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11話

 ゴトゴト揺れる馬車内、そして必死に走ってくる女の子。

 ……うん、精神衛生上キツいわぁ……。

 他のメンバーの顔色を窺うが、ミノリを警戒するだけで心配の色は見せていない。あの子が何をしたって言うんだ。

 流石に馬車対走りじゃ引き離されるけど、俺達が休憩に入った時には追いついてくる。汗びっしょりで息を荒げているけど。まぁ、普通そうなるわな。どうしてそこまで魔王討伐に行きたいのだろう。敵って言ってたけど、あの街で暮らしてる方がよほど平和なんじゃないかって思うのは俺だけなのか?


「大丈夫?」

「はあはあはあはあ、んぐ、くはっ、はあはあはあ……」


 話しかけるも、倒れ込んで息を荒げるだけで返答が来ない。本当に大丈夫だろうか?やべぇ、回復魔法が使えないなんて、なんて役立たず。


「あまり近づくのは得策ではありません」

「ええ~」


 リョウに首根っこ掴まれて引き離される。流石にこんなにグロッキーな人は大丈夫でしょ、そもそも斬りかかられた事もないし。恨まれてるの俺じゃないし。……この子の扱い酷くね?


「回復してあげないんですか?」

「必要ないでしょう」


 冷たっ、リョウたん冷たっ。氷よりも冷ややかだ。俺は回復魔法が出来るマリアに視線を向ける……が、サッと目をそらされた。ええぇ~……。

 グイグイと押しやられる。魚が焼ける香ばしい香りが食欲をそそる。料理担当はラインハルトだ。焼いて煮る位なら出来るらしいから。まぁ味付けはシンプルになっちゃうけど。

 俺が作った料理はなんか魔王のと重なってしんみりしちゃうんだよ……解せん。料理に罪はないのよ。味付けに飽きたら、俺が担当で戻っても良い?厨房に立ちたいの。……厨房ないけどな。毎日がアウトドアのようなものだ。

 ミノリから距離を離された所でリョウに気になる事を聞いてみる。


「なんであの子あんなに警戒されてるんですか?」

「ああ……」


 リョウはどこか遠くを見て、苦しそうな顔をした。

 リョウの説明曰く。アルはかつてトリエステに立ち寄った。その当時のトリエステには悪の集団『リーザック』というのが蔓延っていたのだという。放火、殺人、強盗、強姦、詐欺行為……悪いとされるものは殆ど行っていたのだとか。

 仲間でさえも殺す事もあるというその残虐性から、街の人々は誰かが襲われていても見て見ぬふりを決め込んでいた。

 が、そこで魔王は魔王として魔王の力でねじ伏せ、殆どのメンバーを殺したのだと言う。

 『リーザック』が忽然と街から姿を消し、治安は著しく上昇した。誰もが安心して暮らせる街へと変貌を遂げた。感謝されこそすれ、恨まれる義理はない。

 が、ミノリは父親を殺されるのを目撃してしまったらしい。目の前で父親が殺されるのは、そりゃショッキングだっただろう。


「ん?でも……ミノリさんの反応を見る限り、父親が犯罪に手を染めてるようには見えないような?」

「……そうですね」


 恐らくは、娘に何も知らせずに悪い事をしていたのだろうと推測。リョウによると、生き残っている者もいるらしいので無差別で殺した訳ではないようなのだ。

 ……なんかヤヤコシイ話だな。


「普通に悪い事して罰せられた……って言わないのか?」


 それ言った方が納得すると思うんだけど。こんなに人を憎みながら生きるって、相当に気力が必要になるだろう。そんなの幸せになんてなれない。

 リョウは苦笑して首を振る。


「……アルはそれを望みませんから」

「……何故?」


 自分の父親が犯罪者だと知った少女はどう思うのだろう、周りの人間もどう思うのだろう、と魔王は心配していた。恨むほど慕っていたなら、その心の傷はきっと深いものになるだろうと。

