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12話

……ラインハルト視点……


 魔王様は魔王様である以上に、優しい方だった。世界の滅亡は望まないし、ただ平和に暮らしたいだけだと言っていた。

 人間を殺すように仕向けられた教育さえ払いのけ、人と共に生き、人々を救う。あの方がどんなに尊い方か、俺が良く知っている。だから魔王様が自分を殺すように命ずる事も自然な事だった。

 だが、頭では殺すことが良いと分かってはいても、感情がついていってくれない。

 ドレスを着て恥ずかしそうに俯く姿や、仲間を慈しみの目でみていた姿も知っている。だからこそ、殺さないといけないという事も、知っているのだ。

 魔王様の闇を、俺は傍で見ていたというのに、何も出来なかった。破壊の終焉など、魔王様の望みではない事は知っている。だからこそ、対処法も教えてくれたし、注意もしてくれた。

 各地に結界を張って被害を最小限に抑えてもいる。魔王は無差別に殺すと聞いている。なのに、その報告は未だ上がっていない。もしかすると、魔王様は未だに戦っているのかもしれない。

 ここ1年ほど、魔王様が衰弱していっていたのは知っている。地獄の中にいるような悲鳴を上げているのも知っている。なのに、俺は何も手助けをする事が出来ない、それが歯がゆい。

 俺に出来る事はなんだと問われれば、今は魔王様を殺すことなんだろう。それが、どうしようもなく嫌だ。この年になって、そんな感情ばかりが表に出るのは些か情けない事は分かっている。


 だが、みんな思っているはずだ。


 彼女を、救いたい、と。


 誰も彼女を殺したくはない。だが、その言葉は言わない。言えば、もう、殺せなくなってしまう事は分かっているのだろう。だからこそ、その言葉は飲み込む。魔王を殺そうと、意気込む。

 彼らは皆魔王様に救われなければ、今ここに存在しないはずの人間たちばかりだ。俺もまた、あの魔王城の束縛から救って貰った一人でもある。

 だから、皆同じ気持ちなのだ。自分は救って貰ったのに、彼女を救えないのか、と考える。

 だが、その気持ちだけでも彼女は救われているのだという事もまた、理解できてしまうのだ。魔王様は優し過ぎる程に優しい。

 歴代の魔王は、全員勇者に殺されているという。なのに救いを欲しがる。

 歴史が魔王を厭い、排除しようとしても、彼女を救いたいと思ってしまう。本当に救えないのだろうか?こんなにも慕われる『人間』を、何故救えないのだろう。


 勇者は、何故か魔王様と雰囲気が似ているようだ。

 その手に作る料理、能天気に笑う顔……その優しさ。だが、お世辞にも強いとは言い難い。俺達は彼を魔王様の代わりにするように守る。それだけが、俺達の贖罪。魔王様を手にかける事への懺悔。

 黄金の髪も、綺麗な青の瞳も、その端正な顔立ちも、魔王様には似ていない。なのに、何故か同じ匂いがする。魔王様の優しい匂いが。

 恐らく、魔王様の魂と、彼の魂は似ているのだろう。

 だとすると、何故、立場が逆ではないのか、と考えてしまう。それは魔王様が怒ってしまう考えなんだろう。だが、どうしてもそう思ってしまう。

 ……その考えが、どれだけ馬鹿な事か思い知らされる。


「……や、うん……普通にカッコいいなぁって思って」


 本当に本気で言っている顔だった。その考えが変わっているのだと気付いて恥ずかしそうに俯く。勇者は、本当に優しい方で、俺達とは違った価値観を持つ。俺は盛大に笑ってしまった。自分の馬鹿さ加減に、勇者の面白さに。

 勇者は、俺達の世界とは全くの無関係で、世界なんて本当は救わなくても良い存在だ。なのに、彼は俺達の為に共に戦い、共に泣いてくれる。異端を、忌避したりしない。勇者は、尊い存在だった。魔王様同様に、等しく尊い魂を持っている。

