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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある王国の、革命の話

作者: せつ

前から書いてみたかった話。王国とか好きですが分からない部分が多いので、ほぼ想像です!おかしな点はスルーして下さい。

「本日を以て、貴方には王座を退いていただきます」



 ぴたりと喉元に当てられたやいば。玉座に座る男は信じられないという思いで、少女を見返した。

 その細腕で、重さを物ともせず長剣を片手で支えている。深く被ったフードのせいで、はっきりと顔立ちは確認出来ない。


 いや、それよりも一番の問題は――この少女が目の前に突如現れた事である。

 王座の周りには王宮の騎士による厳重な警護。加えて現在は隣国の使者との謁見の最中だったのだ。部外者は元より、侍女すら許された者しかこの場に居る事は不可能。不審な少女が入室するなど――まして玉座に近づくなど決してあり得ない、筈だった。

 余りに突拍子な出来事に、先程の少女の言葉。王も、少女以外の周囲の人間も皆唖然として動けなかった。


「返答がありませんね。聞こえませんでしたか?もう一度言います、王座を退いて下さい」


「なっ……お前達!この無法者を捕えよっ!」


 再び放たれた少女の言葉で我に返った王は騎士に向かって叫んだ。騎士達もはっとして弾かれた様に少女に飛びかかろうとする。が、


「近づけばこの男を殺す」


 少女は刃を更に男に押し付け、薄皮を僅かに切る。滲みだした血を見て騎士の動きが静止した。男の顔は強張り、青ざめていく。

 騎士達よりも王から離れて立ち尽くしていた、黒いマントに身を包む男が右手を振り翳したが、少女は素早く何かを唱え一瞬でその手を氷漬けにした。続いて別の単語を呟き、その者が口を開く前に氷の柱に閉じ込める。


「何故……」


「なぜ、とは今しがた私が王宮の魔道士に魔術で優ったことについてでしょうか?もしくはどういった手段で此処に現れたか?それとも……私は何者なのかという疑問ですか?……私が誰で、どうしてこのような事をするのか、おわかりですか?」


 剣は一ミリも動かさぬまま、少女は小首を傾げる。

 ……彼女が挙げた事柄、すべてが謎であった。何故王である己がこんな小娘相手に屈辱を味わう羽目になっているのか、皆目見当も付かない。

 自分は王になった男なのだ。全てを手に入れてきた、神に選ばれし者だというのに!


「わかるか!貴様、王である余に謀反など、一族共々死罪に値するぞ!」


「……残念です。本当に何も理解出来ていないのですね。貴方みたいな方をなんと言うかご存知ですか?『能無し』。……浪費するだけなら誰にだって出来るのですよ。王が貴方じゃなくとも、ね」


「な!」


「貴方がどうして今まで生きてこれたのか、考えた事はありますか?国民が働き、税を納めているからです。貴方は国民に『生かされて』いるのです。その民を虐げ、あまつさえ戦の道具にした。先代の王が基盤を作った国政も貴方の代で腐敗させた。すべてを手に入れたつもりでいて、その実すべてを壊している。

――貴方はもうこの国に『不必要』です」


 少女は無機質に語りかけた後、今度は目だけは冷徹なまま紅い唇を釣り上げ、唐突に口調を変えた。



「貴方は『居るだけで害悪な、役立たず』。――ねぇ、貴方がよく私におっしゃっていた言葉ですわよ?エドアルドお兄様」



 少女は片手で素顔を隠すフードをゆっくりと取る。エドアルドも、その他少女に動きを封じられていた者達も一様に息を呑んだ。



 まるで光そのものの様に輝く琥珀色の瞳と髪。色白の肌。女神のごとく美しい素顔。



「これでもわかりませんか?お兄様」


「兄、だと?まさか…いや、有り得ない。そんなことが………」


 金よりも控え目かつ高貴さを纏う琥珀の色。…間違え無く先王と同じ瞳と髪。エドアルドの瞳と髪は母譲りの黒と碧眼だが、実は琥珀は由緒正しき王族の色なのだ。近年ではその王族にもめったに現れない、希少な色であった。


