お前が先頭歩いて行ったから、それについてきたんだが。まさか迷ったなんてことないよな?」
「どうなんだ?地図担当大臣の小岩井氏?」
シンが突如なっちゃんを指名する。
「ええっ?私ですか?最高顧問と地図担当大臣を兼任した覚えはないんですけど。つまりここがどこかなんて分からないんですけど。」
昔からシンが先頭を歩くと、必ずこうなるのだ。彼はいわゆる方向オンチというやつだ。
まあ、トカッチ平原ならではの、のどかな雰囲気が消えた不気味なこの場所がどこなのかは、なんとなく想像できるのだが。
「多分、この異様な雰囲気からして、ここが最奥部だと思うんですけど。」
なっちゃんも僕と同じことを考えていたようだ。
「最奥部ということは、この辺りがオグラゴーレムの住処だよね?」
「そのはずなんですけど。でも、姿が見えないんですけど。念のためお二人とも、警戒は解かないようにしてくださいね。」
経験者の言うことはとりあえず聞いておくのが賢明である。僕は息を殺し、耳を澄ませる。
「がはは、オグラゴーレムの奴、俺たちにビビって逃げたんじゃねーか?」
僕が耳を澄ませると、聞こえてきたのは、シンのがさつな笑い声だった。
「シンさん!油断は禁物なんですけど!大きい声に反応してオグラゴーレムが現れたらどうするんですか!」
なっちゃんが小声で怒鳴る。だが、シンの余裕の態度が変わることはなく、口笛まで吹き始める始末だ。
「もし、オグラゴーレムが現れたら俺がこのルビとゴビお手製の臼でぶん殴ってやるよ、どかーんって。」
シンが臼をぶんぶん素振りし、そして、
「かかってこいやー!」
シンは叫んだ。
この馬鹿はなぜわざわざ厄介ごとを引き起こすのだろうか。
案の定、オグラゴーレムと思しきスローテンポの足音が、こちらへ接近しはじめた。
「お前、何やってんだよ、オグラゴーレムこっち来てんじゃねーか!」
「アキさん、シンさん、準備はいいですか?一旦オグラゴーレムの相手をしてみましょう。今のお二人ならいけるかもしれません。もちろん、私も全力を尽くすんですけど。」
なっちゃんの指示に従い、僕は杵を握る手と、大地を踏む両足に力を込める。さっきまで余裕をぶっこいていたシンの顔にも、緊張の色がちらついている。少し声でもかけてやろう。
「なあ、シン、今の僕たちなら勝てる気がする。」
「おう、アキ、俺もだ。」
「私もそう思います。お二人の連携期待してるんですけど。」
足音はもう近い。僕たちはぐっと息を飲む。
「きっ、きました!オグラゴーレムです!」
なっちゃんが叫んだ。
それと同時に僕たちの目の前にのしのし現れたのは、巨大な人型のモンスターだった。目測でも5メートルは下らない。
皮膚は綺麗な小豆色。羊羹のような質感で非常に脆そうに見える。だが、関節部はしっかりと升型のプロテクターで守られており、やはりそう簡単に崩せそうな相手ではない。
「ぐおおおおおおおおおおお」
オグラゴーレムが空に向かって一吼した。
僕はこれでもう完全に足がすくんでしまった。オグラゴーレムの方へ一歩を踏み出そうとするも、何故だか足が全く動かない。つい先ほどまでの自信はどうしてしまったのだろう。
頑張れよ、僕。僕たちの冒険は始まったばかりじゃないか。まだ序盤の序盤、親父との思い出のゲームでなら、まだボスの1体も倒してないあたりじゃないか。こんなところでへばってたまるものか。
そこで、ふと隣のシンを見ると、あいつも足がガクガク震えている。なんだ、あいつも僕と変わらないじゃないか。そう思うと、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「ふふっ。」
「アキさん、どうしました?戦闘中に笑ってるなんて随分と余裕ですね。いつもなら怒るとこですけど、今は頼もしい限りです。頑張りましょう?」
なっちゃんの言葉で僕の緊張が一気にほぐれた。僕は、まっすぐ、しっかりと一歩を踏み出し、杵の先を堂々とオグラゴーレムに向かって突きつけた。
「おい、オグラゴーレム!お前、数時間後にはおはぎにしてやるからな!覚悟しろよー!」
オグラゴーレムがブンブンと首を横に振る。おはぎにされるのが嫌なのだろうか。
すると、シンも俺の横に並んで立ってきた。
「アキ、俺は怖気付いてた訳じゃねーんだ。俺は武者震いしてただけなんだよ!おい、ゴーレム、おはぎが嫌ならおしるこにしてやるから安心しろ!」
そう啖呵を切って、シンは1人オグラゴーレムに向かって駆け出した。
「シンさん!1人じゃ流石に厳しい相手だと思うんですけどー!」
なっちゃんの制止も振り切り、オグラゴーレムに接近したシンを僕は自ずと追いかけ始めていた。
シンは、臼を頭上に大きく振りかぶり跳躍し、オグラゴーレムの頭部を目がけて、構えた臼を振り下ろす。
「うおりゃあああああ食らええええええええ……って、うわああああ!」
オグラゴーレムは腕部にあたる巨大羊羹を薙ぎ払い、シンを瞬時に地面に叩きのめした。シンを追っていた僕の目の前に、その目的の人物が降ってきて、進路前方の地面に食い込む。
僕は、敵う相手ではないと判断を下し、すぐさまシンの身体を背負って、全速力で後退を始めた。
「て、撤退、撤退、てったーい!なっちゃん、足止めだけお願い!」
オグラゴーレムが、臼を腕に抱いたシンと杵を担いで走る僕を、口から吐いた小豆色のブレスで狙撃してくる。右へ左へかわしながら、なんとかなっちゃんのあたりまで辿り着いたそのとき、なっちゃんの魔法詠唱が終わる。
「柑橘障壁ッ!」
オレンジの断面状の魔法陣が、オグラゴーレムのブレスを遮断している間に、僕たちは街へ逃げ帰ったのだった。完全敗北だった。
前回投稿をサボったおかげで、テストの出来はそこそこです。
先に言っておきますが、シンは生きてます。この作品誰も死にません。次回はシン療養回でーす。
次回は6/2(木)に投稿します。