 だから、俺達は彼を守らなければならない。彼が悲しみに染まる事がないように。

 だから、俺は魔王様を殺さなければならないだろう。自分の主を。ずっと着いていこうと誓った主を。それは魔王様が命じた事で、どれだけ嫌でも、やらなければならない。


 ふと、思うのだが。魔王様と勇者は、きっと気が合うんだろうと思う。実際に会いまみえる時はもう戦場だけなのだろう。けれど考えてしまう。優しい魔王様と、勇者は、時が違えばきっと良き友になれるのだろう、と。共に同じ料理を作り、和やかに食事をする姿が目に浮かぶ。

 そこに、マリア、ギル、リョウも加わる。今は狂ってしまっているクラウドも、魔王様の前では穏やかに笑って。

 勇者が変な事をやらかしても、魔王様は笑って許す。

 その妄想は泣きたい位理想的で、絶対に叶う事はない夢で。


 もう二度と戻る事はない魔王様に忠誠を誓って、俺はあの剣を再び手にしよう。その大きすぎる力を忌避し、手放した存在。もう一人の俺という剣。

 俺は、あの剣を恐れている。なのに勇者は、その剣は俺にとって普通なのだそうだ。その言葉に何故か俺自身も認められたような気になった。心の底から笑えた。ずっと陰鬱な気分で、使命だけが自分の生きる糧になって、やっと笑う事が出来た。罪悪感に押しつぶされそうな自分が、ウソみたいに。


『そんな事気にしてたの?ラインハルトは馬鹿なんだな……』


 そんな風に馬鹿にしたような魔王様の声が聞こえた気がした。だが、魔王様の優しさを知っている身としてはその言葉さえ嬉しい。知れず、俺は笑みを零した。

 実際俺は馬鹿だ。年端もいかない魔王様を恐れ、恐怖に戦いて震えた。そして、俺の分身であるとも言える剣にも恐れをなした。

 魔王様が死を望むというのに、躊躇う。

 これが馬鹿と言わずしてなんという?

 長く生きるエルフだというのに、俺の半分も生きていない人間には驚かされるばかりだ。いや、魔王様と勇者だから、普通とは少し違うな。

 だが、同じことだろう。俺は彼らよりも幼い。全く嘆かわしい。


 ああ、魔王様にはあの剣の事を話した事はなかったな。

 魔王様なら、どう言うのだろうか。


『ふっ、なにそれ。カッコいいな』


 そんな風に言ってしまいそうだ。それも可笑しそうに。嗚呼きっと、きっと勇者と同じようにカッコいいと言ってきそうだ。

 良く似た2人だから。剣技まで似る、そんな2人だから……俺の誇大妄想癖も直さないとな。






……主人公視点……


 ミノリが仲間に入ってから、守りが少しだけ固くなった気がする。やはりガーディアンが増えると心強いな。町娘って強いんだね。……解せん。

 勇者ってなんだったっけ?

 ガタゴトと馬車に揺られる。尻が痛い。なかなかどうして、馬車は慣れないな。順に手綱を握る人が変わる。今はリョウとギルだ。ギルはクラウドの方に行っている。

 尻を大事にするために膝を付いてリョウの所に顔を出す。この場合、膝がガクガクする事になるが、尻の方が今はキツイ。それに、膝なら治療してって言いやすいもんね。

 前方にはクラウドの乗った馬車。後ろ側から走らせると、クラウドが後ろから奇襲をしかけてくるからである。クラウドに関しては、もう何もいうまい。


「多いですね……」


 ピクンと耳を動かして馬車を止める、そこには魔物が現れていた。うさぎっぽいシルエットの黒い何かだ。

 魔物と言うのは動物や、植物などが「けがれ」を吸って出来上がるものらしい。この世界には迷宮と言うのがあり、迷宮はかなり濃いけがれを持っているそうだ。ただし、既存の迷宮は魔物が出てこないよう管理されている。良く分からないが、そういうシステムらしい。

 リョウから聞いた話だ。まぁ、小難しくてほとんど覚えてないけど。それにしてもリョウの知識は宇宙か?聞けばなんでも返って来るな。「なんでも知ってますね」って言ったら「何でもは知らないわよ、知ってる事だけ」とか、微笑んで言ってくれないだろうか。

