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15話

 神薙さん来てから、料理担当が神薙さんになったよ、やったね。……虚しい。

 俺が若干ヘコんでいると神薙さんが苦笑して励ましてくれる。


「柊くんはまだまだ旅に慣れていないでしょうから、こちらではなく、戦闘の方に力を入れてくれると助かります」


 食材が腐らないだけでも助かっている、と微笑まれた。今は季節が変わって、夏だ。というか、夏とかあったんだな。異世界でも春夏秋冬あると、ちょっと違和感を感じる。

 でも、今なら光属性の魔法も使えるようになったし、攻撃の幅も広がるかもしれない。

 実際、魔術でも光魔法の付与が付いているらしく、魔物に触れた途端に光って爆発するようになった。

 普通なら自分にダメージが来る事はないらしいので、俺が前回ダメージ食らったのはおかしいらしい。まだちょっとだけ精神力が足りないか……。

 まぁでも、これは、大きな進歩だろう。

 そういえば、魔王の特殊能力を回避するために、光属性の結界的なものが必要だったよな。今なら作れるだろうか?……でもフラッシュは目に痛いからな。どうしたもんか。

 うーん、あ、そういえばリョウの髪の色の問題もあるんだったな。夏になってもまだまだ魔法を保ててるって相当強固な魔法だな。でも、どんなに強固な魔法でも、いつか切れる。練習しておいて損はないはずだ。光属性の魔法の練習は、かなり疲れそうだ。主に、目が。サングラスってなかったっけ……?

 これはひたすらに目に優しくない。

 それにしても、リョウの髪が少し伸びてきて、ますます可愛さに拍車をかけてるな。なんだあれ。切らないのかな?



 休憩時間は他の人の迷惑にならない所で光属性の練習。なかなかどうして上手くいかないものである。精神力を下さい。こう、元気玉のように沢山の人達からちょっとずつ集める的なモノがあればいいのに。

 戦闘を繰り返しつつ馬車を走らせると、道らしい道が無くなって来る。馬車を通らせるのが難しいように思う。そこでラインハルトは馬車を止めて地面に降り立つ。


「ここからどうするんですか?」

「ああ、結界を開けて入ればまた道が出来る。ちょっと待っててくれ」


 ラインハルトが森をうろうろしている。石に触ったり、木に触ったりしている。その度に口を動かしている。手順を踏んで結界を解いているんですね、分かります。

 無駄にカッコいいな。ラインハルトがイケメンだから余計にその動きが恰好良く見えるよ。俺がやったら多分間抜けに見えるんだろうな。流石イケメン何してもイケメン。爆発しろ。

 そんな事を考えていたら、目の前が光った。その光の先に、道が続いている。


「待たせたな。行くぞ」


 颯爽と馬車に飛び乗り、手綱を握って馬を走らせるラインハルト。光のゲートを通り抜けると、景色が変わった。今までは普通のちょっと薄暗い森だったのだが、かなり明るい森に変わった。色も鮮やかだ。

 鳥がさえずり、木々が揺れて心地よい。おとぎ話の妖精の森を連想させる穏やかな空気が流れている。俺は馬車から顔を出してキョロキョロする。

 周りはとても綺麗なところだ。凄いな……。ここは魔物にはまだ侵略されていないんだろうな。というか、結界張ってあるんだから、当然か。

 複雑な手順を踏まないと入れない『ダークエルフの里』に胸が熱くなる。


「随分と……なにか感覚が違いますね」


 そう言ったのはリョウだ。その言葉に頷いたのはラインハルト。

 どうも、聴覚や匂いが感じにくくなる結界が施されており、ダークエルフだけは感覚が鋭敏になるのだそうだ。その為、獣人のリョウは感覚が鈍くなってしまっているらしい。

 人間の俺には分からなかったが……でもなるほど言われてみれば確かに周りが静かだな。これは遮断されているせいか。


 ダンッ!