 魔王は悪の権化だ。なら、恨まれるまま死んでやろうと魔王は考えた。どっちみち殺している事には変わりはないんだから、と。

 ……なるほど確かに。俺は納得した。というか、考えが浅かった。確かに現代の日本でも犯罪を犯した家族っていうのは、風当たりが厳しい。何もしてない子供にまで罵声を浴びせられる事もある。

 それは、異世界でも変わりはないだろう。かなり有名な『リーザック』という悪党集団に父親が所属しているなんて、周りから白い目で見られるに違いない。

 ……魔王さんぇ……どんだけ、どんだけ良い人なんだよ……。街にとっては良い事しているはずなのに、その子供に恨まれる。でも恨みすら受け入れて、むしろ殺される事を望んだ。

 あ、やべ……泣きそうなんだが。目頭が熱くなるのをグッと抑える。

 俺が目頭を押さえているのを見たリョウが、クスリと微笑む。


「ですから、ね?この事は黙っておいてください」


 人差し指をそっと口に添えて笑う姿が、凄く可愛い件について。よし、エイリスさんからの殺意で涙が引っ込んだよ。

 魔王も魔王なら、仲間も仲間だな。魔王がこれだけ恨まれて、黙っているのは苦しいだろうに。良い人しかいないのか。

 あ、いや……でもミノリは今グロッキーなんだよな……。むしろ厳しいのか?


「まぁ、言ったとして、受け入れられるか分かりませんがね」


 ……なるほど。確かにそうか。これだけ盲目的に魔王を殺す事しか考えていないんだ。魔王のデタラメだと断言しても可笑しくはない雰囲気だ。

 てか、色々考えているんだな。馬鹿な俺はちょっとついていけないよ。

 遠くからミノリを眺めていると、マリアがそっと回復魔法を使ってあげているのが見えた。そして、ラインハルトが水と魚を持って行ってあげている。

 ……なんだかんだ言いつつ、心配してあげてるとか。どれだけ良い人達なんだよ……。

 2人の様子をリョウは寂し気に見つめる。


「これが、アルの願い通りなんでしょうね……」

「え?」


 俺が聞き返すと、リョウはニコッと笑う。けれど泣きそうなその笑顔は痛々しくて見ていられない。震える唇をグッと噛みしめて、歩き出す。

 俺はそれをぼんやりと見つめる事しか出来なかった。




 ミノリはずっとついてきたので、結局ミノリもパーティーメンバーになった。根性勝ちだ。リョウ達も冷たい言い方をしているが、根は良い人たちなのだ。グロッキー状態のミノリを放ってはおけなかった。

 道中はミノリはクラウド側の馬車に乗せられた。勇者と同じ馬車はダメだと判断したようだ。まぁでも、別に大丈夫じゃないかな?魔王を倒したいだけだろうし。クラウドよりは安全だろ、確実に。

 レベル的にも、攻撃力もそこまで高くないし。でも、ガーディアン2人に固められていたら、確かにちょっとは安心かもな。レイだけだと抜け出そうな予感がひしひし伝わって来るし。

 でもなぁ、女の子にあのクレイジーな男を止めて貰うのもなぁ。情けないったらありゃしないぜ。これは早く強くならないとなぁ。


 次に休憩に入ったのがエルエテートという街だ。トリエステに比べると小さいし、これといった産業もないところらしい。

 しっかし……この街はウサギの獣人が多いな。2人に1人がウサ耳常備とか、なんのご褒美だろう。いや、おっさんのウサ耳は流石に嫌なんだけどね。

 適当に調味料とか、食べ物を購入して出るそうだ。取りあえずベッドで1泊して疲れを癒すのだ。流石に、ずっと馬車で揺らされるのは厳しい。吐き気を催しても回復魔法で押し込められる。気分はよくなるけど、すぐにぶり返す。けれど馬車は止まってくれない。なにこの苦行。しかも道が舗装されてないわ、馬車にクッションがないわで尻が痛い。流石に女の子に向かって「尻を癒してくれ」とは言えない。気分の悪さを治す回復魔法の効果が広かったら良かったのに……。

