5話
影からチラッと向こうの方にいる人を見つめてみる。現在の場所は王城の図書室。そこで本を読んでいるリョウを見つめている。真剣な面持ちでページを捲る姿が凄く恰好良い。……なんでストーカーの如く影から見つめているのかというと、魔王の手紙を読んだからだ。
2枚目の魔王の手紙には、リョウは黒髪黒目だと言っていた。だが、今見ると確実に茶色だ。これは恐らく魔王が色を変える魔法を施しているからだろう。じーっとリョウを見る。
黒目黒髪はこの世界では忌み嫌われている。それは、魔王が黒髪黒目なせいらしい。実際、黒髪黒目が危険なんじゃなくて、「闇属性」持ちが危険なんだけど。
でもステータスも見えない普通の人にそんなの分かる訳がない。分かりやすい黒髪黒目が迫害を受けるのもある意味分かってしまう。
『どうじゃ?見えるかえ?』
うーん……。リョウの頭を凝視する。ダメだ。ちょっと遠いせいなのかもしれないが見えない。俺の魔眼でリョウにかけられたという魔法を見ようとしているのだ。俺の魔眼には魔法の文字が見える事があるからな。まぁ、見えたとして何ができる訳でもないが……今の時点で出来る事と言えばその魔法を見る事位だろう。
なんせ、魔王の説明では光属性が必要らしいし、今の俺ではとてもではないが扱えるものではない。
「あの、いつまでもそこにいられると少し気が散るのですが」
「うおっ!?」
顔を上げたリョウに声をかけられてビックリする。いつだ?いつから気付いていた?恐る恐る影から出ていく。苦笑を浮かべるリョウ。
「僕に用事ですか?ずっと見ていらっしゃいましたが」
「え、えーと、そ、そうですね」
やべ、ずっと気付いてたの?もっと早く声をかけてよ。俺が馬鹿のようじゃないか。
『実際馬鹿なので問題なかろうて』
エイリスさん辛辣!
泣くよ?いい?俺流石に泣いちゃうよ?
心が崩壊しそうになりつつ、リョウを見つめてみる。
『理への反逆』:色彩変化
リョウの頭に文字がチラついている。これか。『理への反逆』って。なんだか厨二心をくすぐられるな。これが魔王の特殊スキルかな。
ふーん、と言いながらリョウの頭を見ていたので、リョウが首を傾げる。
「えぇと……何か?」
「あ、すいません。えっと。魔王の手紙にリョウの事が書いてあったので」
「え……あ、もしかして」
リョウはそれだけで察したのか、自分の髪と目、尻尾を順に指さしていく。最後に「の事ですか?」と目で語り掛け、コテンと首を傾げる。何ですか、その仕草。狙ってやってんですか?可愛いんですけど。普通の女の子より可愛いよ、あざといよ。この子がヒロインで良いんじゃないかな?……だが、男だ。
エイリスさん、いつも冗談通じませんよね。ジョークですよジョーク。ははは、だからその本気の殺意は引っ込めて貰えますかな?
「そうです」
「……やはり」
俺が頷くと、難しそうな顔で頷くリョウ。
「その事についてですが……出来なくても、もはや僕は構わないと考えています。ですのであまり気に病まず、気楽に考えておいてください」
え、なに?いきなり戦力外通知?いや、うん。確かに何も出来ない自覚はあるけどさ。そんな真正面から言われちゃうと傷ついちゃうな。
落ち込んだ俺を察して、リョウが柔らかく微笑んで首を振る。
「今勇者様が考えているような理由ではありません。ただ、あの魔法は特殊なので……出来る方が奇跡のようなものですので」
そうなのか。この魔法がこの世界でどういう認識されてるか分からなかったけど……色彩変化ってこの世界にないのか……魔王オリジナルか。超!エキサイティ、ごめんなんでもない。
「……魔王が討伐されれば、僕もまた討伐される事でしょう。ですが、それでも良いかな、と考えているのです。アルのいなくなった世界に、もはや未練など……」
そこまで言ってハッとして口を噤む。気まずそうに目を逸らす姿がなんともまぁ、胃がヒートアップしそうだ。
「……すいません」
「い、イエ……」
すげぇ、胃が痛い。どれだけ慕われてるんですか魔王さんよぉ。あの手紙読んでると、この人の事を心配していたんだよな。多分そう言う事だ。今にもこの人は消えてしまいそうな程の精神状態なのだろう。
「ちゃんと、出来るようになりますから。信じて待っててください」
「勇者様……」
あの手紙の魔王は、最期までこの人を心配していたんだ。その人がこんな暗い顔してちゃいけない。そんなの魔王だって望んでいないだろう。
光を扱う魔法らしいので、今の俺では役に立たないのだが……でも放って置けない。ちゃんと光属性の魔法も使えるようになって、この人の髪も変えてみせる。
リョウは俺のセリフに驚いて目を見開いている。そして、眉尻を下げて悲しそうに微笑む。
「勇者様は、お優しい方なのですね……」
そっと、息を吐き出す。か細く、弱々しい呟きで、下手したら前にいる俺ですら聞こえないくらいの声量。辛そうで、苦しそうだった。何故こんな運命になってしまったのか。神というのはどの世界でも残酷なのだろう。
この人は確か、魔王の事を「彼女」と表現していたから、女性なのだろう。もしかしたら、恋人とか、そういった類なのかもしれない。手紙に名前を出すくらいだ。この人の事を魔王が好きでも可笑しくはない。だってこれだけイケメンなんだもんな。
魔王ってそんなに殺さなきゃいけないモノなのか?誰にも魔王を救えないのか?もう絶対に殺さなきゃいけないモノなのか?
