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23話

 真っ黒な魔王の城を見上げて息を吐く。森も、土も、空も何もかもが黒い。

 城の前に、黒いドレスの少女が立っている。長い黒髪を風になびかせている。


アルリリア/井上優樹

LV:160

15/魔王/火・水・風・土・闇/混濁

攻撃力:70「ストレング」+1207

防御力:32「ディフェンス」+1067

魔法攻撃力:1460

魔法防御力:1570

速さ:102「スピード」+80

技巧:543

魔力:70989

『絶対服従』『理への反逆』


 クスクスと嗤うその瞳は黒く澱んでいる。その圧力にゾクリと背筋が凍った。

 これがゆきちゃん……魔王となってしまった、井上優樹。そのステータスの表示にズキリと胸の奥が痛くなる。

 本当は違う人なんじゃないか、そんな期待がなかった訳じゃない。覚悟はしていたが、いざ目の前に突き付けられると厳しいモノがある。今の姿はゆきちゃんと似ても似つかない……けれど、精神は……彼女の意識はもうないだろう。このまま彼女を野放しには出来ない。

 魔王城は黒くて禍々しい。その敷地内は、魔王の圧力で、妙に息苦しい。というか、160レベルて。魔力の桁も違うんだが。これって引き返した方が良い感じじゃないのでしょうかね。


「ようこそ勇者様」


 ニッコリと微笑む目からは生気が感じられない。

 全員、臨戦態勢を取る。その様子に魔王は小首を傾げる。


「あらあら?挨拶もないの?……クスクス、いいけどぉ?」


 魔王が少し近づいてくる度に変な汗が流れる。こんな状態の彼女を放っておこうと思った自分が馬鹿みたいだった。彼女は、こんな冷たい笑みを浮かべない。これは、「彼女」ではない。

 魔王は、ドレスを摘まんで軽く頭を下げる。


「さぁ、一緒にワルツを踊りましょう?」


 彼女がそう言ったと同時に空一面に魔法の文字がびっしりと並んだ。

 開戦の合図である。


「結界「魔力」!」


 慌てて結界を張る。俺の反応を見て、リョウも結界を口にした。

 結界を張った次の瞬間、雨のように魔法が降ってくる。降り続く魔法の嵐に結界が悲鳴を上げる。

 もうもうと煙が立ち込める中、大量の魔法を俺達は無傷で凌いだ。俺が無詠唱の魔法すらも文字になって見えた御蔭である。俺だけでは抑えられなかっただろう。リョウと、あとマリアも結界に参加してやっと防ぐ事が出来た。

 強い、強すぎる。なんだありゃあ。ドッと冷や汗が沸いて出て来た。視界が煙で最悪の中、魔王は的確に俺達を狙って攻撃を重ねる。魔法が結界にぶつかるたびに結界が大きく震える。


「固まってては話にならん!俺が出よう」

「ラインハルト、だが」

「安心しろ、簡単には死んでやらん」


 ギルが止めるが、ラインハルトが結界から躍り出る。同時に、キィン!と金属の甲高い音が聞こえてきた。剣を交えているのだろう。だが、こちらへの攻撃が止むことはない。視界が悪いので、よく見えない。


「あはははははは!あはははははははは!」


 狂ったように笑う声が響く。甲高くて耳障りだった。煙が徐々に晴れて周りが見えてきた。ラインハルトは魔王と応戦している。あの圧倒的強さを見せていたラインハルトが押されていた。隙を付かれたラインハルトが遠くに飛ばされる。

 次の瞬間にグレアムが斬りかかっていた。


「っと!」


 魔法の文字が浮かび上がったので、それを切り裂く。ドォンという音と共に衝撃が来る。風圧が来て、後ろによろけるが、レイさんががっちりと受け止めてくれた。


「有難うございます」

「礼は良い、それは倒してからだ、行くぞ!」

「……はい!」


 魔法の文字が浮かぶ所に駆けだす。どこからでも湧いてくる魔法。どれでも発動して当たったら大惨事になるだろう。少しでも減らしていかないと、負担が大きくなる。

 魔法を斬りつけていると、バシッと頭に衝撃が走った。衝撃と言っても、気絶するような衝撃ではない。なにか軽くて生暖かいモノが当たったようだ。

 頭に触れると、ぬるっとした感触。濡れた手を見ると、血で真っ赤に染まっていた。


「ひっ」


 地面に転がっているのは、人の手だった。手首から綺麗に切り取られてしまっている。俺の頭に当たったのはこの手だったのだろう。思わず悲鳴が漏れた。だ、だだだだ誰の手だよっ!?

