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怪力カイラ戦うだぞ

薄雲が広がる青空に朝日が射し、辺りを赤く染めていた。赤茶けた地面に粗末な兵舎が並ぶ教練場では、盾がぶつかる鈍い音、剣の交錯音、そして歓喜と罵声が入り混じって響いていた。


「三十二班対九十六班、初め!」


魔物討伐の7日の間、カイラとアレンは夕食後に夜遅くまで特訓を続けていた。インフィの食事はこそりと半分渡していた。


三十二班は五角形の基本陣形。対する九十六班は、防御重視の横一列に四人の盾役、その後ろにインフィが控える布陣だった。


三十二班の戦力は、左盾七、右盾六、左遊撃五、右遊撃六、攻撃八。


九十六班は、ゼル五、サギ六、ダリル三、カイラ四、そしてインフィは戦力ゼロ。


勝てるはずのない戦力差だった。


相手は右側、つまり鈍い動きのカイラを狙って回り込んでくる。


そのとき、インフィがふいにカイラの懐に潜り込んだ。大男は驚く様子もなく、ニヤリと笑った。インフィは、武器も盾も持っていない。


二百十五センチの大男の腹の前に、百三十センチの小さな体がすっぽりと収まっていた。そしてその小さな手が、カイラの肘に添えられていた。


まるで、逆二人羽織──いや、操縦者と機体のようだった。


「おいおい、インフィがカイラの腹に隠れてるぞ。戦力外が邪魔しないように避難してんのか? やっぱ九十六班は笑わせてくれるな、ワッハッハー!」


外野から、いつものようにヤジが飛ぶ。彼らにとって、九十六班の試合は最高の見世物だった。


相手の盾役が面食らいながらも、カイラに向かって盾をぶつけてくる。だが、カイラはインフィの指示通りに腰を落とし、低い姿勢で右へ盾を傾けた。その動きは見事に攻撃を受け流し、相手は肩透かしを食らってよろめく。


そこに、渾身の力を込めたカイラの一撃が叩き込まれる。咄嗟に遊撃手が盾を構えるが、カイラの怪力に押されて体勢を崩した。


カイラの動きはまるで別人のように滑らかで、力強い剣撃を連続で繰り出していく。


それは、インフィが編み出した動き──幾千の戦いを生き抜いた老練な武人の技術が、カイラの肉体に乗り移ったかのようだった。


これは、逆二人羽織ではない。  まさしく、『合体ロボ』だった。


合体ロボの猛攻に晒された敵は、やがて遊撃手の一人が電撃に包まれ、地に倒れる。


「おい、あれカイラだよな? あんな動き、見たことねぇぞ。なんで腹にインフィがいて、あんなに動けるんだよ……」


ヤジを飛ばしていた者たちの声にも、戸惑いが混じり始める。


「なめるなよーっ! おら、強えだぞーっ!」


カイラが大声で叫ぶ。と、その直後、サギに電撃が走った。


「くそっ……笑いすぎて力が入らねえ……ムリだ……ハッハッハ……」


どうやら合体ロボの奇妙な姿がツボに入ってしまったらしい。


だが、その後も快進撃は続き、九十六班は三人を残して勝利を収めた。


……


「たまげたぞ、いや~、やっぱ村一番のおらの力、すげぇんだなぁ」


カイラが胸を張って笑う。


「ちっ、鈍亀のくせに……クソ、次は見てろよ」


サギは口を尖らせながらも、どこか楽しそうだった。


「本当に……よくあの姿勢で動けたな。大したもんだ」


ゼルが感心したように呟く。


「ずるい……あんなに密着するなんて……僕なら、心ごと差し出すのに、インフィ♡」


ダリルがうっとりとした表情で囁く。


皆がインフィの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、好き勝手に喋っている。


インフィも小さく笑っていたが──その胸の内では、まだ何かが足りないと、冷静に考えていた。


次の試合ではまた勝てたが、この奇策もすぐに見破られた。防御の高い者を合体ロボにぶつけ、他の四人で残り三人を個別に撃破。その後、合体ロボを包囲して叩く。三人以上に囲まれてしまえば、合体では限界があった。


この日の戦績は二勝八敗。翌日は全敗で、またしても食事抜きとなった。現実は厳しい。


……


「ゼルさん……その、よければ……」


魔物討伐の晩飯後。インフィがゼルに、蚊の鳴くような声で話しかけた。


「まさか、次は俺か? 本気で? ってか班長、その喋り方はやめてください……」


インフィは真剣な顔で頷く。瞳は深く濃いエメラルド色に輝いていた。


月明かりの薄暗い一角で、ゼルとインフィの特訓が始まる。仲間たちも、黙ってその様子を見守っていた。


そして、特訓はまた毎晩遅くまで続いた。


……


十日後の魔物討伐の日、晩飯を終えると、インフィはサギに近づいた。


「……次は……サギ。頼みたい」


「おい、俺もかよ!? 無理だろ、懐に入れねぇし……はあ、やるのかよ、マジか……だりぃ……」


……


さらに十日後、インフィはダリルに声をかけた。


「……ダリルも、お願い……」


「も~う、インフィったら。こんな形で告白するなんて、ほんと罪な人ぉ♡ もちろんOKだよ♡」


会話はまったく噛み合っていなかったが、インフィは気にする様子もなく特訓を開始した。ダリルは何やらぶつぶつ文句を言っていたが──


『班の仲間との特訓は、果たして実を結ぶのか』


『彼らはどんな戦い方を見せるのか』



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