第88話 狙われた魔王と魔将1
光の届かぬどこかの地下室。
今ここには。
魔王ギルイルドと魔将ルザーラナが、悪魔封じの首輪と腕輪、さらには隷属の首輪を嵌められ、魔力によるロープで体を縛られていた。
身じろぎひとつできない状況。
拘束されたときに付けられたいくつかの痣が、彼女たちの心情を現していた。
(ヒューマンなんて弱いと…どこかで見下していた、自分たちの傲慢…まるでその証明だね)
つい自嘲気味に思考するルイ。
そして先の事を聞かされ、二人はますます悔しさと恐怖が募る。
「くくっ、悪魔がヒューマンの真似事しやがって…お前らはこれから天国へと召されるんだ…感謝しろよ?」
じっとりとした視線を向け、歪んだ正義感を鼓舞する少年と青年たち。
完全なる種族差別。
許されてはいけないその事実。
「いいね、いいねえ。その表情。…まるでヒューマンそのものじゃないか?超絶者たる魔王様?…手も足も出せないこの状況……お気に召しますでしょうか?ぎゃははは!」
見下す表情を浮かべ、勝ち誇る男性。
その様子に、リーダー格であろう男が声をあげた。
「あんまり煽るな。絶望して自死でもされてみろ…主賓に、あの方に殺されるぞ…神聖な儀式をご所望だ。控えろ」
「っ!?くそっ…ふん。…ちっ…悪魔なんぞ――全て殺せばいいものをっ!」
そう言いつつ男たちは部屋を後にした。
まるで呪詛のような恨みを口にして…
※※※※※
ドアを閉じられ真っ暗な闇の中。
二人はほっと息を吐きだした。
「…油断した…クソッ…こんなアーティーファクト…ライト…」
「ルイちゃん…うち、恐い…力が出ないよ?魔力が練れない…」
超絶者たる魔王と魔将。
かなり差はあるとはいえルイはこの世界で3番目に強い実力者だ。
負けるはずもない。
しかし。
弱いヒューマン族は長年の『異常なまでの嫉妬』と『狂ったような研究心』があった。
悪魔封じのアーティーファクト。
それに囚われた彼女達悪魔は、今その辺のヒューマよりも脆弱だった。
「…念話もできない…ライト…助けて…ライト」
「ううう、ライトキュン…うち、うち…」
悔しさと恐怖の涙が二人の少女の瞳からこぼれる。
紆余曲折あったものの、二人は大好きなライトの婚約者となれた。
大好きな人からもらった大きな愛と安心感。
それを知っている二人に、先ほどの憎しみを含んだ感情は。
まさに心を切り裂かれるほどの恐怖をもたらしていた。
知ってしまったが故の恐怖。
そして絶望。
(…ボク…殺されるのかな…ヤダ…ライトと会えなくなるなんて…絶対にヤダ…)
そして去来する後悔。
あの少年や青年たち。
かつての悪魔たちがおこなっていたヒューマン族との戦争。
その犠牲者の家族のようだった。
(因果応報…知っていたはずなのに…)
「…ルイちゃん?…泣いてるの?…うう、うああ、グスッ…ルイちゃん…」
二人の少女の命。
まさにあとわずかで、それは散らされる事態になっていた。
※※※※※
「ん-。今日もルイとルザーラナは欠席か。あとデルトとウィナークもか。…おーいライト。何か聞いているか?」
朝のホームルーム。
擬似ダンジョンや異星の神がらみで忙しかった僕だけど。
久しぶりに登校するとそんなことをウェレッタ先生に問いかけられた。
「えっと。特に聞いていませんけど…そもそもどうして僕に聞くんですか?」
「うん?だってお前…二人は…っ!?…ハハ、ハ…友達だろ?」
あぶねえ。
この人今口を滑らせそうになりやがった。
僕は思わず圧をのせ、ウェレッタ先生を睨み付けた。
「ハハハ、ハ。コホン。…ココナはどうだ?あいつらと仲いいよな、お前」
逃げやがったな?
じいいいい。
「すまん。勘弁してくれ…コホン。で?どうだ?何か聞いているか?」
「すみません先生。でも確かに昨日から来てませんよね。…誰か何か聞いていますか?」
ココナは何気にこのクラスの中心だ。
何より可愛くて優しいお姉さん。
皆の心をつかんでいた。
「…ココナちゃん。あの…」
「ん?何か知っているの?カラーナちゃん」
そんな中、ドルイドというこの世界では珍しいジョブについている、伯爵家の次女カラーナが声をあげる。
「えっとね…ここじゃあ…ちょっと…」
そしてルイ達以外で空いている席に視線を投げ、僕に顔を向けた。
なぜか走る危機感知。
僕は手を上げウェレッタ先生に声をかける。
「先生、少し抜けていいですか?…いやな予感がします。カラーナも良いかな?」
「っ!?は、はい。ライト様♡」
「ふう。良いだろう。ライト、カギだ。…生徒指導室を使え」
「ありがとうございます。ティア、カラーナ行こう」
「はい」
「う、うん♡」
※※※※※
そして僕は知る。
力のないヒューマンの歪んだ精神。
大切な婚約者の危機を。
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