表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話「宦官様の秘密と、香に沈む者たち」

「……玄霄様って、本当に“ただの宦官”なんですか?」


燕蘭は、調香局からの帰り道、ふと横を歩く男に問いかけた。


「ああ?」


「妙に動きが洗練されてるし、やけに私の行動を気にしてくるし、何より情報通。……本当は誰かの密命でも受けてるのでは?」


玄霄は立ち止まり、にやりと笑った。


「さあ、どうだろうな。お前が可愛いから、気になってるだけかもしれんぞ?」


「……気色悪っ」


「おい、本気で傷ついたぞ?」


からかいながらも、彼はふと真剣な表情に戻る。


「でもまあ、ただの宦官じゃないのは事実だ。……俺の主は、後宮の“腐った根”を抜くために動いてる」


「腐った根?」


「――皇后だよ」


沈黙が落ちる。


玄霄は、少し声を潜めて言った。


「俺の任は、香にまつわる毒の流通経路を暴き、誰が裏で操ってるのか明らかにすること。そして、その“香毒”は、皇后と繋がっている」


燕蘭は、目を伏せる。


「香は人を癒やすもの。でも、毒にもなる。私は……香を“道具”として見てる人間が許せないの」


「だったら協力しろ。お前の鼻と知識、借りたい」


一瞬、蘭の瞳に迷いが宿る。だが、すぐに決意の色が宿った。


「いいわ。けど、私の条件も飲んで」


「なんだ?」


「……私の家族のこと。私の出自、全部調べて」


玄霄は目を細めた。


「まさか、お前も“何か”を知ってるのか?」


「知らないの。でも、母が死ぬ前に言ったの。“香を学びなさい。あなたの血の中にあるものが、いつか全てを解く”って」


その言葉が、香の煙のように宙に漂う。


翌朝。


調香局にて、香師長・香琅が一人の女と密会していた。


「“毒姫”が動き出したのですね。厄介なことです」


「問題ありません。次の香は、あの娘の“記憶”に触れる香。自分自身を壊してくれますわ」


「……“記憶香きおくこう”を?」


「ええ。蓮華楼に仕掛けましょう。香で過去を暴かせ、破滅させるのです」


その言葉に、静かに毒が香った。


その夜、蓮華楼に謎の香炉が届く。

「皇后様からの贈り物」と添えられたそれは、桃花と杏仁、そして――記憶香の成分を含んでいた。


そして、燕蘭は眠りの中で見る。


――炎に包まれる家。

――女官に抱えられ逃げる幼き自分。

――紅玉の香。

――それを背後で見下ろす、緋色の衣の女。


「……だれ……? あなた……知ってる……」


その目は、皇后と同じ、朱の瞳だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