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バイト/怖くなる前の話

 ああ、はい。そうです。■■■■です。えっと、前に体験したバイトの話を聞きたい、ってことであってますよね。

 怖い話を期待されてたら申し訳ないんですけど、なんというか、そうなる前の段階というかなんというか、、、。まあ不思議な話ぐらいに聞いてください。

 その時私は金策に苦労していて、接客業とか、キッチンとか、いろいろやってみたんですけど、どうも長く続かなくて、人と関わらず、出来ればだらだらしてお金稼げるやつないかなーってサイト漁って時にそれはあったんです。


【求人】

日給 1万円、飲食にかかるお金、その他期間上の出費は負担いたします。

内容 ある部屋で一定期間(要相談)過ごしていただきます。詳細は決定後にお伝えします。

必要な経験、資格等はありませんが、一度面接をさせていただきます。


 もうなんていうか、今考えれば怪しい感じがするじゃないですか。日給一万で、ただ部屋で過ごしてほしいだけなんて。それに加えて食事とか、その他もろもろ負担してくれるって、もう怪しい以外の何物でもなかったんですけど、やっぱりこの条件は魅力的だし、こんないい条件のやつ他の人に取られたくないって思ってすぐ応募しました。すぐメールで連絡が来て、あっちが指定してきたカフェで面接することになりました。

 面接に来たのは、きっちりスーツ着た三十代くらいだったかな?それくらいの人と、同じくらいの年齢のサングラスかけた人の二人でした。どんな事聞かれるんだろうって緊張してたんですけど、向かいの席座ったら、サングラスの人に無言で見つめられて、そのあとスーツの人と二人でこそこそ話し始めたんですよ。それもすぐ終わって、スーツの人に

 「今から過ごしていただく部屋を見ていただきます」

 って言われて、なんか言えるような空気でも無かったので無言でついて行きました。

 道中二人が一言も言葉を発さなかったので、一人で色々考えてみました。求人見たときは興奮して考えてなかったけど、もしかして闇バイトとかやばい系なんじゃとか。

 着いた先は、都内のアパートの端の一室でした。お世辞にもきれいとは言えないような感じで、ここで過ごすのかとは思いましたが、家電も設置されてるし、今断ったら、、、という恐怖の方が勝って何も言えませんでした。そこでスーツの人がようやく話をしてくれました。

 「あなたには、これからこの部屋で過ごしていただきます。過ごし方はなんでも構わないのですが、二点守ってほしいことがあります。

 一点目は、夜10時から朝5時の間は家の中に居ること。

 二点目は、毎日深夜2時に、部屋の中の明かりを全て消して、物を持ち上げて落とす、というのを10  回やってほしい。

それさえ守ってくれたら、それ以外は何をしていただいても構いません」

 と言われました。とりあえず、闇バイトとかではなさそうということでひとまず安心したのと同時に、物を落とすのに何の意味があるんだろうと一瞬思いました。でもスーツの人のバックから現金がめっちゃ入ってるの見て、そんな思いは吹き飛びました。開始時期はなるべく早い方がいいと言われたので、次の日からその部屋で過ごすことにしました。

 とりあえず一週間やってみることにしました。一週間分の給料七万円と、生活費で五万円ももらっちゃって、こんな楽でいいのか、もしかしてなんかこの部屋曰くつきなんじゃ、、、とかそんな風に思ったりもしました。

 初日に色々服とか持ってきて、買い出しとかも行って、いろいろ環境を整えるので一日が終わりました。

 そしてやってきた深夜二時。部屋にあった置時計の時報で気づき、恐る恐る電気を消し、近くにあった筆箱を落としてみました。

 コトン、、、コトン、、、コトン、、、と、部屋の中には私が筆箱を落とす音だけが響いていました。そして十回落とした後、最高潮になった緊張とは裏腹に、しばらく経っても特に何も起こらずその日は終わりました。なんだ、緊張して損した。と思い、その日から一週間、その間も特に変わったこともなく、言われたことを守りながら過ごしました。そして一週間がたった日、例のスーツの男が話を聞きに来た。