「……メリエル、…なのか?」


 彼にはそんな名の妹がいた。そんな、というのは記憶が随分おぼろげだからである。


「ああ、ちゃんと覚えていたのですね。でもその名はやめて下さい。今の私はリルといいます」


 ふふ、と少女は妖美に微笑む。


「お前が何故、生きているのだ……!」


 妾腹の娘で、離宮の一室に幽閉され居ない者として扱われた少女。丁度王位継承の剣で揉めていたエドアルドは鬱憤を晴らしによく少女のもとへ通った。どこの馬の骨とも知らない女の娘だからと虐げ、暴力を振るう日々。抵抗も殆んどせず、食事もまともに与えられていない少女は痩せこけ、生きた屍のようで気味が悪かった。

 事故を装い、継承権で揉めていた兄弟達を皆殺しにした後、エドアルドは王位に就く。同時に少女と、少女の母親も秘密裏に殺せと命じて。

 それが、少女が十二の歳の頃。


 こんな筈ではなかった。


 目の前の美しい少女(メリエル)と数年前排除した人形(メリエル)はまるで別人である。栄養が行き渡っていない髪はくすんで灰色であったし、顔は殆んど髪に隠され見えず幽鬼のように陰鬱な子供だった。


 それに魔法も使えず酷く非力な、ただの人形であった筈だ。王宮魔道士に優り、騎士を欺いて自分に近づくなど……。


「復讐……なのか」


「復讐?違いますね。確かに、虐待を受け殺されそうになった時は貴方に憎悪を抱いていました。その感情は今も変わってはいませんが……私はこの国の国民を代表して、行動に移しました。そうですね、少し詳しく経緯をお話しましょうか。

 貴方が暗殺を命じた貴方の部下――もっとももうこの世にはいませんね。私の魔力が暴走して彼を殺してしまいました。私はその時初めて魔法を使ったのです。自分の魔力の大きさを悟った私は他の部下達に幻術の魔法を掛け、『メリエル王女は死んだ』『暗殺は成功した』と見せかけました。残った死体は跡形も無く片づけて、『仲間にそんな者はいなかった』という記憶改ざんの魔法も掛けて。

 その後私は離宮から脱出し、暫くは路頭に迷いましたが、孤児院の方に拾っていただきましてね。一年ほどその孤児院で過ごしました。そして一年経ったある日これまた『親切な人』に引き取られ、隣国で高度な教育を受けさせて貰いました。――私は本当に幸運でしたね。愛情をもって接してくれた義父母、それに義弟や義姉達にも本当に感謝しています。

 しかし成長するにつれ祖国の事が気掛かりになっていきました。貴女が王位に就いてからというもの、何かと良い噂を聞きません。一応、私の生まれ故郷ですから。僅かですが、実の母と穏やかに過ごした時期もありましたし。仕事で隣国に行く事になった義父に懇願して一度この国を訪れました。そこで私が見たのは、活気を失った王都、多くの戦争で傷つき憔悴した兵士達。余りの変わりように唖然としましたよ。……それでも国民は懸命に生きていました。かつての私のような容貌の子供は、私が笑うと懸命に笑い返してくれました。もちろん、一部荒んだ輩もいましたたが……それはこの腐敗した国の所為です。一部の貴族が私腹を肥やす為の莫大な税による貧困の所為です。

 国民を代表とか言いつつ、もしかしたら過去の自分に重ねて、そんな子供達を救いたいという私の勝手なエゴかもしれませんが……。それでも、貴方がこの国に不要だという事実は変わりありません」


「ふっざけ、るな!」


 エドアルドが激昂して叫ぶが、リルは愚王を冷ややかに一瞥し、続ける。


「それから更に数年、私はありとあらゆる分野の学問を学び、魔法の研究にも精を出しました。そして再びこの国に帰る機会が訪れ、王宮に忍び込み……謁見の間には結界が張ってありますが、単純構造なのですぐに破れました。後は瞬間移動魔法で貴方の目の前に現れたという訳です。

