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三月白書【新装版】  作者: 小林汐希
3/6

3話 はじめての反抗心



【1】



 冬休みまであと数日。先生が職員室に消えたとたん、教室はみんなのおしゃべりであふれた。


 仕方ないよね、卒業を控えた小学6年生だもん、いろいろと反したい盛りではあるだろうし……。


 話題は冬休みの予定や塾の話、中学校の噂などがほとんどみたい。わたしは隣の伸吾くん以外には話し相手もいないので、ぼんやりと外を見ていた。



「そう言えば、葉月は笹岡受けるんだよなぁ?」


 突然、大きな声が廊下側の席の方からきこえた。


「えぇ~?!」


 クラス中の視線がわたしに集まる。


「葉月、誰かに話したのか?」


 伸吾くんがすぐにわたしに聞いてくる。


「ううん。誰にも話していないよ?」

「そっか……。どこかか噂みたいに流れてそれが本物みたいに伝わったんだろうな」


 これがきっと他の子だったら、こんな大騒ぎにはならなかったと思う。きっとわたしだからなんだよね……。



「おまえマジか?」


「ホントに受けるの?」


 驚く声、心配する声、もちろん大部分は嘲笑の声ではあるけれど、ここまで大騒ぎになっちゃったら、なにも答えないわけにはいかない。


 どうせいつかは分かっちゃうことなんだもん。


 となりの伸吾くんともうなずきあって、覚悟を決めることにしたんだ。


 もう一度、心配そうにしている伸吾くんに笑顔を作る。


 このままうやむやにされるよりはいいから。



「受けるよ。結果は分からないけど……」


 クラスに驚きと笑い声が混じった。


「ま~、無理だろうな」


 うん、そう言われるのは予想していたもの。このくらいなら平気。


「無理でもやってみないと分からないもん……」


「葉月が受かると思う奴いるかぁ?」



「成田、おめぇ、そんな言い方する事ねぇだろ!」



 それまで黙ってことの成り行きを見守っていた伸吾くん。

 さすがに腹に据えかねたのか立ち上がって怒鳴った。



「いいよ。そんな事で喧嘩しないで……」


「葉月、おまえ悔しくないのかよ?」



 分かってる。伸吾くんがわたしを心配してくれている気持ち。


 でも、ここで悔しいとか言っても、出来るかどうか分からないことを公にしたんだから、それこそもっと好き放題言われちゃうから黙ってる。


「みんなうるさいわよ。廊下まで聞こえてるじゃない」


 職員室に消えていた先生が教室に戻ってきたけれど、教室の中の騒ぎは収まる様子を見せなかった。




【2】



「せんせー、葉月は笹岡受けるってホントですか?」


 さっきわたしの話を聞いて一番笑っていた成田くんが先生に大きな声で聞く。


 先生は一瞬わたしを見た。先生も職員室の中でしか話題にしていないはず。

 仕方ないと肩をすくめてわたしは頷いた。


「ええ、本当よ。ずいぶん前から決めてた事よね」


「こいつが合格すると思いますかぁ?」


 きっと、他の子だったら、ここまでの騒ぎになることはないんだ。わたしだからこう言われちゃう。でも、それは仕方ないと思うことにした。



「成田君、葉月さんをなぜそこまで笑うのかしら? それに受験することは葉月さんの意志だから、先生やみんなが口を出せる話じゃないと思うけどな」


 あれから何度も職員室で話をして、成績や受験までのスケジュールを何度もやり取りしてきた。


 最初は先生にも不安があったみたいだけど、最近は「このまま頑張れば合格圏に届く」と言ってくれている。


「お姉さんのときと同じね」とも言われた。やっぱり3年前に、笹岡学園の受験を発表したお姉ちゃん。その時と同じだという。


「葉月さんをこれまでと同じと思っていたら違うからね」


 先生から、過去問題などの解き方を教わるようになってテストの点数も上がってきたからだと思う。これまでわたしのテストの点数なんて誰も気にしていなかったから、それをみんなの前で言ってしまうということ。先生も自信が着いているんだ。


