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19 雷雲の兆し

青く輝いていた草原が、次第に淡い色に変わり、色とりどりの花々が姿を消していく。草花は種を抱き、ウルラン高原に訪れる早い冬へと備え始めていた。


「そろそろ寒くなるな。今年は街へ移動するぞ。みんな、準備をしろ」


ダルドが集落を巡りながら、人々に声をかけていく。


かつて、商人たちは遊牧民のもとを訪れて物々交換を行っていた。しかし、純朴な遊牧民たちは商人の言い値に従い、物を安く買い叩かれていた。街の事情を知らず、交渉もできず、何より人を疑うという習慣がなかったためだ。その結果、集落の貧しさは続き、弱い赤子や病人はあっけなく命を落としていた。


そんな現状を憂いたダルドは、自ら町の商人たちと交渉を重ね、誠実な取引相手を見つけて販路を築いていった。初めのうちは、かつての商人たちがヤクザまがいの交渉人を送り込んできたが、ダルドが数度にわたって叩きのめすと、彼が元王都の騎士であることが知れ渡り、妨害は止んだ。集落の規模も大きくなり、以後その手の商人たちは完全に手を引いた。


この改革によって、集落は少しずつ豊かになり、子供たちも健やかに育つようになった。人々の信頼を集めたダルドは、自然と首長としての立場を得ていた。


「よし、この辺りがよさそうだ。ここに集落を設営するぞ」


二年に一度、育った家畜を売るために、家畜ごと集落を移動するのが通例だ。今回は、外れの街まで家畜の足で五日ほどかかる、見晴らしのいい高台が選ばれた。街に近づくほど、放牧可能な草原は限られてしまう。


……


「おいおい、それは儲けすぎだろう……。いやいや、最近は不景気で……。まあ今は飲もう……」


馴染みの商人たちが家畜の状態と数を確認するために集落へ招かれていた。その後、宴が始まり、酒の席で狸と狐の化かし合いのような交渉が繰り広げられる。とはいえ、ダルドのほうが一枚上手で、商人の気分が良くなると、こちらに有利な条件を引き出していった。


やがて、ダルドが満足そうに交渉成立を告げると、集落には歓声と笑い声が広がり、宴はさらに賑やかさを増していった。


「よし、護衛隊は明日出発だ。準備しとけ。街へ行く女どもは、ちゃんと着飾ってこいよ。防衛隊は、留守を頼むぞ」


商人たちも護衛を連れているが、価格交渉の材料として、遊牧民側も護衛をつけて街まで同行する。それは同時に、街で必要な物資を買い込む機会でもある。


また、日ごろの労をねぎらう意味も込めて、女性たちの三分の一が同行する。彼女たちには買い物用の資金も渡されており、この遠出は二年に一度の大イベント。何ヶ月も前から、何を買うかの井戸端会議が続いていた。


この施策には、ダルドの裏の思惑もあった。男だけで街へ行くと、浮かれて娼館や色女に騙されることが多く、ダルドはその後始末に何度も追われていた。そこで、妻や母親、恋人などを同行させることで、そうした問題を未然に防ごうとしたのだ。最初は男たちに不評だったが、女たちの笑顔を見ているうちに、不満の声も次第に笑い声へと変わっていった。


「タム、インフィ。お前らは留守番だ。しっかり反省しとけよ。ハッハッハ」


十歳を過ぎた子供たちも、教育の一環として何人かは街へ連れていく。子供たちにとっても大イベントであり、「悪い子は街に連れて行ってもらえない」は、日常的なしつけの決まり文句だった。今回は、タムとインフィが見せしめとなった。タムはしょんぼりし、インフィは内心、魔物狩りができると喜んでいた。


街まで五日、買い物と情報収集で三日、帰りは家畜がいないので二日。合計十日の、ちょっとした旅である。


……


ダルドたちが街へ向かってから六日目の夜。満月が高く昇り、高台のゲルは淡く青い光に包まれていた。幻想的なその光景は、まるでアラビアンナイトの一場面のようだった。


「ヒヒィン」


遠くから馬の鳴き声が響き、次の瞬間、集落中に警戒の鐘が鳴り響いた。


インフィは寝ぼけた頭を振り払い、耳を澄ませる。「盗賊だ!」「武器を持て!」「子どもを隠せ!」「女は家にいろ!」という叫び声が飛び交っていた。


急いで防具を装着し、武器を手にゲルを飛び出すと、タムとその母・フランが武器を構えて立っていた。


「母さんは、女と子供を集会所へ誘導して! インフィ、一緒にこい! 入口を守るぞ!」


そう言ってタムが走り出し、インフィもその後を追った。


おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。

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