6話
ギル→主人公と視点が変わります。
……ギル視点……
「魔術師が殿務めるなんて馬鹿なの?死ぬの?」
怒ったように、けれど心配しているのがありありと伝わってくる様子で叫んでくる少年。自分よりも3歳は年下の、あどけない子供。高ランクの魔物と対峙しても堂々と立つその姿に見惚れる。同時に、彼は……いや、彼女だったか。ああ、これは夢なんだろう。
彼女を少年と間違えたまま過ごした夢のような日々。
場面が移り変わり、嬉しそうに迷宮図鑑をめくっている場面に変わる。7歳とは思えない大人っぽい表情を浮かべ、時折嬉しそうに笑う。迷宮図鑑で一体どこに笑う所があったのか、未だに良く分からない。ただ、何となく色々な事を考えていそうなその横顔を眺める事しか出来なかった。
「ギルは私を化け物だとは、言わないのか?」
それは間違いなく彼女の弱音だった。
その圧倒的強さをもっとも恐れていたのは彼女だった。彼女は自分が背負う運命をもう既に知っていたのだ。泣きそうになりながらも、それでも泣く事は今までに決してなかった。
どんなに苦しかろうが、命を狙われようが、恨まれようが、彼女は強かった。俺は彼女をずっと男だと思っていた。喋り方や動作、戦いや服装。そのどれをとっても少年そのものだったからだ。彼女は自分から深いかかわりを持つのを酷く恐れていた。それは、自分が魔王だからなんだろう。
人類に仇なす存在としての自分を……自らが最も恐れていた。
ふと、場面は『獣人の街』の祭りで止まる。夜空に明るい火花が散る。その火花は夜空を彩る。赤・黄・オレンジ……。魔法とも違う、様々な色を出すその夜空の大輪に目が離せなくなる。
「―――花火」
彼女はそう呟いて呆然と火花を見つめていた。その瞳は目の前の夜空よりも、もっともっと遠くを見つめていた。消えてしまいそうな彼女を、俺は必死に繋ぎ止めようとする。夢の中から手を伸ばして彼女を掴もうとするのに、掴めない。
どこにも行かない。彼女はそう口にした。寂しそうに、悲しそうに。
でも俺は不安だった。
場面はすぐに変わった。
「アハハハハ!!かかってこいやぁ!全員まとめてぶっ殺してやるっ!!」
本当に楽しそうに叫ぶその声を聴いて震えあがった。今までに聞いた事もないその声は。あれは、魔王の一端だったのかもしれない。
「ギル……私がギルに刃を向けたら、どうする?」
ベットに横になった彼女が悲しそうに尋ねて来た。俺は、すぐに「そんな事はありえない」と答えようとしたはずだ。彼女はベットから体を起こす。その瞳は黒く、深く濁っており、何も映していない。彼女に胸倉を掴まれるが、怖くて身がすくんで動くこともままならない。
ニタリと口の端を釣り上がらせて、嗤った。そして、彼女は空いた手にナイフを持ち。俺に向かって振り下ろした。
「―――――うぁあっ!?」
ドドド、と心音が響き、体は震え、冷や汗が流れる。夢、夢を見た。色んな物が混じった夢。そのどれもにアルがいた。幸せなもの、苦しいもの、怖いもの。全てが混じっていた。俺の頭に強烈に残ったのは、最後の、俺にナイフを向けたアルだ。
澱んだ、暗い瞳が此方を見つめてくる様子を思い出してブルリと震えた。あの時は、アルは自分の太ももを刺した。あの時俺に向けたナイフは、気のせいだと思ったが、違う。あの時確かに彼女は俺を殺そうとしていた。それを途中で自分の太ももに標的をズラせたのだ。
自分を刺したアルが、安堵の溜息を漏らす。その異常性に震えさえした。魔王として意識を乗っ取られる苦痛がどれ程ののモノか、俺は知らない。だが、悪夢にうなされて、今にも死にそうになっている姿を見た事がある。あんなに苦しそうにする夢を、何度も、何度も、何度も。彼女は、耐え抜いてきた。泣き言も言わない。
それがどんなに辛いかなんて、俺には分からない。分かる訳がない。俺は、先程見た夢ですら泣いてしまうほどに悲しく、苦しいのに。これ以上の苦しみが、彼女を襲っていたのだ。想像を絶するとは、この事なんだろう。本当に、想像すらできない。