『……我も、そんな方法は知らぬ。知っておるならとっくにやっておるよ』
ですよねー。毎度現れる魔王を、エイリスさんはその身でもって滅ぼしている。それがどんな気持ちなのかは分からない。長い時間の中で、魔王復活を待ち、勇者に手にされて魔王を殺す。その為の道具。なのに、エイリスさんには感情がある。道具なのに、不快だとか、呆れだとか、怒りなんて感情が流れてくる。そんなエイリスさんが善人であった魔王を殺すのに、何も思わないなんて事はないだろう。
世界を救う為の道具であるエイリスさんが、魔王を救う方法を知っているならすでにやっているはずだ。そちらの方が余程健全だしな。
図書室は重い沈黙。そして、改めて今リョウが開いている本に目がいく。その開いたページには、解呪だとか書かれている。
……ああ、うん。だよな。この人達の方が余程救いたいって思っているだろうな。探さない訳がないんだ。そりゃもう、全力で探しまくったに違いない。
俺の視線に気づいたリョウが、クスリと微笑む。
「少し話をしましょうか」
姿勢をただし、リョウに向き合う。落ち着きを払い、柔らかい笑みを浮かべる様は、俺と同年代程の人間とは思えない。
老成したような、達観したような、そんな雰囲気で。
異世界ってのは15で成人とか良くある設定だし、そういうものなのかもな。童貞の引きこもりとは格が違う。
「まずは、魔王討伐を快く受けて下さり、有難うございます。改めてお礼を言わせてください」
「あ、いえいえ!」
改まった礼の言葉に狼狽え、胸の前でブンブンと手を振る。まるで偉い人みたいに言われて気恥ずかしい。それに、本当は礼なんて言いたくもないだろう。魔王を殺すための人間に。魔王がいなくなった世界に未練がないとまで言おうとしていたんだ。どれほど魔王の事を想っていたのか……その気持ちが分かる俺としては居た堪れない。この人は強い人だ。俺と違って。
戸惑うような俺の様子を見て、リョウは優し気に微笑んでいる。
「今後の予定の話です」
「はい」
おお、重要な話だな。
「基本的にしばらくは様子見で僕とラインハルト、マリアとで魔物討伐に行って貰います。残りの3名の勇者メンバーはまだ参加できないでしょう……勇者様がもう少し自衛出来る方でしたら、安心して魔王討伐に行けるのですが……そうもいきませんからね」
おっと。俺が戦闘もダメだというのが完全にバレているようだ。何故でしょうね。申し訳ないです。言い訳のしようも御座いません。
「心配せずとも、勇者は俺が守る」
えっ……。
唐突に後ろから色っぽい男の声が聞こえる。振り向くと、いつの間にそこにいたのだろう、ラインハルトが腕を組んで本棚に背を預けていた。
リョウからは見えていたらしく、俺の反応に苦笑していた。
「頼もしいですね、ラインハルト」
「当然だ。それが俺の役目なのだからな」
え、やだ。恰好良い。ちょ、違う。エイリスさん?これ違うの。カッコいい漢に惚れるとか熱い友情とかそういう類のモノだから。男色とかじゃないから?分かります?
