手作りのケーキなんだが
暗い玄関の前
俺は"ゴクリ"と唾を飲み込んだ
落ち着け、落ち着け
今日はすごく楽しかったじゃないか
また変な妄想して、暴走しないように落ちつくんだ
「そ、そうなんだ」
俺はなんでもない素ぶりでそういったが
その声は、細く乾いた変な声だった
「さ…どうぞ…」
如月がそう言って玄関のドアを押さえているから、俺は慌てて中に入る
如月も中に入ってドアが閉まると、真っ暗になった
"ガチャン"
玄関のドアの鍵を閉める音が響き渡る
「く、暗いわね。ちょっと待ってね」
暗闇の中、目が慣れてきた
如月は靴を脱ぐと玄関にあがり、壁のボタンを押した
辺り一面が明るくなる
「け、ケーキこっちだから…早くあがってきて」
そう言って如月は俺に背を向け歩きだした
「お、お邪魔します…」
俺はそう言いながら靴を脱ぎ、如月の後を追った
如月とリビングに入ると、リビングも暗く
如月はすぐに電気をつけた
そしてキッチンに行き、冷蔵庫を開けるとホールのケーキを持ってきた
たしかにケーキ屋とかで売ってるような物じゃなく、誰が見ても手作りだとわかる
クリームが均一に塗られてないし、イチゴもただ乗せただけなのか倒れてしまってるのもある
それでも一生懸命作ってくれた感じがして嬉しかった
「すげーな!美味しそう!!」
俺がそう言うと、如月は嬉しそうな顔を見せた
「朝、ママ達が出かけてから慌てて作ったから、見た目は変になっちゃったけど…」
「そうなんだ…。そういえば如月ママとかはどこに行ったんだ?健一さんもいないけど」
「ママ達は温泉旅行よ。ほらこの前のボウリングの景品」
あぁ、あれか…
………ん?温泉旅行?
ってことは…
「あの温泉旅行の旅館って、わりと近いところだったのよ。だから明日の午前中には帰ってくるって言ってたわ」
だよな…
つまりは如月ママ達は泊まりってことで…
明日までは誰も帰ってこない…
また俺の心臓の鼓動が早くなるのがわかった
ダメだ落ち着け!
如月はキッチンに行き包丁を持って戻ってきた
ほら落ち着け!
変なことしたら如月に刺されるぞ
「じゃあ切るわね…」
そう言って如月は包丁をケーキに近づけていく
しかし、如月の手が震えてるのか包丁もプルプル震えていた
「ちょ、ちょっと待ってね…」
如月はそう言って、一回深く深呼吸した
そしてまたケーキに包丁を近づけるが、また包丁がプルプル震えた
如月…
お前も緊張してるのか?
2人きりってことに…
何かが起きそうで不安になってるのか?
俺は今日のことを思い出した
楽しかったな…
今までで一番の最高の誕生日だ
そんな日を、俺の暴走でめちゃくちゃにしたくない
スーッと俺の煩悩が引いていく
「如月!」
俺が突然呼んだから、如月は包丁を持ったままビクッとした
そして俺を見てくる
「大丈夫だから…。如月がいいって言うまで変なことしねぇし大丈夫、落ち着いてくれ」
「え?…いや…」
「ケーキ食べたら帰るから、安心してくれよ」
俺がそう言うと如月は包丁を置いた
「違うの…。柊くんが刺されたときのことが頭から離れなくて……包丁を持つと、どうしても手が震えるの」
「え?そ、そうだったの?」
「うん……。だからね……」
如月は突然俺に抱きついてきた
そして俺の胸の中で
「だから……帰っちゃうのはイヤ……」
と小さい声でそう言った