俺は呑気に彼女を好きだと考えて。彼女の役に立ちたいと傍にいて、足を引っ張って。俺に、彼女を好きになる資格すらなかったのだと、思い知らされた。
彼女は運命を受け入れ、しかし、出来る限りの力でその運命に抗っていた。誰にも言わず、誰にも頼らず。そして、そんな状態にも関わらず、沢山の人間を救ってきた。
彼女こそ、英雄だ。
なんでアルなんだろう。俺には分からない。なんで。嗚呼、彼女でなければ、もっと早い段階で世界は暗闇に満ちていただろう。彼女が必死に繋ぎ止めたこの世界は、彼女の命と引き換えに救われるのか。なんて滑稽な。
彼女が残したこの武器に埋もれ、彼女の過ごした部屋でただ嘆いた。忽然といなくなった彼女が、またひょっこり現れるんじゃないかって。
魔王なんて嘘だ。信じられない。けれど、納得してしまうほど彼女は強かった。誰も、何者も寄せ付けない。彼女は孤独に戦っていた。
固い床で、彼女が残した武器を眺め、泣いて、寝て、また泣いて。辛すぎる現実から目を逸らした。
ふ、と人の気配に目が覚める。どこか懐かしく優しい雰囲気を纏う人物だった。黄金の髪をしたその男は困惑しきっている。だが、溢れ出す涙は止める事が出来ない。何故こんな男がここにいるのか、すぐにでも怒鳴りつけてやりたかったのに、声が出ない。
平和な所から来た、呑気そうな顔の男。これが勇者だという。……信じられない。『伝説の剣』を見ても、あまり信じられない。とてもではないが、過酷な魔王討伐の旅に出れるような男には見えない。
実際その手も、戦った事がないのだろう、傷も何もない様子だった。
『伝説の剣』の堂々たる態度の方が余程勇者らしいだろう。
こいつがアルを殺す者……だが、不思議と不快感が浮かばなかった。勇者はアルの残していった武器を眺め、辛そうに眉を顰める。恐らく、この武器がどういうものか知っているのだろう。今にも泣き出しそうな顔で、必死に耐えているこの男を見て、もはや憎しみなど生まれない。
アルが賭けた勇者は、心根の優しい者だ。まるっきり他人事であろう、アルの事を想い、苦悩する。関係のないこの世界を助けようと、剣を抜いた男。
試しに殺意を向けてみたが、まるで気付かない。アルなら振り向いて苦笑を浮かべるだろう。アルと比べてこの男は経験が浅すぎる。普通なら、アルと比べる方が間違っている、と断言するべきなのだが……こいつは勇者だ。アルよりも強くなってもらわないといけない存在。
アルを殺さなければいけないという状況に嘆いていたが、今はなんだかこの軟弱そうな勇者の方が心配だった。恐らく、優しいのだろう。だが、それだけでアルは倒せない。多分、勇者パーティーである俺達が全力で掛かっても殺されるだろう。
アルは、それを望まない。死ぬ事を望んだ、殺しに来いと言った。
……俺は仲間として、それに答えなければならないのか。
苦しそうに顔を歪めるヒイラギを見て、また泣きそうになる。
どうして俺がアルを殺さないといけないのだろう。
どうして俺は彼女に何も伝えなかったのだろう。
どうして彼女に何もしてやれなかったのだろう。
後悔だけが俺をしめる。こんな風に思うなんて、旅をしていた頃は考えもしなかった。彼女の傍にいると、ただ……幸せで。頼もしくも、どこか儚い彼女を支える存在になりたかった。
俺は久し振りにアルの部屋から出た。窓の外は、暗雲。あの中心に、魔王がいる。あの空をみるのが辛くて、苦しい。今でもそうだ。あの空を見るのは嫌だった。もうアルには会えない証拠のようだった。
キリキリと締め付けられるような想いだった。涙腺は緩み切っていて、また泣きそうになる。
空から雪が舞い降りる。王城内部は適温に保たれているが、外はまだまだ寒い。
そういえば、2人旅になったすぐに、雪が降ったんだっけ。その冷たい粒を見上げるアルを見て、俺は不安に思った。「ああ……どこかに消えていきそうだ」と。手のひらに落ちる雪のように淡く消え去る。そんな想いが俺をしめて、焦った。
まだ、好きだとも思ってない、女だなんて気付いていない。
なのにドキリとさせられた。その表情が驚くほど綺麗だったのだ。
