異世界へ…
初投稿です。がんばります。投稿は隔週くらいのスローペースです。
「おい、オータム!起きろ!起きろよ!起きろってばーーー!!!死んじゃだめだーー!!!」
パートナーのシンの泣き声が聞こえる!オータムは倒されてしまった!
ーGAME OVERー
「あーあ、流石にラスボスのドラゴン強すぎるよ。いつになったらクリアできるんだろ…はぁ」
僕はスタート画面に戻ったその瞬間に一昔前のポータブルゲーム機の電源ボタンを押して画面を消した。また負けた。このゲームは少し前に流行ったRPGで、途中までの展開は最高だが、ラスボスが強すぎることで有名だ。僕が下手なだけではないと思いたい。このゲームは、主人公が一人称「僕」の高校生くらいの男性で、体格はそんなによくなくて、さらに、長身のパートナーが僕の幼馴染みにそっくりで、、、と、僕が感情移入しやすい条件がばっちり整っている珍しいゲームだった。そして、今は亡き父さんとの思い出のゲームでもある。そういうわけで今でもたまにこのゲームを引っ張り出してきて、時々ラスボスのドラゴンと対峙しているのだ。
僕が主人公だったらドラゴンと和解するなりなんなりして、もっと素晴らしいエンディングを迎えてやるのに、と思いながら僕、こと、望月明音は翌日の学校に備えてベッドに飛び込んだ。
「おい!アキ!起きろ!起きろよ!起きろってばーーー!!!」
デジャヴ。
自分のことをアキと呼ぶのは母親とこいつくらいだ。薄倉信弥。通称シン。例のパートナーっぽい幼馴染みのことだ。パートナーのシンという名前は、彼にちなんで命名した。プレイヤーネームの「オータム」は、もちろん、僕の名前「あきね」の「あき」からきている。
でも、どうして男の幼馴染みに起こされないといけないのか。どうしてこんなデカいのに起こしてもらわないといけないのか。しかも、一回も起こしに来たことことないのになんで今日に限ってこんなことするのか。相変わらずよくわからない奴である。
「なんで僕の部屋にいるんだよ!出てけよ!」
まだ僕は目を閉じたまま軽く怒鳴る。朝からテンション上げさせやがって、この野郎め。
「目開けて、周り見てからその口を開けよ!」
シンの声が軽く息切れしているのには流石に僕も異常を感じ取った。
がんばって眠たい目をこじ開けると、僕はだだっ広い草原にいた。風が気持ちいい。気温は昨日と変わらないか、少しあたたかいくらい。ちょうど寝起きに心地いい。そんなこと言ってる場合じゃなくて、昨日の記憶ははベッドにダイブしたところで終わっている。なんで?なんでこんなところにいるんですかね?ちょっと頭が追いついてきませんね、はい。一回深呼吸しよう。すー。はー。
そしてシンはというと、人型のよくわからない奴と闘っている。あれはゴブリンなのかな?なんかそんな感じ。僕の周りにも山ほどうろついている。そして、みんな僕らの方を見ている。囲まれてますねこれ。全部やっつけないと次に進めないやつ。ゲームならの話ですが。
シンは牙を剥いて喰らい付いてくる化け物を、両手で持った何かよくわからない塊で殴打している。吹っ飛ぶゴブリン。巨体を活かして結構なサイズの塊を振り回している。なんだろう、あれ。
「お前もボケっとしてねーで手伝ってくれ!ほら、これ使え!」
シンは僕に棒状のものを投げてきた。空中を舞うシルエットは、棒から何か突起が生えていて、竹馬とか、餅つきの杵のような形である。僕は受け取ったそれで襲ってきたゴブリンをとりあえず一匹ぶっ飛ばす。そして改めてその棒をよく見る。えっ、杵?杵じゃん!なんでまた杵?僕今、杵でゴブリン倒しちゃった?てかなんでゴブリンなんかいるの?あれ?意味がわからない。えーっ。
「ちょっ、ちょっとシン、意味わかんない意味わかんない」
「とりあえずこいつら全員倒してから、だっ!うおりゃ!」
雄叫びをあげて、シンは塊を振り回す。えっ、あれ臼じゃん。あいつ臼でゴブリン倒してるじゃん。もう、全く理解できない。
僕もとりあえず杵を振り回す。リーチも威力もいいものを持っている。ゴブリンの頭にクリーンヒットすると、一撃で塵に帰すことも少なくない。意外と杵使えるじゃん。でもなぜまた杵なのかという疑問は拭いきれない。しかし、今はこいつらを倒すのが先である。もう残りは知れている。あと一息だ。
僕たち二人がなんとかゴブリンの群れを殲滅した時には、問答無用で、二人とも草原に全身を預けることになった。充実感はシンも感じているだろう。
「これが経験値ってやつか?EXPってやつか?」
「いや、違うと思う、ただの達成感だと思う!おい、それより、シン、説明してくれよ」
「何を?」
「これだよ!現在のこの状況全てだよ!まず、ここどこだよ!なんでゴブリンっぽいやつと戦って、こんなことにならなきゃいけないの!んで、なんで杵なんだよっ!」
僕は立ち上がって抗議するが、下半身の筋肉にもう力が入らず、再び座り込む。もう無理ぃ〜。
「なんでこんなとこにいるのかは俺もよくわからんが、多分ここは異世界的な場所だと思う。信じられないけどな。でも、日本にゴブリンが誕生する可能性と、俺たちが異世界に飛ばされる可能性と、どっちが起こり得るかって考えてみたら、やっぱここ異世界かなーって。」
こいつの思考回路はやっぱり少しずれている。
「でも、確かにここは異世界としか考えられないよなあ…」
改めて周りをよく見てみると、本当に何もない草原だ。遠くに見える山が、主役のごとく大空の下に居座っている。日本にはそうそうない雄大な景色が異世界感を醸し出している。
「まあ、それはいい。なんで臼と杵があるんだ?」
「俺もよくわからん。でも、昨日、なんか寝てる間に暗殺されるような予感がしたから、枕元にウチにある物で一番迎撃できそうなやつを置いておいたんだ。」
「それがよりによってこれか!もうちょっと、こう、なんかあったろ!」
「アキ、お前もなんか枕元においてたやつ、何か一緒に来てるんじゃないか?確証はないが。」
それが本当なら、非常に嬉しい。なんかよくわからんが異世界に来ちゃった訳だから、自分の世界の物があったら安心することは言うまでもない。僕は自分が最初に倒れていた辺りを探し回る。
なんかいいもの付いてきてないかな、ポータブルゲーム機とかきてないかな、でも充電できないかもだから無しだな。バットとかいい武器になるかな、でもこの世界の武器の方が優秀かもしれないしな、、、って僕割と楽しんでる?
「あっ、あれだ!」
見つけた!見つけた!何かある!草原に不釣り合いな現代っぽいやつ!
僕は駆け出した。足が痛かったのも気にならない。
そこにあったのは…使い慣れた枕だった…。