 俺が覗いていた馬車の窓のすぐ横に矢が刺さった。


「うわっ!?」


 驚いて顔を引っ込めて、馬車の中で転がった。仲間が若干の憐みの目を向けて来て、心に大ダメージを負った。大丈夫ですか?という情けの言葉がさらに刺さる。


「ルリィか」

「あららー?随分と懐かしい顔じゃないのー?」


 外でラインハルトが会話している。恐る恐る外に顔を出して様子を伺おうとするが、リョウに頭を掴まれて止められた。


「今は出ない方が得策かと」


 小声で耳元で囁かれる。え……やだ。トキめいちゃう。嘘です。ごめんなさいエイリスさん。不快な思いをさせてごめんなさい。


「なーに?なんで人間なんて連れて来てんのー?」

「事情があるんだ。……まぁ、俺だけ来ても良かったんだが、説得する手間が省けるかと思ってな」

「せっとくー?なに?今度は何やらかすのー?」


 妙に間伸びた喋り方をする女性だ。だが、声にトゲがある。


「そうだな……ある意味やらかしに来た。村長に会わせて貰おう」

「人間にかぶれたあんたの言う事聞くとでもー?」


 ピリッと空気に緊張が走る。そして弓を絞る音が聞こえる。


「……この村は本当に世界の動きに疎いな」

「なーにー?別にそれはそれでとっても素敵な事だと思うけどー?」


 心配になって覗くと、案の定ラインハルトに女性が弓を引いていた。青紫の長い髪をしたダークエルフだ。美しくしなやかそうな体つきをしている。

 エルフって胸小さいイメージあったけれど、あの人はでかいな。いや、やましい気持ちで見ていたわけではない。ただ、凄いメロンだな、と。

 女性は険しい表情でラインハルトを睨みつけている。


「世界に魔王が現れたんだ」

「えっ」


 ヒュッ!


