表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/89

ミニスライムとの死闘

草原に朝日が差し込む。


雲一つない抜けるような青空、それを囲むような神々しい山々、新緑の大地、心地よい風、早春の香り、雄大で生命に溢れた景色が広がっていた。


「はーー、寒い。寝てたのか……。体は……動く。腹、溶けてない……? ちょっと、かゆい……。あれ、どこいった……げ、そこに……潰れたスポンジ……きもい」


少年は、相変わらず説明口調で呟いていた。


「レベル……上げないと。まだ、立てない。まだ……這うしかない」


体は動かない。だが、心の奥から湧き上がる感情が、強く少年を突き動かしていた。


「明るくなってきた……。あ、何か動いた……え、あれか……無理……不味すぎる。もう噛みつくのは……無理……」


身体は嫌がっていた。だが、その奥底から疼くような衝動が、また湧き起こる。


「くそ……。絶対、諦めるか」


少年はまだ立つことができなかったが、全力で前進していく。


昨日と変わらない、ゆっくりとした進み方。時間をかけ、ようやく蠢くものの近くまでたどり着いた。


「使えそうな石……ないか……これ……重い……これも無理……これも……だめ……なんなんだよ、この体……あ、持てた。いく」


最初は大きめの石を持とうとしたが無理だった。結局、小さな小石を手にし、少年は進んだ。


──結果は明白だった。


振り下ろす小石は遅く、弱い。ミニスライムの表皮に弾かれ、傷を与えることすらできない。


ミニスライムは、昨日と同じように、じりじりと迫ってきた。


「うっ……倒れる」


少年は仰向けに倒れ、ミニスライムが胸の上に這い上がってくる。


「噛む……いや、無理……無理すぎる……石で……叩く」


少年は、小石で何度も叩いた。


だが、結果は同じだった。


「くそ……昨日と同じ……ばか……」


 叩きながら、考える。だが何も浮かばない。


「……かゆくなってきた。このままじゃ、やられる……」


 また、心の奥から、強い衝動が湧き上がる。


「レベルを上げるんだ……。諦めるか!」


 思考を止め、渾身の力で噛みついた。


「ガブッ! ガブッ! ガブッ!」


 昨日と同じように、えずきながら、何度も噛み続けた。


 そして、また淡い光の粒が少年の体に吸い込まれていく。


「……倒せたのか。グウェッ……吐く、吐く……がまん……液体は……甘い。飲む……」


――――――――――――――――――――――――――――――――


※ミニスライムの体液は甘くない。毒はないが非常に不味く、栄養もほとんどない。

あまりにも苦く渋い表皮のあとでは、相対的に甘く感じたのかもしれない。生命とは逞しいものである。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「くそ……なんなんだよ。どうなってんだ、ちくしょう……」


 昨日のような達成感はなかった。少年の口からは、不満とも怒りとも悲しみともつかぬ呻きがこぼれた。


「はーー……少し落ち着いた。冷静になれ……僕は……何なんだ……?」


「顔は……わかんないけど、体は人間……十歳くらい……? なんで、こんなに力がない……? なぜ、魔物を倒さなきゃって思う……?」


「グウェッ……また、吐きそう……」


「うっ……うっ……うえーん……」


少年は泣いた。大声で、子どもらしく、無垢に。


──ミニスライムを『歯で噛み切って倒す』。


それは、尋常な精神ではできない。だが少年はやった。


風が吹き渡る新緑の草原。青空の下、泣きながら、少年は何度も心の中で叫んだ──もう無理、絶対無理だ、と。


だが、感情は弱まることなく、心の深層から湧き上がる。


「レベルを上げるんだ!」


深いエメラルドの瞳に、強い意志が宿っていた。


「考えろ……何も思い出せない。名前も、家族も、生まれも……まずい、何も……。なんで、ここにいる……?」


思考は空転するが、答えは出ない。


「未来だ……過去なんて知らない。倒すしかないんだ。感情に勝てるか……力がないのに……。腹、減ってるのに……でも、動ける。人間か? 違うか? そんなの知らない。なんでこんな体なんだ……!」


「噛みつくしかない。死んでも、噛み続けてやる。この体で、やるしかないんだ!」


瞼は腫れ、涙に濡れていた。だが、その瞳は確かに光っていた。


周囲を見渡すと、いくつかの蠢く影があった。


少年は、四つん這いで最も近いものへ向かって進んでいく。


そして、ためらわず『噛みつく』。


えずきながら、泣きながら、何度も何度も……。


──そして、幾度目かの朝。


草は少し伸び、風はまだ冷たいが、陽射しはわずかに強くなっていた。


淡い光の粒が、また一つ、少年に吸い込まれていく。


次の瞬間、少年の体が輝いた。


『テレテレッテッテッテー』


どこかで聞いたような効果音と共に、身体の底から力が溢れてくる。


「え、えっ……やった! レベルアップきた!!」


少年は叫んだ。草原の真ん中で、這いながら、大声を上げた。


もう、数えきれないほどのミニスライムを噛み倒していた。


嘔吐と涙で、顔はすっかり歪み、喜びの表情はお多福のように崩れていた。


「ミニスライムだったのか……」


呟く少年。


倒してきたそれらがミニスライムであると、ようやく分かった。


「ここは……忘れられた地……。この光景……間違いない」


――――――――――――――――――――――――――――――――


忘れられた地:この世界の遥か北。標高一万メートル級の山々に囲まれた地。東西南北の山には『氷龍』と呼ばれる守護者が住み、侵入者を排除するとされている。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「名前……思い出せない。家族も、いたのか分からない……」


何も、思い出せなかった。


「レベルアップすると……記憶、戻るのか……?」


人族は、レベルという進化で魔物と戦う力を得ている。この世界の仕組みが、少しだけ理解できた。


少年は、湧き上がる力を感じ、足に力を込めた。


「やった、やった……立てた! 立ったぞ!!」


初めて、自分の足で立ち上がる。


「歩ける……歩ける! 歩けるぞ!!」


初めて、自分の足で歩く。


「うっ、うっ……えーん、えーん……うえーんうえーん」


少年は泣いた。今度は嬉し泣きだった。


顔はさらに歪み、ひょっとこのようになっていた。


しばらく泣いたあと、落ち着いて考えようとする。


「くそ……レベル0だったのか……。え、まだレベル1……」


「ここ……ミニスライムしかいない……。え、氷龍が周りを守ってる……?」


「レベル、上げられない……?」


「はーー……」


少年は崩れ落ちた。


あの感動は、影も形もなかった。


──最初のミニスライムを倒してから、二ヶ月が経っていた。


毎日、泣きながら、えずきながら、百匹のミニスライムを噛み倒していた。


常人では不可能な苦行。


『この少年は、どこから来たのだろうか』


『この少年の心の強さは、どこから来ているのだろうか』


彼方にそびえる白銀の山々から、悠久の風が吹いていた。

おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