ダメだ、突っ込みが不在だからボケをかます事が出来ない。というか、普段なら脳内だけでやってるアホな思考がエイリスさんに筒抜けなのが悪いんだ。早くこのダダ漏れ状態を阻止しよう。俺はホモじゃねぇ!
はっ、というかこの人勇者断ったら斬って来たかもしれない人じゃん。恰好良いセリフに危うくほだされる所だったぜ。
それにしても、戦闘でまるで役立たずっていうのもなー。今使えるのは道具箱くらいとか、すげぇお荷物だな。まぁ、移動中の荷物が少なくなるのは良い事だろう。多分、それってかなり良い事だとおもうんだ、うん。だって食料詰め放題なんだぜ?かなりチートだと思うんだ。それになんと言っても腐らない!時間が止まっているからな。
時間が……む、時が……止まる?
いや、馬鹿か俺。その発想はちょっとアレだ。厨二という病の再発だ。でもやりたい。試さずにはいられない。いや、だって……そう考えたら誰だって絶対やりたくなるだろう。
「リョウ」
「ん……はい?なんでしょうか?」
ラインハルトと向き合って話し合っていたリョウに声を掛けると、やんわり微笑んでこちらに向いた。この人の女子力が高い事は置いといて……。
「あの、ナイフとか持っていませんか?」
「ナイフ……ですか?」
「それならこれをやろう」
きょとんとするリョウの隣にいたラインハルトが抜き身のナイフを放り投げて来た。
「ぎゃわー!」
俺は変な悲鳴を上げつつナイフを避けた。ギリギリせーふで当たらなかった。避けたナイフは、そのまま床へと落ちる。あっぶな!怪我するわ!馬鹿なのかあの人!
そんな俺の様子をきょとんとして見つめる2人。天然なのか。天然キャラしかいないのかここは。普通に空中でキャッチできるとでも思っているのか、馬鹿なのか。俺の戦闘能力は23だぞ。舐めんな。レベル79の投げたナイフなんて当たってみろよ、普通に死ぬだろ。
ドキドキとする胸を撫でながらナイフを拾う。
「有難うございます……」
「「……」」
礼を言ったら、凄く残念な子を見る目を向けられた気がする。きっと気のせいだ。だって俺勇者だからね、うん。別に悲しくはない。
拾ったナイフを見ると、刃がきらりときらめいた。とても丁寧に手入れがしてあり、良く切れそうです。ほんと危ない事するな、あの人。それとも、それが普通なのかな。
「それをどうする気だ?」
「えっと、投げます。投げていいですか?」
「ああ、好きにするといい」
怪訝そうな顔を浮かべながらも頷くラインハルト。この綺麗に手入れされたナイフを投げるのは、少々気が引けるが……まぁ、もう地面に落とされたからな。刃こぼれとかして……ないな。結構丈夫なんですね。じゃあ投げても大丈夫かな。
俺は、道具箱を開いて、そこにナイフを適当に投げ入れる。スッと消える様はいつ見ても不可思議イリュージョンだ。
うろ覚えのジョ○ョ立ちを決めながら言ってみる。
「……時は動き出す」
カン!と天井にナイフが刺さった。あのナイフ切れ味いいな!……ますますぞっとするぜ。さっき避けて本当に良かったよ。
しかし!今成功したよな?これで遠隔攻撃ができるようになるんじゃね?ザ・ワ(自主規制)を成功させた俺にもう怖いものなどあんまりない!道具箱に魔力消費はないし、超便利スキルだと思う。
『ほう、変わった事をするのう。まさか道具箱で攻撃をするとは』
あっ、エイリスさん。褒めてくれるんですか?
