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23 人形から王国兵へ

抜けるような真っ青な空が、どこまでも広がっている。上空では、強い風にあおられた鯖雲が気持ちよさそうに泳ぎ、腰まで伸びる草原を秋風がそよがせる。実りを迎えた麦畑は青金色の波模様を描き、広大な大地の上をゆっくりと流れていた。


「全体、止まれ。討伐を開始する。カマキリルンだ。教官の指示に従い散開。油断するなよ。」


カマキリルン──レベル8の魔物。中型犬ほどの大きさで二本の鎌を持つが、切れ味はさほど鋭くなく、脅威ではない。だがその威嚇的な構えは恐ろしく、魔物討伐の初手としてよく用いられる相手だ。レベル10と装備があれば、安全に対処できる。ただし、経験値が得られないため、慣れのための訓練相手である。


九十六班の前に、魔物が現れる。誰もが一瞬、動きを止めた。未知の存在への恐怖──命の危険を察知した、生き物としての本能。


そんな中、一人だけが雄叫びを上げ、真っ先に飛び出した。


「うおぉ! うおぉ〜! うおぉ〜〜っ! レベル上げだ!!」


魔物の攻撃を巧みにかわし、避けられない一撃は防具で受ける。だがその動きは、周囲から見れば、か弱い少年が無謀に突っ込んでいるようにしか見えなかった。


インフィの武器は、他の奴隷兵たちと同じ長剣。ただし一番軽いものを渡されていた。それでも、彼には重すぎてまともに振るうことができない。だからこそ、剣の重さを利用し、上から突き刺すような攻撃を繰り出していたが、魔物に致命傷を与えるには至らない。


その姿を見て、班の仲間たちも戦いに加わる。命令に従わねば罰があると理解していたからだ。痩せ細った腕で剣を振るい、魔物へと斬りかかる。


反撃されて尻もちをつく者、倒れる者もいたが、九十六班は着実に魔物を討伐していく。


それは、インフィが仲間たちの力量を見極め、俯瞰的に戦況を捉え、仲間の攻撃が当たりやすいよう魔物を誘導していたからだった。レベル5のインフィには、魔物を倒す力はない。他の者が傷つけた箇所を狙うことで、わずかに経験値を得ていたのだ。


だが、それに気づく者はいない。教官でさえ、インフィの動きを魔物に翻弄されているだけと見ていた。


ただ一人、司令官のガゼルだけはその戦いを見詰めていた。



休むこともなく、笑うこともなく、ただひたすら魔物を狩り続ける。


荒い息遣い、揺れる肩、震える脚。今にも倒れそうな身体を引きずりながら、それでも戦いを止めないのは、死への恐怖から逃れるため。


日が傾き、誰もが動けなくなっていた──そのとき。


濁声でありながらも、威厳と透き通る響きを持った声が辺りに響く。


「整列。本日の討伐は終了。よく頑張った。怪我をした者は申告しろ!」


整然と直立する奴隷兵たちの中で、その言葉が静かに反響する。


“よく頑張った”──労いの言葉だろうか? 聞き間違いでは?


“怪我は申告しろ”──本当に? 治療してくれるのか?


その言葉が、骨と皮ばかりになった彼らの心に木霊し、困惑の色が浮かびはじめる。


ある負傷兵が司令官台へと連れてこられる。皆がその様子を見守る。


「よく頑張った。今までよく耐えた。よくぞ魔物を倒した。貴様は、王国兵の一員だ。傷を癒そう」


司令官はその者の肩を優しく叩き、賞賛の言葉をかけながら、自ら薬を塗り始めた。


「大丈夫か……。怪我はないか……。消毒するぞ……。これを飲め……。貴様は王国兵だ」


その芝居がかった演出が終わると、教官たちも笑顔に変わり、他の兵たちへと声をかけ、手当てをしていく。


「……え……どうして……なんだ……うっ……うっうっ……」


人形たちのようだった兵士たちから、戸惑いと嗚咽が漏れ始める。


そのとき、再び、濁声にして澄み渡る司令官の声が響いた。


「貴様らは、今この瞬間から、王の剣、民の盾、軍の鎧である。王国兵として命を燃やせ!」


その言葉が、魂を打つように兵士たちの胸に届く。泣き声、嗚咽、そして喜びの声が交じり合う。


「サー、王国万歳! サー、王のために! サー、民のために! サー、軍のために! 王国万歳!」


教官の掛け声に、兵士たちが大声で応える。


一声叫ぶごとに、目の奥に光が戻っていく。


「サー、王国万歳! サー、王のために! サー、民のために! サー、軍のために! 王国万歳!」


叫びは次第に力を帯び、やがて確固たる信念へと変わっていく。


──もはやそこには、人形ではない。


自らの意志で立ち上がる、王に忠誠を誓う絶対服従の兵士たちがいた。


鞭と飴。絶望と希望。価値なき者に、生きる意味を与える。


極限まで精神を破壊し、新たな価値観で再構築する──高度な人間掌握術。


ここに、王国のために命を捧げる“王国兵”がまた誕生した。


司令官ガゼルは、整列する兵士たちを一人ずつ睨みつけながら、満足げに笑みを浮かべていた。


そして、彼らの中に──その誰よりも満足そうな顔で直立する、小さな姿があった。


熱狂も叫びも届かぬように、まっすぐ前を見つめる幼い顔。


空に漂っていた鯖雲が、やがて茜雲へと変わる。


青金色の麦畑も赤く染まり、整列して帰還する新兵たちの頭上を、渡り鳥が静かに飛び去っていった。

おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。

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