９ 死闘の結末
朝の空気はひんやりとして清々しかった。空は淡いオレンジ色に染まり、草原の上では朝露がきらきらと輝いていた。
少年は大きくあくびをしながら目を覚ました。ひんやりとした朝の空気が頬を撫でる。安堵と緊張が混ざり合う中で、ゆっくりと頭を振ると、意を決したようにすぐに立ち上がった。
周囲の景色など意識にない。
すぐに周囲を見回し、何かの予感でもあるかのように、少年はぽつりと呟いた。
「今日はこちらに、あいつがいるな」
そして迷うことなく走り出した。
昨日の戦いで残った青あざはまだ体に残っている。強い痛みもあった。それでも、少年は迷いなく動き出す。その様子は常人の理解を超えていた。何が彼をここまで突き動かすのか。何が彼に起こったのか。まるで何かに取り憑かれているかのようだった。
ふと立ち止まり、周囲の気配を探る。鋭い視線で草むらを見つめると、その先に奴の姿を捉えた。
一角兎も少年に気づいたようで、素早くこちらへ突進してくる。
「来い」
少年は短剣を握りしめた。額にうっすらと汗が滲み、唇をきゅっと結ぶ。肩が微かに震えているのは、恐怖か、それとも興奮か。深く息を吸い込み、目を見開いたその瞬間、前へと一歩踏み出した。
昨日と同じような死闘が始まった。
空は晴れ渡り、爽やかな風が吹いている。
この『死闘』だけが、自然の営みとは異なる、異質な空間となっていた。
年は息を切らしながら、次なる獲物を求めて歩み続ける。
もはや、何度倒したのかも分からなかった。
また、一角兎を見つけた。全身はあざだらけだったが、それ以上に、レベルを上げなければならないという衝動が、悲しみを含んだ命の声となって心の底から湧き上がっていた。
「くっ……痛い……でも、これくらいじゃ負けない」
少年は痛みに耐え、再び構えをとる。
一角兎が再び跳び上がり、素早く突進してくる。
少年は胸の薄い皮で攻撃を受け止め、激しい痛みに顔を歪めながらも、体重を乗せて渾身の力で短剣を突き刺した。
一角兎が淡い光の粒となって空へ昇っていく。さっきまでの死闘が嘘のように幻想的な情景だった。
そして、いつものように淡い光の粒が少年の体に吸い込まれていく。
頭の中に、あの音が響いた。
「テッテレテッテッテー」
「レベル3……だ」
少年は目を見開き、静かに言葉を漏らした。信じがたい思いがあったが、その変化は確かに感じ取れた。疲れ切っていた体が一瞬で回復し、傷も全て癒えていた。痛みが消え、力が湧き上がってくる。体の成長も進み、10歳の少年であるが、7歳ほどの体力に近づいていた。
そして、頭の中には倒した魔物、一角兎の知識が浮かぶ。
「こいつは……ひとつのうさぎか。レベル3の雑魚じゃないか……」
（いっかくうさぎではなく、ひとつのうさぎだった。著作権の配慮かと、誰かが呟いた）
喜びがかすむ。その一言が、自分の弱さを改めて突きつけてくる。
だが、少年は大きく首を振り、
「ぼくでも……やれたんだ。レベルは……上げられるんだ。ぜったいに……あきらめるか！」
自分を奮い立たせるように、大きな声で叫んだ。
また、別の記憶が蘇る。
「あ……ここは、ウルラン高原だ。このまま西に向かえば、人がいる」
少年は力強く歩き出した。
草が揺れ、小川の音が穏やかに響き、空が青く広がっている。そのすべてが彼を見守るように、優しく包み込んでいた。
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