表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/95

74 忘れてた!

インフィは自分が何者なのかを取り戻すために、高みを目指して虫部屋に通い詰めていた。

異常とも、狂気とも思えるレベル上げの衝動は、少しずつ落ち着いてきていた。

最近では、毎日きちんと宿に戻るようになっていた。


 慣れた手つきで武器の手入れをしていると、不意にひとつの光景が脳裏をよぎった。


 ──ウルラン高原。


 穏やかだった日々。風に揺れる草原。そして、フランお母さんの言葉。


 「強力な魔法は、魔法学校で学ばなければ使えません」


その一言が、胸に浮かんできた。そうだ、忘れていた。どうして、こんなに大事なことを──。


いつも、大事なことを忘れてしまう。僕は、なんて馬鹿なんだ。


崩れそうになる心を立て直し、インフィはフィディアのもとへ向かった。


 「フィディア、起きて。大事な話があるんだ」


 フィディアは、まだ夢見心地のまま、ふわりとインフィに抱きついてきた。


 「ん……インフィちゃん、どうしたの……?」


 インフィは気に留めることなく、そのまま言った。


 「僕に、魔法を教えてほしい」


 フィディアは、インフィを抱きしめるのをやめると、少し困ったように言った。


 「それは、だめ。まだ、インフィちゃんには早すぎる」


 その言葉には、不安の気配がにじんでいた。彼女の声からは、何かを恐れているような響きも感じられた。


 そのやりとりの途中、シャリーネが気配に気づいて目を覚まし、フィディアを鋭く見つめていた。


 「シャリーネさん、僕に魔法を教えてほしい」


 インフィの言葉に、シャリーネも困ったように、わずかに肩を震わせながら言った。


 「インフィ様には……魔法など、必要ありません……」


 その声は小さく、どこか怯えるように震えていた。


 騒ぎを聞きつけたのか、ヨパラとレイヴァンも部屋に現れた。


 「レイヴァンさん、僕に魔法を教えて」


 インフィの問いに、レイヴァンは胸に手を当てて一礼し、落ち着いた口調で答えた。


 「あいにく……フィディア様の許可がなければ、私では判断いたしかねます」


 その声は、かつての「カカカ(いいえ)」とは違い、執事のように丁寧で低く落ち着いていた。


 彼の姿は以前とはまるで違っていた。骸骨ではなく、人の姿になっていた。そして、その装いは、相変わらずファッションモデルのように洗練されていた。


 どうやら、フィディアが課した過酷な訓練は、本来の力を取り戻させるためのものだったらしい。


 困ったような表情を浮かべて、インフィはヨパラに声をかけた。


 「ヨパラさん、僕に魔法を教えて」


 ヨパラは少し驚いた様子で言った。


 「うーん……若い頃に、魔法学園に通ってたことはあるな」


 「魔法、使えるの?」


 「学園に受かるくらいの魔法ならな。少しくらいは覚えてるぞ」


 ヨパラはどこか誇らしげな表情を浮かべたが、インフィは続けて聞いた。


 「誰でも入れる?」


 「ああ。ある程度魔法が使えれば誰でも入れる。それも無料だ。王都は魔法使いを育てたいらしい。ただし、才能がないとすぐに追い出される。……俺も、その一人だった」


 過去を思い出したのか、ヨパラは肩を落とし、誇らしげだった顔を静かにゆるめた。


 「僕でも、入れる?」


 「たぶん、大丈夫だと思うぞ」


 「……じゃあ、僕、魔法学園に行く」


 ヨパラは、インフィが一人で行ったら何かやらかすかもしれないと感じ、頭をかきながら言った。


 「俺も……もう一度、行ってみるか。一緒に行くぞ」


 そう言って、インフィの頭を軽く撫でた。


 ──彼の中にも確かな理由があった。今のままでは、あのババアには勝てない。ヨパラはそう、はっきりと感じていた。


 その言葉に呼応するように、フィディアとシャリーネも即座に口を開いた。


 「インフィちゃんが行くなら、わたしが行かないとでしょ」


 「インフィ様が行かれるのであれば、私こそが同行すべきです」


 二人の視線がぶつかり、激しく火花が散る。「こいつはいらない」と言わんばかりに。


 彼女たちは、自身の魔法をインフィに教えることには否定的だったが、人が学ぶような一般的な魔法であれば問題ないと考えたようだった。


 ヨパラがため息をついて言った。


 「……この三人が魔法学園に行ったら、パニックになるぞ。どう考えても異常すぎる」


 しかし、インフィは表情を変えずに返す。


 「じゃあ、三人はここで待ってて」


 その提案は即座に、


 「だめです!」


 「いやです!」


 と、きっぱり拒否された。


 レイヴァンだけは黙ったまま、無言で肩をすくめていた。


 結局、フィディアとシャリーネは「学園では魔法を一切使わない」と約束し、インフィたちとともに魔法学園へ向かうことになった。


 そして今、インフィとヨパラは新たな目標に向かって歩き出していた。


 『インフィは、自分が何者なのかを知るために』


 『ヨパラは、奪われた仲間の敵を、自らの手で討つために』


 窓辺から差す光が机に長く影を落とし、その輪郭は、ふたりの進む道を静かに照らしていた。


 ──余談だが。

フィディアは、魔法学園の敷地内にインフィ専用の宮殿を建てようと思いつき、インフィに伝えた。


 だが──


 「フィディアいらない」


 インフィのあっさりとした一言で、その夢はあっけなく消え去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