90 ドランザーク帝国攻防戦 2
ヨパラもドラゴンの上の小さなテーブルに座り、自分を落ち着けようとしていた。
インフィがヨパラに確認する。
「ヨパラらさん、僕が玉座の間に着いたら、ヨパラさんを呼びます」
「ヨパラさんは、まだレベルが足りないので、ここで待っていてください」
「最後は──ヨパラさんが決着をつけてください」
ヨパラが心配そうにインフィに尋ねる。
「インフィ、おまえ、本当に大丈夫なのか? 相手は10万はいるぞ」
インフィは安心させるように答える。
「フィディアもいるので、大丈夫です」
ヨパラは納得したように頷いた。
「そうだな……フィディアがいるなら大丈夫か」
「……問題は、俺がザガルノスに勝てるかだな」
「分かった。精神統一しておく」
そう言うと、ヨパラは目を閉じ、精神を極限まで高めようとしていた。
インフィは、目を閉じて精神統一に入ったヨパラを見つめながら、そっと微笑んだ。
それは、まるで──
親が子の成長を見守るような、あたたかな笑みだった。
フィディアは心の中でそっとつぶやいていた。
(インフィはもう、私を超えてしまっているのに……)
──そして、一刻ほどが過ぎたころ。
インフィとフィディアは、ゆっくりとドラゴンの背から身を投げるようにして、王宮へと向かって落下していった。
速度はみるみるうちに増していく。だがそれは、意図的な加速ではなく、重力に身を委ねた自由落下であった。
──相手に力の差を見せつけるために、あえて加速していなかったのだ。
フィディアの姿は、すでに戦闘態勢へと移行していた。下半身は蛇の姿に変わり、それは本来のフィディアの姿であった。
──これが、後にインフィの名がアステリオン大陸に刻まれる、最初の一歩となる。
落下の最中、インフィが視線も逸らさず、優しい声をかけた。
「フィディア、最初の防御は君に任せる。でも、無理はしなくていい」
フィディアは一言、短く答えた。
「はい」
その声音には、確かな意志と理解が宿っていた。
彼女は分かっていた。
インフィは、今の人族の力に、私がどれほど抗えるかを試している──
それは、これから私を守るため。必要な場面で、迷わず守れるように。
その基準を見極めようとしていた。
──宮殿は、混乱と恐怖に包まれていた。
「第一次魔法防衛、突破……最終防衛も突破……迎撃魔法、効果なし……冒険者部隊、総崩れです!」
そして、最後の砦──玉座の間を守る魔法陣結界の発動が告げられた。
奥の間に退いていた皇帝ザガルノスは、すぐに呼び戻され、青ざめた顔で玉座へと腰を下ろしていた。
「この最後の結界が破られたら、すべてが終わる……」
英雄と呼ばれた日々の名声など、今の状況には何の意味も持たなかった。
それでも──彼は堂々と、玉座に身を置いた。
皇帝としてのプライドだけが、彼の背筋を支えていた。
そのとき、インフィとフィディアは、玉座の間を包む魔法結界の前に立っていた。
──そういえば、レイヴァンの存在を、すっかり忘れていた。
彼は、インフィたちが王都に開けた転移の穴を利用し、ドランザーク帝国の街中へと身を移していた。
久しぶりに目にするその風景は、かつての面影を残しつつも、変化を遂げていた。
レイヴァンは、その風景を見て、ドラキュラ口で悍ましい笑顔となっていた。
高級ブランドの衣服を身にまとっていたため、不審に思う者は少なかった。
ただ、その顔を見た一部の者は仰天したが──街全体が騒然としている今、その正体を深く詮索する者はいない。
「仮面でも被っているのだろう」と、誰もが勝手に納得していた。
もしかすると、レイヴァンがこうして高級服に身を包んでいたのは、街中を堂々と歩くためだったのかもしれない。
男前の仮面をつけるくらいなら、恐ろしい素顔のままでいたほうが、彼の美学には適っていたのだろう。
インフィは、結界の前で立ち止まったフィディアに、柔らかな声で問いかけた。
「フィディア、この結界……僕が解こうか?」
フィディアは、さすがにやや疲れの色を滲ませながらも、肩をひとつ上下させて答えた。
「……これくらいなら、五分ほどで解除できると思います」
そのやり取りは、戦場とは思えぬほどに穏やかだった。
しかしその最中でさえ──彼らの周囲には、無数の攻撃魔法が殺到していた。
王命によって玉座の間に集められた宮廷魔法師団は、「お前たちも戦え!」と怒声と共に外へ追いやられた。
だが、戦いの最中、彼らの魔力はすぐに枯渇していった。
人の身に宿る魔力量では、魔王の四天王──その中でも最上位にあったフィディアの魔力には、到底及ばなかった。
──もし、勇者がこの国に存在していたならば。違っていたかもしれないが、人を害する国には勇者は現れないようであった。
そして、フィディアの言葉どおり、およそ五分の時を経て──
玉座の間を護る魔法陣結界は、完全に解除された。
「玉座の間──魔法結界、無力化されました……!」
伝令の声は、恐怖に震えていた。
それは、ただの報告ではなかった。帝国の誇りが砕け散った瞬間だった。
この結界こそ、皇帝ザガルノスが──
「たとえ世界が滅びようとも、自らは生き残る」
その執念と恐れの末に、多くの民の犠牲と膨大な資金をもって築いた、最後の砦であった。
ザガルノスは、その報に目を見開き、玉座の上で怒声をあげた。
「馬鹿なッ! あの結界が……破られるなど、あるはずがない!」
だが、誰ひとりその言葉に反論する者はいなかった。
兵も、侍従も、ただ沈黙し──
目の前にそびえる、巨大で重厚な黄金の扉を、呆然と見つめるしかなかった。
余談だが、
戦闘状態に入ったフィディアは、「インフィちゃん」とは呼ばなくなるようだ。
インフィもまた、幼い語り口は使わなくなるようだ。
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