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「グッモーニン☆クーちゃん、おはよう! 起きて!」

 ニタは乱暴にドアを開けて、ククの部屋に突撃した。

 早起きなニタは、食事当番を起こすのが毎朝の日課。

 食事当番は二人ずつ日替わりで朝、昼、夜の食事を作らなければならない。

「おはよ、ニタ」

 今日の食事当番のククは、既に起きていて、ちょうど鏡台の前で髪をとかしていた所だった。

 ちなみに、もう一人の食事当番はクルガだった。ニタが起こしに行った時はまだ寝ていたので、布団をひっぺがしてきた。

「クク、起きてたんだ」

 ちょっと残念そうなニタ。ニタは食事当番を無理矢理起こすのが好きだった。

 そのまま部屋に入り、ククのベッドの上に座って、寝ぐせだらけのククが髪をとかしているのを眺めた。

「ニタ、ちょっと待っててね」

「うん」

 ニタはククが好きだった。

 ククもニタが好きだった。

 それは、二人がアルトフールに来る前から仲が良かったからかもしれない。『はじまりのたび』からずっと一緒で、苦楽を共にしてきたから、心は誰よりも通じ合っている。

 それに『はじまりのたび』の頃よりも、ククは明るくなった。昔はうじうじと悩み込むような暗い感じだったが、ここに来てから笑うようになった。ぐっとかわいくなった。

「クク、今日のご飯、おいしーのがいい」

「ふふ。もちろん。おいしいのにするからね」

 そして、ククは一通りの身支度を終えると

「さ、いこっか」

と言ってニタの手を取った。

 ニタはベッドからぴょんと飛び降りて、ククと手を繋いで部屋を出た。


 ククは、優しくてかわいい。

 だから、ニタはククが大好きだった。


***********


 クク(とクルガ)のおいしい朝ご飯をたいらげたニタは、ご満悦な様子だった。リビングのソファに座って、のんびりと朝の情報番組を見ている。まだ早い時間なので、人の気配も疎らだった。

 あまりにも静かだったので、ニタはウトウトしかけたが

「ニター!おはよー!」

 と言って襲来してくる元気な小娘に、ニタははっと意識を取り戻した。

 元気な小娘、アルティメットはニタに駆け寄るなり、いきなり抱き着いてきた。

「おはよう、アルティメット」

「おはよう!ニタ!」

 アルティメットはニタの体に顔を埋めてキスをした。ぬいぐるみ好きな彼女には、ニタがかわいくてかわいくてたまらないのだ。

 ニタもニタで別に嫌ではなかった。アルティメットはまだガキンチョだし、それにニタのマブダチなので別に良いのだ。

 しかし、

「うぁーニタぁーかわぃー」

 野太い声が、ニタの体に顔をうずめる。

 すると、マスコット系のニタの表情が瞬時にして引き締まった。


─『近づくな、変態』…!


 ニタは、男に体を触られるのを非常に嫌がる。

 まるでユニコーンのような気質を持つ。

 「げ…げふ」

 気が付くと野太い声の主は体をありえない方向にまげて泡を吹いて倒れていた。

 この男、名前はディレィッシュという。

 金髪碧眼で甘~いマスクを持ったイイ男だが残念なことに『変態』だ。

 どこが変態なのかと聞かれたら

「全てだよ、全て」

「え?ニタ、何か言った?」

 全てにおいて、つまり存在そのものが変態なのだそうだ(ニタいわく)。

 しかし、彼は、アルトフールでも重要な『発明家』であり、変態な存在であっても、とてもかけがえのない存在だった。

 本当は心が広くてイイ奴なのに、ロリコン、エロオタク、若干ナルシストが揃ってしまい全てを台無しにしている哀れな男。

「ニタ、ディッシュがなんかスゴイよ」

 アルティメットは、泡を吹いて倒れているディレィッシュにおそるおそる近づいていく。

 そして、顔を覗き込むと、両頬の肉球跡がかわいらしい。

 アルティメットは、にへらっと表情を緩ませ、ディレィッシュを抱き起こした。

「ディッシュ、だいじょーぶ?」

 ディレィッシュは、パチッと目を開けた。

 口から吹き出ていた泡はずずっと啜って飲み込む。

「あぁ…アルティメット…」

 弱々しい声を出すディレィッシュ。

 ニタは瞬時に芝居がかった演技をしている男に気付いて独り鼻で笑った。

「俺は、もうだめかもしれない…。アルティ、最期のお別れに君からのキスを…」

 目を閉じ、口をタコの様にすぼめてキスをせがむディレィッシュ。

 だが、


どげし


 と、ディレィッシュの腹に見事に決まったビカレスクの蹴り一発。

 瀕死の変態ディレィッシュは、とうとう天に召されてしまった、…らしい。意図的なのかアルティメットの膝の上に頭を乗せて気絶した。

 が、ニタにはあの変態は意図的にアルティメットの膝枕になっただけの様に見えた。

「朝から何ふざけてんだよ、変態」

 銀髪紅眼の美青年ビカレスクは、アルティメットの膝枕で安らかに昇天しているディレィッシュの姿に顔を引きつらせた。

「…コノ変態ハ…」

 と、ビカレスクはイライラしながら呟くと、アルティメットの腕を掴んだ。

「…アルティ、そんな奴はほったらかしといて、朝ご飯食べに行くぞ」

「う、うん」

 ビカレスクに手をひかれて、すっと立ち上がるアルティメット。

 その際『ゴン』とディレィッシュの頭と床がぶつかる音がした。

 ニタだけはその鈍い音に気付いたが、後の二人は気付くことなくそのまま朝食を食べに行った。

 ニタはソファから身をのりだして変態の様子を見た。

 体は有り得ない方向に曲がっていたが、あお向けになって、ぼんやりと天井を眺めている。

 三途の川でも見えているのだろうか。

 いずれにせよ、喋らなければイイ男、の姿がそこにあった。

「あんまり変態過ぎると、悪魔に天使を取られてしまうよ」

 ニタは小憎たらしい微笑を浮かべながら言った。

「…別に、それで天使が幸せなら、俺は満足だよ、ニタちゃん」

「君は、それが本当の幸せだと思ってんの?」

 宙を泳ぐディレィッシュの視点がピタリと止まった。

「…ニタは痛い所をつくなぁ…」

 ディレィッシュはしみじみと呟いた。

 ニタはクスッと笑って、テレビへ視線をうつす。

 そして、ディレィッシュも何事もなかったかのように立ち上がると(体も何事もなかったかのように元に戻して)

「ビス君待って~」

と情けない声を出して、ビカレスクとアルティメットの後を追うのだった。


「何考えてんだか」


 リビングに静けさが戻った。


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