 「どうでした、この一週間。何か変わったこととかありましたか?」

 「ええ?いや、特にはありませんでしたけど、、、」

 「そうですか、、、」

 と少し考えてから男は言った。

 「我々としてはもう少しあなたにここにいてもらいたいと考えているのですが、ご都合など大丈夫でしょうか?」

 正直、こんないい暮らしを自分から手放す理由なんて無いに等しかった。夜明けまで飲み歩き、みたいなのは出来ないが、それでも衣食住が保証された生活には代えられない。

 「わかりました。じゃああと一か月ここに居させてください」

 こうやって、私はもう一か月いることに決まった。

 最初にここに来てから三週間くらいが経ったころ、私はネットで怖い話を漁るのを趣味にしていました。深夜二時まで起きていないといけないので、心に刺激が無いと寝てしまいそうというのと、何より、最近は無料で面白いホラーがたくさんあるので、私のような苦学生にはちょうどいい趣味だと気付いたのです。

 そういうものを見る中で一つ、私の中にある考えが浮かびました。いろんな話の中に、「同じ行動を繰り返す」ということがトリガーになってるものが多いなって思ったんです。鏡の中の自分に何度もお前は誰だって言うとか、何度も藁人形に釘を打ち付けるとか、何度も呪いを口にするとか。3回ドアをノックするとか、

 何度も、何度も、何度も何度も何度も

 同じ行動を繰り返す。そうすることで何か怪異が起る。その行動に意味が宿る。なんか似た話があるなと思ったら、付喪神に似てるんですよね。長い間使われてたものに人格、神性が宿る。何の意思も無かったものに魂が宿る。

 そこで思ったんです。今自分がやっているのも、同じなんじゃないかなって。夜中、霊が湧く時間に、電気を消して、何かをする。

 同じ行動を繰り返すことでその行為に、何か良くない意味、怪異をつけようとしてるんじゃないかって。


 誰が、とか何のためとかは全くわかんないんですけど、そういう目的があるんじゃないかって。そんなこと考えてたら深夜二時が迫ってきて。ああどうしよう、やりたくない、でもやってないってバレたら、、、とか焦ってきちゃって、逃げるしかない、って思ったんです。急いで荷造りをして、逃げようとして、持ってきた荷物手当たり次第にバックの中詰め込んでたら、手を滑らして、筆箱、落としちゃったんですよ。

 その時、地面に着くかつかないかぐらいで、置時計がちょうど鳴ったんです。二時を知らせる時報が、ボーン、ボーンって。

 瞬間、背中に言いようのない寒気が走りました。

 あ、これだめだ、絶対後ろに何か居る。後ろ向いたらヤバイ、って本能的に察して。動いたらどうなるかわかんねえとは思いましたけど、それ以上に、これ以上こんな場所いたくねえって思って、震える膝無理やり動かして、荷物も全部入れずに飛び出て、振り返らずに近くの友達の家に押し掛けて、その日はそいつの家で過ごしました。

 それ以来、そのアパートには近づいてません。


 っていうのが私が経験したのはここまでなんで、私はその行為を完成させる前に出てきちゃったんで、これは怖い話の前段階の話なんですよね。

 でも、この話には後があるんです。

 そのバイトしてからしばらくして、こんなの見つけて、


【巷で噂の都市伝説を徹底検証!】     No.■■

今回検証するのは幽霊が出る部屋!

舞台は東京都の■■区■■にある古びた廃アパート。ここにはあることをすると長い髪で、真っ赤なワンピースを着た女性の霊が出るんだとか、、、

そのあること、というのは、深夜3時に壁にボールを当てると段々気配を感じるようになって、十分な回数の後、ゆっくり後ろを向くとそいつが居るのだという。

実際にこれを試すと言っていた友達と連絡がつかない、といった話もこちらに多く寄せられており、我々調査団は、、、


 このアパート何ですけど、さっきのアパートなんです。きっと、俺の後にまた誰かが雇われて、その行為をずっと、何度も何度も繰り返して、

 “完成”させたんだろうなって。

 それはそうとして一つ気になることがあるんです。

 この仕事を最後までやり遂げた時って、すなわち、そういう怪異が発生した時、ってことですよね。



その人、大丈夫だったのかなって。


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