ふとした拍子にアルとの思い出が溢れだす。その度に、心が揺れる。
俺は先程勇者が不安だと思ったが、それは俺にも言えることだった。まだ、戦う覚悟も出来ていない。でも、もう引きこもる事だけはやめにした。だって彼女はどれだけ辛くても最善を尽くす人だったから。
窓を開けて、手を差し出すと、そこにふんわりと雪が舞い降りる。冷たさを感じる前に、それは解けてしまった。
「俺は……好き、だったよ」
解けた水を握りしめ、呟いた。俺のこの想いも、この雪のように全て溶けてなくなってしまえばいい……そう願って。
「もう、いいの?」
ハッとして顔を上げると、マリアがそこに立っていた。こんなに近くに来るまで気付けない程、俺には余裕がないらしい。
俺は苦笑を浮かべて、マリアに向き直る。窓を開けたせいで、外の冷たい空気が頬を撫でていく。
もういいの?か。そんなの、良い訳がない。けれど、ずっと現実から目を背けるのもダメだと思った。
マリアもそれが分かっているのか、苦い顔を浮かべている。マリアは、少し前からアルの事を知っていた。アルへの態度が変わった時期があった、あの時から。どうして俺にも話さなかったのか、怒鳴りたい気分だった。けれど、それは惨めになるだけだ。言えない理由も、聞かされていた。
魔王を抑えるには、精神的な不安を除く事が必要なのだ。だから、リョウは気付いていたが、アルに悟らせなかった。
分かっている、分かっているが、腹立たしい。何も気づかなかった自分が。馬鹿な自分が。
『……楽しみに、待ってる』
最高の笑顔で、死を願う彼女に、俺は答えなければならない。
溜息を吐いて、マリアと目を合わせる。瞳が不安で揺れているのが分かった。マリアが泣いていたのは知っている。助けようと方法を探していたのも、今なら分かる。でも助からなかった。それが今の現実。とてもじゃないが、受け入れられない。けれど……次にアルと出会った時、その時は確実に殺し合いになるだろう。
「……魔王を、殺すぞ」
俺の言葉にマリアがビクッと震えた。
俺はそのままマリアから背を向けて歩き出す。
……もう泣き喚くのは……やめた。
……主人公視点……
ギルが出て行ったあと、武器を物色する。乱雑に置かれてあるので、探すのは苦労しそうだ。
手榴弾:爆撃
おい。危ないモノがあるぞ。爆発しますよこれ。つか手榴弾とかあるのか……ってでもあれ?なんか俺の知ってる手榴弾と違うな。なんか……紙に見えるんですが?
『紙じゃのう。当然じゃろう』
あれ、当然なの?
『開いてみると分かるが、内側に魔術陣が施してあるのじゃ。あ、開くと爆発するぞ?』
ちょ!危なっ!もうちょっとで開く所だったじゃん!そういうのは先に言ってくれ。……ったく。で、なるほど。こういう攻撃方法もあるのか、事前にこういうの作っておくのもアリだな。
『そうじゃのう。ヒイラギにはモッテコイの攻撃術じゃのう』
それ、暗にそれ以外役立たずって言ってます?
『おや、心が流れてもうたかのう?精進せねば』
ちょ、酷いよっ!?……く、けど反撃する要素がないっ!そうだ、ナイフ投げをもっと訓練すれば役に立つだろう。
『そうじゃ、ナイフを探すのじゃ』
はいはい……。
投擲用ナイフ:土
投擲用ナイフ:火
上級投擲用ナイフ:氷
上級投擲用ナイフ:草
などなど……ナイフ色々あるなぁ。属性付いてる奴はやっぱり炎が出たりするんだろうか。
『そうじゃ。それには自分の使える属性でないと意味がないがな』
そうなのか。まぁ俺は属性沢山あるし、問題ないだろう。ああ、ナイフ練習したら魔術陣とかの本見ようかな。
『向上心があっていいのう』
そりゃどーも。世界が滅ぶってのに見捨てたら軽蔑されそうだからな。勇者王に俺はなるっ。ぐっと拳を握りしめて上を見上げる。
その様子を見たエイリスさんから軽蔑の感情が流れてきたが気にしない。
魔王が自分を殺す勇者のために武器を置いていき、食料も後に現れる勇者の為に置いていった。
そして仲間に号泣される人物……。うっ、胃がキリキリしてきました。
本当に、その魔王とやらを本当に救う手だてがないのだろうか?