 ちらっと周りを見回すと、同じような受験組の顔が少しこわばったのが分かった。

 目立つこともなかったわたしが、笹岡の合格が見えるような位置まで上がってきている。そのものズバリとは言わないけれど、先生はわたしの成績についてそこまで言及した。



「じゃぁ、葉月がうかったら何でも言うこと聞いてやるよ。そのかわり落ちたらなんかしてもらおうぜ」


「成田君!」



 先生の顔色が変わる。やんわりと牽制したつもりだったのが、別の方向に向かい始めているから。



「参加者全員にハンバーガーおごるとか?」


「さんせー」



 隣で伸吾くんが顔を真っ赤にして怒っている。もう、これは悪ふざけというものを通り越しているから。



「あなたたちねぇ……」



 先生の声色も自然と厳しいものになっている。

 こんなことを許すわけにはいかないからだと思う。


 先生も知らない間に教室のなかの雰囲気というものは、日常的ないじめが起こりやすいものになってきていた。それはわたしをはじめとして、いつも怯えている何人かの子達と同じ。



「葉月……」

「だいじょうぶ……」


 もう、こんな思いをするのはわたしだけで十分!



「先生、いいんです」



 立ち上がったわたしは、下を向いたまま、声を絞り出した。



「葉月……無理すんなよ」


 伸吾くん、分かってる。本当は泣きたいくらい。でも、これ以上は言わせない!



「分かりました。落ちたときには何とでも言ってください。それまではもうなにも言わないで!」


「葉月、おまえ……」



 言いきったときには、正直体が震えていたし、顔色だって悪かったと思う。

 でも、許されるような話じゃないことは何度も道徳の授業でも聞かされていることなのに、逆に身近なことになると、当事者になっちゃうんだ。それを分からせるためには、わたしが立ち上がるしかない。



 普段、こうして反論することがないわたしの意外な行動に、言い出した彼らも、先生ですらその後を続けることができなかった。




【3】



「なぁに? 結局その話が成立しちゃったわけ?」


 いつもどおり、伸吾くんと一緒に学校を出ると、校門の前に美弥(みや)お姉ちゃんが待っていてくれて、三人で一緒に帰ることになった。


 その途中で、帰りがけの教室での話が持ち上がったわけなんだけど…。


「まさか、本当にそんな話が成立しちゃうなんておかしいじゃない!」


 事の成り行きに怒りだすというよりか、あきれ返ってしまっているみたいだった。


「だって……」


「だっても何も。そんなことやるのがおかしいよ。なんで真弥がそんな目に遭わなくちゃならないの?」


 ポニーテールの髪を大きく揺らしながら顔も膨らませている。


 怒るのが当たり前のことなんだけどね……。ただでさえ笹岡を受験するというのは、お姉ちゃんも通ってきた大きなプレッシャーのかかる道。それを言ってみれば賭け事にしてしまったクラスの雰囲気が許せないという感じだった。


「だって、黙っていても言われ放題だもん……」


「だからってねぇ……」


 苦笑しているお姉ちゃん。わたしを怒るというより、振り上げた拳をどう下ろしたらいいか困っちゃってるんだ。


「わたし、頑張る。その後だったら、なにを言われてもいい……」


「真弥……」


 うちには時々学校から連絡が入る。わたしの体調とか、もちろん笹岡受験の話のときにも確認があった。

 お姉ちゃんの時でも、あの受験は五分五分の綱渡りだったけれど、それを挑戦したからこそ、今の制服を着ている。



「まぁ、頑張って合格しちゃおうね。私だって真弥と一緒に学校通えるようになるのが楽しみなんだから」


「お姉ちゃん……」


「まぁ、シャクなんだけど、約束しちゃったものは守らなくちゃね。頑張ってきてるんだから、それは無駄にしちゃダメだよ。そこまで言われたんだから、真弥も条件突きつけてやればいいんだよ」