『そなたが相当捻くれているというのは分かった』
……褒めてないんですか、そうですか。で、でも凄いでしょう?今の。
「今ナイフが移動しましたね。どうやったんですか?」
リョウが声を掛けてくる。どうやら、2人共驚いてくれたようだ。
俺は、簡単に道具箱を使用した事を伝える。
「そんな事が……」
なにやら難しい顔で考え込んでいるリョウ。そういや、天井に刺さったけど、あれどうやって取ろうかな。誰だよ、天井に刺されとか念じた奴。
俺 で す。
すいません。
天井に刺さったナイフをぼんやり眺めていると、目の端でササッと動く者がいた。ラインハルトだ。トンと地面を蹴って机へと移動し、そのまま高い天井にジャンプ。さっとナイフを抜き去り、重力ってなかったんだっけ?と思うくらい音もなく地面にふわりと降り立つ。
結構激しい運動のように思えたけれど、息も上がっておらず、髪も乱れていない。息をするのと同じくらい普通な事、と顔に書いてある。
俺の所に来て、無言でナイフを差し出してきた。
「あ、有難うございます」
「今度は、届く範囲にやると良い」
ばれてた。取れないのばれてた。何それ恥ずかしい。思わず顔が熱くなる。勇者なのに情けない。というか、この人のレベルが高すぎるんだって。
そりゃこの人のレベルなら空中でナイフを受け取るのも訳ないだろうさ。あんな曲芸まがいの行動を普通に出来るんだから。
でも、2回目はちゃんと柄をこちらに向けてくれた。そういうのは知ってたんだね。投げた時は勇者の実力を知らなかったんだろうな。
「ナイフって数はありますか?たくさんある方が良いんですが」
「……そうだな」
たくさんある方がザ・ワ(自主規制)っぽいかと思いまして。ラインハルトは意味ありげな目線をリョウに向けている。それを見たリョウが真剣な眼差しで頷く。急に訪れた重苦しい空気に首を傾げる。何故、今こんな深刻な空気なの。
「それでは勇者様、ご案内いたします」
「はっ、はい」
リョウの声に背筋を伸ばす。歩き出したリョウの背中を追う。しっぽがゆらゆら揺れてて触りたいと思うのは、場違い過ぎるので言わない。これが可愛い女の子だったらエイリスさんが殺意を向けてこなくなるのに……だが男だ。
案内された場所は倉庫とか武器庫って感じの所ではなかった。普通に客室って感じだな。
その客室の重そうな扉を眺めながらリョウの言葉を待つ。
「……ここが、武器のある部屋です」
ほう、なんでまたこんな所に武器を。
「ここは、アルの部屋なんですよ……武器も、アルが置いていったモノです」
わぁ。そんな遺品みたいな武器、超使いにくいや。しかもここが魔王の部屋か……なんかその言い方だとラスボスが出てきそうだな。まさしく魔王の間だろう。
「勇者の為に置いて行ったものです。好きなだけ使って下さいね」
ニコッと笑う顔が少し寂し気。つ、使い辛ぇええ!背中に変な汗かいちゃうぜ。
案内を終えたリョウはさっさと帰っていってしまった。俺は孤独にこの重苦しい扉を開けて武器を探さなきゃならんのか。まぁ、魔王が置いてった食料は持っているけどね。消費されるモノと腐らない武器とじゃちょっと心持がちがうんだよね。
役立たずの俺が、やっと投げナイフという安全圏から攻撃できそうな方法を見つけたんだ。我儘は言っていられない。もっと別のナイフが良いとか、言っちゃダメなんだろうか……。
豪奢な扉をゆっくり押して開ける。そこには武器が大量に敷き詰められていた。奥の方にベッドも見えるので、本当にここに魔王が住んでいたのだろう。
武器が溢れる空間に恐る恐る足を踏み入れる。
「失礼しまー……すっ!?」
驚いてビクッとなってしまった。中で人が倒れていたからだ。
ギルバート・テレーズ・ドートリッシュ
Lv:62
17/魔術師/『烈火』/火・風
攻撃力:62
防御力:120
魔法攻撃力:658
魔法防御力:469
魔力:5356
『詠唱省略・火』
ちょ、この人死んでないよね?ステータス見えてるから大丈夫……だよね?そろそろと近づいて生きているか確かめに行く。向こう側を向いて横になっているので、回らないと見えない。
透明で吸い込まれそうなほどの銀髪がサラサラ横に流れて綺麗な人だった。光が当たってキラキラしているのがなんかカッコいい。顔も凄く綺麗な人だな。息はしてるっぽい。その顔には涙の跡が残っている。
じっくり見ていたら、人形のような顔の瞼がパチリとあいた。宝石のような輝きを持つ翡翠色の瞳と目が合う。しばらく無言で見つめあう……目と目があう~瞬間好~きだと気がつ、違いますエイリスさん。俺そういうのじゃないんです。ほんの冗談なんです。だから本気で殺そうとか思うのやめて下さい。
黙っているギルバートさんの翡翠の瞳から、ポロポロと透明な水が流れてきた。えっ……ななななな、なんですか!?
