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第94話 勇者になりたかった男

いつかのどこかの世界線の地球。


人気(ひとけ)のない体育館裏。

今ここでは、鈍い、何かを殴りつけるような音が響いていた。


「うぐっ、ひうっう…うあ…」

「ひゃあは。弱すぎだろお前」


多くのガラの悪い生徒たち。

そんな中1人の真面目そうな男性が、リーダー格の男性から暴行を受けていた。


「ふん、分かっただろ?『法律馬鹿』君?…俺様に逆らうとどうなるか…明日から毎日5000円持ってこい」


「……い、いやだ。不当な請求に屈するもんか…そ、それに犯罪だろ?ぼ、暴行罪に恐喝ざ…ぐうあ?!」


「うるせえよ。知らねえよ。グダグダと。…指の骨くらい折っとくか?」


「や、やめ…いぎゃあああ?!!!」


今まで感じたことの無い、無理やり指を折られる痛み。

絶叫が迸り恐怖で目には涙が浮かぶ。


「ふん。おとなしく言う事聞けばよ。痛い目にあう事ねんだよ。法律だあ?知るかそんなもん」


「…るな」


「ああっ?!」


「ほ、法律を馬鹿にするな!!捕まえてやる。お前ら絶対に…ぼはあっ!?」


蹴り飛ばされるその男性。

腹をけられたことにより停まる呼吸。


地獄の苦しみが彼を襲う。


「法律法律うるせえんだよ。てめえだってただの学生だろうが」


そう吐き捨て、リーダー格の男は顔を歪ませとんでもない事を宣う。


「いい事思いついた。……もし5000円持ってこなかったら…毎日一本ずつ指の骨折ってやる。それが嫌なら持って来いよ?法律馬鹿君?」


「ぎゃははは、マジウケるんですけど?」


「今日一本折ったから…あと9本。45000円分だな」


「うはっ。泰斗君、計算はえー」


「マジそれな?!」


一人痛みに耐え、蹲る男性。

やがて喧騒は遠のき。


彼は一人、折られた指の激痛に耐えながらも職員室を目指した。



※※※※※



高3の秋。

多く者は進路が決まっており、彼、高潔英雄(こうけつひでお)もまた、国立大学の受験に向け日々勉強にいそしんでいた。


しかし度重なる暴行。

そして精神的ストレス。


それにより彼は日に日におかしくなっていく。


初めはクラスで同じように『いじめられていた友達』がいたのだが。

見かねた彼は自身の目指す弁護士、そのために勉強していた法律を武器に、そのグループに対し正論を吐いた。


『君たちの行いは犯罪に他ならない。今すぐそんな下らない事は止めるんだ。…そして法の下で裁かれるべきだ!』


もちろんその言葉に力などない。


何よりただの学生。

さらには知り合いに『そういう人』が居るという事でもなかった。


嘲笑い馬鹿にするガラの悪い連中。

そこで辞めればいいものの、彼は絶対にひかなかった。


そして始まる暴行と非道の数々。



※※※※※



ガラガラ…


何とか痛みをこらえ、たどり着いた職員室。

今空いたドアに、残っていた多くの教師たちの注目が集まる。


そしてそこに現れた高潔英雄。

彼に気づいた担任の先生が駆け付けていた。


「どうした高潔。…おい、お前…怪我を」

「先生…ぼく今、暴行を受け恐喝されました。どうか警察への通報お願いいたします」


当然この国は法治の網が張り巡らされている。

悪事がのさばること。

それは許されざる事だ。


しかしその最後の望みの綱、あっけなく裏切られることになった。


「…高田達か…」

「はい。…指を折られ、毎日5000円持って来いと」


難しい顔をする先生。

そして英雄をちらと見つめる。


「ここじゃなんだ。指導室でいいか?」

「は、はい」


聞いてくれる。

アイツらは裁かれる。


その気持ちは…


「高潔。この書類を書いてきなさい。治療費が出る。…君は体育の授業で怪我をした。体育の先生にも承知してもらったから」

「……えっ?…どういう事ですか…それ?」


担任の先生は大きくため息をつく。


「高潔。お前だってもう18だろ?この世は正しい事だけで回っているんじゃないんだ。何よりこの大事な時期に警察沙汰だと?お前は多くの同級生の未来を奪いたいのか」


意味が分からない。

僕はなにも悪い事をしていない。

なのに…


「ふう。高田には先生からそれとなく注意しておく。今日は帰りなさい」


何も言えなかった。

悔しくて。


そして…


職員室から出た僕を目撃した高田の子分によって…

交差点で突き飛ばされ、事故で命を落としていた。



※※※※※



僕は頭を抱えていた。


えっ?

なにそれ?


重すぎなんですけど?!


「…そして俺は気づいたらこの世界に転生していたんだ。力こそ正義、まさにそんな世界に。俺は転生者だ。高潔英雄…自称だが『勇者』だ。」


なぜかカイザルトさん、うっとりとしちゃってますけど!?


「コホン。分かりました。それで当面の目的とかあるんですか?」

「いや。取りあえず力をつけたいと思ったんだよ。…ライト様も…転生者でしょ?」

「っ!?…誰に聞きました?」


腕を組み、天を見上げるカイザルト。

僕に視線を向け口を開く。


「目を覚ます前にさ。…老人の声がしたんだ。『ある国にいるライト、そ奴を訪ねよ』…はあ。まさに今思い出したよ?どういう事?」


自分で言いながら挙動不審になるカイザルド。

…クソジジイめ!


「きっと何かの条件付きの記憶なのでしょうね」

「そ、そんなことが…あるのか?」

「ええ。…今経験したでしょ?」


取り敢えず彼は脅威ではなかった。

でも彼の持つスキル『正義の御印』…決まり事とかを遵守するために力を発揮するスキルだ。


まあ。

確かにさっきの話、悔しいもんね。



待てよ?

これは使えるかも!?


「ねえカイザルドさん」

「な、なに?」

「行く当ては特にないんだよね?」

「ま、まあな」


僕はそれを聞き、にやりと顔を歪ませる。

何故かそれを見た彼が青い顔していたけど…


うん。

気のせいだよね。


「…領地経営…興味ない?」


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