柊鏡夜
LV:1
16/勇者/火・水・風・土・光
攻撃力:23
防御力:17
魔法攻撃力:24
魔法防御力:15
魔力:30
『救世主』『神々の祝福』
俺になんか出来ないかなぁ……この『救世主』とか魔王の意識を戻したりさ。そもそも、スキル書いてても効果とか書いてないと分からん。リョウも『魔力箱』を自然に使ってたし。そういや、エイリスさんにも『魔絶善活』っていうスキルが……。
『ふむ?それはなんぞや?』
あれ?本人なのに知らないのか?えっと魔を絶って善を活かすってかいてまたつぜんきなんだけど。
『ほう?我の能力と同じような名前じゃのう。そうか、そんな名前が付いておるのか。我の能力はまさしく魔絶善活じゃろう』
あ、そうなの……。能力名までは知らないが、能力としては知っているのか。
『ヒイラギの能力は不可思議じゃのう。何故そんなものが見えるのか』
うん……なんでだろうね。ゲームのしすぎで発症した病気だと思っているよ。
『ほう?そなたの世界ではそのような病気が?』
いや、うん。厨二っていう病気でね。漫画とかゲームのし過ぎで発症する病気でね。現実と夢物語の区別が付かなくなって恥ずかしい発言をするって病気なんだよ。
『なんと……恐ろしい症状じゃのう』
あ、イエ……そんな大層なもんじゃないんですよ。殆どの人が大人になっていくごとに治っていくんですよ。治った後の屈辱の方が、大抵辛いんですが。
『ほう……そなたの世界も厳しいのじゃのう』
あ、イエ……とっても平和なんです。すいません。
今回の魔王はかなり慕われるタイプだったようだ。辛い。討伐しに行くのが辛い。
『案ずるな、ヒイラギ。その人物ももはや精神が死んでおる故。気にする必要はない』
……うん……そう割り切らなくっちゃやってられないよなぁ……。
もう精神が死んでいるとはいえ、その、良い人だった訳だし。まだ救いがあるなら、助けたいだろう。
まぁ、今の俺じゃ何もできないだろうけど。さっきのギルって人は大丈夫なのかな。泣くほど大切な人。その人を殺す為の勇者パーティーに入っている。
俺なら無理だ。大切な人を殺すくらいなら、俺が死ぬ。死ぬほど、暗くて、重い。おいおい……勇者ってのはこんなに重いものだったか?RPGなんかだと、悪逆の限りを尽くす魔王を殺して一件落着、な感じだ。
魔王が死ねば世界が喜びと希望に満ち溢れ、勇者とかは一緒に旅をした女の子と良い感じになってハッピーエンドってのが定石だろう。でもこれは絶対にハッピーエンドで終われない。
魔王っていうのは、悪逆の限りを尽くす存在。だが、この魔王はもっと残酷だった。残酷なほどに優しかった。人の命を救い、泣かれる程の善人。
やはりその人は魔王なのだろう。こんなに残酷なこと、魔王以外に出来ない。
俺はただ黙って目の前の武器に目を向ける。魔王ってなんなんだよ。どうして、そんな良い人がそんな事になるんだよ。なんていう理不尽。
『そうじゃのう、我が今まで見た中で、最も残酷な魔王なのかもしれぬな』
自分を殺す事を願う魔王。それがどんな覚悟なのか。なに、この重い話。俺じゃこのシリアスに耐えられないよ。勇者パーティー全員が魔王の仲間、か。他の人も落ち込んでいると思うと、先が思いやられる。俺もレベル1から上がんないし。これ、かなり詰んでない?
『だが勇者よ。それでも魔王は殺さねばならぬ……絶対じゃ……かの魔王の為にもな』
……魔王の為にも、か……。その魔王は仲間が生きていく事を願っている。ゆえに仲間も魔王を大切に思っていた。だからこそ、魔王は殺さないといけない。
魔王が善人であるが故に。
勇者ステータス
柊鏡夜
LV:1
16/勇者/火・水・風・土・光
攻撃力:23
防御力:17
魔法攻撃力:24
魔法防御力:15
魔力:32
『救世主』『神々の祝福』
道具箱使用可能。(遠隔攻撃使用可能)
光属性の攻撃魔法不可。