 エンカウントした魔物をラインハルトがあっさり切り捨てる。数があまり多くなかったからな。それにしても、頻繁に魔物と出くわす。リョウが「多い」と呟くのも分かる。

 何故雲に近い王都グランドグランよりも、離れているブラックフォードに行くほど出現率が高くなるのか。リョウが不思議そうにしているんだから、俺が分かる訳がない。



「何か目的のようなモノがある気がしますね」

「目的?」

「ええ」


 ラインハルトが料理している間に、リョウと喋る。

 どうにもリョウ曰く、ブラックフォードを目指して真っ直ぐ移動しているように見えると。何か作為的な、意志のような何かを感じるのだと。


「この様子だと、ブラックフォードが危険というのも嘘ではなさそうですね」


 ですねぇ。と返す前に、再び魔物とエンカウント。でかい蜂の魔物だ。刺されたら麻痺とか毒とかなりそうなヤツだな。試す様な馬鹿な事はしない。

 今回は2匹でレベルも低いので、俺だけで戦ってみたいと申し出た。


「はい、では危なくなったらすぐ援護しますので、どうぞ安心して戦ってください」


 俺はその言葉に頷いて、魔物を見据える。素早くブーンと飛んでいるが、追えないほどじゃない。それに空中に飛ばれても、俺には道具箱による撃退が出来る。

 俺は、こちらに向かってくる蜂をいなす。ガリガリという音が金属音なんだが、これはどういう事だ。こいつら本当に生き物なのか。蜂の勢いを受け流し、羽を斬りつける。その薄そうな羽は見た目に反して「ガキン」という音がした。固っ!?ラインハルトがスパッと切っているのが如何に凄いか分かるな。


「勇者様!後ろです」

「うおっ!?」


 声を掛けられて、慌ててもう片方の蜂の攻撃を避ける。片方に集中してたら、片方がおざなりになるな。これは結構難しい。かなりの集中力が必要になるだろう。

勇者パーティーがどれだけ優秀か良く分かる。

 クラウドの奇襲も退け、俺を守りつつ魔物を討伐する。並の人間にそんな芸当は出来ないだろう。

 さすが勇者パーティー俺達に出来ない事を簡単にやってのけるそこに痺れる憧れる。

 蜂に悪戦苦闘しつつも、なんとか勝った。羽を狙って切り落としてしまえば、後はこっちのもんである。

 息を荒げて蜂に剣を突き立てる。その間に、マリアが場を正常に戻してくれる。蜂もさらさらと消え去り、何もなかったかのようになる。


「勇者様、ご無事で何よりです」

「は、はい」


 ほっとした様子で俺を迎えてくるリョウが、完全にヒロインだ。なまじ可愛いから困る。


「やれやれ……耳と尻尾がさわれればもっといいんだがな」

「え?」

「え?」


 リョウはきょとんとしてて凄く可愛い。……じゃなくて。今なんで「え?」って言われたんだ?まさか……。


『ヒイラギ……声に出ておるぞ?』


 えっ、あらやだ。死ぬほど恥ずかしい。カァッと頬が熱くなる。

 俺の顔を見て、リョウがふんわり笑う。


「いいですよ?尻尾はダメですが……耳くらいなら、どうぞ」

「なん……だと!?」


 マジか。それマジで言ってんのか。

 今思えばずっと憧れていた。獣人という存在に。人と同じように言葉を交わすのに、獣とはなんだろうかと3か月は悩んだ事がある。男でも、似合っていれば良し。女ならなおの事良し。その類まれなる奇跡のコラボに「現実ならどんなに良いか」を幼馴染と語った事があるくらい。

 それがこの異世界に来ていきなり出会った。このリョウという青年。可愛いのに、男の子という反則級の獣人だ。この人がメイド服なんて着ようものならば、誰もが振り向くだろう。勿論、可愛さで。

 おっとちょっと語ってしまったようだ。


「どうぞ」


 俺の前に無防備にさらけ出される獣の耳。

 ドキドキとしつつその耳に触れる。それはほんのり暖かく。ふわふわの毛並で、それでいてさらっとしている。くすぐったいのか、時折ピクリと動く。その感触は至高だった。

 ……うん、エイリスさんから未だかつてない位の殺意を頂いてるけどスルー推奨。今はまだ、この感触を味わっていたい。

 たぶん、幼馴染も喜んだだろうな……そう考えると、胸がぎゅ、と締め付けられる。


「勇者様?」


 俺の動きが止まったので、俺を見上げるマイエンジェル。俺はリョウの耳から手を離し、苦笑する。


「有難うございます」

「ああ、いえ……」


 リョウは立ち上がって土を払う。


「本当、無理言っちゃって。でも、本当……リョウって良い人ですね。名前もリョウだし、良い人って意味とピッタリ合いますし。漢字だったら確実に良い人って書いて良だっただろうな」