 宿泊は2人1部屋。マリアとミノリ。リョウとラインハルト。俺とギル。そしてクラウドとレイだ。

 クラウドをまるで犯罪者の如く歩かせる姿に、宿屋のおっちゃんが嫌な顔を浮かべていた。いや、不安そうな顔だったかな?たぶん、どっちもだと思う。明らかに問題がありそうなヤツ、泊めたくないだろう。

 が、金でなんとかしたらしい。流石勇者パーティー、国に雇われているだけはあるねっ。

 でもギルと同室って……ちょい気まずいな。リョウが良かったんだけど、ラインハルトと打ち合わせをするらしいからな。

 俺は紙を取り出して、魔法を念じる。魔力が奪われ、紙に上級の魔術陣が出来上がる。これは最近の日課だ。魔力が回復したら、取りあえず紙に魔術を念写する。念写した魔術陣は道具箱に入れる。まぁ、魔力自体が少ないので、中々ストックは増えないけどな。中級とか頻繁に投げちゃうし、すぐに魔力が尽きる。もうちょっと多く欲しい所だけど……レベルアップを期待するしかないな。

 作業が終わった所でギルを見ると、剣の手入れをしていた。魔術師なのに剣の手入れとはこれ如何に。しかも特攻型で強いとか意味不明だ。

 夕日が部屋に差し込んできて、銀の髪がキラキラと輝く。眩しいね。超イケメンだ。さて、そろそろ窓をしめようかな。窓、と言っても木の枠なんだけどね。王城ではガラスだったから知らなかったが、下町は凄く異世界っぽかった。技術だってそこまで高いものは使われていない。やっぱり、ああいうガラスとかって高級品なんだろうな。王城が異常だったのだ。

 それでも、下水だけはしっかりしているみたいだ。誰だか知らんがよくやった。汚物がまき散らされた道とか通りたくないもんな。

 俺が木の枠に手をかけると、外から賑やかな声が聞こえて来た。


「カロット、その情報確かなの?」

「ああ、なんでもブラックフォードに魔物が大挙しているらしい。かなりやべぇってよ」

「あ~あ~!どうなるのかしらねぇ、この先」

「どうする?行くか?」

「キーヴェル、あんた気軽に言うけどねぇ」

「まぁまぁ、レム。行きましょう。なんせ、あそこが落ちたらかなりやばいもの。少しでも手助け出来たら嬉しいじゃない」


 ふむ……ブラックフォードか。知らない街だな。やばいってどうやばいんだろう。


「ブラックフォード……?」

「ひっ!?」


 ぼんやりと4人組の会話を聞いていたら、横にギルが立っていた。気配を消さないで欲しい。

 顎に手を当てて思案するギル。

 外の4人組はさらに2人追加して賑わっていた。これ以上聞き耳を立てるのも悪いと思い、木枠を閉じる。

 閉じようと思ったのだが、ガツンと木を蹴られて再び窓が開く。開いた窓からギルが足を踏み出して降りた。


「ケルトさん!」


 した、と降りてその6人組に話しかけるギル。どうやらオジサンと獣人の知り合いのようだ。豪快に頭を撫でられている。

 この世界の人は窓から降りるのに躊躇しないな。

 楽しそうに賑わっている会話を、赤の他人がこれ以上聞く訳にもいかず、今度こそ窓を閉じる。

 まぁ、密閉できる訳じゃないので、多少漏れて来るが仕方ない。


『ブラックフォードに魔物、のう……ちと厳しいかもしれんの』


 うん?そうなの?

 どうやらブラックフォードは沢山の異世界の技術が詰め込まれた街らしい。外に技術が漏れないように規制している為、ブラックフォードの商品はなかなか高い。勿論品質は保証されているんだが……。そこを魔物に潰されると、技術まで潰されるという事になる。

 ブラックフォードは大きい街なので、簡単に落ちるとは思えないが、先程話していた内容だとかなり危ないらしい。

 多分予定を変更してブラックフォード守護から入る事になるだろう、とエイリスさんが説明する。

 そんなに大事な街なのか……予定を変更するほどか。今から北の「ダークエルフの里」に向かう予定だった。が、ブラックフォードはここから西にあるらしい。それなりに離れた距離なので、行くかどうか迷う所。ブラックフォードじゃなかったら即決で見捨てるらしい。