 さて……貴方の疑問にはすべてお答えいたしました。次は貴方が私の問いに答える番ですよ?お兄様」


「余を失脚させて、その後どうするつもりだ。お前が新たな国王にでもなるというのか?はっ、女が王になど、なれるはずがない!」


「いいえ?新たな王は私ではございません。私は妾腹ですからね。もっと、他に正当な後継者がいらっしゃいます」


「何?」


 リルが首だけを動かし後方に声を掛けると、この騒ぎで不自然な程微動だにしていなかった使者の一人が立ち上がった。その者は静かにリルの近くまで歩み寄り、足を止めると優雅に礼をする。

 エドアルドは更に驚愕した。


「お久しぶりです。兄上」


「クライド、お前も生きていたというのか……!」


 先王と少女メリエルによく似た面立ちと琥珀色の瞳を持つ元第三王子。

 端正な顔に柔らかな微笑みを携えて、青年は丁寧に頷いた。


「クライドお兄様はエドアルドお兄様と同じ正妃腹ですし、文句は出ないでしょう。そもそも、後継者争いではクライドお兄様の方が歳のハンデを背負いながらも優位でしたしね」


「落石に巻き込まれ死亡したとされた私は、実はとある診療所の方に保護され治療を受けていました。そして数年身を隠して兄上の動向を窺っていましたが……そこにリルの養父が私を見つけ出し、リルが協力を仰いできたのでそれに乗ったのです」


 エドアルドが絶望的な状況の中、周囲を見渡せば王宮の魔道士も、騎士も全員が拘束され、或いは気絶させられていた――隣国の使者達によって。


「こ、これはどうなっている。大使殿!どういう事だ!」


「その醜い口を閉じたほうが宜しいですよ、()国王様。――セイレーン王国王太子様の御前です」


 リルは突き付けていた剣を下ろし、代わりに魔法でエドアルドを拘束した。拘束されずとも動けなくなっている彼の傍らで正式な礼をする。


義姉上あねうえ、お止め下さい。僕はあくまで“王太子”であってまだ王位を継いでいません。この場で貴女が畏まる必要はない」


 次々と目にする『現実』に、エドアルドはいよいよついて行けなくなる。


「隣国の……王太子?何故ここに……。しかもあねうえ、だと?」


「ええ。リル……義姉上は、現在セイレーン王国第四王女となっております。他でもない、僕の父、現セイレーン国王の養女です」




 そう。リルを引き取ったのは隣国の国王であった。それも他国の元王女だという経歴を調べ上げ意図的に、といった訳でも無く。単なる偶然でリルは隣国の王族に出会い、その魔法の素質に目を付けられ王の養子にまでなったのだ。勿論、孤児を王族が引き取るなど異例中の異例である。




「後学と他国の視察の為、こうして大使としてこの国を訪れましたが……義姉上の云うとおり、酷いものでしたね。せめて今日、我が国との和平条約に応じるなら見逃して差し上げるつもりでしたが、拒否されては仕方ありません。

 ……我々は義姉上の味方に付きましょう」


「さあ、哀れな愚王様?国民は勿論、一部を除く有力貴族、そして周辺国も貴方の退位を望まれています。もう逃げ場はありませんよ?

 あぁ、大丈夫です。受け入れてくれるのならば貴方を殺したりはしません。大多数の人々は貴方の処刑を求めていますが、私は貴方の様に虐殺を好みませんから。精々、生き地獄でも味わって下さいな」




 この日。王城に愚かな男の絶叫が響いた。

 そして――腐敗しきった王国は、新たな君主を迎えた。




◆◆◆◆◆◆◆◆


 王城の重く巨大な扉が開く。差し込んで来た日光の眩しさに目を細めた。

 