 本当、普通男に耳触らせるとかありえねぇよな。しかも異世界から来た情けない役立たずの男相手だ。俺だったら確実に断るわ。本当、心広いわぁ。


「……」


 リョウが驚愕した顔で俺を凝視していた。その反応に俺は首を傾げる。


「あ、あの?」

『あなたはてんせぃ、しゃでしょう?せっきゃくの二度目の人生にゃにに……にゃぜ?』


 リョウは少し拙い、呂律が回り切っていないような日本語を話した。翻訳されていない、そのままの日本語だ。その言葉に俺は驚く。そして良い感じに可愛いのが悔しい。


「え、な、なんで」

「すみません、翻訳して頂いて宜しいでしょうか?」

「は、え、え?」


 え?日本語喋ったのに、翻訳とはどういうことなのだろう。


「音は聞いていましたが、意味を知る事はありませんでした。言葉だと言うのは分かっているのですが、なにせ比較資料が全くないものですから」


 良く分からない。この人が何を言っているかさっぱり分からない。俺が狼狽えているのを、若干イラだったように睨みつけてくる。その見た事もない顔にビクリと震える。


「いいから、翻訳してください。勇者様なら、分かるんでしょう?」

「え、えと。はい……あなたは転生者でしょう?せっかくの二度目の人生なのに……何故?……だったかと」


 にゃんにゃん言ってたが、多分こう言っていたと思う。リョウは目を見開いている。僅かに口をわななかせて、ぎゅ、と歯を食いしばった。


「転生者……なるほど、剣、料理、言葉……そう、ですか」


 俯いてぶつぶつと言っているのはかなり不気味だ。明らかに通常とは違う反応に心配になってきた。大丈夫なのだろうか?なんで日本語しゃべったのだろうか。聞きたい事があるのに、聞けるような雰囲気ではない。


「質問宜しいですか?」

「え、はい」


 正直俺の方が質問したいところなのだが。あまりに切羽詰まっているようなので、俺は黙っておこう。


「あなたは…………え?」

「え?」


 ハッとしたような顔で俺を見つめるリョウ。本当になんなのだろう。リョウたんが可笑しくなったよ。まぁクラウドよりはマシだけど。


「青の、瞳……?……いえ、まさか、そんな……」

「あ、あの。リョウ、本当に大丈夫か?」


 頭を抱えて震えるリョウ。なんか変な病気にかかったのだろうか。俺が触ったせいで!?やべぇ、それやべぇわ。マリアにお願いして回復してもらわないと……。


「ええ、だい、じょうぶ、です……」


 声を震わせてそんな事言われても、全く信用できない。世の中にゃ、平然と「大丈夫」と笑って嘘をつく人間もいるのだ。相手を心配させないように、自分が苦しい事は綺麗に隠して。


「どう見ても大丈夫そうには見えないんですけど」


 リョウは深呼吸して、今度は震えずに「大丈夫です」と言い切る。だが、顔は泣きそうになっている。


「そんなはずはないですよね、そんな事ってありえませんから。ええ……だから、大丈夫です」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 ラインハルトの「料理が出来た」という声が聞こえてきて、リョウは俺の前からさっさと歩き去ってしまう。

 何がなんだか知らないが……胸の奥がモヤモヤするような、表現し難い、何か漠然とした不安のようなものが出来てしまった。

ヒイラギ鏡夜キョウヤ

LV:28

16/勇者/火・水・風・土・光

攻撃力:224

防御力:179

魔法攻撃力:246

魔法防御力:112

魔力:920

『救世主』『神々の祝福』


道具箱使用可能。(遠隔攻撃使用可能)

念写スキル使用可能。

光属性の攻撃魔法不可。

回復魔法使用不可。

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