 冷たいように聞こえるが、原因である魔王を倒さないとキリがないからだ。あの黒い雲を止めないと、魔物は次から次へと押し寄せる。

 今も、魔物の脅威で誰かが死んでいるかもしれない。その考えに至って、手が震えてきた。

 なんで俺、こんな弱いんだろう。本来なら、さっさと魔王を殺しにいくべきなのに。誰かが死ぬのは、魔王も本望ではないだろう。俺が役立たずなせいで、魔王が生かそうとした命まで消え去ってしまうかもしれない。勇者としての責任の重さ。


「はぁ……」


 ベッドに深く腰掛けて溜息を吐く。震える手を組み、膝に肘をついて祈るような姿勢を取る。

 ……ちょっとずつだけど、強くはなっている。あまり急かし過ぎても、魔王を倒せなかったら意味がない。慎重に行くべきだ。無詠唱チートの魔王と戦うために、大量の魔術陣が必要だ。全てばら撒いても、当たるかどうかは分からない。なので、出来得る限り大量に作っておく必要がある。まだまだ、全然足りないけど。

 ラインハルトにも剣が必要だろうし、やるべき事はある。あまり焦るのも良くない。

 はっ!俺とした事が、真剣に考えてしまった。良くない、これは良くない。俺のSAN値がガリガリ減る気がする。もっと気軽に考えとかないと……てか、今だに光属性使えないんだよな。

 ぼすっと体をベッドに横たえて仰向けになる。手を上へ伸ばして眺める。


「……」


 エイリスさんも話しかけて来ず、沈黙が耳に痛い。

 伸ばした手を握ってみる。が、特に意味はない。


「なんで俺が勇者かなぁ……」


 素朴な疑問が口をついて出る。

 まだ俺は勇者に為り切れていない。エイリスさんも扱いきれない。レベルも仲間内で最も低い。あるのは魔術チートと道具箱だけだ。

 なんとなく道具箱を漁って、魔王の手紙を見る。何度読んでも人が良い。やめてもいい、という言葉に甘えてしまいそうになる。でも、俺は帰る魔術を知らない。知ってしまったら、弱い俺はいつでも使ってしまいそうで……調べる事もしなかった。

 今現在も、帰りたくなってるしな。普通の男子高校生に、世界救えとか、重すぎる。勇者なのに、全然強くないし、正直へこむ。

 俺は強くない。いつでも救われる人間だった。幼馴染がいないと、ダメダメな人間で。いつも頼ってばかりいて。

 異世界でも、俺は助けられるばかりの人間だ……情けない。少しでも役に立てるように料理を手伝おうとしても無駄だった。というか、戦闘面を強化しないと、本当の意味では役に立てない。

 ……料理。幼馴染にも、料理をご馳走してたな。彼女の料理の方が断然美味いけど、食費としてお金をあげても受け取らないからな。せめて役に立てるようにって思ってたけど。それもどう思われていた事か。

 本当、俺はどこにいても、どうしようもない。




 ハッと目を開けると、部屋が暗かった。どうやら、寝ていたらしい。だが、完全な暗闇というわけではなく、月明りが僅かに部屋を照らし出していた。

 ギルがベッドに座ってじっと外を眺めていた。その膝には、魔王の手紙。あ、俺出しっぱなしで寝てたんだ。読んだら辛いだけなんじゃ……と思ってハラハラする。

 だが、ギルの顔にはなんの感情も抱かれていない。怒りもしない、悲しみもしない、ただぼんやりと外を眺めている。ふ、とこちらに視線が向き、ビクリと肩が揺れる。まるで人形にでも見つめられているようだ。