 驚いた表情を浮かべた女性は手を滑らせて弓を離してしまったようだ。


「お前……相変わらずだな」


 ラインハルトは呆れた表情を浮かべてその弓を正面から切り捨てていた。その剣を鞘に収めて女性に向き直る。


「狙った獲物を当てる事が出来ずに、狙っていない相手に当てるのは今も健在のようだな、ルリィ」

「むー兄さんが帰ってくる前に直す予定だったのにー」


 先程の剣呑な空気が嘘のように拗ねた顔を浮かべる女性。なんだあの顔……可愛い。少しキツイ印象を受けるのに、そんな顔をされるとギャップ萌えしてしまう。


「だからって勇者を射るな。ルリィだから当たらなかったから良かったが」

「それって貶してるでしょー?っていうか……さっきの金髪が勇者なのー?兄さんより動き鈍いなんて大丈夫なのー?」


 うっ……。やめたげて。そんな美人な顔で言わないで。


「それを言うと勇者がまた拗ねるからやめてやれ。まだ成長途中だ。見込みはある」

「そーゆーもんー?うーん、まぁどーでもいーけど」


 どうでもいいっすか……そうっすか。ガラスのハートに矢がどんどん刺さっていく。


「そんちょー怒ってるからねー?人間も連れて来て、さらに怒っちゃうから大変かもよー?」

「分かってる」


「でさー?やっぱりアレ取りにきたのー?」

「そうだ」


「そーだよねー。そりゃそーだよねー。うーんでもなー」

「……なんだ?」


「あれ、そんちょーが外に持ち出したみたいだよー?」

「……なるほど。道理で気配が薄い訳だ」


 納得したように頷くラインハルト。


「どうやら、気配を察知しにくい場所に移動させたようだな。まぁ、村長を吐かせればいいだけだ」

「まー上手くいくといいよねー?じゃーついてきてよー?」

「ああ」


 再び馬車を走らせて進む。少ししたら、ダークエルフ達が沢山いる村にやってきた。皆さん見目麗しいですね。褐色なので、色気がある方達が多い事多い事。

 馬車が珍しいのか、人間が珍しいのか、興味深そうに見てくる。


「ルリィ……どうした?こいつら……あ?ラインハルト?」


 ガタイの良い男が驚いた声を上げる。


「……久しぶりです」

「お、おう……なんだ。お前急に帰って来て」


「村長に話があってきたんです」

「あー……そうか。まぁ頑張れ。村長は未だにお前を許しちゃいないからな」


「はい」


 ガタイの良い男に深々と頭を下げるラインハルト。その様子を少し寂しそうに見つめる男。そんなやり取りを終えてまたしばらく馬車を走らせると、村長の家に到着した。


「はい。そんちょー宅にとーちゃーく」

「ああ、悪いな」


「べっつにー?ただ、気合は入れておいた方がいいかもねー?」

「はは、そうだな」


 ラインハルトは思い出しかのように笑った。その様子にルリィは目を丸めた。


「兄さん……そんなふーに笑えたんだねー?でも……そっか。子供の時には良く笑ってたもんねー」


 しみじみと喜びを噛みしめるように笑むルリィ。


「そかー。そんちょーは許さなくても家族はみーんな兄さんの事許してるから、いつでも帰ってきていーんだよー?父さんにも、さっきの笑顔見せると、きっと喜ぶよー?」

「そう……か」

「そーだよー?何を遠慮してるのかしらないけどさー?家族なんだから。ラインハルトはラインハルトでしょ?」


 ふふ、と笑むルリィはとても美しかった。

 ルリィの頭をわしゃわしゃと撫でるラインハルト。


「ちょっとー!髪ぐちゃぐちゃになるー!」

「遠慮はいらないんだろ?」


 くく、と可笑しそうに笑う。とても嬉しそうだった。穏やかな笑顔から、確かに家族の愛情が感じられる。


「そーだけどー!ぐちゃぐちゃにすんのはやめてよー!」


 和やかな空気が流れる。ルリィは大人っぽい見た目の割に少し子供っぽい所があるみたいだ。そこがギャップ萌えポイントである。


「帰ってきたようだなー!この忌み子がー!!」


 大声をあげて現れたのは藤色の髪をしたご老人だった。家の屋根で仁王立ちしている。


「……そんちょー……」


 ルリィが呆れた顔でそれを見やる。あれが村長なんですか。なんか随分と……。いや、うん。元気っすね。村長のセリフにリョウがピクリと顔を顰めている。


「貴様のような異端何故帰ってきた。こちらはお前がいなくなって随分と平和だったぞ」


 はーはっはっは、と高笑いをしている。しかし村長は足を滑らせて屋根から落ちた。


「うわぁっ!?」


 すかさずラインハルトが村長を受け止める。


「でぇい離さんか!穢れるわい!」


 そのセリフにラインハルトは特に気にした様子もなく無感情に村長を見つめている。むしろリョウの方が殺気立っているのは気のせいだろうか?あ、忌み子って言われたから……かな?リョウは黒の忌み子だもんなぁ。怒ってるリョウがちょっと怖いな。

 ラインハルトは村長をそっと地面に下ろす。すぐさま村長はラインハルトから距離を取る。


「そんなに心配しなくても、剣の場所を言えば、すぐに出て行く」

「ふん、やはりそれを取りに来たか。だが残念だったな!もうアレは儂ですら手が届かん場所にある」


 余裕の笑みを浮かべて踏ん反り返る。其れをただ淡々と見つめるラインハルト。


「それは、どこだ?」

「『業火ごうか炎山えんざん』じゃ!」

「なっ……!?そんちょーそんなところにどーやって!?」


 その言葉にルリィが驚いた声を上げる。えっと……エイリスさん。『業火の炎山』ってどういう所か知ってる?


『そうじゃのう。火の精霊が集う、とても熱い山じゃ。人には足を踏み入れる事も叶うまいて』


 えっ……そんな所にどうやって剣を持って行ったんだ?