 伸吾くんと別れ、二人で家に帰る。うちは両親が共働きだから、お姉ちゃんが夕食を作り、二人だけで食べた後は勉強をみてくれる。


「ほら、この問題は見るところ違うんだよ」

「うん……」


 お姉ちゃんの厳しい声にも、黙ってうなずく。分かっていることだもん。あれだけ難しい学校をわずかな時間で合格できるような学力を付けるためには、それしか方法がないんだから……。


 その日も時計の針が12時近くまでそんな時間が続いた。


「怒ってごめんね……。また明日頑張ろうね……」

「うん。おやすみ、お姉ちゃん」


 お父さんもお母さんも先に休んでいて、お姉ちゃんはいつもわたしに謝ってから寝る。そんな必要はないんだけど……、それがお姉ちゃんなりの気持ちだから。


 わたしも、次の日の学校に響かないようにすぐに目をつぶった。




【4】



「なぁに? 結局その話が成立しちゃったわけ?」


 いつもどおり、伸吾くんと一緒に学校を出ると、校門の前に美弥(みや)お姉ちゃんが待っていてくれて、三人で一緒に帰ることになった。


 その途中で、帰りがけの教室での話が持ち上がったわけなんだけど…。


「まさか、本当にそんな話が成立しちゃうなんておかしいじゃない!」


 事の成り行きに怒りだすというよりか、あきれ返ってしまっているみたいだった。


「だって……」


「だっても何も。そんなことやるのがおかしいよ。なんで真弥がそんな目に遭わなくちゃならないの?」


 ポニーテールの髪を大きく揺らしながら顔も膨らませている。


 怒るのが当たり前のことなんだけどね……。ただでさえ笹岡を受験するというのは、お姉ちゃんも通ってきた大きなプレッシャーのかかる道。それを言ってみれば賭け事にしてしまったクラスの雰囲気が許せないという感じだった。


「だって、黙っていても言われ放題だもん……」


「だからってねぇ……」


 苦笑しているお姉ちゃん。わたしを怒るというより、振り上げた拳をどう下ろしたらいいか困っちゃってるんだ。


「わたし、頑張る。その後だったら、なにを言われてもいい……」


「真弥……」


 うちには時々学校から連絡が入る。わたしの体調とか、もちろん笹岡受験の話のときにも確認があった。

 お姉ちゃんの時でも、あの受験は五分五分の綱渡りだったけれど、それを挑戦した

からこそ、今の制服を着ている。



「まぁ、頑張って合格しちゃおうね。私だって真弥と一緒に学校通えるようになるのが楽しみなんだから」


「お姉ちゃん……」


「まぁ、シャクなんだけど、約束しちゃったものは守らなくちゃね。頑張ってきてるんだから、それは無駄にしちゃダメだよ。そこまで言われたんだから、真弥も条件突きつけてやればいいんだよ」


 伸吾くんと別れ、二人で家に帰る。うちは両親が共働きだから、お姉ちゃんが夕食を作り、二人だけで食べた後は勉強をみてくれる。


「ほら、この問題は見るところ違うんだよ」

「うん……」


 お姉ちゃんの厳しい声にも、黙ってうなずく。分かっていることだもん。あれだけ難しい学校をわずかな時間で合格できるような学力を付けるためには、それしか方法がないんだから……。


 その日も時計の針が12時近くまでそんな時間が続いた。


「怒ってごめんね……。また明日頑張ろうね……」

「うん。おやすみ、お姉ちゃん」


 お父さんもお母さんも先に休んでいて、お姉ちゃんはいつもわたしに謝ってから寝る。そんな必要はないんだけど……、それがお姉ちゃんなりの気持ちだから。


 わたしも、次の日の学校に響かないようにすぐに目をつぶった。



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