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新たな運命に導かれる

ロリア南東砦には、さわやかな風が吹いていた。


砦の中からは、楽団の軽やかな音楽に合わせた陽気な歌声と笑い声が響き、それらは風に乗って、周囲に心地よく流れていく。


筋骨隆々の男たちが上半身をあらわにし、戦の武勇と鍛え抜かれた身体を自慢しあっていた。


その様子を、医療班の華やかな女たちが冷ややかな目で見つつ、お菓子を頬張りながら軽口を交わしている。


砦の兵士たちの手には、同じ形の袋が握られていた。袋の中身を覗いてはニヤけ、酒をあおり、大声で笑い合っている。


そう――ハーザー伯爵家から、今回の砦防衛の功績を讃え、報奨金が配られていたのだ。その袋はずっしりと重く、驚くべきことに、奴隷兵にも同様に渡されていた。


それだけではない。大量の銘酒と豪華な料理、そして王都で名高い店のお菓子までもが贈られてきた。


さすがは、今最も勢いのあるハーザー伯爵家。日頃の粗食に耐えてきた兵たちは、ハーザー伯爵家の素晴らしさを称え、奴隷兵たちは、見たこともない料理を前に涙を流していた。


誰一人、見捨てて逃げたハーザー伯爵家のことは忘れ、「ハーザー伯爵家、万歳!」と笑いながら叫んでいた。


実に、出すべき時には惜しまず出す。そして、何が兵士たちの心を掴むかを熟知していた。


今やこの砦でハーザー伯を悪く言う者はいない。


だが、その浮かれた空気の中で、ただ一人、少年だけが神妙な顔で司令官の前に立っていた。


「インフィ班長。今回の件に関する貴様の処遇が決まった」


重大な軍規違反により、投獄されるのか。あるいは、口封じのための処刑か――

インフィの顔が引きつり、うっすらと涙が浮かぶ。


「まったく……どれだけ手を焼いたか。だが、貴様は恩赦だ。直ちにこの砦を離れ、できるだけ遠くへ行け」


司令官の下した判断は、インフィの暗殺……ではなく、彼を奴隷兵から解放し、一般人へと戻すというものだった。


「恩赦、ですか……? 僕、自由になれるんですか? ありがとうございます。サー!」


インフィは安堵と驚きが混じった表情で、司令官に最敬礼を送る。


特別捜査官というのは嘘だった――その真実は、砦の兵には伝えられない。


となれば、彼をこのまま奴隷兵として使い続けるわけにもいかない。


たかが一人の奴隷兵。始めは殺してしまうことも頭をよぎった司令官だった。


だが、インフィの見事な采配に心酔し、あどけないその少年に傾倒していた己に気づき、思わず苦笑いを浮かべる。


できれば、この砦に残してやりたかった。


だが名案は浮かばず、こんな辺境に彼を閉じ込めておくべきではない――


そう思い至ったとき、導き出された答えが「恩赦」だった。


兵たちには、「インフィの行動は国家に関わる最重要機密であり、他言無用」と伝えられた。


インフィの名を口にするだけで、親族三代まで罪に問われると釘を刺している。


ちなみに、この砦の司令官の名前は――パルコンハッツハラハラ。長すぎる。


恩赦の書類を見て、インフィもその名を初めて知った。


兵士たちからも慕われる、厳しくも命の重さを理解する男。


インフィは、名前を忘れないようにしようと誓う――たぶん、五分後には忘れるのだが。


この少年は、王の名前でさえ数歩で忘れる。


……


九十六班では、仲間たちがいつものようにインフィの頭を揉みくちゃにしていた。


新班長となったカイラが、誇らしげに言う。


「班長……いや、もうインフィだな。俺たち、正規候補兵に昇格したんだぞ。飯が腹いっぱい食えるんだ。ハーザーの飯、うまかったよな! 上官になればあれが毎日だぞ。よし、俺、なるぞ!」


九十六班の仲間たちにも、正規兵への道が開かれたのだった。


そして、カイラは訛りが治っても、やはり食のことしか頭にない。


「インフィ、お前がいたから飽きなかったな。最初、お前がうちの班って知ったときは、マジで殺してやろうと思ったんだぜ。でもまあ、これからは俺がこのダメ班を引っ張る! 次は将軍だぞ。もう簡単には会えないからな!」


サギの荒々しい口調も、ずいぶん柔らかくなっていた。


それにしても、このサギの根拠のない自信はいったいどこから湧いてくるのだろうか。


「インフィ、ほんとに行くの……? 私を、置いていくのね。ゴミみたいに捨てるの。いいの、それでも……。インフィは、私の初めての人……私は、愛しつくすと決めたの……」


ダリルは、相変わらず売れない詩人のような口調で、悲劇のヒロインになりきっていた。


そのとき、ふと、もうひとつの声が心の中に響いた。


『よかったな、インフィ。好きなことをやれ。俺のことは気にするな』


ゼルの、あの優しい声と笑顔が浮かんでいた。


「ありが……みんなに会えて……よかった……」


少年は、子どものように泣きながら、仲間にそう応えていた。


……普段の彼は、少年らしい愛嬌に満ちていた。


だからこそ、皆から愛されたのだ。


インフィは、軽やかな楽団の音色と、笑い声を背中に聞きながら、一人静かに砦を後にした。


……


砂漠にはサボテンが立ち並び、風に乗って乾いた土が巻き上がっていた。


そこを一台の幌馬車が走る。まるで西部劇の一場面のように。


馬車には人がぎっしりと乗っていた。屈強な男たちの中に、白いローブ、黒いローブの女性もちらほらと見える。


少年は、黒いローブをまとった小柄な若い女性の隣に、ぴったりと身を寄せて座っていた。そう、屈強で汗くさい男たちとの障壁として利用されていたのだ。


インフィの濃いエメラルドの瞳が、どこか不安げに揺れている。

その戸惑いを、隣の女性は、異性への照れと勘違いしたのか、頬をわずかに赤らめていた。


その光景を、屈強な男たちは羨望のまなざしで見つめていた。


――だが、これは定番のヒロイン登場というわけではなかった。


インフィは仲間たちとの別れの悲しみと、新たな旅への期待で胸を揺らしていた。


まだ異性への関心はなさそうだ。少々、もったいない気もするが。


まあ、世の中の多くは、こうした勘違いで成り立っているのかもしれない。


『インフィ。それは、草原の民の言葉で《運命の定め》を意味する。

荒波のように揺れるその境遇も、やはり《運命》によるものなのだろうか』


幌馬車の前を乾いた風が吹き抜け、土煙が車輪の跡を巻き上げていく。

たくましい馬が、あふれんばかりの乗客を引いて、力強く荒野を駆けていく。

おもしろいと思われた方は、いいねを押してください。

日本はかわらないと、10年後にはハイパーインフレが始まります。

そのいいねで、日本は豊かな国に変わるのです。

営利目的でなく、将来の日本を憂いているだけです。

じじいが頑張って書いてはいるのですが、広まりそうにないのでご協力お願いします。

短編、これを広めてください(日本の将来のため)。要旨だけです。読まれてない方は読んでください。これを広めるために書いている小説です。

ChatGPT plusの使い方は、短編にまとめたのでそちらで確認してください。無料版でも応用できると思います。

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