 慌てて視線を走らせると、右手首を失ったグレアムがこちらに向かって来ていた。魔王と斬り合っていたので、やられたのだろう。

 手首が切られているっていうのに、その顔はどこか晴れやかだ。完全にイカレてやがる……。

 いそいそと手首をくっつけて、ロイさんに治療されている。その間、復活したラインハルトが魔王と打ち合っていた。

 シオンさんもひょいひょいと素早く魔法を避け、魔王にナイフを投げている。

 俺も行くか、と思って足を踏み出そうとしたら、グイッと後ろに引っ張られて地面へと転がされた。受け身も取れずに背中を打ったので、思いっきりむせた。


「げほっげほっ!?」


 見ると、クラウドが涼しげな顔で立っていた。俺を引っ張って転がせたのはこの人か!文句を言ってやろうかと思ったが、よく見るとさっきまで俺がいた所の地面が抉られていた。

 どうやら、攻撃されていたのに気付かなかったらしい。それで助けてくれた、という事だ。やたらと雑だったが、助かったので文句も言えない。


「立て、行くぞ」


 言われなくとも。多少打ち付けたが、動けない訳じゃない。立ち上がって、魔王の所へと向かう。

 が、あんまり近づけない。途中魔法の文字がいくつも並ぶし、前へ行けない。


「避けろ!」


 ギルが叫んで、魔王に上級の魔法を投げつけている。ラインハルトが慌てて飛び退き、魔王に当たったように見えた。が、火が消えた所に魔王の姿がない。闇を渡ったのだろう、避けろなんて声かけたらそりゃ魔王も避けるだろうな。というか、魔王はどこ行った?全員に緊張が走る。どこからくるか分からない攻撃。避けられるかどうかも分からない。


「リョウの後ろ!」


 クラウドの言葉で皆がハッとした。丁度、魔王が暗闇から顔を出している所だった。魔王の剣がリョウへと向かう……ミノリが慌てて間に滑り込んでとめた。ガキィン!という大きな音がして、ミノリが盾ごと吹っ飛ばされる。

 その次の瞬間にはロイさんが魔王に斬り込んでいた。スパッと魔王の肩に傷が入る。すぐに塞がったが、確かに攻撃が入った。ロイの攻撃力は相当のモノらしい。

 というか、なんでクラウドは魔王の出る場所が分かった?……スキルか?『察知』のスキルがあったが……まさかそれか?……規格外だな。

 吹っ飛ばされたミノリの所にマリアが駆け寄っている。丁度その後ろに魔法の文字が見えたので、慌てて走って行く。魔法を切り裂いて、そのまま走り抜ける。後ろで爆発する音が聞こえて振り返ると、マリア達は無事にそこにいた。良かった、間に合ったようだ。

 勢い余って走って来た分を戻る。

 ミノリの横を抜けて行こうとして、ミノリを見ると、ガクガク震えていた。顔が真っ青で、今にも倒れそうだ。怪我……はマリアが治しただろうし、これは精神の方か。

 無理もない。あれだけの強さなのだ。レベル160ってチートすぎんだろ。どれだけレベル上げしてたの、ゆきちゃん。確か、人の為に色々やってたっていってたから……敢えて危険な所にも足を踏み入れてそうだ。彼女ならやりかねない。

 俺も本当ならこんな風に震えていたんだろうか。今は妙に頭が冷えてて、落ち着いている。どうしたんだろうな。

 迷いなくこちらを殺しにかかっているのに、妙に落ち着く。彼女が、ゆきちゃんじゃないと確信しているからか。いや、ゆきちゃんで違いないんだろうけど、動いているのはゆきちゃんじゃない。彼女はこんな風に迷いなく仲間に斬りかかってこない。あれは止めなければならないという使命感で満たされる。

 マリアが震えるミノリの背中をさすっていたが、ラインハルトが斬りつけられているのを見て、慌てて立ち上がって向かって行った。

 これは戦場だ。様々な所で魔法が発動し、逃げ惑い、怪我をする。地雷がそこらじゅうにあるようなもんだ。いや、手榴弾を至る所に投げつけられているようなものか?どっちでもいいが、危ない事に変わりがない。

