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40 ロリア南東砦の希望

明るい日差しが差し込み、爽やかな風が吹いていた。


だが、砦には生臭い血の匂いが漂い、心の闇に閉ざされた兵士たちが、壇上を虚ろな目で見つめていた。


インフィは、砦の広場の壇上に、司令官たち、九十六班の仲間たちと並んで立っていた。そして、いつものように小さな声で話す。それを、いつものように九十六班の皆が大声で伝える。


インフィの声は小さい。そのため、九十六班の仲間たちが、一語ずつ復唱して広場に響かせていた。


「私は、王都魔獣庁、特殊対策部、国王直轄部隊に所属する特別捜査官である」


「別任務中であったが、このような状況となり、身分を明かすことにした」


インフィの壇上での立ち姿は美しく、全身から自信が溢れていた。


ロリア奴隷新兵たちからざわめきが起こる。「騙された……」「そうだったのか……」「なるほど……」「俺たちなんて赤子だな……」そんな声と共に、笑みがこぼれる。


「兵士諸君、落胆することはない。私が、この砦を、守ってみせよう」


九十六班の皆が大声で復唱しているが、インフィは気がふれたのではないかと心配になってのぞき込む者もいた。だが、そこには〈魔物狩りの時の〉あの輝く瞳があった。そして、信じようと決め、より力強く復唱する。


「私は、戦略補佐官である。この姿は、任務のための仮の姿である」


「私の指示に従え。もののふとなり、立ち向かえ。生き抜く覚悟を持て!」


「私が!」


「勝利の美酒を!」


「皆に与えよう!!」


最初にロリア奴隷新兵たちから歓喜の声が上がる。そして「インフィ」「インフィ」「インフィ」の大合唱が始まる。壇上の九十六班の皆も、熱に浮かされたように笑いながら「インフィ」と声高らかに叫び続けた。


状況がのみ込めていない砦兵たちも、この奴隷新兵たちの熱気に押され、いつしか、怪我で倒れている者も、腕のない者も、足のない者も、皆で「インフィ」の大合唱となる。


生臭い血の匂いが、爽やかな風に吹き流され、闇に閉ざされていたロリア南東砦の兵士たちの顔に、明るい太陽の光が差し込んだ。


「司令官、これより戦略会議を行う。案内してくれ」


壇上の司令官たちも、この熱気に気圧されていた。


重く暗い空気が瞬く間に消え、むしろ、今にも爆発しそうな熱気へと変わっていく。


司令官も、これまで幾度も兵士を鼓舞し、幾度も難局を乗り越えてきた自負があった。だが、今回は打つ手がなかった。


それを、このあどけないインフィが、兵士たちの心を一つにし、「希望」という言葉を心に刻み込んだのだ。


司令官はもう疑わなかった。この少年は、王都魔獣庁直轄の特別捜査部に属する戦略補佐官であると。


司令官たちは、インフィに最敬礼し、うやうやしく誘導していく。


その様子を見ていた兵士たちは、さらに熱を帯びた大合唱となる。


誰一人、インフィの途方もない嘘を疑う者はいなかった。


……


インフィ自身も、この砦に着いてから、不思議な感覚に包まれていた。


生臭い血の匂い、負傷者の呻き声、目から光の消えた兵士たち。なぜか懐かしく感じるこの絶体絶命の状況。こんな逆境など、まだまだ可愛いものだという、根拠のない自信。


そして、自分の命、九十六班の命、皆の命を少しでも守るために、すべての力を使うという覚悟。


そして最初に考えたのは、皆の心に光を灯し、砦兵、ハーザー奴隷兵、ロリア新兵、それらを一丸とするために何をすべきかだった。


藁にもすがりたい状況での希望。何をなすべきかわからぬときの、上位者の存在。そう、肩書で「信じる道」を与える方法だった。


人は、目に見える肩書によって信じる道を選ぶ。どれほど正しいことを語ったとしても、話し手の見た目や立場が伴わなければ、言葉は届かないものだ。たとえば、みすぼらしい姿の者が真理を説こうとも、誰も耳を傾けはしない。だが、そこに『神』という肩書が付けば、その姿さえ神々しく映るのである。


『肩書なければただの人』。そう、肩書さえあれば、サルでも大統領として扱われるのだ。


ここまでは、インフィの思惑通りに進んでいる。けれども、勝利への道筋は、まだ霧の中にあった。



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