95 厄災 3
少し新しい話でも書こうかと思い、ここでひとまず区切りといたします。
暇つぶしにでもなっていたなら幸いです。
フィディアは、それを見て、思わず声を漏らす。
「インフィちゃんが……倒したの?」
だが──
ドラゴンは深く傷つき、呻くような咆哮を上げながらも、なお悠然と空を舞い続けていた。
インフィは冷静さを保ちながらも、どこか狂気をはらんだ笑みを浮かべ、つぶやいた。
「さすが漆黒龍……この程度では倒れぬか」
そして、魂に刻むように──言葉を放った。
「ならば、これでどうだ」
その声の調子は、次第に“魔王”としてのものへと変わりつつあった。
莫大な魔力を放出するにつれて、インフィの中に眠る魔王の本質が、自然と表へとにじみ出てくるのだった。
そして彼は、豪火で焼き尽くし、豪雷で貫き、豪巻で魔素を吹き飛ばす──
そんな攻撃を、ただひたすらに繰り返していた。
戦いは、すでに七日が経とうとしていた。
その間、フィディアもずっと空を見上げ、漆黒龍を見つめ続けていた。
「お願い……早く倒れて……」
彼女は、自分が向かったところで助けにならないことを知っていた。
だからこそ、祈ることしかできなかった。
ヨパラとシャリーネもまた、その戦いを遠くから見守っていた。
インフィが数日間帰ってこないことは過去にもあったが、これほど長く戻らないのは初めてだった。
一方、レイヴァンは相変わらず自由気ままに放浪の旅を続けており、その場には姿を見せていなかった。
ついにヨパラも不安を抑えきれず、転移魔法でフィディアのもとへ現れた。
そして、漆黒のドラゴンと戦っているインフィの姿を知り、思わず頭を抱えた。
「まったく……あのバカ、何考えてるんだ。インフィ、大丈夫そうか?」
それに対し、フィディアは少し不安げな表情で答えた。
「まだ……魔力の痕跡は、はっきり残ってる。でも、だいぶ弱くなってきてるの」
シャリーネには、インフィの様子は見えていなかった。
濃密な魔素が視界を完全に覆い尽くしていたのだ。
彼女は膝をつき、両手を組み祈りを捧げていた。
その胸の内では──
「なぜ、インフィ様はこんな無謀な戦いを……」
という疑念が、いつまでも渦を巻き続けていた。
ただレベルを上げるだけなら、こんな危険を冒す必要はない。
もっと安全で、確実に勝てる相手を倒し続けた方が、はるかに効率的なはずなのに──。
戦いは、一週間近くに及んでいた。
しかし──漆黒龍は、明らかに弱ってきていた。
遠目からでも、その動きの鈍さは誰の目にもはっきりと映っていた。
あとは……インフィの体力と魔力が、どこまでもつか──それだけの問題だった。
休む間もなく、強力な魔法を撃ち続けてきたインフィの身体にも、ついに疲労の色が浮かび始めていた。
膝をつき、詠唱の声も次第に細く、頼りなくなっていく。
それでも──その濃いエメラルドの瞳だけは、逆に輝きを増していた。
きっと最初から、長期戦になることは覚悟のうえだったのだろう。
むしろ、「倒せないかもしれない」という予感のほうが強かった。
だが、インフィには一つだけ有利な点があった。
──漆黒龍が傷を負うたび、その損傷部分が光の粒となって空へ舞い上がっていくのだ。
そのたびに、空間を満たしていた魔素の濃度が、ほんのわずかずつだが、確実に減っていった。
インフィの魔法も消耗で弱まっていたが、それでも──これは完全なる持久戦だった。
月の光さえ届かぬ深い夜。
すべてが眠りに沈んだその静寂の中で、異変はひそやかに、そして確かに始まった。
漆黒龍が大きく体をうねらせると、まばゆい光が、漆黒龍の腹部から放射状に広がった。
絶叫をあげ、その身体全体が光の粒子へと変わり……
やがて、漆黒の闇の中に、まるで幻のように光の山が現れた。
それはゆっくりと、静かに、天へと昇っていく。
夜空に溶けていくその輝きは、誰かの願いが昇華するようでもあった。
その瞬間、まばゆい光の中に──
インフィの小さな身体が、漆黒龍の腹の中からふわりと力なく舞い落ちていく姿が、ゆっくりと浮かび上がった。
その場に転移してきたソフィアが、子どもを抱きとめるように、そっとインフィを受け止めた。
「インフィちゃん……どうして、こんな無茶を……心配させないで」
あきれたような声だったが、その声はわずかに震えていた。
だが、インフィにはもう──言葉を返す力すら残っていなかった。
それでも、その表情には……目的を果たした者の、誇らしい笑顔が浮かんでいた。
しばらくすると、漆黒龍の巨大な魔核が、地響きを立てて大地へと落ちてきた。
──インフィが欲していたのは、それだった。
フィディアは、インフィを抱きかかえたまま、魔核のもとへ歩み寄る。
インフィはフィディアの腕の中からそっと身を離し、
満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。
「これは……フィディアに、あげる」
その魔核は、かつての魔王が装備していたという「漆黒龍の鎧」になるものだった。
名は「漆黒」だが、その姿は透明で、魔物のドロップ装備としては最強の防御力を誇り、あらゆる属性に対する耐性を備えた万能の装備だった。
フィディアは、目を見開き、驚きに言葉を失った。
「最初に言ったら、フィディアが止めるから……。これは、この前フィディアが頑張ってくれたお礼。受け取って」
フィディアは、涙すら出せなかった。ただ放心したまま、その場に立ち尽くしていた。
どちらかと言えば、怒りに近い感情が胸の奥で渦巻いていたのかもしれない。
──インフィの行動は、確かにフィディアのためでもあった。
けれどそれ以上に、自分の限界を確かめたいという衝動が、心の底に強くあったのだ。
皆が空を仰ぐと、漆黒龍は竜の形のまま、漆黒の空へと溶けるように昇っていった。
その光景に、誰かがぽつりと呟いた。
「……きれい」
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