 発動してしまった魔法は、暴発した魔法より威力が高く、的確にこちらに向かってくるから性質が悪い。なるべく切り捨てて発動させないようにしないと。その為には、俺の魔眼が必要不可欠だろう。

 日本に住んでいた時は、こんな風に戦うとは思ってもみなかった。テレビ見て、漫画読んで、笑って。なのになんでこんなに冷静なんだろう。

 はぁ、と息をついて自分の手を見ると、僅かに震えていた。汗も凄い。……おお、冷静だと思っていたら、俺も震えていたよ。まぁ、ミノリよりはマシだけど。これなら、戦えない訳ではない。ちょっと汗で剣が滑りそうだけどな。滑り止めとかないのか?


『大丈夫かえ?』


 大丈夫ですよ、たぶんですけど。

 カチカチと歯がなったが、噛みしめてとめる。

 また戦場へと足を踏み出そうとしたら、くいっと服を引っ張られた。地面に這いつくばったミノリが服をつかんだようだ。


「えっと……大丈夫?」

「へい、き。平気……ちょっと立つの手伝って」


 えっと、それは平気ではないのでは。まぁ手伝いますけども。この子もまだ13歳なんだ。震えるのも仕方ないだろう。でも、そんなに怖いなら付いてこなくても良かったのに。そんなに父親の仇が討ちたかったのか。

 ミノリは俺の体を使ってよろよろと立ち上がると、パシパシと顔を叩いて歩き出した。俺もそれに付いていく。

 戦場は青い炎と赤い炎が入り乱れている。

 ラインハルトとギルが背中合わせで立っていた。……え、やたら恰好良いんだが。ギルの銀の髪が赤く耀いている。

 互いに周囲を警戒している。

 見回すと、魔王の姿がない。どうやら闇を渡っているようだ。俺も警戒しておこう。


「勇者、右!」


 クラウドの声が聞こえて、慌てて剣を右に振るう。何も見ずに振ったのだが、丁度魔王の剣とぶつかったようだ。……これ、慌てて振らなかったらどうなってたんだろう、どう思うと冷や汗がぶわっと出て来た。

 力任せに剣を払われる。切り返して剣を振ろうと思ったが、魔王の方が若干早い。その暗い瞳と、笑みにゾッとした。これが魔王……!

 切られる―――!


 次の瞬間、木に叩きつけられていた。ズキズキと当たった体が痛むが、どこも切られてはいない。

 魔王は?そう思って探すと、グレアムと斬り合っていた。

 あれ、なんか全体的にヒリヒリする。なんでだろ。

 マリアが慌ててこちらに走って来た。俺の頭に手を乗せると、ほわりと暖かい物に包まれた感覚がする。


「えっと、さっきどうなりました?」

「切られる、前に。ギルが魔法で、飛ばした」


 ……ああ!このヒリヒリしてるのは火傷か!さっきのやばかったもんな。切られてたら頭から真っ二つだったもんな。荒っぽ過ぎる気がするが、助かったので有難い。

 ……死ぬかと思った。ラインハルト達はあんなものと打ち合っていたのか。光移動する暇もなかったぞ。

 マリアの回復も終えて、立ち上がって戦闘へと向かう。

 すぐ近くで氷魔法が発動したようで、鋭い氷の矢が飛んで来た。ぬわぁああっ!必死で氷を切り落として、避ける。どれでも当たれば大ダメージを受ける。

 避けていたのだが、途中で壁に阻まれたように攻撃がやむ。あ、結界か!忘れてた!結界するべきだったな、今の。やべぇ、そういう咄嗟の判断力がない。かなり焦っているようだ。落ち着いて戦わないと。ドキドキと変な音を立てる胸に手を当てて深呼吸する。

 パッと顔を上げると、リョウと目が合った。この結界はリョウのものだろう。少しにっこり微笑まれて、目線を外した。その口はずっと詠唱を口ずさんでいるようで、止まる事はない。

 ラインハルトやグレアム、ロイが離れている良いタイミングで魔法を飛ばしているのが本当に凄いと思う。

 他人の関心ばかりしている場合じゃない。俺もやらないと。魔術陣を落とすタイミングが分からない。魔物相手だと、量が多かったので空いている魔物に落とせば良かったんだが……これは難しい。