「ふふん、儂にかかれば精霊に願いを叶えてもらうのも容易いのじゃ」

「そんちょー大人げなーい」

「五月蠅いぞルリィっ」


 子供のように口喧嘩をする村長とルリィを無視してラインハルトは身を翻してこちらに向かってくる。


「だ、そうだ。もうここに用はない。行くぞ」

「ちょ、兄ーさん!?」

「悪いルリィ。こっちも急いでるんだ。ありがとな」


 すぐにラインハルトは俺達を連れて村長宅から出る。すると、玄関の前に先程ラインハルトに声を掛けたガタイの良い男が立っていた。困惑しきった表情で、口を開閉している。

 ラインハルトはチラッとだけ視線を向けるが、すぐに前を向いて歩き出す。歩き出したラインハルトの背中に、男は慌てて声を掛ける。


「もう……いくのか?」

「……ええ」


 声を掛けられて、僅かに振り向いて返答するラインハルト。真っ直ぐに顔を見合わせる事はしない。


「……帰ってこないのか」

「……生きていたら、いずれ」


 そう言ってラインハルトは歩き出す。男はまた声を掛けようと思ったらしいが、口を閉じる。悔しそうに唇を噛みしめ、若干目が潤んでいる。


「勇者様、行きますよ」


 リョウにそう声を掛けられて慌てて歩き出す。


「生きて……必ず生きて帰ってこい」


 小さく男が呟いたのが聞こえた。わぁ、なんだかこっちも重い。



 明るい森から通常の森へと変わる。結界を抜けたようだ。


「ラインハルト。『業火の炎山』に行くつもりなのか?」


 ギルが難しそうな顔で尋ねると、ラインハルトは重々しく頷く。


「ああ、あれはどうしても必要だからな。今の俺じゃ、魔王様とは渡りあえない。だったら、炎山で焼かれ死んだ方がマシだろう」

「……正気か?」


「勿論だ。彼女は強いからな。強さは必要だろう」

「だからって死ぬ気で行くのか?」


「ああ。別にお前らは付いてこなくていいぞ。流石に危ないからな」


 ラインハルトの迷いのない顔にギルは大きく溜息をついた。


「……死ぬ必要性を感じない」

「……行くな、と?」


「ラインハルト、俺の二つ名を忘れたのか?」

「……嗚呼、成程。失礼、失念していた」


「勝手に突っ走ろうとするな。そんな所、似なくていいんだよ」

「そんな褒めるな」


「褒めてねぇ!」


 言われて嬉しそうにニヤけるラインハルトを怒鳴りつけるギル。


「伊達に火を扱って来た訳じゃない。まぁ、安心しろ。というかその近くに行けばその剣の場所は分かるのか?」

「言い切れないが、恐らく近くに行けば分かるとは思う」


「そうか、任せたぞ」

「此方こそ、宜しく頼むぞ『烈火』殿?」


 ふっと笑いあう2人。そこには確かな信頼が感じられる。やっぱこれってBLゲーなんでしょうか。

 ほほう、烈火という二つ名持ちなのか。あれ?ギルのステータスにそれ書いてあったよな?


ギルバート・テレーズ・ドートリッシュ

Lv:64

17/魔術師/『烈火』/火・風

攻撃力:64

防御力:124

魔法攻撃力:685

魔法防御力:484

速さ:69

技巧:257

魔力:5798

『詠唱省略・火』


 やっぱり書いてある。そっか、これって二つ名なのか。わぁ、厨二心を擽られるなー。昔ハマったもんな。今や黒歴史だけど。でもこっちの世界の人は良いよねぇ。二つ名持っててもカッコいいもの。イケメンっていうのもあるけれど。やっぱり顔って大事だよね。

 良く火属性を持つ人は赤い髪とかあるけど、この世界は属性は関係ないんだな。ギルの涼しげな銀髪はどちらかというと水とか風属性が似合いそうなんだけどな。氷属性だったら最強だったな。うん。

 何が最強なんだと問われても困るけど。何となくなんだよ、うん。


「凄い……これが勇者パーティーなのね。『業火の炎山』なんて行く人間なんていないと思ってた」


 ミノリが感動したように呟く。


「そうですね。僕も行くことになるなんて思っていませんでしたが」

「同意」


 リョウとマリアも頷く。うーん、そんな所に行って本当に大丈夫なんだろうか?確かにギルの魔法は強力だけどさ。あ……と。待てよ?この世界は無詠唱を行うのに精霊の王の加護がいるんだよな?そして、王に愛されなくても精霊達の加護があれば詠唱を省略出来ると本に書いてあった。ギルは詠唱省略の特殊スキルを持っている。

 という事は?彼は火の精霊の加護を持っているという事なのだろうか?精霊なんてこの世界に来てから見ていないけれど、どうなんだろう?火の精霊の加護があるなら確かに行けそうだ。

 ギルも自信がありそうだし、多分そうなんだろうなぁ。やっぱり勇者パーティーに入るだけの実力者は違うな。二つ名も持ってるし。俺とはエライ違うな。



 俺達は『業火の炎山』に向かう事となった。『ダークエルフの里』のさらに北にあるという。それでも魔の森とは隣接してあるので遠い訳ではない。

 ラインハルトと共に生まれた剣がラインハルトの元に戻ると一体どれほど違うのだろう。今現在の状態でも十分強いと思っているんだけど、さらに強くなるのか。末恐ろしいな。俺は、なんかもうちょっと強くなれないだろうか?勿論光属性の練習はしてるし、念写もしてるけど。

 ……仲間が強すぎてつらい。

ヒイラギ鏡夜キョウヤ

LV:36→37

16/勇者/火・水・風・土・光

攻撃力:299→306

防御力:232→240

魔法攻撃力:324→332

魔法防御力:148→152

速さ:56→57

技巧:92→95

魔力:1509→1595

『救世主』『神々の祝福』


道具箱使用可能。(遠隔攻撃使用可能)

念写スキル使用可能。

光属性の攻撃魔法使用可能(*ただし自PTに被害あり)

回復魔法使用不可。

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