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第9話 皇帝の前で暴かれる“毒香妃”の正体──後宮に仕組まれた香の罠

「毒香妃・煌璃を、陛下の御前へ――」


使者の声が響き渡る調香局。

その呼び名に、周囲の女官たちは一斉に顔をしかめた。


「また“毒香妃”なんて……」


「何人もの女官を死に追いやったくせに、今度は皇帝の前だなんて」


その声の渦の中で、煌璃は静かに立ち上がった。

もう、噂や軽蔑には慣れていた。


けれど今日は違う。


今日は、“真実”を突きつける日なのだから。


謁見の間。

そこに座するは、蒼衣の若き皇帝・朱凌帝。

整った面差しと冷えた眼差しが、煌璃を見下ろす。


「おまえが、煌璃か。……毒香妃と呼ばれていると聞く」


「その呼び名に心当たりはあります。ですが、陛下――」


煌璃は一歩踏み出す。


「この後宮に蔓延する“香を用いた毒と洗脳の陰謀”の核心に、私は迫っています」


皇帝の眉がぴくりと動く。


「……言葉に気をつけろ。証拠があるのか?」


煌璃は一枚の香札を差し出す。

それは皇后の私室で採取された香灰と調合式を記録したものだった。


「この香は、揮発性の神経毒を含み、継続して吸入すれば意志や感情に影響を与えます。

この香は、皇后さまご自身が使われていたものです」


謁見の間に、一瞬の沈黙が落ちた。


そのとき、煌璃の傍に控えていた玄月が進み出る。


「陛下。私も証言します。

煌璃様の母君――紅蘭さまは、かつてこの後宮で『香と毒の関係』を研究しておられました。

そしてそれが原因で、粛清されたのです」


「……紅蘭?」


皇帝の顔に、わずかな驚きが浮かぶ。


「まさか……あの“西方化学者”と共に消えた女官か」


煌璃の心臓が跳ねた。

やはり母は、異国の科学と関わっていたのだ。


「陛下……私は、この香の毒に屈しませんでした。

母から受け継いだ知識と、信じてくれた仲間がいたからです」


煌璃はそう言いながら、懐からもう一枚の香符を取り出した。


それは、“香の毒”を無力化する解毒香の式。

母が残した遺志を継ぎ、自らが再構築した香式だった。


「この香があれば、洗脳は防げます。

香で操る皇后の力は、もはや恐れるに足りません」


皇帝はしばらく無言だった。

やがて静かに言う。


「よい。……この件、朕が直々に調べよう。

煌璃、貴女には調香局の特別監査権を与える。真実を突き止めよ」


煌璃は深く頭を下げた。


「ははっ――謹んでお受けいたします」


しかし、その様子を見ていた皇后は、ゆるやかに微笑んだ。


「ふふ……さすがは紅蘭の娘。

だが、あなたが気づいていない“最後の香”が、まだあるのよ」


彼女の香炉から、かすかな甘い香りが立ち上っていた。


それは、誰にも気づかれず、皇帝の玉座へと漂っていた。

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