 タイミングを間違えると仲間に被害が及ぶ。しかし、タイミングを掴んで落とさないと、光属性魔法で大ダメージをくらわせる事が出来ない。

 僅かな合間に投げ込んでみる。被害が怖いので、上級は投げられない。丁度シオンさんがナイフを投げるタイミングに合わせる。


「うおっ!?」


 突然目の前で魔法の文字が躍る。慌てて斬りつけて崩す、が、その文字の魔力量が上級だった。目の前が真っ白に染まった。慌てて光移動をしようとするが、気が付いたら地面に横たわっていた。

 遠くで戦闘が行われている。あれ、こんな所に来ようと思ったっけ。

 立ち上がろうと思ったが、立てない。腕が、動かない。足も……感覚がない。

その事実に冷や汗が出て来た。

 え、今どういう状態なんだよ。もしかして移動が間に合わなかったか。え、でも痛みがないんだけど……え、まじで大丈夫なのかコレ。


「ごほっ……!」


 口から何かが溢れてきた。え、まずい……これ血なんじゃないかな。地面に染み込んでいく色は、やはり赤い。口の中も鉄の味が広がっていく。

 マリアが真っ青な顔でこちらに駆け寄って来る。

 頭に手を置かれて、ふわりと暖かいモノに包まれた。

 その瞬間、激痛が体を走る。


「ぐあっ!?あああああぁっ!!」


 本当はのたうち回りたい程だったが、動かないのであまり暴れられない。声を上げると、口からまた血が溢れた。血が肺に入ったのか、むせて苦しい。


「動か、ないで!……バインド!」


 その魔法を唱えられた瞬間、僅かに動いていた体が縛られた様にピタリと止まった。

 そのまま激痛に耐える。永遠のようにも感じる苦痛だった。マリアが攻撃しているんじゃないかと考えもした。もうやめてくれ!と叫んでしまいたかった。

 しばらく治療すると、痛みがスッと収まった。


「はぁ……っ!は、げほっ!」


 胃に残っていたらしい血が吐き出される。真っ赤になった自分の手を見てビクッとした。自分のいた地面は、血の色に染まっていた。どれ程の怪我をすれば、これくらい出血するのか……その様子に手が震えた。

 ……今の、死にかけた、よな。魔法を斬りつけてなかったら即死だった。日本でも今の怪我は死んでも可笑しくない程だったのではないだろうか。聖女の回復魔法ですぐに血も止まるし、腕も生える。魔法というのは、理解の範疇を超えている。