イケメンの流す涙超綺麗なんですけど。これがイケメン力という奴か。俺が泣いたら散々な結果になるだろうに、世の中の理不尽に嘆くしかない。イケメンは泣いてもイケメンなのだ。爆発しろ。
しばらく黙って涙が止まるのを待っていると、袖で涙を拭って起き上がった。
高そうな布地に綺麗な装飾が施されているので、この人もかなり位の高い人のように思える。こんな所で横たわって泣いているので、自信はないけど。
「なんだお前、何者だ。無断でこの部屋に入るな」
「あ、う、え……」
さっきまで泣いていた人から容赦のない怒りをぶつけられた。俺を射殺さんばかりに睨みつけている。綺麗な人が怒るとマジで怖い。というか、俺は悪くないんです!無実なんです!リョウに案内されただけなんだよ、ほんと。
俺が狼狽えているのを見て、エイリスさんがやれやれ、と小さく零して人型に変わる。キラキラと黄金に光ってそこに降り立った。
剣が人型に変わる様子を見て、ギルバートが目を丸めている。
「……と、『伝説の剣』?……ってことは、お前、勇者なのか?」
「え、あ、はい」
堂々としたエイリスさんを見て、察してくれたらしい。怒りを鎮めて、俺へと向き直るギルバート。
「……すまん。俺はギルという。勇者メンバーだ、よろしく」
「えっ!あ……どうも、ヒイラギです」
出された手を握り返す。この人、見た目と違ってかなり手がごついようだ。良く見ると、腰に剣がぶらさがっているので、剣も扱えるのだろう。魔術師って書いてあるんだけど、なんだか妙な話である。
でもこの人が残りメンバーの1人か。
……ん?ここは魔王の部屋で、ここで泣いてたって……あ、うん。胃が痛いな。残りのメンバーは魔王を受け入れられなかった者達……だって言ってたからなぁ。
魔王ってのは本当に心底良い人っぽいからな……あれでもうちょっとゲスいところがあったらここまで悲しい思いをする事はないだろうに。なんだかなぁ……。
というか、疑問なんだけど。魔王討伐するのって別にこの人達じゃなくても良くないか?仲間だったんだろ?それってかなり精神的にキツイと思うんだけど。
『ふむ、そうじゃのう……恐らくは不可能じゃろう』
それは、何故?実力があるから?でもリョウに至ってはかなりレベルも低いぞ?ラインハルトは今まで見て来た中で最も高レベルだけどな。
知り合い殺すより、他人が討伐した方が余程いいんじゃないかと思うんだけど。
『……神託は、絶対なのじゃ』
神託?
『そうじゃ。彼らが討伐メンバーから外されないという事は、神託を受けたということじゃろう』
神託とは、神のお告げのようなもので、聖女が聞き取るものらしい。そのお告げは絶対で、神託で選ばれた人間は参加しないと魔王を倒せないとまで言われている。他の人間を追加する事は可能かもしれないが、外す事は危険すぎる。
そんなものがあったとは……俺はこの世界の事情を知らなさすぎる。そんな事情があるから、彼らは嫌でも参加しないといけないのか……まだ見ていない残り2名のメンバーも恐らくそんな感じなのだろう。
神様って……どこまで残酷なんだろうな。どうして知り合いにそんな事をさせるように仕向けるのか……とてもじゃないが俺には理解できない。
俺の召喚も、神託による日時によって行われたらしい。その神託で、今までの魔王も討伐出来たのだから、信用度はマックスだと言って良いだろう。でも、今回ばかりは流石に厳しいと思うけどな。俺だったら例え闇落ちしたとしても、知り合いを殺すなんて全力で拒否したい。
「……ヒイラギ」
「あ、は、はい」
静かに語り掛けられて、ビクッと震える。かつての仲間を殺しに行くこの人の気持ちを考えたら、俺には何も言えない。ましてや、こんな所に引きこもって泣いているくらいだ。
俺は、同じように引きこもっていたことがあるから、痛い程に分かる。
「この武器を使うのか?」
「そ、そうですね。そうさせて頂けたらなって」
「そうか……好きに使うと良い……だから置いてったんだろうから……」
それだけ言って、ギルは部屋から出て行く。……うん、いや、そのね。使いにくいったらありゃしませんよ?いや、探しますけどね。
取り合えず、使えるモノがないか探す事にした。
勇者ステータス
柊鏡夜
LV:1
16/勇者/火・水・風・土・光
攻撃力:23
防御力:17
魔法攻撃力:24
魔法防御力:15
魔力:32
『救世主』『神々の祝福』
道具箱使用可能。
光属性の攻撃魔法不可。
道具箱でザ・ワ(自主規制)出来るようになったよ!やったね!←new!