 リルはゆっくりと歩み始める。王城の庭園は良く手入れされていて、美しい花が咲き誇っている。よい庭師がいるのだろう。


 離宮にもこんな庭園があった。もっとも、窓越しに眺めるだけだったが。


 申し訳ないと思いながら、花を一本摘み取る。

 すると後方から声が掛かった。探されていたようだ。


「リル!こんな所にいたのか」


「義姉上!」


 小走りに近づいて来る人影に、リルは先刻実の兄に向けた冷笑とは間逆の『天使』と呼ばれている穏やかで愛らしい笑みを浮かべる。


「クライド兄様。リアム」


 優しげな声で二人の名を呼んだ。白い花を手に持つ少女は神々しい程美しくて、一瞬彼らの動きが静止する。


「義姉上。それは?」


「弔いのつもり。自己満足だけどね」


 リルはそっと瞳を閉じた。脳裏に蘇るのは月が綺麗だった晩。近づく足音に、鮮血の床。自分が殺めてしまった刺客の顔…。

 義弟は眉を顰めた。


「貴女を殺そうとしたあいつ(エドアルド)の部下の事ですか?そんな者をなぜ」


「貴方の言いたいことは分かるわ、リアム。……あの人は本業の暗殺者じゃなかった。私を見て一瞬躊躇したの。でもそのとき私の魔力が暴走した。人を一人殺めてしまった事実は変わらないし、その恐怖は何時までも離れないのよ」


「……………」


 彼女は握りしめる手を緩めた。一本の小さな花は風に煽られ飛ばされる。リルは暫くその様子を眺めていた。


「さて。戻りましょう兄様。リアムも、帰還の準備をしなさい」


「あ、ああ」


「……やっぱりこの国に残るのですか、義姉上」


「ええ。今回の事態は私が筆頭なのだもの。かつて何も出来なかったこの国を、クライド兄様の陰で支えていきたいの。これからはまたメリエルに戻るわ」


 俯いた義弟の顔をそっと掌で包み込むと、温かな体温が伝わる。


「お義父さまとお義母さま、そしてお義姉さま達に宜しくね」


 追い越された背丈。幼い頃のあどけなさはすっかり薄れた、端麗な顔立ちを見つめる。

 それでも何かを堪える時の目は昔のままだ。

 やがて堰を切ったようにリアムは義姉に抱きついた。


「あねう……いや、リル。貴女をあまり姉だと思う事は無かった。お願いだ。貴女がこの国での役割を終えて、僕がセイレーン国の国王となったら、王妃として僕の隣に帰って来てほしい」


 リルの目が大きく見開かれた。


「リアム、まだ十五よね?」


「十五は成人だよ。リルだって十七じゃないか。それに何年か先の話だよ。ねぇ良いよね?そこで固まってる人」


「なっ……おまっ――いや、それは――――――――その前に、お前達ちょっと離れろ!」


 視線を向けられたクライドは展開について行けず傍観していたのだが、リアムの言葉で我に返り今度は慌てふためいた。とにかく可愛い妹と不埒な少年を引き剥がす。リルは呆けた様子だが、リアムは面白くなさそうにクライドを睨む。クライドには生意気な子供にしか見えない。


「私は認めん!」


「一番は本人の意思ですよ。ね、リル」


「え、えぇと、なんていうか……驚きすぎて何も考えられない……」


 言いあう二人の傍で、少女は動揺しながらも、確かに幸福を感じていた。







 後にこの王国は新王の手腕により再建され、平和な国を築き上げたという。

 王を陰から支え、あらゆる方法を模索して国に尽力した王女は、その美しさと慈愛にみちた姿から『聖母』『女神様』と呼ばれた。(本人は苦笑していたという)


 数年後、その王女は隣国の王妃として迎え入れられ、穏やかに、幸せに暮らしたらしい。



 おしまい。


隣国の王様は自国へ帰還中に偶然例の孤児院がある町を通りかかった時、リルと出会いました。王様は魔力を見抜く能力を持っています。

にしても王様が孤児を養女にするってありなんですかね。(無い気がする…)

まあ一緒についてきたリアムがリルを気に入っちゃったっていう裏設定もあるので、そのせいもあるかと。


リルの国の名前出してないな…考え付きませんでした。良い名前あったら教えて下さい。セイレーン国のネーミングセンスもどうなんだって感じですが。そのうちリルの過去とか書くかもです。


クライドはその内セイレーン国の姫と結婚すると思います。(つまりリルの義姉)

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