 マリアはぐいと俺の腕を引っ張った。


「行こう」

「……はい」


 震える足を運んで戦場へ行く。まだまだこれからだ。多少死にかけたくらい問題ないだろう。自殺をしようとまでしていたんだ、今さら怖がるな。震える手を握りしめて、歩く。

 剣を構えて、魔法文字が浮かぶ場所に走り出す。ドォンドォンと魔法が暴発する音が聞こえる。

 魔王に目を向けると、何も映さない暗い瞳と目が合い、凍り付く。

 ああ、魔王だ。

 彼女は魔王だ。

 だから殺さないといけない。俺が死んじゃいけない。


アルリリア/井上優樹

LV:160

15/魔王/火・水・風・土・闇/混濁

攻撃力:70「ストレング」+1067

防御力:32「ディフェンス」+986

魔法攻撃力:1460

魔法防御力:1570

速さ:102「スピード」+67

技巧:543

魔力:59890

『絶対服従』『理への反逆』


 削れている、僅かだが、確かに削れて行っている。このまま順調に削れば、倒せる。

 魔王の圧力で肌がピリピリと痛む気がする。

 俺は魔王に近づかない方が良さそうだ。前衛組が攻撃して、俺は魔法を叩きつぶそう。後衛と中衛が援護してくれるだろう。

 レベル差が倍もあるとか聞いてないぞ。ストレングやディフェンスの魔法の効果がある程度減らないと俺には厳しいかもしれない。ロイさんとかよく近づけるな……。

 火花を散らして猛然と斬り合っているグレアムが、とてもイキイキしている。あれはマネできまい。マネしたら死ぬな。

 また魔法を斬りつけて暴発させる。何回やったかもう数え切れない。魔法を斬りつけても、少しずつしか魔力が減らない事に苛立ってくる。もう腕も重くなってきた。


 どれだけの時間が経ったのだろう。

 全員、疲労の色が隠せない様子だった。グレアムでさえ汗をかいているのだ。


『……強い』


 エイリスさんの言葉に俺は心の中で何度も頷いた。強すぎる、流石は魔王と呼ばれる事はある。

 魔王の方は、魔力が削れていると言っても、まだまだ余裕のある表情を浮かべている。

 にやりと魔王が口を歪めて嗤う。不愉快極まりない笑い方だった。

 パチンと指を鳴らす。その行動は良く分からなかったが、全員警戒を強めている。

 魔王の行動にばかり目をかけていて、気付かなかった。薄暗いこの場所が、さらに暗くなる。上を見上げると、巨大な岩が俺達に襲い掛かってきている所だった。


『……移動をしろっ!』


 その声でハッとして光移動をする。移動し終えた時、後ろで岩が地面に埋まっている所だった。あの範囲にはグレアムやロイさんなんかもいたはずだ。まさかやられたのだろうか。

 変な汗が沸いてきた。もう何度も汗をかいているせいで気持ち悪い。が、そんな事に構っている余裕などあるはずもない。Sランク冒険者がやられると、状況はかなり不味い事になってくる。彼らが止めている御蔭でまだやりあえているのだ。いなくなったら絶望に等しい。

 岩の魔法がさらさらと消え去り、魔王の姿が見えてくる。そのにこやかだった顔から、スッと表情が消えた。

 次の瞬間、グレアムが俺の横を軽やかに走り抜けていく。驚いて後ろを見ると、ネーヴェが仲間と共にそこにいた。そ、そうか。ネーヴェが仲間を移動させたのか。

 ロイさんがこちらに歩み寄って、手を差し出してくる。俺は僅かに首を振り、自分で立ち上がる。


「行きましょう。何も不安がる事はありません。強力なサポートがいるのですから」


 ネーヴェか。本当に危なくなったらネーヴェが助けに入る。そういう算段だ。なら安心して背中を預ければいい。いわば魔王の分身だからな、簡単には死なないだろう。あまり積極的は参加して欲しくない所だ。魔力が尽きれば死ぬのだから。


「……魔王の魔力残量は?」


 皆が戦闘へと戻る中、ネーヴェがそう耳打ちしてくる。俺は魔王のステータスを確認して、躊躇いがちに返答する。


「……52140」

「5ま……!?……うん、まぁ何とかなるだろう……」


 ネーヴェがぎょっとして、苦笑いを浮かべる。そうなるわな。そもそも桁が違うんだし。戦闘前は7万だったなんて言えない。

 ポンポンとネーヴェが俺の背中を叩くと、腕のだるさが抜けた。回復魔法でも使ったのか。


「ネーヴェ……お前あんまり魔法使うなよ」

「……ふ」


 俺の言葉に、嬉しそうに笑ってから魔王に目を向ける。


「それが出来るなら苦労しない……そうだろ?」


 確かにそうだ。魔王はとんでもなく強い。Sランク冒険者3人、無詠唱魔術師を相手にしても平然と笑っている。ネーヴェの出番がないとは言えない。ギルの魔力がだいぶん削れているのだ。リョウはまぁ……さっきからずっと0なので分からないが、こちらも減っているだろう。

 ネーヴェの表情がきゅ、と引き締まる。


「……行くぞ、俺も出る」

「……」


 行くな、とは言えなかった。

 ネーヴェがどれ程の魔力量で作られたのか知らない、これまでにどれ程の魔力を消費したのかも分からない。ステータスの表示もされていない。つまり、いつ消えるか分からないという事。

 でも彼が参加してくれないと、魔力総量は確実に負けているだろう。

 ゆきちゃんと同じ姿をした彼がいなくなるのは、きつい。魔王という本物のゆきちゃんを討伐している状況ってのも、かなり精神的にやられる。

 もう、訳が分からない。早く終わって欲しい。

 こんなに辛い事、はやく終わらせたいのに。


 彼女の姿をしたネーヴェの背中を追い、また戦闘へと足を運ぶ。

ヒイラギ鏡夜キョウヤ

LV:70

17/勇者/火・水・風・土・光

攻撃力:570

防御力:421

魔法攻撃力:669

魔法防御力:322

速さ:102

技巧:175

魔力:4243

『救世主』『神々の祝福』


道具箱使用可能。(遠隔攻撃使用可能)

念写スキル使用可能。

光属性の攻撃魔法使用可能。

回復魔法使用不可。

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