「ああ……起きたか」


 そこでようやく瞳に柔らかさが戻る。無感情で無機質な瞳をみていると、ゾッと背筋が凍るようだった。憎悪で怒り狂っているクラウドより、余程怖かった。

 俺が起きた事を確認すると、ギルは蝋燭に火を灯した。火属性が扱えると、こういう所便利だよね。「ファイア」って小さく呟くだけで火が付くんだから。

 ギルは起きた俺に予定の変更を説明してくれた。案の定、ブラックフォードに行く事にしたらしい。

 それだけ話すと、また沈黙が落ちる。

 ……気まずい。


「なぁ、ヒイラギ。お前は好きな人いるか?」

「へ」


 突然の話題に変な声が漏れる。しかし、俺の返答など必要としていないのか、ギルは構わず喋る。


「俺は……いた。とても大切な人だった。ずっとずっと好きだった。好きになってもう、何年もなるな」


 クスリと寂しそうに笑う。


「でも、彼女は魔王となってしまった。最期に殺しに来いと、笑って去った。彼女の事を想っていたのに、彼女の苦しみに気付いてやる事が出来なかった」


 ギルの独白に、俺の心がズキリと痛む。


「俺は無力だ。いつも助けて貰ってばかりで、足を引っ張ってばかりで。俺には彼女を好きになる資格すら持ち合わせていなかった。俺が最期に彼女にしてあげられる事が、彼女の事を殺す手伝いだなんて、笑えるよ。ほんと」


 ははは、と乾いた笑いを漏らす。

 彼の言葉が、俺にも染み込む。彼は俺だ。いや、俺より酷い状況だ。好きな人間の死―――それが魔王の望みでも、世界の真理でも。好きな人が死ぬと分かっていれば、辛いのだ。それが自分の手で殺しに行くと分かっているなら、なおさら。

 それでも彼は前へ進む事をやめないのだろう。だから旅に出たし、俺も守る。がむしゃらに剣を振るって戦う。

 ギルは魔王の手紙を俺へと押し付けてきた。手紙の文字が少し滲んでいる所があった。

 ……泣いていたのか。

 魔王のいた部屋で、泣いて、嘆いて、それでも前を向いて。この人は、強い。俺なんかよりも、余程。

 俺よりも酷い状況なのに。


「なんでアルだったんだろうな……誰よりも良い奴なのに、誰よりも強い奴なのに、誰よりも人を想うのに。自分の事なんてほったらかしで……なのに、なんで、なんだろうな」


 最後の方の言葉は震えていた。今にも涙が落ちてしまいそうだった。

 本当、なんでなんだろうな。

 本当に守りたいと思っていたのに。

 心の底から笑わせてやりたいって思ったのに。両想いなんておこがましい事は言わない。せめて、彼女だけでも幸せになれたらって―――そう思っていたのに。


「ヒイラギ……」


 ギルが驚いたようにこちらを見つめている。

 パタパタと手紙に水滴が落ちる音がして、ハッとした。自分が泣いている事にようやく気付いた。魔王の手紙をこれ以上汚さない為に涙を拭う。


「すまん、ヒイラギ。お前を追い詰めるつもりじゃなかったんだ」


 すまなさそうにしているギル。ちゃうねん。これはちゃうねん。これは、心の汗だ!ああもう、泣かないって決めてたのに。なんで俺は……。


「もう、寝よう。明日は早い」


 そう話を切り上げて、蝋燭の明りを消した。

 俺も瞳を閉じる。ギルの辛さが俺に重なる。好きな人を亡くした辛さが、俺に痛い程伝わってくる。ああ、なるべく考えないようにしていたのに。


 この世界は理不尽で。

 魔法があるのに、夢みたいな世界なのに、心から笑えない。

 この世界には、君がいないんだ。

 君と笑えたらどんなに幸せなんだと思ってしまう。


 今すぐ会いたい。

 会って、抱きしめたい。


 俺は、君が好きだったんだよ。


 その言葉を伝える人は、もういない。

ヒイラギ鏡夜キョウヤ

LV:25→28

16/勇者/火・水・風・土・光

攻撃力:194→224

防御力:158→179

魔法攻撃力:208→246

魔法防御力:108→112

魔力:822→920

『救世主』『神々の祝福』


道具箱使用可能。(遠隔攻撃使用可能)

念写スキル使用可能。

光属性の攻撃魔法不可。

回復魔法使用不可。

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